ハリー・ポッターと灰の魔女 作:アストラマギカ
あたりもすっかり夜になったころ、ようやくホグワーツ特急が停車しました。
ゾロゾロと生徒達が降り始め、私もそれに続きます。暗くなった辺りを見回していると、ランタンを掲げた大男が近づいてきます。
「イッチ年生! イッチ年生はこっち!」
何を食べたらあれほど大きくなるのでしょうか……そんなことを思っていると、ハリーが大男のことを「ハグリッド」と呼んでいるのが聞こえました。なるほど、ハグリッドという名前なのですね。
「イッチ年生はもう残っていないな? 足元に気をつけろ。さあ、ついてこい!」
ハグリッドのランタンを目印に暗い道をしばらく進むと、大きな黒い湖のほとりに着きました。湖の向こうには山がそびえ、てっぺんには荘厳な城が佇んでいます。
「ほら、イッチ年生! 見えたぞ! ホグワーツだ!!」
ホグワーツ魔法魔術学校。伝統と格式ある、世界有数の魔法学校。私がこれから7年を過ごす場所です。
「あれが、ホグワーツ……」
思わず見惚れてしまいます。それほどまでに闇夜に浮かぶホグワーツ城は美しく、大小様々な尖塔や石造りのアーチ橋はいつまで眺めても飽きません。
とりあえずカメラに城の全景パノラマをおさめると、ハグリッドの声がしました。
「さあ、4人ずつボートに乗るんだ!」
ホグワーツの煌々とした明りに照らされた広大な湖を、私たち一年生のボートは滑るように進んできました。夜の湖を進むボートの船団は城の崖下にあるツタのカーテンをくぐり抜け、洞窟のトンネルを通ると、城の地下と思しき船着場に到着します。
長い階段を登っていくと、上の方にエメラルド色のローブを着た魔女が待っていました。四角い眼鏡をかけ、厳格そうな雰囲気を漂わせています。
「マクゴナガル先生。イッチ年生をお連れしました」
「ご苦労様、ハグリッド。ここからは私がお預かりますので、貴方は先に向かっていてください」
今度はマクゴナガル先生に連れられ、小さな部屋に入ります。
マクゴナガル先生は全体を見渡した後、静かながらも全体によく通るような声で口を開きました。
「ホグワーツ入学おめでとう。これから新入生歓迎の宴が行われますが、その前に皆さんには、所属する寮を決めるための組分けを行っていただきます」
寮はグリフィンドール、レイブンクロー、ハッフルパフ、スリザリンの4つ。それぞれに輝かしい歴史があり、偉大な魔法使いや魔女が卒業していったとのこと。
「これから皆さんは組み分けで決められた寮でこれから7年間、寮生と共に勉強し、寝るのも寮、自由時間も寮の談話室で過ごすことになります」
マクゴナガル先生の案内で奥の扉を抜けると、そこはかなりの大きさをした大広間でした。
「おぉー」
広間に入った瞬間、私は思わず感嘆の声を漏らしてしまいます。
大広間には無数の蝋燭が宙に浮かんでいて、4つの縦に置かれた長いテーブルを照らしていました。上を見上げればプラネタリウムのように星空が広がっており、その間を飛び交うゴーストたちも神秘的な靄のようです。
4つの寮ごとに分かれたテーブルは各寮のシンボルカラーに彩られ、キラキラ輝く金色の大皿にゴブレットが幾つも置かれていました。4つのテーブルには先に上級生たちが座っていて、奥には教職員用の長テーブルが横に置かれています。
「空じゃなくて天井よ、魔法で夜空のように見えるだけ。『ホグワーツの歴史』という本に書いてあったわ」
列車からずっと隣にいたハーマイオニーのうんちくを聞きながら待っていると、マクゴナガル先生が黙って新入生の前に四本足の椅子を置きました。
椅子の上には、お母さんから貰ったのと同じようなとんがり帽子が鎮座しています。ですが、私のものと違ってあちこちツギハギだらけ、おまけにボロボロでなんだか汚い印象です。
クリーニングに出した方が良いのでは?などと思っていると、突如として帽子が歌い始めました。
私はホグワーツ組み分け帽子
君の頭に隠れたものを
組み分け帽子はお見通し
かぶれば君に教えよう
君が行くべき寮の名を
グリフィンドールに行くならば
勇気のある者が住まう寮
勇猛果敢な騎士道で
他とは違うグリフィンドール
ハッフルパフに行くならば
君は正しく忠実で
忍耐強く誠実で
苦労を苦労と思わない
古く賢きレイブンクロー
君に意欲があるならば
機知と学びの友人を
ここで必ず得るだろう
スリザリンではもしかして
君はまことの友を得る
どんな手段を使っても
目的遂げる狡猾さ
かぶってごらん!恐れずに!
