ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第06章 ~ギルデロイ・ロックハート~

          

 ホグワーツ2年目、グリフィンドールとの初合同授業は『闇の魔術に対する防衛術』でした。

 

 生徒全員が着席すると、ロックハート先生は大きな咳払いをします。皆がシーンとなったところで、ネビルの持っていた『トロールとのとろい旅』を取り上げ、ウィンクしている自分自身の写真がついた表紙を高々と掲げました。

 

()()

 

 ロックハート先生がウィンクしてキメると、私以外のスリザリン生がブッ!と一斉に吹き出します。

 

「わ た し だ」

「わ た し で す」

「わ た し な の で し た」

 

「……皆さん、後でちょっとお話があります」

 

 人の決めゼリフを弄って草を生やしている不届き者たちをどうしてやろうか考えていると、ロックハート先生はウケ狙いが成功したと勘違いしたらしく、上機嫌で自己紹介を続けていました。

 

「そう、ギルデロイ・ロックハートです。勲三等マーリン勲章、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員、そして『週刊魔女』五回連続『チャーミング・スマイル賞』受賞!もっとも、そんな話をするつもりじゃありません。バンドンの泣き妖怪バンシーを、スマイルで追い払ったわけではありませんしね!」

 

 未だクスクス笑いの残る教室で、ロックハート先生はにっこりと微笑みます。

 

「全員が私の本を全巻揃えたようですね。大変よろしい。今日は最初にミニテストをやろうと思います。心配ご無用、君たちがどのぐらい私の本を読んでいるかチェックするだけですので」

 

 

 そしてテストペーパーを配り終えると、教卓の前に戻って合図しました。 

 

「30分です。よーい、始め!」

 

 配られたテストペーパーを見下ろし、質問を読むとそこには――。

 

 

 ――――――――――――――――

 

 

 1. ギルデロイ・ロックハートの好きな色は?

 2. ギルデロイ・ロックハートの密かな大望は?

 3. ギルデロイ・ロックハートの業績の中で一番偉大だと思うものは?

 

      (中略)

 

 54. ギルデロイ・ロックハートの誕生日と理想的な贈り物は?

 

 

 ――――――――――――――――

 

 

 こんな感じの質問が延々と3ページほど続いておりました。

 

(えぇ……)

 

 とりあえず読むことは読んでいたのですが、ちょっとこれは予想外です。ちょいちょい読者アンケートみたいな質問も交じっているので、そこだけは真面目に答えました。

 

 

 30分後、ロックハート先生は答案を回収して全員の前でパラパラとめくります。

 

「チッチッチ――私の好きな色はライラック色だということを、ほとんど誰もおぼえていないようですね。『雪男とゆっくり一年』にそう書いてあるというのに。『狼男との大いなる山歩き』をもう少し読まなければならない子も何人かいるようだ」

 

 ロックハート先生がクラス全員に悪戯っぽくウィンクすると、ドラコは呆れてものが言えないという表情で、パンジーとミリセントは声を殺してクスクスと笑っていました。ダフネだけはマヌケ面で、うっとりと聞き入っていました。

 

「やっぱロックハート先生、顔が良いよね」

「大事ですよね、顔」

 

 ロックハート先生が唯一満点を取ったハーマイオニーを褒めている間、私たちがヒソヒソ話をしていると、パンジーが小馬鹿にしたように声をかけてきました。

 

「そういえばアンタたちって、何気にロックハートのファンだったわよね……あんなの顔だけじゃない」

「顔だけでいいじゃん」

「ダフネのにわか」

「パンジー、にわかを否定する業界は萎んでいきますよ。あと文才は中々のものですし」

 

 私とダフネがすかさず弁護すると、後ろにいたドラコが辟易した表情で肩をすくめます。

 

「アイツの武勇伝がひとつでも本当なら、逆立ちしてカボチャジュースを飲んでやるよ」

「話として面白ければ、私は別に構わないと思いますけど……」

 

