ハリー・ポッターと灰の魔女 作:アストラマギカ
その日は朝早くから、ホグワーツのグラウンドでオリバー・ウッドさんとマーカス・フリントさんが喧嘩をしていました。
「フリント! 我々の練習時間だ! そのために早起きもした! 今すぐ出て行ってもらおう!」
「ウッド、そうカリカリすんなって。ここはオレたち全員で使えるぐらい広いだろ?」
片やグリフィンドール・クィディッチ・チームのキャプテン、片やスリザリンのキャプテンという、代々続く犬猿の仲です。
「ここは僕が予約したんだ!」
「へっ。こっちには、スネイプ先生が特別にしてくれた許可証がある」
フリントさんがニヤけながら見せたメモには、次のような一文が記載されていました。
『私、スネイプ教授は本日、新メンバーの教育のため、クィディッチ競技場におけるスリザリンの練習を許可する』
「新メンバー? いったい誰だよ?」
ここで問題です。
基本的にフィジカル至上主義のスリザリン・チームにおいて、若干2年生にして圧倒的なテクニックと観客の誰もが見惚れてしまう美貌をひっさげ、現・監督生ジェマ・ファーレイさんの引退以来3年ぶりの女子選手となった魔女がいます。彼女はいったい誰でしょう?
そう―――。
「わたしです」
ウッドさんの背後から、得意げに顔を出した私を見て、グリフィンドール選手陣は思わず声を失います。きっとあまりの美貌に見惚れて、声も出ないのでしょう。
「あと僕もいるからな!」
慌てて背後から青白い顔いっぱいに小馬鹿にしたような顔を浮かべ、ドラコが出てきます。ハリーの眉が驚いたように吊り上がりました。
「いたんだ……」
ハリーも最近、けっこう言うようになりましたよね。
「メンバーの入れ替えだけじゃない。このマルフォイの御父上がくださった、ありがたい贈り物をみせてやろうじゃないか」
フリント先輩が目配せし、それを合図に私たちはザッ!!と、7人が一糸乱れぬ動きで新品の箒を突き出します。ピカピカに磨き上げられた柄には、美しい金文字で『ニンバス2001』と銘打たれていました。
「最新型だ。先月に出たばかりさ」
フリント先輩は無造作にそう言い、箒の先に付いていった埃の欠片を指で払いのけました。予想通り、あまりの衝撃にグリフィンドール・チームは声も出ません。
――決まりました。
「我ながら今のカッコよくなかったですか? ピュシー先輩」
「そうだね、みんなで朝イチから練習した甲斐があったよ」
「お前らは黙ってろ!」
フリント先輩に怒鳴られ、エイドリアン・ピュシー先輩と一緒に縮こまります。
**
そんなやりとりをしていると、観客席の方からロンとハーマイオニーがやってくるのが見えました。
「どうしたんだ! どうして練習しないんだよ!? それに、なんでイレイナがそこにいるんだい!?」
「実はこの度、スリザリンのチェイサー選抜試験に受かりまして」
「マジかよ!?」
あんぐりと口を開けたロンは、スリザリン・ユニフォームに着替えた私を頭の上から足元までじろじろと眺めます。
「おっどろきー……いや、なんていうかその、君あんまりクィディッチに興味ないとばかり」
「いや実際、別にそこまで興味ありませんけど」
「なぜ選抜行ったし……」
「冷やかし的な?」
「よし、選抜落ちた選手全員に謝ろうか」
悲しいことに、世の中は実力が全てなのです。
スリザリン・チームのチェイサーには毎年選抜試験がありまして、例えば「クアッフルを持ったまま箒に乗って、奪いに来る現役メンバーから逃げ切った時間が一番長い人」という至極単純だけど実力が試されるもの。
「なんか面白そうだし、ダメ元でやってみようぜ!」
ミリセント・ブルストロードがそう言ったのを皮切りに、私も「最近ちょっと身体がなまってるような気がしますし、軽い運動だと思って選抜受けてみましょうか」みたいなノリでダフネたちと一緒に受けたところ。
「期待の大型新人あらわる!」
「おいフリント、こいつ絶対に逃がすなよ!」
「頼む、入団してくれ!」
昼過ぎから夕方まで逃げ切った私は史上最長記録を更新し、キャプテンのマーカス・フリント先輩から直々に入団をお願いされたという次第でして。
パスとかシュートの成績は平凡でしたが、圧倒的な箒のコントロール力で、その他大勢のゴリラ族を押しのけての入団です。
ちなみにシーカーのドラコもどちらかというと小柄なので、今年はスリザリンにしては珍しくフィジカルとテクニックのバランスをとった編成だとか。
