ハリー・ポッターと灰の魔女 作:アストラマギカ
※教科についての独自解釈があります。
波乱のバレンタインも過ぎて4月に入る頃になると、ホグワーツは徐々に落ち着きを取り戻しておりました。
最近では誰も襲われず、またマンドレイクも順調に育っていたからです。スプラウト先生の話では、もうまもなく石にされた人たちを蘇生させることが出来るとのこと。
そしてイースター休暇中、私たち2年生は新しい課題を与えられました。
「来年以降の選択科目ですか……」
3年生からは従来の科目に加え、「占い学」「マグル学」「数占い」「魔法生物飼育学」「古代ルーン文字」の5つから好きな科目を選択することができます。
ただし「占い学」「マグル学」「数占い」の3つは時間帯が被っていて、同時に選ぶことはできなかったり。
ここで選んだ科目は将来の就職にも影響してくるので、12~13歳の子供に選択させるのは酷な気もしますが、魔法族はマグル以上に実家の家業を継ぐ傾向が強いため、割と選択科目で悩む子は多くありません。
とはいえ、やはり重要イベントであるためスリザリン寮では上級生による相談会のようなものが設けられていました。
30人ほどいる2年生が談話室に集められ、がっしりした体格のマーカス・フリント先輩を先頭に、元シーカーで爽やかスポーツ青年といった風貌のテレンス・ヒッグス先輩など、上級生がぞろぞろと入ってきます。
そして最後に現れたのは、監督生のジェマ・ファーレイ先輩でした。
「こんにちは」
黒髪をウルフカットのセミショートにして、狡猾そうなエメラルドグリーンの瞳、なめらかで透明感のあるきめ細やかな肌。かつてクィディッチ・チームにも所属していたせいか、すらりと全身が無駄なく引き締まり、しなやかなボディラインに男子の視線が集中します。
「ごめんね、せっかくのイースターなのに集まってもらって」
ファーレイ先輩はそう言うと軽く片目を瞑り、猫のように皮肉っぽい笑顔を浮かべました。
「6年で監督生のジェマ・ファーレイです。去年の入学式で寮まで案内したんだけど、覚えてるかな? 今日はよろしくね」
ぱらぱらと拍手が起こる中、ザビニだけは「お願いします!」と大声で叫んでいました。
それからフリント先輩、ヒッグス先輩と続き、簡単な自己紹介が終わったところでファーレイ先輩がパンッと手を叩いて視線を集めます。
「じゃあ、適当にグループ作ろっか。近くの子と固まってくれれば、後は上級生が適当に回っていくから」
私は近くにいたパンジー達と固まり、ちょっと離れた場所にいたザビニたちは別のグループを作っていきます。
その間にファーレイ先輩は座る場所を指示したり、ハブられかけてた子をグループにねじ込んだり、席ごとに上級生の割り当てをてきぱきと決めていきました。
といっても、やはり名家ないし有名人のグループには同格の先輩が付くといった感じで、微妙な校内序列の存在を感じます。
**
そして私とダフネ、パンジー、ミリセント、ドラコ、ノットの6人グループのところには、監督生のファーレイ先輩とクィディッチ・キャプテンのフリント先輩という、いかにもなスクールカースト上位の組み合わせがやってきました。
「ごめんごめん、お待たせー」
軽やかな足取りで現れたファーレイ先輩は、見るからに憧れのセクシーな上級生のお姉さんといった雰囲気で、女子にしては少し高めの身長も相まって異性にも同性にもモテそうな感じです。
横に並ぶ大柄なフリント先輩も制服を着崩して体育会系のエースっぽい空気を漂わせ、クリスマス休暇中に出っ歯を矯正した甲斐あって見事にトロール並みの単純バカさが消えて様になっています。
「じゃあ、さっそく始めよっか。あんまり緊張しないで、なんでも聞いてね」
艶やかに輝く黒髪を片方の耳にかけながらファーレイ先輩が言うと、さっそくダフネが手を上げました。
「はいはーい! ファーレイ先輩とフリント先輩って付き合ってる人いるんですかー?」
実にお約束な質問を受けて、先輩2人は曖昧に顔を見合わせました。
「そういえばマーカス、年明けにまた浮気バレしてフラれたんだっけ」
「すぐ新しいの探すさ。お前こそ彼氏とうまくやってんの?」
「聞いてよ、それが別れたいんだけどしつこくて」
ファーレイ先輩が物憂げな表情になり、フリント先輩が呆れ顔になりました。
「ジェミーって、頭いいくせに束縛系とかモラハラ男とかDV男とか、ほんと男運ないよな」
「だってスペック高い男が、自分にだけダメなとこ晒してくれるってキュンと来ない?」
