ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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 引き続き、ハリー視点です。
 
 ※ちょい独自設定あり。


第15章 ~スリザリン寮への潜入~

       

 クラッブ(ロン)の顎がカクンと開き、いつも以上に間抜けに見えた。マルフォイが気づく前に、素早く質問する。

 

「誰が陰で糸を引いてるのか、考えがあるんだろう?」

「いや、ない。ゴイル、何度も同じことを言わせるな」

 

 マルフォイは短く答えた。

 

「前回の件も、父上は知ってはいるようだが教えてくださらなかった。僕がそのことを知り過ぎていると、怪しまれるとおっしゃるんだ。でも、かつて『秘密の部屋』が開かれた時、『穢れた血』が一人死んだらしい」

「前に開けた人がどうなったか、知ってる?」

「追放されて多分、アズカバンにいるだろう」

 

「アズカバン?」

 

 きょとんとして口を開くと、マルフォイが信じられないという目つきで見てきた。

 

「北海に浮かぶ、魔法界の監獄だ。ゴイル、お前がこれ以上ウスノロだったら、そのうち前向きに歩くことすら忘れるんじゃないかと心配になるよ」

 

 マルフォイが呆れたような溜息を吐き、僕はなるべく申し訳なさそうな顔になるようゴイルの表情筋を動かした。

 

 

「そして『秘密の部屋』と『スリザリンの継承者』だが……父上は僕が目立たないようにして、やるだけやらせておけっておっしゃる。ほら、父上は魔法省の立ち入り検査で手一杯なんだ。まぁ、ウスノロのウィーズリーたちが、応接間の床下にある我が家の『秘密の部屋』を見つけられるとは思わないが」

 

 最後のセリフに「ほー!」と反応しかけたロンを、ハーマイオニーがその脇腹をつねって黙らせるのが見えた。幸いマルフォイは気づかなかったらしく、そのまま得意げに話し続ける。

 

「父上は、この学校には『穢れた血』の粛清が必要だと考えている。けれど、自主退学してくれるのが一番都合がいいと考えてるらしい」

 

 その言葉にイレイナ(ハーマイオニー)が反応した。

 

「マグル生まれだけが狙われれば、自然とマグル生まれの子の両親は‟そんな危険な学校に子供を通わせられない”となって自主退学が増え、魔法界に入ってくるマグル生まれは減っていくと……そういうことでしょうか?」

「察しが良くて助かるよ。クラッブとゴイルにイレイナの1割でも脳味噌があれば、どれだけ楽できたことやら」

 

 

 マルフォイがやれやれ、と首を左右に振る。

 

「ダンブルドアはずっと、マグル生まれを優遇し続けてきた。本来、ホグワーツと魔法省は魔法族の利益のためにあるはずだというのに」

「ドラコは、ダンブルドア校長が魔法族より、マグルやマグル生まれの利益を第一に考えていると?」

「ダンブルドアだけじゃない。ウィーズリーたちみたいな『血を裏切る者』だって同罪だ。魔法族に対する裏切りだよ」

 

 おや、とイレイナ(ハーマイオニー)が意外そうな顔をした。

 

「‟魔法族”ですか。‟純血”ではなく?」

 

「亜人よりヒト、ヒトの中ではマグルより魔法族、魔法族の中ではマグル生まれより純血、だ……魔法界への貢献度の高い者から順に優遇されるのは当たり前だろう?」

 

 

 要約すると、純血名家は魔法族の中でも特に昔から魔法界に貢献してきたんだから優遇されて当り前で、魔法界に対して先祖が大して貢献もしてこなかったマグル生まれと対等であるはずがない。

 

 そもそもマグルが多数派だから少数派の魔法族は過去には魔女狩りにあったりしたし、今でも存在を隠して生活しなきゃならないから、魔法族と純血名家はマグルとマグル生まれ達による被害者だという。

 

 にもかかわらず、ダンブルドアは昔からの身内である純血の魔法族と、ぽっと出のよそ者であるマグル生まれを同列に扱おうとしているのだから、実質的な利敵・売国行為だ――。

