ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第10章 ~狂ったブラッジャー~

 土曜日の朝、熟睡していた私はパンジーに叩き起こされました。

 

「にゃにごと?」

「クィディッチの試合よ! イレイナあんた選手でしょうが!」

 

 寝ぼけ眼のままパンジーに立っているように言われ、ぼーっと欠伸をしている間に、パンジーがスリザリン・ユニフォームを着つけてくれます。

 

「……パンジーって、実は良い女だったりします?」

「‟実は”じゃなくて普通に良い女だし」

 

 そのまま一緒に大広間へ向かうと、他のチームメンバーも既に来ていて、豪快に朝食を平らげていました。

 

「遅いぞ、セレステリア」

 

 キャプテンのマーカス・フリントが近くに来るように合図し、隣に座ると目の前にドン!と山盛りのワッフルだのスクランブルエッグだのホットドッグまで出されます。

 

「腹が減っては何とやらだ! かっこめ!」

 

 この人、めちゃくちゃ脳筋ですけど脳筋なりに筋は通っているんですよね。朝っぱらからピザをパンケーキのように重ねて、その上からアイスクリームをかけるという頭の悪い食事してるくせに。

 

「ほれ、肉食え肉!」

 

 隣では青白い顔をしたドラコが、ビーターのカシウス・ワリントン先輩に山盛りのベーコンを勧められていました。

 ドラコは初陣ということもあってか、珍しく緊張を隠せていません。それで昨晩もあまり寝れなかったのか、目元にもクマの跡が見えました。

 

「えっと、僕は普通にトーストとコーヒーで十分なんですけど……」

「なんだよ若い男のくせにだらしねぇな。いいから肉食えって、肉」

 

 結局、ドラコはソーセージ1本とベーコンを3枚食べました。

 

 

「とにかくだ」

 

 あっという間に山盛りのピザを半分ほど平らげたフリント先輩が、口直しとばかりにミルクシェーキを飲みながら檄を飛ばします。

 

「我々は敵より優れた箒と、栄養と、筋肉がある」

 

 もちろん技術もだ、と付け加えてフリント先輩は全員を見回します。

 

「この際だ、はっきり言おう」

 

 フリント先輩が円陣を組むように指示し、珍しく真剣な顔に。そして周囲に聞こえないような声で、ぼそっと呟きました。

 

「オレな、好きな子が出来たんだ」

 

 一瞬の沈黙の後、チームがどっと沸きました。ブレッチリー先輩は驚いて目を見開き、モンタギュー先輩は手を叩いて笑い、ピュシー先輩は口笛を吹いています。

 

「マジかよフリント! 誰? 紹介しろよ!」

「つーかフツー、このタイミングで言うことか?」

「あれじゃね? 勝ったら告白する的なヤツ」

「それ盛大に爆死するフラグじゃないですか」

 

 私たちが口々にツッコミを入れると、フリント先輩がニヤッと笑います。

 

「だからお前ら、負けるんじゃねぇぞ。オレが困る」

 

「キャプテン、そこはせめて寮の為って言ってくださいよ」

「うっせ、知るかそんなもん」

 

 最後にツッコミを入れたドラコに舌をべぇっと突き出し、フリント先輩は競技場へ向かうよう指示しました。

 

 

 見れば、先ほどまでガチガチになっていたドラコの緊張もほぐれ、他のメンバーも今まで以上に生き生きとし始めていました。こういうの、意外とバカに出来ないんですよね。

 

「フリント先輩って、ただの脳筋じゃなかったんですね。ちょっと見直しました」

「惚れてもいいんだぜ、おチビちゃん」

「誰がチビですか」

 

 フリント先輩、選手としてはラフプレーで問題ありまくりな人物ですが、伊達にキャプテンを務めているわけではないようです。緊張をほぐして普段通りに戦えれば、箒の性能差で勝てると何となく感性で分かっていたのでしょう。

 

 

 **

 

 

 私たちがグラウンドに入ると、ワーッと大きなどよめきが起こりました。今年のクィディッチ・ダービーはセオドール・ノットが引き継いでおり、レイブンクローやハッフルパフからもちらほらスリザリンへの声援が聞こえます。

 