 そりゃあ、私もロックハート先生の武勇伝がホラ話だという事ぐらいは気づいています。

 

 なので英雄などとは思ってませんが、作家や芸能人としての評価となれば話は別でしょう。文章の才能に構成力、そして自分を売り出す話術とマーケティング、端麗な容姿を駆使した魅了による自己演出は確かなもので、作家ないし芸能人としての売り出し方や商才には文句のつけようがありません。

 

 もちろん私の愛読書たる『ニケの冒険譚』には及びませんが、すらすらと読めちゃう割に戦闘シーンは臨場感たっぷりでリアリティが感じられ、鋭い感性とユーモアのあふれる文体は比類なき素晴らしさ。

 

 

「別に作家が英雄を兼ねてないからといって、責めるべきではありません」

 

 

 そもそも消費者が本を買う動機なんて基本、表紙のジャケ絵やら写真、タイトルのインパクト、そして「売れているから」という理由そのもので、半分は内容じゃなくてプロデュースで決まります。

 

 逆ゴーストライターというのも、マーケティングとしては悪くありません。

 

 

「例えばですね、もしこの本を書いたのがアルメニアの醜い魔法戦士とかだったら、たとえ狼男から村を救ったのがその人でも、本は半分も売れてませんよ」

「そりゃあ、そうかもしれないが……」

 

「ですから、こうして物語を届けてくれるだけでも、私にとっては十分なんです」

 

 私がそう言うと、ドサッという音が聞こえました。振り返れば、唖然とした顔で本を落として固まっているロックハート先生のアホ面が。

 

「先生?」

 

 さすがに授業中に無駄話が過ぎて、気分を害してしまったのでしょうか。

 

 私が心配そうに見つめていると、ロックハート先生は急に我に返ったようにいつもの微笑みを浮かべ、「失礼、私としたことが」と少しぎこちない返事が返ってきました。

 

 

 **

 

 

 しばらくして気を取り直したロックハート先生は、机の上に覆いのかかった大きな籠を置いて、芝居がかった仕草で口を開きます。

 

 

「さあ、気をつけて! 魔法界の中で最も穢れた生き物と戦う術を授けるのが、私の役目です!君たちはこれまでにない、恐ろしい目に遭うでしょう。しかし私がいる限り、君たちに危害が及ぶことはありません!」

 

 

 ガタガタと震える正体不明の籠を見て、クラス全員が息を殺します。ドラコやパンジーたちも、もう笑ってはいませんでした。

 

「捕らえたばかりの、コーンウォール地方のピクシー小妖精です!」

 

 ロックハート先生が覆いを取り払うと、籠の中には群青色で20センチぐらいのピクシーが数十匹入っておりました。

 

 ピクシーたちは尖がった顔でキーキーと甲高い声を出し、ぺちゃくちゃ喚きながら、籠の中を飛び回って近くにいる生徒に舌を突き出したりしています。

 

 

「それでは君たちがピクシーをどう扱うか、見せてもらいましょう!」

 

 ロックハート先生はそう叫び、籠の扉を開け放ちました。

 

 

 ―――さぁ大変。

 

 

 ピクシーたちの破壊力ときたら、想像をはるかに上回る凶悪さです。

 

 四方八方へ飛び散り、インク瓶を掴んで教室中にインクを振りまくわ、本やノートを引き裂くわ、ゴミ箱をひっくり返し、奪った本や鞄を外へ放り投げ……ネビル・ロングボトムに至っては、天井のシャンデリアに吊るされていました。

 

 ロックハート先生は何やら叫んでいましたが、何の効果もありません。逆に杖を奪われて息を吞み、そそくさと教室から逃げ出す始末。

 

「やばいぞ隠れろッ!」

 

 スリザリンのテーブルではザビニが隣にいたノットの首根っこを掴んで机に押し込み、杖を奪われた武闘派のミリセントは激昂していました。

 

「いっぺんに来いやゴラぁッ!」

 

