ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第17章 ~バレンタインデー~

「――君達、どうしたんだい?」

 

 私がエステルさんと()()()()話していると、また別のハッフルパフの上級生が現れました。

 

「セドリック先輩!?」

 

 気づいたハンナが「キャッ」と耳を赤く染め、可愛らしく口元を覆います。

 

「4年のセドリック・ディゴリーだ。何か困りごとでもあったのかい?」

 

 言葉を選んではいますが、どうやら私たちの空気が剣呑なものに変化したのを感じ取って、単なる善意で仲裁役を買って出てくれたようでした。俗にいう、通りすがりのイケメンという奴でしょう。

 

 実際、黒っぽい茶髪に穏やかな灰色の瞳のセドリックさんは顔が良く、背も高くて落ち着いた雰囲気がスリザリン女子の間でも割と人気です。

 

 

「エステルさんとは初対面で、お互い緊張していただけですよ」

「ま、まぁそんな感じかな」

 

 私が言うとエステルさんも合わせてくれ、セドリックさんは「そっか」と肩をすくめてあっさり引き下がりました。ここで手打ちという空気を察して「そういうこと」にしてくれたみたいです。

 

「さすがセドリック先輩、察しの良い男子はモテますよ」

「別にモテようとは思ってないんだけど……」

「イケメンが必要以上に謙遜すると、かえって嫌味になるって知ってます?」

「イレイナにはもう少し謙遜することをオススメするけどね」

「私は事実をありのままに述べてるだけです」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 セドリックさんと談笑していると、突如サヤさんが割り込んできました。

 

「イレイナさん、ディゴリー先輩と仲良いんですか!?」

 

 見ればサヤさん以外にも、ハンナやダフネが「え、どゆこと?」「聞いてないんだけど?」みたいな顔を浮かべておりました。

 

「……一緒に汗水垂らしてプレーする仲?」

「普通にクィディッチで試合するだけの関係だからね!?」

 

 女性陣が顔色を変えたのを見て、セドリックさんが慌てて補足します。

 

「ほら、僕もイレイナも選手だし。練習試合とかの前後に、軽くクィディッチの話をするぐらいは」

「あー、そういう……」

 

 答えを聞くなり、興味を失くしたようなサヤさん。ハンナやダフネも「なーんだ」みたいな表情で、エステルさんは苦笑しておりました。

 

「ちょっと聞くけど……イレイナさんって普段からこうなの?」

 

「まぁ、割と性格悪いですね」

「普通に性根が腐ってるわね」

 

 エステルさんの質問にダフネとパンジーが答え、さらにサヤさんが続きます。

 

「でも、そういうとこも最高なんですよ!」

「サヤさん、それ都合のいい女扱いされてるパターンですよ」

「あんたが言うな」

 

 そんなツッコミを入れてくるパンジーの恋路を応援すべく、バレンタインに皆でチョコを作ろうという話をしたところ、「なんか面白そうだね」というノリでエステルさんとセドリックさんも一緒に厨房に向かう流れに。

 

「そういえばエステルさんとセドリックさんって、誰か気になる相手に渡す予定とかあるんですか?」

 

「特には無いよ。私は普段どおりルームメイトにおすそ分け」

「僕も談話室に置いて‟よかったら食べてください”って感じかな」

 

 聞けばハッフルパフ寮は厨房に近いこともあってか、けっこう料理好きな生徒が趣味で作った料理やお菓子をシェアしたり差し入れする文化があるだとか。

 

 のほほんとしているというか、人間関係の良好さが伝わってきます。

 

 

 そして―――。

 

 

「「「できたーー!!!」」」

 

 肝心の生チョコですが、割と簡単に出来ました。

 

「基本はガナッシュ作って、型に流して冷やすだけだから。落ち着いて作れば誰でも出来るよー」

 

 ハンナさんの指示に従って、最初はチョコを細かく刻むところから。次に生クリームを鍋に入れて、中火で沸騰寸前まで温め、刻んだチョコを入れたボウルへ一気に流し込みます。

 

 湯気が出なくなってから泡だて器で混ぜ、チョコが完全に溶けてなめらかになったら、オーブンシートを敷いたバットに流しこんで冷蔵庫で1時間。

 冷えて固まったら、温めた包丁でカットしていき、最後にココアパウダーやら抹茶パウダーなんかをまぶしたら完成です。

 

「なーんだ、これならすぐ出来るじゃない」

「あとで妹のミナにも自慢しよーっと」

「でもハンナが手伝ってくれて助かったよ」

「ふふっ、ありがと」

 

 パンジーとサヤさんに続き、ダフネに褒められたハンナさんは嬉しそうにはにかんでいました。

 

「じゃ、バレンタインは頑張って!」

 

 

 

 ***

 

 

 

 そして迎えたバレンタイン当日、大広間はロックハート先生の手によってけばけばしいピンクの花で覆われ、淡いブルーの天井からはハート型の紙吹雪が舞っていました。

 

「バレンタインおめでとう!」

 

 教職員テーブルでは、どぎついピンクのローブを着たロックハート先生が叫びました。

 

「今のところ47人の皆さんが、私にカードとチョコレートをくださいました。ありがとう! ですが、これが全てではありませんよ?」

 

 ロックハート先生が手を叩くと、不愛想な顔をした小人が12人ぞろぞろと入ってきます。しかも金色の翼をつけ、ハープを持っていました。

 

「私の愛すべき配達キューピッドです!今日から学校中を巡回して、チョコレートとカードを配ります!」

 

 あれ以降、ロックハート先生が盛んにサヤさんの故郷の習慣を吹聴したらしく、今年は男女ともにチョコレートを贈りまくる日=バレンタインみたいな空気になっていました。

 

 

