ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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 ※今話ハリー視点でお送りいたします。

 何気にイレイナさん以外の視点は初挑戦だったり。
  


第14章 ~ポリジュース薬~

 2年のホグワーツは、例年にも増して人がいない。残っているのは僕――ハリー・ポッターや、留学生のサヤといった訳ありの生徒ばかり。

 

 

 ハロウィーンにミセス・ノリスが、クィディッチ戦の次の日にコリン・クリービーが、そして事件に拍車をかけるように、ジャスティン・フィンチ・フレッチリーと「ほとんど首無しニック」が石になったというニュースは、ホグワーツに更なる混乱を招いていた。

 

 加えて学校に得体の知れない怪物が徘徊している、となれば逃げるように帰宅するのが当然だろう。当然ながら、ホグワーツは葬式かと思うくらい静まり返っている。

 

 

 意外なことに居残り組の中には、マルフォイとクラッブにゴイル、そして何故かイレイナの名前もあった。

 

「マルフォイはともかく、どうしてイレイナが?」

 

 ちなみにマルフォイの場合、ロンのお父さん主導で抜き打ち検査があるとかで、クラッブとゴイル共々居残りという話らしい。

 

「なんか1年のサヤって子に魔法を教えるらしいよ。ジニーが言ってた」

「ハーマイオニーがたまに勉強見てる子だっけ?」

「そうそう」

 

 ホグワーツで東洋系の子は少し珍しい。加えて休み時間でも談話室で「ボク絶対に奨学金もらうボク絶対奨学金もらう奨学金もらう奨学金もらう」とブツブツ念じ続けてる変な子ともなれば、学年が違っても顔と名前ぐらいは覚えるものだ。

 

 なんでも無理を言ってホグワーツに来たらしく、休日に彼女がイレイナやハーマイオニーに勉強を教えてもらっているのを、僕も何度か見かけたことはあった。

 基本的にクールなイレイナが他人の世話をここまで焼くというのも、なんだか意外な一面を見つけた気持ちだ。案外、直球で頼られると断れないタイプなんだろうか。

 

 いずれにせよ、イレイナがホグワーツに残っていることは、僕たちの計画にとって非常にラッキーだ。

 

 

「じゃあ、確認するわよ」

 

 ハーマイオニーが僕とロンの前で、今夜の計画の詰めに入る。ポリジュース薬を使ってスリザリン生に変身し、スリザリン寮へ潜入してマルフォイの口から「本物のスリザリンの継承者が誰なのか」を聞き出すという計画だ。

 

「ポリジュース薬には、相手の体の一部が必要なの」

 

 まるでスーパーで洗剤を買ってこいとでも言うように、事も無げに告げるハーマイオニー。

 

「まず私だけど、イレイナに変身するわ。ちょうど彼女の髪の毛も入手したことだし」

 

 ジップロックに入れられた灰色の毛を見て、ロンが目を丸くする。

 

「ハーマイオニー、怪しいルートで手に入れたんじゃないよね……?」

「合法よ。1年のサヤさんから、勉強を見てもらうお礼として内密に譲り受けたの」

「それって充分に非合法なんじゃないんですかね……」

 

 なぜイレイナの髪の毛をサヤが持っているのか、という疑問については「サヤが魔法の練習中に、イレイナと密着する機会があったらしいの」という回答を得たものの、それはそれで状況がよく分からない。

 

 

「とにかく、この際イレイナの件は置いといて! それよりあなた達二人には、クラッブとゴイルの髪の毛を引っこ抜いてもらいたいの」

「それ、マジで言ってる?」

「ええ。マジで言ってるわよ」

 

 度肝を抜かれたような顔をしているロンを無視して、ハーマイオニーが取り出したのは2つのふっくらしたチョコ味のカップケーキ。

 

「簡単な眠り薬を仕込んでおいたわ。あの二人の食い意地なら、絶対に食べるに決まってる。眠ったら髪の毛抜いて、後は適当にその辺の物置にでも隠しとけば完璧よ」

 

 唖然とした顔のままロンと顔を見合わせると、向こうも同じことを考えていたらしく。

 

「おったまげー。あのハーマイオニーがここまでノープランなんてね」

「明日は空から槍でも降るんじゃない?」

 

 

 しかし、ハーマイオニーは反論を許さず、僕たちを強引に部屋の外へ追い出した。

 