興奮せずに、お任せを!
君を私の手にゆだね
だって私は考える帽子!
帽子の歌が終わると、会場からは大きな拍手が上がります。四つのテーブルにそれぞれお辞儀をして、帽子は再び静かになりました。
「テストじゃないんですね……」
お母さんからはテストがあると聞かされていたので必死に勉強していたのですが、見事に一杯食わされました。きっと本人は良かれと思ってとった行動なのでしょうが、こうやって子供は親に不信を募らせ、反抗期へ突入していくのです。
そうこうしている内にマクゴナガル先生が生徒をABC順に呼び、組み分けの儀式が始まりました。
「アボット・ハンナ」
「ハッフルパフ!」
「ボーンズ・スーザン!」
「ハッフルパフ!」
「ブート・テリー!」
「レイブンクロー!」
帽子が大声で叫び、組み分けを終えた生徒がそれぞれの寮へと拍手で迎え入れられていきます。
「ぼ、僕、グリフィンドールじゃなかったらどうしよう……」
少し離れた所にいるロンは、不安げな声を漏らしていました。
「僕は断然スリザリンだね」
後ろの方ではドラコ・マルフォイが自信満々で気取っています。純血は血筋でほとんどどの寮に組み分けされるか決まる傾向があるのですが、ロンのようにプレッシャーに感じるか、ドラコのように期待に感じるかは個人差があるみたいです。
「そういえば、イレイナは自分がどこの寮だと思う?」
すぐ後ろに並んでいたネビルが、こっそり尋ねてきます。
「難しい問題ですね。私ほどの人物であればどの寮にも適性がありますので、きっと帽子も悩むのではないでしょうか。恐らく50年に1度といわれる組み分け困難者として、ホグワーツに名を残してしまうかと」
「そ、そう……凄い自信だね」
先ほどの組み分け帽子の歌を聞く限り、グリフィンドールは勇敢さ、レイブンクローは聡明さ、ハッフルパフは忍耐強さ、そしてスリザリンは機転の早さ、をそれぞれ重んじるようです。
しかし、ごく稀に複数ないし全てを兼ね備えた者もいるだとか。そう、私です。きっと。
ちなみにネビルはハッフルパフに入りたいらしいとのこと。
育ての親であるお婆さんからはグリフィンドール入りを期待されているようですが、本人は勇敢さに自信が無いとのことらしいです。
高望みしないのも悪いことではありませんが、妥協で選ばれるハッフルパフに失礼なのでは?という気がしないでもありません。
「ロングボトム家も歴史が長いですからね。まぁ、お婆様に何か言われたら組み分け帽子のせいにすればいいんじゃないですか」
「そ、そうだね………いや、それでいいのかな?」
いいんです。たぶん。
「そういえば、イレイナのおうちはどうなの?」
「けっこう万遍なく出ていますよ。レイブンクローが多いですけど、スリザリンも割と、グリフィンドールもそれなり、ハッフルパフもたまに」
私のお母さんは、レイブンクローと悩んだ末にスリザリンでした。
「ブロックルハースト・マンディ!」
「レイブンクロー!」
「ブラウン・ラベンダー」
「グリフィンドール!」
「ブルストロード・ミリセント!」
「スリザリン!」
そうこうしている内に組分けは順調に進んでいき、すぐ私の番が来ました。セレステリア・イレイナ(Celesteria Elaina)なので、けっこう早いです。
「セレステリア・イレイナ!」
胸を張って前に進み出ると、全校生徒の視線を感じます。いや、注目されるって良い気分ですね。
椅子に座ると、マクゴナガル先生が帽子をかぶせてくれました。
さて、一体どうなることでしょう。勇敢なだけでなく賢くもあり、なおかつ公正でしかも機知にまで富む私であれば――。
「スリザリ―――『ストーーップ!』」