「それだけじゃないぞウィーズリー、スリザリンの新しいシーカーは僕だ。そして僕の父上がチーム全員に送っていてね、いま皆でこのニンバス2001を皆で称賛していたところだよ」
驚愕に目を見開くロンに、ドラコがさらに追い打ちをかけます。
「羨ましいなら、グリフィンドールだって資金を集めして新しい箒を買えばいい。持っている箒を慈善事業の競売にかければ、博物館が買い入れるだろうさ」
スリザリン・チームが爆笑する中、ハーマイオニーがきっぱりと反論します。
「そんな箒がなくたって、グリフィンドールは負けたりしないわ! こっちの選手は、誰一人としてお金で選ばれていない。純粋に才能で選手になったのよ」
「なおハリーのニンバス2000 (ぼそっ)」
ハーマイオニーの言葉に、ドラコの自慢顔が歪みます。
「誰もお前の意見なんか求めてない。生まれ損ないの『穢れた血』め!」
「なお成績では勝てない純血 (ぼそっ)」
「「イレイナは黙ってて(くれ)!!」」
「はい……」
しゅんとなった私は涙目で、フリント先輩の背中にすごすごと引っ込みます。せっかく和を取り持とうとしたのに、それを払いのけるなら後は勝手にやってろです。
「よくもそんなことを!」
「マルフォイ思い知れ!」
双子のウィーズリー兄弟が飛び掛かろうが、カンカンになって呪いをかけようとしたロンが自爆して口からナメクジを吐いてようが、もう知ったこっちゃありません。
ちょっぴり不貞腐れた私は後ろの方で頬杖をつき、早く練習始まらないかなーとぼやきつつ両チームの乱闘を遠巻きに見ているのでした。
***
というわけで、ロンがナメクジを吐きながら退散した後、私たちは練習に入ります。
「さて、私もニンバス2001に乗るのは初めてですし、ちょっと調子を確かめて―――」
「おい、そこの2年。何してんだ?」
私がさっそく箒に跨ろうとすると、フリント先輩が怪訝な顔で近づいてきました。
「はて? これからクィディッチの練習では?」
「そうだ」
「ならば箒に乗るのでは?」
競技の性質上、クィディッチに箒は不可欠です。私としては当然のことをしたつもりでしたが、フリント先輩はフンと鼻を鳴らして一言。
「お前ら新人に箒の練習なんぞまだ早い。まずは身体を仕上げてからだ。走り込みすっぞ」
「え」
ちらりと他のメンバーを見ると、既に屈伸などのウォーミングアップに入っていました。
これはひょっとして、あるいはひょっとしなくてもガチで体育会系なヤツでは。
「ええっと、でも……」
「デモも機動隊もあるか。とにかくスポーツは体力だ」
思わず腰の引けた私の首根っこを掴み、フリント先輩がずるずると競技場の方へと引きずっていきます。
「し、しかし私はフィジカルじゃなくて、箒の腕を見込まれて入ったはずでは……」
「だとしてもだ。クィディッチはスニッチを捕まえるまで終わらない。試合が数時間続くなんてこともザラにある。そうなった時、体力が無くてどうするんだ?」
「それは、その」
「長時間プレーじゃ誰だって疲れるし、集中力も乱れる。疲れて箒の腕が鈍りました、なんて言い訳が通用すると思ってんのか」
「………」
あれ、私ひょっとして完璧に論破されてます?
学年で1番の天才で上級生にも引けを取らない完璧美少女の私が、まさかトロールみたいな筋肉ダルマの先輩に、ぐうの音も出ないほど言い負かされてしまう日が来るなんて。
「全員揃ったな?」
そしてフリント先輩は改めてメンバーを確認すると、競技場に全員を整列させて大声で叫びました。
「筋肉は?」
「「「「裏切らないッ!!」」」」
上級生メンバーが一斉に叫びます。私とドラコは思わずビクッ!と気圧されてしまいましたが、どうやら先輩たちにとってはこれが日常のご様子。
「練習は?」
「「「「ウソつかないッ!!」」」
「ならば鍛えよ!」
「「「「さすれば与えられん!!」」」
「スリザリンは―――」
「「「「地上、最強ぉぉおおおッッ!!」」」
ホグワーツ城まで届けと言わんばかりの、大音量が競技場へ響き渡ります。そんな上級生たちのむさくるしいハイテンションに、私とドラコは顔を見合わせ「やべーとこ来ちまった」みたいな表情に。
そこから先は、色んな意味で地獄でした。
魔女旅の「王立セレステリア」の回で華麗な箒さばきを見せてくれたイレイナさん。きっとクィディッチも上手いはず。
あと原作じゃあんまり描写されてないけど、箒に乗るとはいえ身体を作るために普通に練習ではランニングとか筋トレとかもすると思ってます。