 ちなみに私が作ったチョコもお裾分けする感じで適当に配ったところ、サヤさんが「家宝にします!」とか言い出したのですが、傷むので普通に食べてほしいものです。

 

 

 

 ――そして、当のパンジーはというと。

 

 

「ほら、パンジー早くしなよ」

「待ってダフネ、まだ心の準備が……」

「ダフネの言う通り、こういうのは早い方がいいんだって」

 

 土壇場で怖気づいて布団にくるまりだしたパンジーを、ダフネとミリセントが引きずりだそうと悪戦苦闘しておりました。

 

「パンジーってば、マジでヘタレだよな」

「だって、やっぱり緊張してきて……」

 

「パンジーさん」

 

 そして二人ほど付き合いの長くない私はと言いますと、ここまでお膳立てしておいて今さらヘタレるルームメイトの姿を見て、自分でも軽く驚くほど冷たい声が出ておりました。

 

「と っ と と 渡 し て く だ さ い」

 

「は、はい……」

 

 

 そして駆け出したパンジーを追いかける私たち3人。見れば、スリザリン談話室前でパンジーはドラコを見つけたようでした。

 

 その視線の先には、1年の女子二人に絡まれているドラコ・マルフォイの姿が。

 

「マルフォイ先輩っ♪ これ、作り過ぎちゃったんですけどぉ」

「もしよかったら食べてください♡」

 

「ど、どうも……」

 

 戸惑いながらも、微妙に満更でもなさそうな顔で答えるドラコ・マルフォイ。そして「きゃあああ♡」と黄色い歓声をあげる後輩女子たち。

 

「やばっ! どうしよ、ホントに渡しちゃった♪」

「大げさだよ!大丈夫、絶対にイケるって!」

 

 

「………」

 

 そして固まるパンジー・パーキンソン12歳。

 

「うわー、まさかのドラコにモテ期到来かー」

「シーカーって結構モテるんですよね」

 

 ミリセントとそんな話をしていると、見かねたダフネが大きな溜息を吐いてパンジーの肩をぐいと掴んで引きずっていきます。

 

「え、ちょっ、ダフネ!?」

 

 ダフネは答えないままパンジーをズルズルと引きずり、笑顔でドラコの前につかつかと歩いていきました。

 

 

「やっほー、ドラコ。大漁だねー」

「ん? あぁ、ダフネか」

 

 ドラコの方も特に照れる様子もなく、困ったもんだと肩をすくめます。

 

「皆、浮かれ過ぎだとは思うが……断るわけにもいかなくてね」

「じゃあ、浮かれた私からもプレゼント。ハニーデュークスの溶かして固めただけだけど」

「いや、ありがとう」

 

 自然な流れでさらっとチョコを渡すダフネに勇気づけられたのか、ようやく覚悟を決めたパンジーも綺麗にラッピングされたチョコを戦利品の大将首のようにぐい、とドラコの前に突き出します。

 

「ドラコ……そのっ、私からも……――、なんだけど」

 

 顔を真っ赤にして、たどたどしくプレゼントするパンジー・パーキンソンの姿は、まさしく恋する乙女そのもの。

 

 さすがのドラコも驚いたような顔になり、そして――。

 

 

「そっか、二人で作ってくれたのか。本当にありがとう、美味しく頂くよ」

 

 

 義理だと露ほども疑ってない純粋な感謝の気持ちを込めて、ニッコリと素敵な笑顔で返したのでありました。

 

 

「駄目だ、こりゃ」

「うーん、この」

 

 普通に友達としては大事にされてるみたいですが、異性としては全く意識されていないようで、これは前途多難そうです。

 

 

 

 ***

 

 

 

「ほらパンジー、過ぎたことをクヨクヨしても仕方ありませんよ」

「そうだよ、まだ次もチャンスあるって」

「そもそも男なんて、基本あんなもんだろ」

 

 バレンタイン大作戦が失敗に終わった後、寝室に戻った私とダフネ、ミリセントの3人で見事に玉砕したパンジーを慰めます。

 

「うぅ、なんなのよ……これじゃ私、ただの道化じゃない……」

「今ごろ気づいたんですか?」

「ちょっとイレイナ!」

 

 情緒不安定気味に「ふぇえええん」と泣き出したパンジーにトドメを刺すと、ダフネに叱られてしまいました。

 

「パンジーはオモチャじゃないって何度も言ってるのに!」

「だって弄り甲斐ありますし……」

「もーっ! イレイナったら!」

 

 ぷんすか怒るダフネでしたが、ミリセントが「まぁ気持ちは分からんでもないけどさ」と口を挟んできます。

 

「イレイナはアレにしても、ダフネは逆にパンジーのこと甘やかし過ぎじゃね?」

「そ、そんなことないもん!」

 

 ダフネは反射的にそう返しつつも、末尾に「……たぶん」と消え入りそうな声が追加されていることを、私は聞き逃しませんでした。

 ミリセントも「はぁー」と呆れたように大きな溜息を吐いて。

 

「ていうかパンジーさ、もうドラコやめて他の男にしなって」

「あーそれ、私も思います。もうちょい大人の男がいいですよ。知りませんけど」

「ちょっと二人とも!」

 

 ぎゃいぎゃい騒いでるダフネの顔をミリセントが手で押さえ、さっさと乗り換えた方が健全だと諭す私たち。するとグズっていたパンジーが泣き止み、たどたどしく呟きました。

 

「やだ……まだ諦めたくない……」

 

「コイツさては隠れMだな」

「ですね」

「Mって何?」

 

 とにもかくにも、バレンタインの勝敗はパンジーの惨敗でした。

  




 
本日の勝敗結果
 パンジーの負け

意中の相手は、まだ花より団子だフォイ。
  
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