ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第16章 ~ハッフルパフの談話室~

 ジャスティンと「ほとんど首無しニック」が石にされてからしばらく経った頃、事態は小康状態を取り戻しておりました。

 

 最近では誰も襲われず、またマンドレイクも順調に育っていたからです。スプラウト先生の話では、もうまもなく石にされた人たちを蘇生させることが出来るとのこと。

 

 そしてロックハート先生は、ここぞとばかりに自分の手柄だと吹聴しておりました。

 

「今度こそ部屋は永久に閉ざされました! 私にコテンパンにされる前に止めたとは、なかなか利口なことだ」

 

 それより、とロックハート先生は「変身術」のクラス前で列を作っているグリフィンドール生にウィンクしながら言いました。

 

「そう、今の学校に必要なのは、気分を盛り上げることです! 前学期の嫌な思い出を一掃しましょう! 今はこれ以上は申しませんけどね、良い考えがあるんですよ……」

 

 

 **

 

 

「チョコレート?」

 

 2/14のバレンタイン・デーを前にした休日の昼食ごろ、すっかり私に懐いてしまったサヤさんが大広間で唐突に言い出しました。

 

「はい! ボクたちの故郷ではバレンタインの日に、()()()()チョコレートを好きな相手に贈る習慣があるんですよ!」

「はぁ、それはまた奇妙な習慣ですね……」

 

 イギリスでバレンタインといえば、基本的に()()()気になる相手にプレゼントを贈る日です。プレゼントはメッセージ・カードが一般的で、あとは花束だったりアクセサリーやディナーだったりと人それぞれで、中にはチョコを贈る人もいる、みたいな。

 

「ちなみにボクがそのことをロックハート先生に話したら、目を輝かせて‟それはナイスアイデア!”と大喜びでした」

「それはまた何というか、はた迷惑な……」

「というわけでイレイナさん、早速やりましょう!」

「私まだ別に好きな人とかいないんですが」

 

 しかしサヤさんは「ふっふっふ」と不敵な笑顔を浮かべ、妙にイラっとする仕草で指を立てて左右に振ります。

 

「実は日頃の感謝の気持ちを込めて特に興味のない人に贈る、義理チョコというものもありましてですね」

「もはやチョコレート会社の陰謀を疑うレベルのこじつけじゃないですか」

「えっ、イレイナさん知ってたんですか? さっすがー!」

 

 驚いたような顔になるサヤさん。むしろマジでチョコ会社の陰謀だったんですか。いやらしい……。

 

「ちなみに本命だと恥ずかしいから、義理チョコという建前でキッカケづくりとしても結構よく利用されます!」

「……とりあえずサヤさんの故郷が、思ったより色々と面倒くさそうなことは分かりました」

 

 正直、聞けば聞くほど私のやる気は萎える一方だったのですが、すぐ横のテーブルにて反応が2つ。

 

「パンジー、今の聞いた? ドラコに近づくチャンスだって!」

「ちょっ、ダフネ!?」

 

 恋する乙女ことパンジー・パーキンソンに、このところ何かと二人をくっつけようとしているダフネ・グリーングラスが囁きます。

 

「こういうのは積み重ねが大事なんだよ。最初は挨拶、次は集団で会話からの2人で軽めの世間話、そして皆で食事まではいったから、次は義理のプレゼントで少しずつ距離を縮めていくの!」

「いや、でも……」

「だったらパンジーは今すぐ、ドラコと二人っきりで食事とか買い物とか誘える?」

「それは、その……まだハードル高いっていうか」

「じゃあチャンスじゃん。こういうイベントごとから消化していこうよ」

 

 ぐいぐい来るダフネに押され気味のパンジーという珍しい構図ですが、どうにも煮え切らない様子。どうにもパンジーは意識し出すと、かえって嫌われたくないがために引いてしまうタイプのようでした。

 

 とはいえ一応はルームメイトなので、私も少し助け舟を出してやることにします。

 

「ダフネ、たぶんパンジーは‟義理とはいっても、自分だけチョコ配ったら変に思われない?”みたいに思ってるんですよ」

「え、パンジーそうなの?」

「いやまぁ……てか、イレイナなぜ分かったし」

「いかにも自意識過剰な思春期のティーンエイジャーが気にしそうなことだったので」

「せめて奥手って言って!?」

 

 ともあれ、パンジーのちっぽけな悩みが分かれば対処法は簡単です。

 

 つまり――。

 

「私たち皆で、バレンタイン用の義理チョコを渡せばいいんですよ」

 

 

 

 ***

 

 

 

 ――ということで。

 

 

「ハンナさん、お招きありがとうございます」

「気にしないで。なんか楽しそうだったし」

 

 とりあえず談話室でお茶でもどう?とハンナ・アボットさんに勧められるがままに、私とサヤさん、ダフネ、そしてパンジーはハッフルパフの談話室に足を踏み入れます。

 

 ハッフルパフ談話室は厨房の近くにある廊下右手の陰にある樽の山で、ハンナさんが2つ目の列の真ん中の樽の底を2回叩くと、寮への扉が現れました。

 

「ちなみにリズムを間違えると、熱々のビネガーを掛けられるから気を付けてね」

 