 そしてフリント先輩とグリフィンドールのキャプテン、ウッド先輩が互いの手を握り潰そうとする恒例行事のあと、ホイッスルの音と共に試合が始まりました。

 

「調子はどうだい? 傷モノ君」

 

 さっきまでの緊張はどこへやら、さっそく調子を取り戻したドラコがハリーを煽り、箒の性能差を見せつけるように傍を飛び去っていきます。

 

 

 そして私はというと―――。

 

 

「わっ」

 

 突っ込んでくるグリフィンドールのチェイサーやらブラッジャーやらを躱しつつ、クアッフルを持ったままゴールに一直線。

 

「はやっ!?」

 

 タックルしてきたグリフィンドールのチェイサーを難なくよけると、驚いたような声が聞こえてきます。噂では聞いていても、実際にニンバス2001の性能を間近で見せつけられるのとは、雲泥の差という奴でしょう。

 

 私は箒の性能差を活かし、スピードでグリフィンドール・チームを完全に置き去りにします。そのまま3つあるゴールの内、一番右のゴールへ向かって突進すると、刺し違えてでも防いでやるといわんばりのオリバー・ウッド選手の姿が。

 

 もちろん、私は刺し違えるつもりなどありません。

 

「どうぞ!」

 

 ノーマークだったピュシー先輩が大きく旋回して左側から突進してくるのを横目で確認し、顔を正面に向けたままノールックパス。私に注意をとられていたウッド選手も慌てて反応しますが、僅かな遅れと箒の性能差が命取りとなって、綺麗にエイドリアン・ピュシー先輩のゴールが決まりました。

 

 

「いいぞ、スリザリン!」

 

 緑の観客席がわっと盛り上がり、赤い観客席からは呻き声が。

 

「うっし! このままワンサイドゲームにしてやろうぜ!」

 

 後ろから近付いてきたフリント先輩が飄々とガッツポーズを決め、私たちはそのまま攻めの姿勢を続行します。

 

 もともとスリザリン・チームは攻撃重視のプレースタイルなのですが、最新型の箒を手に入れたことで一層それに拍車がかかってます。

 

「セレステリア!」

 

 アンジェリーナ・ジョンソン選手からクアッフルを奪ったフリント先輩が、私にクアッフルを投げてよこしてきました。私はそれを受け取ると、小柄な体格とスピードを活かしてグリフィンドールの防衛ラインをひょいひょい突破していきます。

 

 ジョージ・ウィーズリーが私めがけてブラッジャーを撃ち込んできますが、バレルロールで旋回してそれを躱すと、ヒューッと感心したような口笛が聞こえてきました。

 

「やるな、チビっこ!」

「誰がチビですか」

 

 私は巧みな回避でゴールまで近づくと、再び先回りしていたピュシー先輩にパス。ピュシー先輩は視線を誘導したフェイントで2度目のゴールを決め、スリザリンの観客席からは拍手喝采の嵐です。

 

 

 直後、競技場全体にグリフィンドールのキーパー、オリバー・ウッド選手の大音量が響き渡りました。

 

「あの2年にクアッフルを取られるな!」

 

 さすがはグリフィンドールのキャプテン、すぐにスリザリン・チームの新戦法を見抜いて矢継ぎ早に指示を飛ばします。

 

「セレステリアの回避力は圧倒的だが、それだけだ! まずはフリントにクアッフルをスティールさせるな!」

 

 新生スリザリン・チームの役割分担はなんとなくですが、ピュシー先輩はフォワード、フリント先輩がディフェンダー、私がミッドフィルダーといったところでしょうか。

 

 

 私の場合、フィジカルや筋力の要求されるブロックやスティールはそれほどでもありませんが、箒のコントロールと小柄な体格を生かした回避による、クアッフルのキープ力には自信があります。サッカーやバスケットボールでいえばテクニック型のドリブラーで、スピードは箒の性能でカバーみたいな。

 

 一方でガタイの良いフリント先輩はフィジカルの優位を活かしてガードとスティールに専念し、奪ったクアッフルを私にパス。私は持ち前の回避力を活かした速攻で敵の守備を迅速に突破してピュシー先輩にパスを繋ぎ、あとは冷静な技巧派のエース・ストライカーであるピュシー先輩が、フェイントを活かしたシュートでゴールを決める……多少の癖はあるものの、基本的には各々の強みを生かす堅実な戦法です。