「ハリー、僕は失敗する方に1シックル賭けるぜ」

 

 大広間に最後まで残っていたクラッブとゴイルを見ながら、ロンがこっそり囁いた。

 

「こんな杜撰な計画、上手くいくわけ―――」

 

 

 **

 

 

「いくんかい」

 

 

 約30分後、呪文で宙に浮かせたカップケーキを丸ごと平らげて廊下に倒れ込んだ二人を見て、思わずセルフツッコミをかますロン。

 

「……賭けは僕の勝ちだね」

「コイツらのアホさ加減をナメてた自分が憎いぜ」

 

 ジト目で倒れた二人を見下ろすロンを急かし、クラッブとゴイルの髪の毛を抜いて物置に放り込む。アジトに使っている、ゴースト「嘆きのマートル」がいるトイレに辿り着くと、中にはドロドロになった薬を鍋で煎じているハーマイオニーがいた。

 

「取れた?」

 

「見てくれ、新鮮なクラッブの毛だ」

「とれたてホヤホヤのゴイルヘアもあるよ」

 

「それは結構」

  

 ハーマイオニーは3つのコップを用意し、ドロドロのポリジュース薬を注いでいく。どろっというような生易しいものではなく、べちょっといった感じの身体に悪そうな半固形の液体に思わず顔をしかめる。

 

 

 最初にハーマイオニーがイレイナの髪の毛を入れると、沸騰するような音を立ててサラサラと銀色の液体に変化した。

 これに勇気づけられて僕とロンもゴイルとクラッブの髪の毛を入れたものの、残念ながら鼻くそのようなカーキ色と濁った暗褐色だった。

 

 ロンと顔を見合わせる。考えることは多分一緒だ。

 

「ねぇハーマイオニー」

「もしよければ僕のと」

 

「絶対に嫌よ」

 

 そう言うが早いか、一気にポリジュース薬を飲み込むハーマイオニー。ロンが羨ましそうな顔で、自分のコップを見つめながらぼやく。

 

「いいなぁ、イレイナのエキス……」

 

 ロン、その言い方はどうかと思うんだ。

 

 

 仕方なく観念して二人で飲み込むと、煮込み過ぎたキャベツのような味が口いっぱいに広がった後、吐き気と焼けるような感触が胃袋から全身に広がる。

 

「――っ」

 

 ハーマイオニーが我慢できずにトイレに駆け込み、僕たちもそれに倣う。息が詰まりそうになり、全身が融解するような気持ち悪さに襲われた後、みるみる間に全身が膨れていく。

 

「ゴイルになるって、こういう感じなんだ……」

 

 できれば二度となりたくない。眼鏡をはずして靴をゴイルのものに履き替え、二人に呼び掛けた。

 

「二人とも大丈夫?」

 

 口から出てきたのはゴイルの低いしゃがれた声。

 

「ああ」

「ええ」

 

 返ってきたのは、クラッブの唸るような低音と、イレイナの朗らかな美声だった。

 

 

「おっどろいたなぁ」

 

 鏡に近寄り、ぺちゃんこの鼻をつつきながらロンが繰り返す。

 

「僕、クラッブになってるよ。うへぇ」

 

 心底嫌そうなロンとは対照的に、ハーマイオニーは満更でもない様子だった。

 

「え、やだ私の髪の毛とってもサラサラ……肌もぷにぷにしてて柔らかいし、鼻筋から目元まで整いすぎじゃない?」

 

 イレイナの魂が乗り移ったように鏡の前で自画自賛しているハーマイオニーは、むしろ違和感が無さ過ぎて困る。

 

「はぁ、素敵……私、イレイナに生まれたかったかも」

「そうかい。僕はクラッブに生まれなくて良かったって、ママに感謝してるぜ」

 

「それより二人とも、急いだほうがいい」

 

 時計を見ながら言う。

 

「クラッブとゴイルはともかく、イレイナが戻ってきたら面倒なことになる」

 

 どうもこの時間、イレイナはロックハートの部屋に入り浸っているらしい。イレイナは作家としてのロックハートを尊敬しているみたいで、2人で文芸クラブ的な活動をしているらしく、戻ってくるまでがチャンスだ。

 

 

 そしてスリザリン寮の前まで辿り着いた時、僕はある事に気づいた。

 