 初めて足を踏み入れるハッフルパフ寮の談話室は円形で少し天井が低く、黄色と黒のインテリアが施された温かい雰囲気の部屋でした。

 

 中央には大きなふかふかのソファがあり、その周りにたくさんのロッキングチェアがあります。どの椅子にもパンパンに詰め物が入ったハッフルパフ・カラーのクッションが乗っており、テーブルには磨かれた銅製のカップや沢山の花、クッキーが山積みになったお皿なんかが置かれ、天井からは観葉植物が吊るされていたり、丸い窓に置かれていたりしました。

 

 壁は温かな雰囲気の板張りで、暖炉の脇には薪が山積みされていたり、樽がテーブル代わりに使われていたりと、全体的に木や植物の温もりというか、自然の暖かさが感じられる作り。壁の上の方にある円形の窓からは暖かい日光が差し込み、わずかに外の薬草園のタンポポや魔法植物が風にそよぐ姿がのぞきます。

 

「なんか『指輪物語』のホビット庄みたいなとこですね……」

 

 リッチなスリザリン談話室と比べると素朴な感じですが、これはこれで居心地が良さそうで、ちょっとしたお洒落レストランのよう。

 

 

 そして談話室から延びる通路は寮のシンボル・穴熊の巣あるいは樽に入ったウィスキーの貯蔵庫を彷彿とさせ、そこにある樽底のような戸は寝室へと繋がっているとのことでした。

 

 ちょっとだけハンナの部屋を見せてもらうと、パッチワークのキルトで覆われた4本柱のベッドには銅のランプが暖かな光を投げかけ、壁には足が冷たいときのために銅のベッドウォーマーまで吊るされています。

 

「うわぁ」

「ほえー」

 

 サヤさんやダフネたちも一緒に初めて見るハッフルパフの談話室にしばし見惚れていると、ハンナさんがひとつのテーブルを見つけて手招きしてくれました。

 

 

 **

 

 

「………なるほど、そういう作戦なんだ」

 

 私たちの話を聞いたハンナさんは、納得したように頷いてくれました。柔和な感じの微笑みが、金髪の3つ編みおさげと相まって、ぽわぽわした雰囲気が漂ってきます。

 

「すみません、誰も手作りチョコとか経験なくて」

「さすがお嬢様……?」

「いや、単に女子力が低いだけだと思います」

 

 手作りチョコなんてのは案外、お嬢様学校とかの家庭科の授業の方がしっかりしていて、私が通っていたマグルの公立小学校ではハムサンドと茹で卵ぐらいしか習いません。

 パンジーとダフネは過去に家庭教師と一緒に作らされたことはあるみたいですが、すっかり忘れているとのこと。

 

「それで、パンジーちゃんはどんなのあげたいの?」

「えーっと……」

 

 悩んだ末、パンジーが選んだのは生チョコでした。

 

「えー、フツー過ぎない?」

「無難そうですし、いいんじゃないですか」

 

「そうだね。作るのも簡単でいいチョイスだと思うよ」

 

 

 そんな感じで談笑していると、すぐそばを通りがかったハッフルパフ生の一人が声をかけてきました。

 

「やぁ、ハンナ。今日はなんか珍しい組み合わせだね」

「あ、エステル先輩」

 

 ハンナさんが反応した相手は、サヤさんとは違った中性的な雰囲気を持つ女性でした。ボーイッシュというよりは、性別不詳っぽさがあるといいますか。

 

 ラベンダー色の髪はセミショートで無造作に垂らされ、きりっとした凛々しい目元には黄色い瞳、背は私より少し高く、モデル体型と標準体型の中間ほどのしなやかな体つき、穏やかな優等生っぽい雰囲気。

 

「紹介するね、3年生のエステル・ロストルフさん」

「よろしく」

 

 朗らかに答えたエステルさんは、どうやらハンナさんとはそれなりに親しいようでした。

 

「エステル先輩、こちらはスリザリンのイレイナさん。すごく頭いいんだよ」

「そうなの?」

 

 興味深そうに聞いてくるエステルさんに、私はふふんっと胸を張って答えます。

 

「去年は学年2位でした。まぁ、1位とはたった7点差でしたけど」

「ふふっ、2位の人って絶対にそこ強調するよね。懐かしいなぁ」

「………」

 

 なんの嫌味も無く、さらっと含ませた「まぁ私は1位だったけど」というエステルさんの匂わせな台詞に、かちんと私の動きが止まります。

 

 雰囲気で察したダフネが「イレイナやめなよ……」とか言ってるのを無視して、私は目を閉じてからすぅっと息を吸い、真顔でエステルさんを見つめました。

 

「ちなみにエステルさんが1年の時って、テスト合計で何点だったんですか?」

「たしか680点だね」

「そうですか、私は684点でしたけど。私より4点も低いんですね♪」

 

「ええっと……」

 

 エステルさんは困ったような顔を浮かべて。

 

「君、もしかして馬鹿にしてる?」

「いえいえ。別に」

 

 

 ――勝ちました。

 

 

 何がとは言いませんが、とにかく私の勝利です。

 




  
本日の勝敗
 エステルの敗北

エステル・ロストルフ
 魔女旅でエステルさんの苗字は明記されてないので、出身地の時計郷ロストルフからレオナルド・ダ・ヴィンチ形式(ヴィンチ村のレオナルド)で。

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