 そのまま向かってくるピクシー妖精を次々にパンチでノックアウトさせ、クラッブとゴイルを従えて果敢にピクシーの大群へ立ち向かう3人のガタイの良い勇者たち。

 

 

「きゃあッ!」

 

 

 ふと悲鳴に目を向ければ、逃げ遅れたパンジーの髪の毛が1匹のピクシーに引っ張られています。

 

「痛い! 引っ張らないで!」

 

 既に机の下にダフネと一緒に退避済みだった私は、苦悶の表情を浮かべるパンジーをどう助るべきか一瞬だけ悩みました。下手な呪文を使って、彼女や他の生徒に当たっても困るからです。

 

 

 ですが、迷っている内に焦った顔のドラコが隠れていた机から飛び出しました。

 

「パンジー!」

 

 ドラコは大声で叫び、教科書でパンジーに襲い掛かっていたピクシーをノックアウト。こういう仲間思いなのはスリザリンの良いところ。

 

 しかし新たな敵に仲間がやられたのを見て、ミリセントたちに集中していたピクシーの群れがドラコたちを捕捉、パンジーが恐怖に息を吞みました。

 

「ひっ」

「こっちだ!」

 

 ドラコは青ざめつつも、パンジーを庇うようにして扉の方へと避難します。

 

「ぺ、ペトリフィカス・トタルス-石になれ!」

 

 ビビりならも金縛り呪文で一匹ずつ仕留めにかかるドラコですが、いかんせん相手の数が多い。放っておけば数の暴力に飲み込まれてしまうでしょう。

 

「パンジー、ここは僕に任せて君は逃げろ! 扉はすぐそこだ!」

「ダメよドラコ、そんなことしたら貴方が……!」

「僕のことはいいから!早く!」

 

 悲壮な覚悟を決めたような顔のドラコに、パンジーが思わず涙ぐんだような気がしました。ザビニやダフネも遠くから「無茶するなw」とか「危ないよ!」など叫び、必死にドラコの自己犠牲を止めようとします。

 グリフィンドールのテーブルに目を向ければ、ハリーやロンまでもが口をあんぐりさせ、信じられないようなものを見るような顔で、友人を助けようとするドラコに驚愕していました。

 

 

 しかし、覚悟を決めた(おとこ)ドラコ・マルフォイは一切を振り返ることなく、突進してくるピクシーの大群に向かって杖を振り上げ―――。

 

 

 それより早くハーマイオニーの声が響きました。

 

 

 

「イモビラス-動くな!」

 

 

 

 次の瞬間、彼女の杖から光が広がっていき、それに触れたピクシーたちの動きが止まります。残されたのは、宇宙に放り出されたようにプカプカと漂うピクシーたち。

 シャンデリアから落ちそうになっていたネビルの動きも緩やかになり、全てのピクシーたちが沈黙しました。

 

「………」

「………」

「………」

 

 何してくれちゃってんですか、ハーマイオニー。

 

「今のはちょっと無いわー」

「せっかくいいとこだったのに……」

「空気読めよグリフィンドール」

 

 ピクシーの暴走を止めたにもかかわらず、スリザリンからはブーイングの嵐。

 

「なんでよ!?」

 

 半ば逆ギレ気味のハーマイオニーですが、今回ばかりは私も擁護できません。せっかく何か燃えるよーな美味しい展開だったのに、あっけない幕切れで野次馬としては非常に不服です。

 

「ドラコに謝ってください」

「イレイナまで!?」

 

 そんなハーマイオニーにハリーとロンが近づき、そして。

 

「……タイミングは考えようね」

「ハーマイオニー、TPOって知ってるかい?」

 

 まさかの身内からの裏切りに、半べそになったハーマイオニーは再び女子トイレに引きこもってしまい、しばらく出てきてくれませんでした。

 




 ちなみに、最初のロックハート先生の「私だ」発言はハリポタ原作準拠です。 
   
 あと、イレイナさんはロックハート先生の事を単純に逆ゴーストライターだと思ってて、さすがに証拠隠滅のために忘却呪文をかけてるところまでは知りません。
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