 

 というのが、マルフォイら純血主義の主張らしい。

 

 

「だからイレイナの実家も、もう少し同胞を大事にして面倒を見るべきだと思うけどね。じゃないと、いつか手遅れになる」

 

 はぁ、とイレイナ(ハーマイオニー)が曖昧に答える。流石の演技力だ。

 

「気が向いたら、そういう日も来ますよ」

「そう遠くはないと思うぞ。何年か前のダラス=スティーブン法のせいで、セレステリア家も相当に痛い目を見たそうじゃないか」

 

「ダラス=スティーブン法?」

 

 ぽかんとした顔で質問すると、マルフォイとイレイナ(ハーマイオニー)の両方から呆れたような顔をされた。

 

「ゴイル、そんな事も知らないのですか?」

「相手はゴイルだし仕方ないさ。クラッブにも荷が重いだろう」

 

「「……」」

 

 まさかマルフォイに助け舟を出される日が来るとは、思ってもいなかった。

 

 

 そして妙に様になった呆れ顔のイレイナ(ハーマイオニー)をマルフォイが宥め、ゆっくりと説明する。

 

「ダラス=スティーブン法ってのは、マグル生まれの政治家ダラスとスティーブンが進めた、商業銀行と投資銀行を分離する法律だ」

「商業銀行と投資銀行……」

 

 ちらりとイレイナ(ハーマイオニー)の方に助けを求めると、すらすらと専門用語がマシンガンのように飛んでくる。

 

「グリンゴッツみたいに預金とか貸出を主に行う銀行が商業銀行で、M&Aとか投資コンサルやら資産運用といったリスクの高い証券業務を行うのが投資銀行です」

「な、なるほど?」

「そしてマグル界ではリスクの高い投資銀行業務がもたらす損失により、日常生活に関わる預金貯金を担う商業銀行業務がリスクに晒されないよう、両者を分離する銀証分離規制が50年以上前から施行されてきました」

「へ、へぇー……」

 

 どう見ても「このぐらい常識でしょハリーあなたマグル界にいたでしょ」みたいな冷たい目で見てくるイレイナ(ハーマイオニー)から目を逸らし、マルフォイに視線を移すと「イレイナあんまりゴイルを虐めないでくれバカなんだから」と再び助け船を出される。

 

 まさか1日に2度もマルフォイに助けられるなんて……。

 

 

「そういえばマルフォイ、君のところは……」

「父上の『ウィルトシャー損保』も、『()()』だか『()()()()』制度だかで攻撃されてるよ」

「ドラコ、『年金』と『労災保険』制度ですよ」

 

 イレイナ(ハーマイオニー)が補足すると、マルフォイが「ああ、それだそれ」と頷きます。

 

 

(そういえば、魔法界で年金とかって聞いたことないな……)

 

 よくよく考えてみれば、その辺の社会制度はマグルの方がリベラルで進んでいる。

 

「あれ、そういえば国民保健サービス(NHS)とかって……」

「そういや、いつかのパーティーでダフネの父親がぼやいてたな。新薬の開発には莫大なコストがかかるから、公営化なんてしたら新薬の開発がストップするとか何とか」

 

 そこでマルフォイが視線をロンに移した。僕も目で追うと、ロンが赤くなる。

 

 

 ―――髪の毛まで。

 

 

 3人で慌てて立ち上がった。

 

「おい、3人ともどうしたんだ?」

「女の子に言わせないでください!」

「え? あ、ああ……すまない。クラッブとゴイルもそうなのか?」

「うっす」

「おっす」

 

「いや待て、談話室にある備え付けの方が近くないか?」

 

 ふと冷静になったマルフォイの声は聞こえなかったことにして、僕たちは振り向きもせず談話室を端から端まで一目散に駆け抜ける。

 

 扉に猛然と体当たりして、廊下を全力疾走――階段をバタバタと駆け上がり、そのまま「嘆きのマートル」のトイレへ戻った。

 

