ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第08章 ~スリザリン・チームを知ってるかい?~

      

「よぅし!じゃあまずはグラウンド100周からだ!」

 

 フリント先輩の号令を受けて、私たちはチーム名物・スリザリン訓練歌を全員で走りながら熱唱します。

 

 

「スリザリン・チームを知ってるか~い?」

「「「「スリザリン・チームを知ってるか~い?」」」」

 

「今年の箒はニンバス2001♪」

「「「「今年の箒はニンバス2001♪」」」」

 

「かなりスゴイ!」

「「「「かなりスゴイ!」」」」

 

「グリフィンドールはブチのめす~♪」

「「「「グリフィンドールはブチのめす~♪」」」」」

 

 

 私とスリザリン寮旗を持つドラコを先頭にジョギングをしながら、フリント先輩の即興ソングに合わせて全員で複唱します。

 

 これがなかなかキツく、慣れない運動に私たちの呼吸は乱れがち。しかし先輩たちが後ろをガッチリ固めているせいで歩調を緩めることも出来ず、猟犬に追い立てられる羊のように前へ進むしかありません。

 

 

 

 ちなみにランニングしながら歌うというこの謎文化、合唱によるチームワークや規律の向上以外にも、何気に歌う事で肺から二酸化炭素を排出するのに役立つ他、一定のリズムで呼吸することでより効率よく酸素を体に届けられるため、持久力の維持に役に立つという合理的な側面もあったりします。

 

 詳しくは知りませんが、半世紀ぐらい前にマグルの軍人を父に持つ半純血の得点王がチームのキャプテンになった時に導入されたとか。

 

 半世紀も経てばギリギリ「伝統」と言い張れるので、たまに由来に気づく人がいても、知らないフリをするのが暗黙の了解です。

 

 

 **

 

 

 とまぁ、そんな感じで全身を汗だくにしながら隊列を組んで走っているうちに、ミリセントやパンジーたち同級生がのんびりと近づいてくるのが見えました。

 

「え、イレイナたち何やってんの?」

「あほくさ……」

「でも、なんていうか、その――――ふふっ」

 

 練習風景を見るなり目を丸くした後、ダフネが吹き出したのを皮切りに全員で腹を抱えてゲラゲラと笑い始めておりました。

 

「ウッソだろ!? え、ださっ!?」

「ていうか、二人とも顔真っ赤なんですけどww」

 

 知り合いにこんなアホみたいな姿を見られて恥ずかしい事この上ないのですが、フリント先輩のしごきは一向に緩みません。

 

「2年! 声が小さい! もっと腹から声出せぇッ!」

「「イェッ、サー !!」」

 

「もっとだ! ジジババのファ○クの方がまだ気合入ってるぞ!」

「「サー、イェッ、サー !!」」

 

 

 もう色々とヤケクソです。

 

 ひたすらフリント先輩の謎ソングを叫びながら、もう何周走ったかもわからないグラウンドを駆けずり回る私たち。

 

 

「レイブンクローはタマ無しで~♪」

「「「「レイブンクローはタマ無しで~♪」」」」

 

「ハッフルパフはロクデナシ~♪」

「「「「ハッフルパフはロクデナシ~♪」」」

 

「スリザリン!最強!」

「「「「スリザリン!最強!」」」」

 

 

 どう考えても私やドラコのキャラじゃないノリに無理やりつき合わされ、ヒーヒー呻きながらゾンビのようにランニングする様を見て、遅れてやってきたザビニたちまでお腹をよじって笑い転げていました。

 

「かっこいー! 惚れちゃうYO♪」

「輝く男ドラコ・マルフォイ!」

「よっ、スマイル見せろよ色男!」

 

 しまいにはノットが競技場にいた1年のコリン・クリービーさんを銀貨1枚で買収し、借りたカメラで何度もシャッターを切るのが見えます。

 

「せっかく可愛い後輩たちが見に来てんだ。カッコいいとこ見せようぜ!」

 

「「「「イェッ、サー !!」」」」

 

 

 一方で上級生たちは流石といいますか、余裕しゃくしゃくでダフネたちに投げキッスをしたり、口笛を吹いてテンションもアゲアゲでした。

 

 

「よぅしッ! ランニングが終わったら、次は腕立てと腹筋を100回だ! それが終わったら、ちっと休んでから箒乗るぞ!」

 

「「「「サー、イェッ、サー !!」」」」

 

 

 そんな感じで調子に乗り出す先輩方に、新メンバーの私とドラコは日が暮れるまで徹底的にしごかれたのでした。

 

 

 

 ***

 

 

 

 そして練習終了後のクィディッチ競技場には、プラチナブロンドと灰色の髪をした屍が2つほど、浜に打ち上げられた魚のように転がっていました。

 

 

 しばらくして、私たちの訓練を肴にピクニックを楽しんでいたミリセントたちがやってきます。

 