「……聖28一族出身でキャプテンで、少しだけ浮気癖のあるオレはどうよ?」
「はいはい。愛してるよ、旦那」
一応この二人はファーレイ先輩が昔クィディッチ選手だった頃につき合ってたらしく、別れた今でも愛称で呼び合うぐらいには腐れ縁として仲良くやってるみたいでした。
「じゃあ、アイスブレイクはこの辺までで……そろそろ本題に戻ろうか」
ファーレイ先輩がきびきびと言い、フリント先輩も背筋を伸ばして真面目モードに。こういうオンとオフの切り替えが素早く出来るところは、さすが6年生で少し感心してしまいます。
「つっても、まぁ急に進路とか教科選択の質問しろって言われても困るわな」
私たちがどうしたものかと視線を見合わせていると、フリント先輩が気を利かせてくれました。
「んじゃ、お前らが考えてる間にオレらの話でもすっか」
フリント先輩がそう言うと、私たちは一言も聞き漏らすまいと身を乗り出します。
「ぶっちゃけ、オレの場合は家業を継ぐだけだから、あんま悩まなかったんだけどな」
聞けば、ここ数代のフリント家は魔法警察幹部の家系で、マーカス・フリント先輩も例に漏れず就職を目指すそうです。
「だから選択教科は『魔法生物飼育学』と『マグル学』を選んだ。魔法生物が起こした事件に魔法警察が対応することは多いし、マグル絡みの事件も最近は多いからな」
フリント先輩の言葉に、ファーレイ先輩が皮肉っぽい笑顔で付け足します。
「別に魔法警察じゃなくても、魔法省で働きたいならマグル学はオススメだよ。魔法省で一番多い仕事は魔法族の存在をマグルから秘密にしておくことだし、それだけに毎年の採用人数も多いのと、勉強も他に比べれば易しいからね」
純血の多いスリザリンではバカにされがちなマグル学ですが、あからさまに「マグル文化は素晴らしい!」みたいな賞賛はタブーとはいえ、「仕事に必要だから」という理由であれば、案外その辺は柔軟に接してくれるみたいです。
「あと、なんといっても魔法省は潰れないし、マグル関係の仕事ならそれほど激務でもなくて資格もいらないし、安定とワークライフバランスを重視する人にはお勧めだと思うな」
意外なことに、この言葉にはミリセントが少し興味を示したようでした。
多分そこそこステータスあるけど仕事自体は楽そう、ってとこに惹かれたのでしょう。名家だから適当なとこには就職したくないけど、趣味もエンジョイしたい現代っ子らしいと言いますか。
「逆にファーレイ先輩はどう決めたんですか?」
私が聞くと、ファーレイ先輩は「うーん」としばらく言葉を整理してから答えてくれました。
「私は地元から出てロンドンで働きたかったから、魔法省のキャリアコースかグリンゴッツ銀行に行こうと思って授業を決めた感じ。ちなみに科目は『数占い』と『古代ルーン文字』ね」
「数占いって、とっても難しいって聞いてるんですけど……」
ドラコが尋ねると、ファーレイ先輩は悪戯っぽい笑顔で答えました。
「うん、かなーり難しいよ」
ただ、それだけに習得すれば引く手あまたでエリートの仲間入りは約束されたようなものだとか。
「ちょっと変わってるところは、普通の魔法と違って結果以上に方法論が大事ってところ。他の科目は多少過程が間違っても呪文が発動すれば結果オーライなところがあるけど、数占いは結果に辿り着くまでの論理的思考力が試されるから」
例えるなら、マグルでいうとこの応用数学とか統計学みたいなものでしょうか。
‟占い”といっても「あの公共事業の長期的な経済波及効果はああで、この商品の売り上げ予測はこうで」みたいな感じの定量的な予測・分析にも応用できる学問で、社会に出てからも応用の幅は広く、管理職とか会計・経理関係の仕事を目指すなら必須だそうです。
「あとは『古代ルーン文字』だけど、これは文法の勉強を通じて文書作成力とか文章読解力とかが鍛えられるから、オフィスワークにはオススメだよ。事務職とか、あと法律関係なんかだとこの教科の成績が重視されるみたい」
残る教科は『占い学』ですが、意外と現実主義者の多いスリザリンではそれほど人気がありません。
「まぁ、話術を磨くには持ってこいだと思うけどね。ハッタリを利かせて、表情、姿勢、態度、口調、服装……そうしたものの微妙な変化で、相手の心理を読み解くの」
ファーレイ先輩が細い眉をひそめ、けだるげな表情を浮かべます。
曰く、誰にでも当てはまることをそれっぽく言ったり、その人にとって都合のいいことを言って信用を得たり、曖昧な質問で相手自身に思い当たる節を探させて情報を聞き出したり。