 

 

 ***

 

 

 

「結局、『スリザリンの継承者』が誰かは分からなかったけど、まったくの時間の無駄では無かったわね」

 

 ハーマイオニーがゼイゼイと息を切らしながらも、鞄から分厚い本を取り出して、猛然と調べ出す。

 

「道理でマグル生まれを嫌うわけだわ……なるほどね」

 

 ブツブツと独り言を言いながら、ハーマイオニーはいくつもの付箋をつけていく。

 

「連中がマグル生まれを嫌うのに、理由なんかあるのかい?」

「少なくとも、きっかけの1つぐらいはね」

 

 ほら、とハーマイオニーが本を見せる。そこには『改訂版・純血一族一覧:現代編』と書かれていた。

 

「例えばグリーングラス家だけど、やっぱりあの『グリーングラス製薬』の創業者一族だったのね。そりゃあ公的医療保険制度には反対するわ」

 

 僕が「グリーングラス製薬って?」と聞くのと、ロンが「()()()()()()って何?」と質問するのは同時だった。

 

「えーっとハリー、グリーングラス製薬ってのは魔法界で一番大きい魔法薬の製造会社なんだ」

 

 僕が「そうなんだ」と返すと、今度はロンが医療保険について聞いてくるので、国民保健サービス(NHS)について説明する(NHSはダーズリー家が病気になった時に利用しているから、僕でも知ってる)。

 

「公的医療保険っていうのは病気に備えて国に保険料を払って、いざ病気になった時には国が診察料を無料にしてくれる仕組みなんだよ。魔法界なら魔法省だろうけど」

 

 説明すると、ロンはぽかんとした顔をした。

 

「なんで魔法省がそんなことするんだ?」

「えーっと」

 

 ちょっと言い淀むと、ハーマイオニーが代わりに答えてくれた。

 

「マグル界でも昔はそんな感じだったけど、今のマグル界では政府が市民の健康にも責任を持つべきだと考えられているのよ」

「なんだかお節介なんだね、マグルの政府って」

「まぁ、アメリカとかは少し違うけれど」

 

 

 ハーマイオニーが別のページを開く。

 

「つまりね、スリザリンには金持ちが多いでしょう? 特に純血の名家は色んなファミリービジネスを手掛けていて財閥化してるから、マグル生まれがマグル式の社会制度を持ち込もうとすると利害が対立するのよ」

 

 ハーマイオニーが別の本を引っ張り出し、すごい勢いでページをめくっていった。

 

「やっぱり……あのパーキンソンのとこもそう」

「あー、実家が大手の塾だっけ?」

 

 ロンの意外な答えに、少し驚く。

 

「塾?」

「そっ、『パーキンソン個別指導塾』。ちょっと金持ちの子弟はみんなホグワーツ入学前に、そこで家庭教師をつけてもらうんだ」

「魔法界に小学校は無いの?」

「なんじゃそりゃ」

 

 聞けば、魔法界にホグワーツ以前の初等教育は無いらしく、親が教えるか塾なり家庭教師なりに教わるらしい。

 

「この本によると、数年前に初等教育を作ろうって動きはあったんだけど、パーキンソン家の大反対で潰されたらしいわよ」

 

 他にもミリセント・ブルストロードの実家がゼネコンの『ブルストロード建設』で談合禁止法に最後まで抵抗したとか、人狼や半巨人といった亜人を低賃金でこき使ってた『ノット製作所』が人権問題でマグル出身者の市民団体と訴訟中だとか、真っ黒な話が次々に出てきた。

 

 

(やっぱり、聞けば聞くほど魔法界が前時代的なのって純血名家のせいのような気が……)

 

 ハーマイオニーもそう思ったみたいだけど、マグル界に詳しくないロンに言わせれば「逆にマグル界って、なんでもかんでも管理されてるみたいで窮屈だね」とのことだった。

 