 

 

「セレステリア、頼むぞ!」

「頼まれました!」

 

 ウッド選手の的確な指示にもかかわらず、フリント先輩はフィジカルの優位を存分に生かしてクアッフルをもぎ取り、そのまま私にパス。奇策と違って王道は見破られても通用するのが良いところです。

 

 もちろん、グリフィンドールはグリフィンドールで、全力で私をブロックしにかかります。下から急上昇してきたアリシア・スピネット選手を錐もみ回転で回避すると、その後ろにいたアンジェリーナ・ジョンソン選手とケイティ・ベル選手が、すぐさま左右に分かれて待ち伏せ態勢に。

 

「イレイナ、左に行け!」

 

 上空から聞こえてきたドラコの叫び声に無我夢中で従い、私は右のスピネット選手を回避して左のジョンソン選手に向かってターンします。するといつの間にか接近していたフリント選手が大柄な体格を活かしてスクリーンとなり、ジョンソン選手のディフェンスを制限する壁役を務めました。

 

「どうも!」

「おう!」

 

 そのまま二人の脇をすり抜け、フレッド・ウィーズリー選手が横から打ってきたブラッジャーを屈んで避け、ピュシー先輩の方へ向かいます。

 

「いかせるな!」

 

 ウッド選手の大声が轟くのと同時に、フリーになっていたベル選手がピュシー先輩への進行方向をブロック。チラリと後ろを振り返れば、旋回してきたスピネット選手が猛スピードで詰めてきているのが見えました。

 

 ゴールまでの距離は少し遠い。慎重派の私は基本的にアシストやパス繋ぎがメインで、ポストプレーでもシュートは確実に決めれる時にしか行かない主義。ですが――。

 

「行け、セレステリア!!」

 

 私も一応、チームの一員ですし。

 

「えいっ」

 

 クアッフルが緩やかな放物線を描き―――。

 

 

「うおらぁッ!」

 

 

 あっ。

 

 全力で身を乗り出して手を伸ばしたウッド選手の指先が僅かに当たり、クアッフルは弾かれてしまいました。

 残念無念、ゴールならず。スリザリンの観客席から、残念そうな声が聞こえてきました。

 

「ッ―――ぅ」

 

 一方のグリフィンドールですが、キーパーのウッド選手はブロックにこそ成功したものの、痛そうに顔をしかめております。どうやら、無茶な態勢でディフェンスしたせいで指を痛めた模様。

 

 ピュシー先輩とフリント先輩もそれに気づき、意地の悪い笑顔を浮かべます。

 

「その手があったか」

「ウッドの指と引き換えなら、外してもお釣りがくるぜ」

 

 

 そんな感じでシュートこそ失敗したものの、流れは確実にスリザリン優位に進んでいました。

 

 

『スリザリンのリード。120対30……』

 

 解説のリー・ジョーダンが力なく呟き、私たちのリードは誰の目にも明らかです。

 

 しかもブラッジャーの1つは故障でもしているのか、やたらグリフィンドールのシーカーであるハリーを狙っており、ビーターのウィーズリー兄弟は私たちの妨害に専念できていません。

 

「バレエの練習かい? ポッター」

 

 ドラコに至っては余裕しゃくしゃくで、スニッチを探す傍ら、上空から私たちチェイサーに敵のポジションやブラッジャーの接近を伝えてくれたり、時には敵チェイサーのブロックすらやってのけていました。

 

 シーカーの基本的な役割はスニッチを捕まえることですが、それだけだと手持無沙汰になりがちなので、こうした指示や情報伝達にサポートも重要な役割です。そしてドラコは意外と状況把握能力に優れ、そのサポートは的確なものでした。

 

 特に今回の場合、ハリーが狂ったブラッジャーに四苦八苦しているのもあって、スリザリン・チームは始終クアッフルを支配し、グリフィンドールにプレッシャーをかけ続けます。

 

 

 ですが、試合に命を懸けるというメンタリティでは、ハリーの方が一枚上手だったのかもしれません。

 

 

 バシッ!!と大きな音が響き、思わずそちらに目をやると、ハリーが狂ったブラッジャーを敢えて肘に受け、その痛みに耐えながらドラコ目がけて急降下しているのが見えました。