あとは単純に1~2年生ごろは勉強と友人の悩み、3~4年生になると恋愛と体の変化の悩み、5年生からは就職とかが増えてくるから、そういうのを考慮してトーク力で勝負、みたいな感じだとか。
「もはや占い要素皆無じゃないですか」
「でも案外、接客業とか営業とかのセールストークで活きてくるって話は聞くから、使い方次第かな」
とりあえず『占い学』で未来を見通すことは諦めて、担任のトレローニー先生相手に話術を磨く授業だと思った方が実用的なようでした。
「あるいは、最初から捨て教科にするって手もあるな。どうせ占いなんて、当てずっぽうでも大して結果は変わらんし」
フリント先輩曰く、数合わせて一応受講だけしといて、その分だけ他の主要科目に集中する人も少なくないとのこと。いわゆる「選択と集中」という奴です。
「後はそうだな……そもそも選択科目を2つにするか3つにするかだが、したい事が決まってるなら2つに絞って、特にないならとりあえず3つ取っとけ。捨てるのは後からでも出来るしな」
まとめると、魔法省勤めを考えるなら『マグル学』、グリンゴッツとか金融系か経理とか会計なら『数占い』、接客とか営業なら『占い学』、事務職とか法律関係だと『古代ルーン文字』、農林水産業とかフィールドワーク系の職業なら『魔法生物飼育学』といったところでしょうか。
「なんか、ぜんぶ重要そうに思えてきたんですけど……」
「悩んでるなら、個人的には『数占い』をオススメするかな」
ファーレイ先輩が朗らかに言います。
「論理的な学問だからきちんと体系的に学んでおかないと身に付かないし、それが出来るのはホグワーツにいる内だけだし」
ふむふむ、なるほど。
「ただ、難しいのも事実だから、絶対に落第したくなければ勉強量が成績に直結する暗記教科の『マグル学』の方が確実で、その辺の判断は自分の成績と興味でケースバイケースだと思う」
となると私の場合、マグル学・数占い・占い学の3つでは、やはり『数占い』がベストな選択肢のようです。
まぁ私の頭脳なら落第は無いでしょうし、金融業に強い実家のことを考えると将来的な選択肢としても無難かと。マグルの知識と話術については最悪、独学でも何とかなるでしょう。
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「じゃあ、今度は私から聞いてみようかな」
ファーレイ先輩はにんまりと笑うと、パンジーに視線を向けました。
「パーキンソンさんはどう? なんか進路の希望とかあったりする?」
「私は無難にコネ就職で、地元にある実家の塾で事務職とかですかね。特に将来の夢とか無いですし」
パーキンソン家はかつて魔法大臣を輩出したものの、以降は政治を離れて名家の子弟に初等教育を施す『パーキンソン個別指導塾』を家業としています。
同族経営ではあるものの「優秀な社員を創業者一族の婿養子として経営者にする」という方針で、優秀な人材確保という非同族経営のメリットとのバランスを図っているのだとか。
本人もあまりバリキャリとか興味無さそうですし、何だかんだで堅実な将来設計を求めるパンジーらしいなーとは思いつつ、ふと気になった事も。
「しかし、実家に永久就職ですか……」
私がそう言うとパンジーは少し離れた椅子に座るドラコをちらっと見て、少しだけ寂しそうな笑顔を浮かべました。
「その分、学生の内は好きなようにするわよ」
「そうですか」
少しだけ寂しげなパンジーの笑顔を見て、それ以上に深く聞こうとは思いませんでした。
純血名家の大部分は、地元に戻って親元で暮らし、実家の家業を継いで、お見合いして家庭を作っておけば、堅実で安定した生活が保障されています。
もちろん家業を継ぐという安定したレールの上にある人生だって、相応にプレッシャーや大変なこともあるでしょう。
けれど、たかが12~13歳で将来の夢が明確に決まってる人なんて少数派でしょうし、実家に家業があるならとりあえず継いでおく、というのは現実的な選択肢なのかもしれません。
ファーレイ先輩もまた、少し陰の差したパンジーに優しく微笑みました。
「なら、将来とかあんま深く考えないで、少しでも興味があるとか、仲のいい友達とか彼氏とかと一緒の授業を取るといいよ。自由は学生の特権だしね」
茶化すように言ってウィンクしてきたファーレイ先輩に、パンジーは少しキョトンとした後、少しだけ頬を緩ませました。
「じゃあ次、ブルストロードさんは?」