「よぉイレイナ、まだ生きてる?」

 

 上から顔を覗き込んだミリセントに、私は頷くのが精一杯。汗だか唾だか涙だか分からない液体が全身を覆い、顔にも髪の毛がべっとりと張り付いております。

 

「ほらよ」

 

 ミリセントがどこからか持ってきたギリーウォーターのボトルを2つ傾け、私とドラコの顔に水をばちゃばちゃとかけました。雑な扱いに思うところはありますが、今回ばかりは冷たい水が気持ちいいです。

 

「うわー、イレイナってば水で服が透けてえっち……って程のものも無いか」

 

 ダフネ、ゴートゥーヘル。左手を正面に突き出して親指を下に向け、笑顔で胸いっぱいの想いを伝えます。

 

 

「ドラコ、お疲れ。飲む?」

「ああ……ありがとう」

 

 そして私の隣ではパンジーがしゃがみこんで、グリーングラス製薬のマナエイド(魔法界のスポーツドリンク)のボトルをドラコの頬に当てていました。

 ドラコは気持ちよさそうに目をつぶり、よく冷えたボトルの心地よい冷たさに身を任せています。

 

「ねぇドラコ、タオルも持ってきたんだけど、いる?」

「助かるよ、パンジー」

 

 ドラコが上体を起こすと、パンジーは嬉しそうに泥だらけになった首筋を丁寧に拭いていき、まるで専属マネージャーにでもなったよう。

 

 例のピクシー事件以来、どうにもパンジーがドラコにだけは甲斐甲斐しいんですよね。

 

「そういえばパンジー、私には何かないんですか?」

「え、なんで?」

 

「………」

 

 なるほど。友人より男ですか、そうですか。

 

「ダフネ、二人を頼みます」

 

 私は「チッ」と周囲に聞こえるよう舌打ちしてから、後を信頼する友人のダフネに託します。

 

「合点承知!」

 

 ダフネはニヤリと片目で私にウィンクして、パンジーに世話されるドラコに近づき、正面にするっと回り込みました。

 

 そのまま、みずみずしい少女の柔らかな肢体を、健全な青少年に押し付け――。

 

 

「マルフォイせんぱぁーい♡ 私も一緒にぃ、汗とか拭かせてもらってもいいですかぁ♡ 」

 

 

 さらに上目遣いで下から至近距離まで顔を近づけ、甘ったるい媚びた声で初心な少年の心を揺さぶっていくスタイル。あざとい流石ダフネあざとい。

 

「っ―――!?」

 

 さっそくドラコが分かりやすく動揺し、耳まで顔が真っ赤になるのが見えました。いい匂いやら柔らかいやらで、思春期に突入したばかりの脳は不意打ちの煩悩に耐えきれず、一瞬でノックアウト。こうかはばつぐんのようです。

 

「ちょっ!? ダフネあんた何してッ!?」

 

「せんぱぁい♡ そういえばわたしぃ、このあと一緒に行きたいとこあるんですけどぉ♡ 」

「レモンの蜂蜜漬けもどうです? ドラコせ・ん・ぱ・い?」

「ダフネちゃんもミリセントちゃんもずるーい♡ ザビニちゃんもやるー♡」

 

 野郎まで乗っかってきました。

 

「待て、3人とも距離が近い! 離れろって―――」

「きゃっ」

「あっ、パンジーすまない!」

「やだ♡、マルフォイ先輩ってば大胆なんだから☆」

「ヒューッ♪」

「ドラコー、オレにもドンッってしてくれや~」

 

「お前らは黙ってろ!」

 

 組んずほぐれつ、ぎゃあぎゃあと騒ぐドラコたち。こうして見ると、名家だのエリートだと威張っていても、所詮は12~13歳のガキんちょです。

 

 

 やがて、わちゃわちゃしている4人の前にするりと高い影が忍び寄り、カメラのストロボが炸裂します。現れたのは、不敵な笑みを浮かべるセオドール・ノット。

 

「ふっ、証拠写真は抑えた。これをバラ撒かれたくなければ……」

 

「ノットお前もかぁあああッ!?」

 

 ドラコの悲鳴が、夕暮れのホグワーツにこだましていきました。

 

   




 前話の続きで日常回?です。
  
 原作で「ゴリラ族」呼ばわりされてる脳筋集団スリザリン・クィディッチ・チーム、たぶんお坊ちゃまのマルフォイは体育会系のノリとかで地味に苦労してたんじゃないかなーと。

スリザリン訓練歌
・元はマグル由来らしいが、マグル軍人を父に持つ半純血の選手が紹介して以来、半世紀近く受け継がれているので、もはや伝統文化だと言い張ってる。
 メジャーリーグの「シャンパン・ファイト」とプロ野球の「ビールかけ」ぐらい違う。たぶん。
  
グリーングラス製薬
 ダフネの実家で大手魔法薬メーカー。魔法界のメガファーマ的なの。
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