ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第12章 ~決闘クラブ~

            

 その晩の8時、私たちが大広間へ向かうと学校中の生徒が集まっているようでした。そう、何故ならこれから『決闘クラブ』が開始されるからです。

 

 食事用のテーブルは取り払われ、壁に沿って金色の舞台が出現し、宙に漂うは何千本もの蝋燭。生徒たちは各々の杖を持ち、興奮した面持ちで「いったい誰が教えるのか?」と期待を含ませておしゃべりをしています。

 

「静粛に!」

 

 颯爽と現れたのはロックハート先生でした。

 

「ダンブルドア校長先生から、私がこの『決闘クラブ』を始めるお許しを頂きました。私が数えきれないほど経験してきたように、自らを守る必要が生じた場合に備えて、皆さんを鍛え上げるためです! 詳しくは私の著書を読んでください」

 

 相変わらず平常運転。ちゃっかりダイレクトマーケティングも忘れません。

 

「では、助手のスネイプ先生をご紹介しましょう」

 

 ロックハート先生がそう言うと、憮然とした顔のスネイプ先生が現れました。唇はめくれあがり、「野郎、ぶっ殺してやる」という強い意志を感じます。

 

「オイオイオイ」

「死ぬわアイツ」

 

 ノットとザビニがぼそっと呟き、その他の男子生徒たちも荷馬車に乗せられていく子牛を見るような目で、ロックハート先生を憐んでいます。

 

「さて皆さん。ご覧のように、私たちは作法に従って杖を構えています。それから3つ数えて、最初の術をかけます。もちろん、どちらも相手を殺すつもりはありません」

 

 この期に及んでそう言い切れるロックハート先生、ある意味では勇者なのかもしれません。

 

 

 

「1、2、3――――」

 

 そしてカウントダウンの終了と同時に、二人とも杖を高く振り上げました。最初に叫んだのは、皆の予想通りスネイプ先生の方。

 

「エクスペリアームス-武器よ去れ!」

 

 直後、目も眩むような赤い閃光が走ったかと思うと、ロックハート先生が吹っ飛んで壁に激突、ズルズルと滑り落ちて無様に大の字で倒れこんでしまいました。

 

 

「さすがスネイプ先生!」

 

 ドラコを始め数人のスリザリン生が歓声を上げる中、ロックハートがふらふらと立ち上がりました。

 

「さぁ、皆さん分かったでしょうか? 今のが『武装解除の術』です。御覧の通り、私は杖を失いました」

 

 よろめきながら壇上に戻り、意外としっかり解説してくれるロックハート先生。彼我の実力差を無視して、身体を張って教えてくれるとは中々見上げたプロ根性です。

 

「模範演技はこれで十分!ではこれから、二人ずつ組になってください!」

 

 ロックハート先生の言葉に従い、生徒たちもそれぞれ相方を探し始めます。

 

 

「セレステリア、来たまえ」

 

 私は最初、一番近くにいたミリセントと組もうとしたのですが、なぜかスネイプ先生に呼び止められてしまいました。

 

「かの有名なポッターを、君がどうさばくのか拝見しよう。ミス・ブルストロードはミス・グレンジャーと組むように」

「はぁ」

 

 この指示を好意的に解釈すれば、同じ寮生同士だと遠慮したり馴れ合ってしまうことを危惧したから、という理由が考えられなくもありません。

 

 ですが、スネイプ先生は目で私にはっきりとこう告げていました。

 

 ――徹底的にやってしまえ。

 

 スネイプ先生は嵐のような闘争を、一心不乱の大戦争をお望みのようでした。

 

 

「相手と向き合って! そして礼!」

 

 ロックハート先生が声を張り上げ、私たちは互いに礼をします。

 

「私が3つ数えたら、相手の武器を取り上げる術をかけなさい。武器を取り上げるだけですよ。では、1、2、さ―――」

 

「タレントアレグラ-踊り続けよ!」

「イレイナせこっ!?」

 

 面食らった負け犬(ハリー)の遠吠えを無視し、私が放った呪文がハリーを直撃します。次の瞬間、ハリーの両脚がひとりでに動き出し、激しいクイック・ステップを踏み出しました。

 

 

 ……決して前のクィディッチの試合で負けたのが悔しかったから、とかそういう大人げない理由でフライングした訳ではありませんよ?