「魔法省で適当に働いてから、実家に天下りしようかと」
ミリセントがあっさりと答えると、フリント先輩とファーレイ先輩も「あぁ」と納得したように顔を見合わせました。
「お役所で働いてからゼネコンに天下り、ってある意味じゃ王道だしな」
「実際、コネづくりは大事だし、書類作成とか受注ノウハウも重宝されるしね」
ミリセントだけでなくドラコやノットも、基本的には同じように実家の稼業を継ぐようでした。
「それじゃ、やっぱりグリーングラスさんも将来は実家を継ぐ感じ?」
指名されたダフネは宙を見つめ、しばらく考えてから言いました。
「うーん、私も一応は家業があるんですけど、あんまり興味ないし、両親も妹のアストリアの方に期待してるみたいで」
グリーングラス家は魔法界のメガファーマ(大手製薬企業)である『G&P』を経営していて、ダフネも結構成績は良い方なんですが、聞けば妹の方はそれ以上だとか。
「というわけで家業の方は家族とアストリアに甘えようかなって思ってるんですけど、甘えっぱなしなのもなんだかなーと」
だから敢えて言うなら、とダフネは続けます。
「
何か言いにくいことがあるような、どこかぎこちない声でそう答えるダフネ。
「やっぱり、らしくないかな?」
私はゆっくりと首を振りました。
「私が患者なら、パンジーやミリセントよりダフネに診てもらいたいですよ」
「そっか……」
ダフネが少し恥ずかしそうに鼻を掻くと、不満げな顔をしたパンジーが身を乗り出してきます。
「いや素直に‟別に変じゃありませんよ”とか‟素敵な夢ですね”でよくない? 今、ミリセントと私を引き合いに出す必要どこにも無かったじゃない」
「落ち着けパンジー、イレイナなりの照れ隠しなんだって」
ミリセントが「どうどう」とパンジーを宥めつつ、私にニヤッと笑いかけてきました。何気に人のことよく見てるんですよね、ミリセントって。
そんな私たちを見て、ファーレイ先輩は優しげな笑みを浮かべました。
「ふふっ、なんか仲良しでいいね」
私とパンジーは顔を見合わせ、互いに肩をすくめます。
「じゃあ最後、セレステリアさんは?」
「旅人です」
ファーレイ先輩の翠眼が、「おや」というように僅かに見開かれました。
「えと、旅人って職業じゃないような……?」
「じゃあ旅ができる職業で」
「うーん……それなら日刊預言者新聞の国際報道部の記者とか、魔法省の国際魔法協力部に就職しておけば、割と色んな所に行けると思うよ」
ファーレイ先輩の話では、フリーで学者や小説家なんかになればもっと自由に旅ができるけど、いきなりフリーよりは大手企業や魔法省で数年働いたという肩書があった方が便利とのこと。
「あと旅するなら魔法生物への対処も必要だから『魔法生物飼育学』は必須で、『古代ルーン文字』をとって文章力を高めておけば、記者とか作家として旅をするときに便利かも」
たしかに、そう言われるとそんな気もしました。
(まぁ、どっちにしろ『数占い』は確定ですし、取れる教科は取れるだけとっておきましょうか。フリント先輩の言う通り、捨てようと思えば後で捨てればいいだけですし)
結局、私は『古代ルーン文字』と『魔法生物飼育学』、そして『数占い』を選択することにしました。
そしてパンジーとドラコは古代ルーン文字と魔法生物飼育学、ダフネは数占いと魔法生物飼育学、ノットは数占いと古代ルーン文字、ミリセントはマグル学と魔法生物飼育学、ザビニはマグル学と古代ルーン文字、クラッブとゴイルは占い学と魔法生物飼育学、でした。
こんな感じでイースターは平和に過ぎていき、私の興味も学期末の試験へと移っていきます。
(さて、今年こそはテストでハーマイオニーを倒してやりましょう……ふっふっふ)
しかし、今度こそハーマイオニーから学年1位の座を奪い取ろうとしていた私の計画は、とある事件によってあっけなく破綻を迎えます。
――それは当のハーマイオニーが『継承者』に襲われ、石にされてしまったというものでした。
ちょくちょく名前だけ出てたジェマ・ファーレイさん登場。マーカス・フリントと同期の監督生で半純血、多分めっちゃモテる。パーシーをからかったり、ウッドとフリントを煽って楽しんでるタイプ(独自設定)。
マーカス・フリント、出っ歯を普通にすれば顔立ちは悪く無いと思うんだ(映画版)
原作だとハリーが「とりあずロンと一緒のでいいや」って適当に決めてる2年次の教科選択、グリンゴッツの就職には数占いが必要だったりと地味に進路に関わる重要イベントなんですよね。