「どうしよう……僕、スリザリンの合言葉なんて知らないや」

「そこに気づくとはハリー、やはり天才か」

 

「純血!」

 

 ハーマイオニーが叫ぶと、壁に隠された石の扉がスルスルと開いた。

 

「君、なんで知ってるんだい?」

「イレイナに教えてもらったのよ」

 

 今度ちょっと談話室まで訪ねていいかしら?って聞いたらあっさり教えてくれたわ、と事も無げに答えるハーマイオニー。

 

「たしかにイレイナって、あんま寮にこだわらないよね」

「イレイナだしね」

 

 僕と同じでイレイナも他の寮に適性があったみたいだけど、割とグリフィンドール寮への帰属意識が強い僕と違って、イレイナはけっこうスリザリン寮に対して無頓着なところがある。

 なんでも「私はスリザリン寮に()()()()」というより「私がスリザリン寮を()()()」というのがイレイナの感覚らしく、寮の気風とかにも付かず離れずの距離感を維持しながら、マイペースに生きてる印象だ。

 

 

 

 そして初めて足を踏み入れるスリザリンの談話室は、細長い天井の低い地下室だった。

 

 壁と天井は粗削りの石造りで、天井からは丸い緑がかったランプが鎖で吊るされている。壮大な彫刻が施された暖炉ではパチパチと火が弾け、周りには豪奢な椅子に座ったスリザリン生が何人か。

 

 ただ、その中にマルフォイはいなかった。

 

 

「……この展開は予想してなかったわ」

 

 どうしよう、とハーマイオニーが頬に手を当てると、背後から声が響いた。振り返ると、ドラコ・マルフォイがやってくる。

 

「お前たち、こんなところにいたのか。なかなか大広間から戻ってこないから、ずっと大広間を探してたんだぞ」

 

 それからイレイナの姿になったハーマイオニーを見つけると、マルフォイは少し首を傾げた。

 

「イレイナ、君が探してくれたのか?」

「まぁ、そんなところです」

「恩に着るよ」

「では金貨を1枚」

 

 しれっと報酬をせびるハーマイオニーはイレイナそのもので、何の違和感もない完璧な演技だ。実際いつもの事らしく、マルフォイも慣れた様子で呆れたように肩をすくめるだけだった。

 

「その前に、面白いものを見せてやる。つまんなかったらレプラコーン金貨をやるよ――待っててくれ」

 

 そういえばスリザリン生と接している時のマルフォイってこんな感じなんだなと、少しだけ新鮮な気持ちになる。意外と面倒見がいいというか、ユーモアとかサービス精神みたいなものも持ち合わせているんだなぁと、今更ながら気づく。

 

 

 少ししてマルフォイが持ってきたのは、「日刊預言者新聞」の切り抜きだった。

 

 内容は、僕たちが飛ばした車の件でウィーズリーおじさんが尋問を受けたというもの。僕たちが車を飛ばした件は未成年ということで不問にされたものの、そもそも車に空が飛べるよう無許可で魔法をかけた上に未成年でも乗れる状態になっていたことが問題視され、違法改造と監督不行き届きなどの罪状で罰金50ガリオンを言い渡されていた。

 

「マグル製品不正使用取締局長アーサー・ウィーズリー、盗人を捕らえてみれば我が子なり……」

 

 おどけた様子で目を見開くマルフォイに、仕方なく僕は沈んだ声で笑う。隣ではやれやれといった表情をしたイレイナ(ハーマイオニー)が、後ろに回した手で巨大な拳を握りしめたクラッブ(ロン)の脇腹をつねっていた。

 

 

 それからしばらくマルフォイがロンの家族を小馬鹿にするのをイレイナ(ハーマイオニー)が「まぁまぁ」と宥めつつ、3人で引きつった愛想笑いを浮かべてやり過ごしていると、ようやくマルフォイが「継承者」について話を飛ばした。

 

「いったい誰が継承者なのか、僕が知ってたらなぁ。そしたら手伝ってやれるのに」

 




              
 イレイナさんがサヤさんやロックハートと魔法や文芸のレッスンしている間、ハリーたちは原作通りスリザリン寮に潜入。
 ただしイレイナさんが残ってるため、ハーマイオニーは原作と違って猫化回避。ケモナーの皆さんにはスミマセン。
 
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