 

 あくまでスネイプ先生に忖度しただけでして。ええ、そうですとも。

 

 

 意外だったのは、上半身が動けるのをいいことに、ハリーが即座に反撃してきたことでした。

 

「デパルソ-退け!」

 

 次の瞬間、頭をフライパンで殴られたような衝撃と共に、私の華奢な体は宙を舞っていました。

 

「………」

 

 ふむ、か細い繊細な薄幸の美少女に杖を向けるとは、なかなか良い度胸ですね。これはもう、宣戦布告と受け取っていいでしょう。

 

 

 ――よろしい、ならば戦争です。

 

 

 ハリーがスポーツマンシップと実利の間で葛藤している僅かな躊躇いの隙を逃さず、私は素早く杖をハリーに向けて叫びました。

 

 

「リクタスセンプラ-笑い続けよ!」

 

 

 今度は銀色の閃光がハリーを直撃し、ハリーは身体をくの字に曲げてゼイゼイと喘ぎ始めます。

 

「やめっ……あひゃっ! や、やめて……!」

 

 やめるわけがありません。

 

「ふふふふふ……」

 

 くすぐられる快楽と苦痛で悶えるハリーに杖を向けたまま、私はさらに魔力を込めます。

 

「あっ……! ひぃっ……ッ!」

 

 口から漏れ出す笑い声を抑え込もうと、むなしい抵抗を続けるハリー。

 

 無駄だというのに、歯を食いしばって必死に耐えようとする姿を見ていると、なんだか楽しくなってきます。口元が自然と歪んでいき、私はひたすら目の前の玩具(ハリー)を「笑い呪文」で弄りまわしました。

 

「うぅ~ん? ここがいいんですかぁ? それともこっちでしょうか?」

「やめっ……ひぁっ! 無理、もう無理だから……あひゃっ!」

「おやおやぁ、皆さんに見られてるのに、こーんな無様な姿を晒しちゃっていいんですかぁ?」

 

 私は少しだけ呪文の威力を弱め、頬を紅潮させて悶えるハリーを指でつんつんしながら、タイミングを見計らって再び威力を強めます。

 

 えへへ……どうしよ、楽しいですねコレ。

 

「くっ、いっそ殺してくれ……! やめっ……あああっ!」

「あらあら、そういう顔もするんですねぇ……うふふふ。もっと弄って欲しいですかぁ?」

 

 笑いすぎて快楽と苦痛を同時に与えられ、ハリーが何だかおかしくなっていきます。その頃には私の方もノリノリで、いつの間にか周囲から距離を置かれてるのにも気づきません。

 

 

「や、やめなさい!ストップ!」

 

 

 ふと我に返ったロックハート先生が叫ぶと、スネイプ先生もハッとしたように乗り出しました。

 

「フィニート・インカンターテム-呪文よ、終われ!」

 

 ハリーが悶えるのを止め、私も喪失感と共に呆気にとられたところで、ようやく周囲の視線に気づきました。大勢の引きつった顔と、どういうわけか一部の生徒からは熱っぽい眼差しが。

 

 

 スネイプ先生がため息交じりに、私の肩にぽんと手を置きます。

 

「……セレステリア、やり過ぎだ」

 

 えー?

 

「このままハリーを快楽漬けにして、二度とスリザリンに逆らえない体にしちゃう流れなのでは」

「お前たちにそういうのはまだ早い……」

 

 何故だかとっても引いておられました。日頃あれだけハリーを嫌っておいて、大人の考えることはよく分かりません。

 

 

「なんとまぁ」

 

 ロックハート先生は生徒の群れの中を素早く動きながら、決闘の顛末を見て回っていました。

 

「……ミス・グレンジャー、ゆっくり立ち上がって。ミス・フォーセット、彼女をしっかり押さえていなさい。鼻血はすぐ止まりますから」

 

