ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第09章 ~壁に書かれた文字~

          

 今年もまた、ハロウィーンのホグワーツではある事件が起こっていました。

 

 

 それは管理人であるフィルチさんの飼い猫ミセス・ノリスが石になるというもので、なんと完全石化という恐ろしく強力な闇の魔術が使われていたのです。

 

 ですが、先生たちが警戒している理由はもう一つ。ミセス・ノリスが石となった現場の壁に残されたメッセージ……血で書かれたそれは、酷く不気味な雰囲気を放っていました。

 

 

 “ 秘密の部屋は開かれたり 継承者の敵よ、気をつけよ ”

 

 

 気まずい沈黙の中、最初にそれを破ったのはドラコ・マルフォイでした。

 

 

「継承者の敵よ、気をつけよ! 次はお前たちの番だぞ、『穢れた血』め!」

 

 

 **

 

 

 というのが数日前の話で、今や学校中がミセス・ノリスが襲われた話で持ちきりでした。勿論もれなく『スリザリンの継承者』は誰なのか?という話もくっついてきます。

 

 

 そんな中、私はというと――。

 

 

「ミス・セレステリア、本日あなたをお呼びしたのは他でもありません。最近の『スリザリンの継承者』事件のことです。ミスター・ウィーズリーズ、あなた達もです」

 

 

 マクゴナガル先生の部屋に、双子のウィーズリー兄弟と一緒に呼び出されておりました。

 

「おいフレッド、マクゴナガル先生はどうやら俺たちの誰かが『スリザリンの継承者』だとお考えらしい」

「何とも身に余る光栄……しかしジョージ、残念かな。この場には、もっと相応しい人物がおられる」

 

 二人はわざとらしい仕草で私に向かってお辞儀をし、「これはこれは継承者様、あなた様の悪事もこれまでですかな?」とニヤニヤ笑いを浮かべます。

 

「ふむ、バレてしまっては仕方ありません。では、これからは堂々と‟お菓子をくれなきゃ石にしてやるゾ♪”とホグワーツ中を脅しに向かうとしましょう」

「なんと恐ろしや……」

「せめてお命だけは……」

 

 

「いい加減になさい!!」

 

 

 さすがに冗談が過ぎたのか、マクゴナガル先生が声を張り上げて、それこそ私たちを石にしかねない鋭い眼光で睨みつけます。

 

「まず最初に言っておきますが、私はあなた方の誰かが『スリザリンの継承者』だとは疑っておりません。もちろん、例の現場に居合わせたポッター達もです」

 

 おや、と私は目を吊り上げ、双子のウィーズリー兄弟も揃って肩をすくめました。

 

 もし私たちが継承者だと疑われているのではなく、俗にいう「第一発見者が犯人の法則」に従ってハリーたちを疑った上で、私たちから情報を聞き出そうとしているのでもないとしたら。

 

 マクゴナガル先生は一体全体、どうして私たち3人を呼び出したりしたのでしょうか?

 

 

「実はですね、あの事件以来ホグワーツには怪しげなシロモノが出回るようになっていまして、是非ともあなた方3人に協力していただきたいのです」

 

 

 私たちは3人で顔を見合わせました。

 

「これは穏やかではありませんね。あんな事件の後に出回る怪しいシロモノ……きっと闇の魔術が詰め込まれてるに違いありません」

「それもマクゴナガル先生もお手上げ級の危険物と来た。こりゃあ、クリスマスには家に帰れないかもしれないぜ?」

「フレッド、イレイナ、遺書は早めに書くことをお勧めするぞ」

 

「お黙りなさい!」

 

 いちいち話の腰を折ってくる私たちに、マクゴナガル先生は頭から湯気が出そうな勢いに。そのまま次の雷が落ちてくるのを「ひぇっ」と身を縮ませて備えた私たちを見て、心を落ち着かせるようフーッと大きな溜息を吐きます。

 

 

 そして雷の代わりに、先生がデスクの上に置いたのはいくつかのアクセサリーでした。

 

 

 ペンダントにアミュレット、ブローチ、ロザリオ、ネックレス……特筆すべきはどれもスリザリンの『S』マークが彫られていて、なんとも「スリザリンの継承者」除けにご利益がありそうな。

 

「これらの品に見覚えは?」

 

「………」

「………」

「………」

 

「実は、あなた方がグリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクローの談話室の入り口で、これらをフリーマーケットのように並べて、呼び込みをしていたという噂があるのですが」

「先生、噂というのは往々にして信用できないものでして……」

「訂正しましょう。監督生の方のミスター・ウィーズリーからのタレコミです」

 

 なるほど、敵は思ったより身内にいたみたいです。フレッド・ウィーズリーさんが軽く舌打ちする音が聞こえました。

 

「ですが、たしかに密告というのは得てして単に嫌いな相手を貶めるだとか、そういうくだらない使われ方をされるものです」

 

「さすがはマクゴナガル先生!」

「それでこそ、俺たちの寮監だ!」

「そうです、パーシーの石頭なんか―――」

 

「そこで私が直々に調査した結果、こんな物を見つけました」

 

 続けてマクゴナガル先生がバンッ!と机の上に置いたのは、派手な色彩の魔法で動く何枚ものポスターでした。

 