「別にマルフォイたちに賛同してるわけじゃないけど、マグルだったら僕の家は沢山の何たら保険料で食べ物を買う金も無いぜ?」

「一応、生活保護とかはあるんだけど……」

「でもそれって2度手間じゃないか? マグルって、細かいルール沢山覚えるのが得意な人間じゃないと生きづらそう」

 

 ふっくざつー、とぼやくロン。逆に魔法界はアバウト過ぎるような気もするけど、「割と魔法で何でも自己完結できちゃう」魔法族とそうでないマグルじゃ感覚にズレがあるというのも、ある意味では当然のような気もする。

 

 

「きっと、だからなのよ」

 

 ハーマイオニーが本を置いて口を開いた。

 

「マグル生まれの人が増えれば、自然とマグルの考え方が価値観が浸透していく。魔法族の習慣がどんどんマグルの習慣に置き換えられていけば、変化に耐えられない人も出てくる……特にマグルの世情に疎い『純血』にとっては、生きづらい世の中になるでしょうね」

 

 それだけじゃないわ、とハーマイオニーが難しい顔で腕組みをする。

 

「マルフォイの言ってることに全面的に賛成するわけじゃないけど……純血名家には‟これまで自分たちが魔法界を支えてきた”ってプライドがある。だからマルフォイたちにとっては、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのよ」

 

 そういえば、と僕はふと思い出す。そういえば昔、バーノンおじさんが会社の新しい人事を愚痴っていたことがあった。

 

 

『――聞いたかペチュニア! 今度の株主総会で決まった新しい重役だが、まだ40代の若造で、しかもアメリカ人と来た! グランニングズ社は昔からワシが支えてきたというのに、同じ給料だなんて信じられん! しかもIT化だの電子化だの訳のわからん取り組みをするとか言い出しおって、せっかく全部署にFAXを導入したのにいい迷惑だ!』

 

 

 たぶん、グランニングズ社は別に間違ったことはしてないのだろう。けれど、じゃあバーノンおじさんの憤りは全部ナンセンスなのかと聞かれると、そこまで言い切れるほどの自信は無い。

 

 

 

「――まぁ、だとしてもだ」

 

 ちょっと重くなり始めた空気をどうにかしようと、ロンが敢えて明るい声を出した。

 

「純血主義がどうのこうのはともかく、マルフォイがイヤな奴に変わりはない。だろ?」

 

 そう言われて一瞬、ハーマイオニーと一緒にぽかんとする。虚を突かれた顔のまま二人で顔を見合わせ、少ししてから一緒に噴き出した。

 

「たしかに、あの態度は無いわね。内容はともかくとして」

「面白半分でネビルに『足縛り』の呪いをかけるようなのが、偉そうに何か言ってもね」

 

 純血名家がマグル生まれを嫌うにもそれなりの理由があるのは分かったけど、仮にハーマイオニーが純血の魔女だったらマルフォイは態度を変えるのか?と言われれば多分ノーだ。

 どうせ「知ったかぶり」とか別の悪口を言ってくるだろうし、現に純血でもロンやネビルに対して「貧乏」だの「落ちこぼれ」だのと普通に暴言吐いてくるし。

 

 

 少し表情が軽くなった僕たちを見て、ロンもニヤッと笑う。

 

「とりあえず『継承者』が誰なのかまだ分からないけど、明日パパに手紙を書いてマルフォイ家の応接間の床下を調べるように言っておくよ」  

 




 純血名家「魔法界はわしが育てた」「最近の若いもんは~」
 
   
 フォイは主義主張の内容はともかくとして、ハリー達から見て日頃の態度がアレ過ぎてそれ以前の問題・・・という割とありがち案件。

 というか往々にして主義主張を振りかざす方も、単に気に食わない相手を貶めるための方便として使ってるだけで、実は当人も別にそれほど肝心の内容には共感してない、というのも結構ありがち。
 
 ちなみに文中にでてくる「ダラス・スティーブン法」の元ネタはアメリカのグラス・スティーガル法です。
 
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