 ハーマイオニーとミリセントの決闘は、意外なことにミリセントの圧勝でした。ハーマイオニーが呪文を唱えるより早く、ミリセントは自分の杖を投げ捨てて猛タックルをかましたそうで。

 

「――杖なんか必要ねぇよ! ぶっ殺してやるぁああああッ!!!」

 

 そのままハーマイオニーを押し倒してヘッドロックをかけ、頸動脈にチョークを決めて失神させたそうな。もはや魔女とは一体なんだったのか。

 

 

「えー、非友好的な術の防ぎ方をお教えする方がいいようですね」

 

 一通り怪我人を医務室に送り届けると、ロックハート先生が気を取り直したように周囲を見回します。

 

「さて、誰か進んでモデルになる組はありますか? ロングボトム君とセレステリアさん、どうですか?」

「ロックハート、それはまずい」

 

 スネイプ先生がガチトーンで止めにかかります。

 

「ロングボトムが公衆の面前で辱められるのはともかく、吾輩は寮監としてセレステリアや他のスリザリン生が何かに目覚めてしまう前に、これを止める義務がある」

 

 はて、私が何をするというのでしょうか。

 

「マルフォイとポッターはどうかね?」

「それは名案!」

 

 ロックハート先生がハリーとドラコに、大広間の真ん中に来るように手招きします。ドラコはハリーの乱れた服を上から下までじろじろと眺め、低い声で囁きました。

 

「……ポッター、無理しなくていいんだからな?」

 

 宿敵から憐れむような眼差しで言葉をかけられ、ハリーは軽く泣きそうになりながらも気丈に首を横に振ります。

 

 

 決闘クラブ第2ラウンド、始まりました。

 

 

 **

 

 

 ロックハート先生の号令と共に、ドラコは素早く杖を振り上げて叫びます。

 

「サーペンソーティア-蛇出でよ!」

 

 ドラコの杖の先が炸裂し、長く黒い蛇が二人の間に出現しました。周囲が悲鳴を上げ、ハリーも身動きできずにいると、ロックハート先生が「お任せあれ!」と叫んで杖を振り回します。

 

 バーン!と大きな音と共に、蛇は宙を舞うと再び地面に落下。ブチギレて近くにいたジャスティン・フィンチ=フレッチリ―めがけて鎌首をもたげ、牙を剥きだして今にも襲い掛かろうとしていました。

 

「っ――――!」

 

 すると驚いたことに、ハリーが何やらシューシューと低い囁き声を漏らし、蛇に何かを語りかけているようでした。傍から見れば、蛇を操っているようにしか見えません。

 

 そして蛇はジャスティンさんを襲う寸前、動きを止めてハリーの方に向き直り、我に返ったスネイプ先生の呪文で消えていきました。

 

 

「いったい何の悪ふざけなんだ!?」

 

 

 蛇をけしかけられたと解釈したジャスティンさんが怒って出ていき、困惑したハリーもロンとハーマイオニーに引っ張られて大広間から退出していきます。

 

「ハリーって、パーセルマウスだったんですね」

 

 パーセルマウスとは、蛇と話をすることが出来る希少な能力の持ち主のことです。その能力はほぼ先天的に決まっており、何を隠そう、もっとも有名なパーセルマウスこそ我らがスリザリン寮の創設者、サラザール・スリザリンでした。

 

 何とも言えない気まずい空気が漂う中、こっそりミリセントが耳打ちしてきます。

 

「ってことは、あれか? ポッターが実はスリザリンの曾々々々孫かも的な?」

「多分そんな感じです」

「グリフィンドールなのに?」

「………」

 

 そういえば――。

 

 ふと頭の中に思い浮かんだのは、ハリーが組み分けられた時の様子でした。

 

(私と同じように、そこそこ時間かかってたような……)

  

 それが何を意味するのか。考えるまでもありませんでした。

 

 

 

 そして波乱の決闘クラブから時を置かずして、再び事態は急変します。今度はジャスティン・フィンチ・フレッチリーとゴーストの「ほとんど首無しニック」が『継承者』に襲われ、石にされるというものでした。

  




  
 くっ殺ハリー(誰得とか突っ込んではいけない)
 
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