頭に触れるか触れないかのところでスリザリンに決めようとした組み分け帽子に、思わず心の中で叫んでしまいます。口にも出してたかもしれません。
『む、どうかしたのかね?』
頭の中で、訝しげに組み分け帽子が低い声で質問してきます。
『スリザリンは嫌なのかね?』
『いえ、別に嫌ではありませんが』
最近だと闇の魔法使いを多く輩出したことで犯罪者予備軍のような偏見もありますが、偉大な魔法使いマーリンはスリザリンですし、闇の魔術そのものには興味もあります。手段を厭わない、というのも向上心があって良いことです。「スリザリンは嫌だ」なんて偏見です。
『ならば』
『とはいえ、もう少し熟慮されても良いのではないでしょうか? もちろん私はスリザリンらしく機転も利いて成長意欲も旺盛ですが、同時にグリフィンドールのように大胆で、かつレイブンクローのように賢く、そればかりかハッフルパフのように勤勉でもあるので』
『……君、いささか自信過剰が過ぎやしないかね?』
『私は褒められて伸びる子でして』
組み分け帽子さんから溜息が聞こえたような気もしますが、たぶん気のせいでしょう。
『ところで帽子さん、ニケという生徒に心当たりはありませんか?『ニケの冒険譚』を書いた、あの有名な魔女ニケです。ホグワーツ出身と聞いていましたが』
『ニケ? ニケという名前の女子生徒は何人かいたが、冒険譚を書いたという話は聞いておらん』
やはり、ニケは本名ではなくペンネームでしたか。彼女の寮が分かれば同じところに入りたかったのですが、仕方ありません。
『ふむ、たしかに君はどの寮でもうまくやっていけるだろう。だが、特に狡猾さにおいて君は抜きんでている。スリザリンに入れば、間違いなく偉大になれる』
間違いなく偉大になれる……ですか。ほほう。
『それに、君には何より野心がある。違うかね?』
野心……それは夢と言い換えても良いかもしれません。そして私の夢は、魔女になってニケのように世界中を旅することです。魔法を学ぶのも、それ自体が目的というより手段として。
であれば、たしかに――。
『覚悟は決まったかね?』
『ええ』
それに、これだけ悩めば、皆も私が色々な寮への適性がある組み分け困難者だと認めざるを得ません。最近だと‟例のあの人”のせいでスリザリンは世間的に肩身が狭いですし、これで生粋のスリザリンでないことが他寮の皆さんにも伝わるでしょう。
『そういう計算づくの発想が、完全にスリザリンなんだがね……』
こうして合意の上、組み分け帽子が高らかに宣言します。
「スリザリン!!」
途端にそれまでじっと見守っていたスリザリンのテーブルから、大きな歓声が湧きあがりました。組み分け帽子を取ってスリザリンの席へと向かうと、上級生たちから歓迎とお祝いの言葉をかけられます。
ちらっと残っている1年生の方を見ると、ハリーたちとマルフォイたちの姿が目に入りました。
おかしいですね、なぜか3人とも「まぁ、そうなるな」みたいな顔してるのですが。そんなにスリザリンっぽく見えるのでしょうか。
別の列に目を向ければ、ハーマイオニーとネビルまで「言われてみれば納得」みたいな顔に。
皆さん、もうちょっと意外そうな顔をしてくれても良いのでは……?
イレイナさんの寮については、本作では「スリザリン」とさせていただきました。
作者からも「性根の腐った」とか言われちゃってる狡猾さや自己保身、そして何より本人の「ニケのような凄い魔女になって旅がしたい」という野心でスリザリンを選択しました。
適性的にはレイブンクローもスリザリンとほぼ同等で高いと思ってますが、イレイナさん意外と行動派なので、机上の空論よりは現実的に手を動かす方を重視する点で、ややスリザリン寄りかなと。