 ポスターの中では、スリザリンの巨大な蛇がホグワーツの生徒に襲い掛かるも、生徒が持っていたロザリオをかざすと、怯えたように蛇が逃げていくという、いかにもなプロパガンダ臭あふれる展開がポスターごとに何パターンか展開されています。

 

 

 そしてポスターの表紙にはというと――。

 

『爽快! 純血不足にもこれ一本!』

『スリザリンの継承者を狙い撃ち!』

『朝起きて体が石になってたらどうしよう? そんな怪奇現象が気になるアナタのために!』

 

 みたいな感じの、宣伝文句がでかでかと書かれておりました。

 

 

 

「私は職業柄、自分の生徒の書いた筆跡はすぐ分かるようになりましてね。とっても、見覚えのある字なのですが」

「………」

 

 はい、私にも見覚えがあります。というか、いくつかは私の字ですし、残るいくつかは双子がきっと見覚えがある事でしょう。

 

「何やら、こういったポスターであることないこと吹聴して、生徒たちの不安に付け込んでガラクタを大層な値段で売りつけている不届き者がいるとかいないとか」

 

「えーっと、言われてみれば、そんな気も……」

「するような……」

「しないような……」

 

 3人でそっと目を逸らします。

 

「かなーり儲かったとか?」

 

 目を逸らし続ける私たちの周囲で、扉やら窓やらがバタン!ガシャン!と次々に閉まっていきました。正直に吐くまで絶対にこの部屋から出してやらねーぞ?という強い圧を感じます。

 

「えっと、詳細な数字までは……」

「記憶にございません、というのも……」

「当社には守秘義務的な何かがありまして」

 

 私、フレッド、ジョージの順に、政治家の答弁の如くのらりくらりと躱そうとしたのですが。マクゴナガル先生はニッコリと口元の表情筋を笑顔のそれに動かし、まったく笑ってないブルーの瞳で見据えます。

 

「なるほど。ですが私の元には3寮から被害届が出されていましてね」

 

 

 ――自分の身はもちろん、大好きなペットや気になるあの人を石にしないためにも! サラザール・スリザリンゆかりのお祓いグッズはいかが?

 

 

「などと大法螺吹いていた3人組がいたらしく、証言してくれた全員が灰色の髪をしたスリザリン女子と赤毛で双子のグリフィンドール男子だと口を揃えておりまして。そう、ちょうどあなた方のような」

 

「………」

「………」

「………」

 

「そうそう、これはたまたまなんですが、スネイプ先生が今ちょうど『真実薬(ベリタセラム)』を調合してくれている最中でしてね。ええ、勿論その件とは全く何の関係もないのですが、3人とも紅茶はいかが?」

 

 

 ――もはや尋問を通り越してただの脅迫じみてきました。

 

 

 目の前に出された3人分の紅茶を見て、私たちは引きつった笑顔を浮かべます。

 

「あの、マクゴナガル先生……」

「どうしましたか、ミス・セレステリア」

「ちょっと先生だけの耳に入れたい話が」

 

「あっ、イレイナてめぇ!」

「セコいぞ、こら!」

 

 双子のウィーズリー兄弟の抗議を無視して、つぶらな瞳で私が見上げるとマクゴナガル先生はにっこりと笑いながら言いました。

 

「では、まずは貴女から。1人づつ順番にフィルチさんの事務所で話を聞きましょう」

「え、そこって元・尋問部屋じゃ……」

 

 たしかフィルチさんが「手首をくくって天井から数日吊るせるよう、万が一に備えて今でも鎖はピカピカに磨いてあるよ……」なんて自慢げに言ってたような。

 

「ミス・セレステリア」

 

 マクゴナガル先生が優しい口調で告げてきます。

 

「あまり田舎のお母様に心配かけるものじゃありませんよ」

 

 

 ベッタベタの取り調べ文句に、「もはやこれまで」とついに観念した魔女がいます。

 

 学校で起こった怪奇事件を利用して汚い金儲けに走った彼女は、不当な儲けを没収された上、赤毛の商売仲間たちと一緒に2週間のトイレ掃除(しかも魔法無し!)を言い渡され、それなりに痛い目を見る羽目になったのでした。

 

 その魔女はいったい誰か。

 

 

 ―――そう、私です。

   

 

 **

 

 

「とりあえず、イレイナが継承者って事はなさそうだね……」

「継承者がこんなセコい商売してるって知ったら、サラザール・スリザリンの方が泣くさ」

「むしろ本物の継承者から襲われないかしら?」

 

 後日、フィルチさんの監視下でトイレ掃除している私たちの傍を通りがかった、ハリー、ロン、ハーマイオニーが失礼なことをのたまっているのが聞こえてきました。

 

「そういえばあの3人、いつの間に仲良くなったんだろう?」

「1年のコリン・クリービーから聞いた話じゃ、イレイナがジニーとサヤにインチキ商品を売りつけるのをフレッドとジョージが止めようとして、逆に丸め込まれたらしいぜ」

「ほんと、先が思いやられるわ」

   




      
「双子のウィーズリーにイレイナさん」って「鬼に金棒」感ありません?
        
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