 

「い、いったい―――」

 

 ドラコの目が恐怖で見開かれます。そのまま息を吞んで逃れようとしますが、その時チラッと彼の左耳の上に金色に光るものが見えました。ピュシー先輩とフリント先輩も気づいたようでした。

 

「ドラコ、後ろ! うしろ~!」

 

 必死になって叫ぶピュシー先輩に、ドラコは「?」とぽかんとしたアホ面を浮かべますが、すぐにその意味に気づいて慌てて振り返ります。

 

 直後、ハリーが弾丸のようにドラコの横をすり抜けますが、体勢を立て直したドラコの方もミサイルのように追跡。二人の先には逃れようとするスニッチがあり、箒の性能差で徐々にハリーとドラコの距離が縮まっていきます。

 

 

 そしてドラコの箒がハリーのニンバス2000に並んだ瞬間、なんとハリーは手を箒から離して身を乗り出しました。

 もはや脚だけで箒を掴んでいる状態で、ハリーの手が激しく空をかき―――。

 

 

 ついに、その指先が冷たいスニッチを掴んだのでした。

 

 

 **

 

 

 クィディッチ終了後、私はくたくたになって談話室へと戻りました。

 

「フリント先輩の鬼……」

 

 ハリーがロックハート先生に文字通り骨抜きにされている間、私たちは負けたペナルティとして全員で競技場の周りをぐるぐると走るハメに。

 

「ちくしょぉおおおッ!」

「ウッドのバカヤロー!」

「次は勝つぞぉおおおッ!」

「うおぁあああああッ!」

 

 無念の叫び声をあげて全力疾走する先輩たちに続いて、私とドラコと私も「あー」とか「わー」とか喚き、観客のスリザリン生たちも叫んだりブーイングを飛ばして溜まったストレスを発散します。

 

 そして禊が済んだ後、ドラコと二人で談話室に戻ると、苦笑したスリザリン生たちが待っていました。

 

 散々野次るだけ野次ったのと、敗軍のペナルティを見せつけられて満足したこともあってか、死人を棒で叩くような生徒はおらず、疲労困憊になった私たちには同情するような視線が注がれます。

 

「次は勝ちましょうね……」

「ああ、絶対にだ」

 

 ちょっと意気消沈してるドラコはパンジーに任せて、部屋に戻ろうとする私をにやけ顔のザビニ・ブレーズが呼び止めます。

 

「よう、負け組コンビ」

「傷心の美少女に慰めの言葉とか無いんですか、この鬼畜」

「なら俺の部屋でちょっと飲んでく? 話ぐらい聞くぜ」

「慰み者にする気満々じゃないですか」

 

 ザビニなりの気遣いに私もニヤッと返して、笑顔のまま中指を突き立てて部屋へと戻ります。

 

「あ、イレイナおかえりー」

「お疲れさん」

 

 部屋に戻ると、早速ダフネとミリセントが出迎えてくれました。ベッドに座るなり、近づいてきたミリセントが肩をぽんぽんと叩きます。

 

「やっぱグリフィンドールは手強かったな」

「全くです」

 

 大きくため息を吐き、そのまま布団の上にごろんと寝転がる私。天井を見上げ、ぼけーっとしばしの放心状態。

 

 

「………」

 

 

「イレイナ、実はちょっぴり悔しかったりする?」

 

 ダフネに言われてみて、少し考えます。

 

「別にそこまで勝ちたかったわけでは無いのですけど」

「うん」

「今まで苦労して練習してきたわけじゃないですか」

「そうだね」

「せめて元ぐらいはキッチリ取りたいと言いますか」

「めちゃめちゃ悔しがってんじゃん」

 

 




◆スリザリン・クィディッチチーム

チェイサー
・マーカス・フリント(キャプテン)
・エイドリアン・ピュシー
・イレイナ・セレステリア

ビーター
・カシウス・ワリントン
・グラハム・モンタギュー

キーパー
・マイルズ・ブレッチリ―

シーカー
・ドラコ・マルフォイ

 ワリントンとモンタギューは原作だとチェイサーだけど、本作ではビーターを務めています。二人ともゴリラ族なので、腕力の要求されるビーターでも多分いけるはず。
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