ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第21章 ~トム・リドル~

「違う! スリザリンの蛇が、たかが鶏なんかに構うな!」

 

 樫の木の様に太い胴体の巨大な蛇に、リドルが叫んでいました。バジリスクの方はテラテラと毒々しいダークグリーンの身体をくねらせ、鶏の鳴き声に苦しんでいるようでした。

 

「ええい! クソッ! こんなことに僕の魔力を使うなんて―――」

 

 リドルはキレ気味に叫び、再びシューシューと低い声を漏らして、強い口調でバジリスクに何かを命令しているようでした。しばらくするとバジリスクは大人しくなり、こちらへ向かってきます。

 

「殺せ!」

 

 スリザリンの継承者特有の「バジリスクを従わせられる力」に魔力を込めることで、無理やりバジリスクを従わせたようでした。

 雄鶏の鳴き声はバジリスクが嫌うものですが、あくまで嫌いなだけで致死傷ではないため、飼い主が強く命令すれば渋々ながら従わざるを得ないのでしょう。

 

 

「ど、どうしましょう!? イレイナさん!」

「全力で逃げましょう」

 

 こうなると流石に厳しいので、鶏を抱えるサヤさんの手を掴み、私たちはバジリスクに背を向けて走り出します。

 せめてもの救いは、雄鶏が鳴き声を上げるたびにバジリスクがビクッと怯んで一時的に動きが止まるため、辛うじて逃げる距離を稼げたことでしょう。

 

「ネビュラス-霧よ!」

 

 とりあえず杖先から霧を噴出させてバジリスクと目が合わないよう、あわよくば姿をくらませられることを願って霧を出す呪文を唱えてから、私も少しだけ反撃に移ります。

 

「インペディメンタ-妨害せよ!」

「ディフィンド-裂けよ!」

「ステューピファイ-麻痺せよ!」

 

 逃げる間にも時おり立ち止まり、バジリスクと目を合わせないようにして巨体めがけて、攻撃系の呪文のオンパレード。

 

 しかしどれも鱗をはがしたり、バジリスクを怯ませて時間稼ぎにしかなりません。おまけに霧まで晴れてきました。

 

 

「ならば……グレイシアス-氷となれ!」

 

 ダメ元で近くの水たまりを氷結させ、さらに変身呪文で鏡に変えて、立て続けに浮遊呪文。巨大な鏡をバジリスクの進行方向に向け、バジリスク自身の姿が映るようにかざします。

 

 必殺のバジリスクの視線を反射させることで、自分自身の視線で死ぬなり石化するなりしてくれればありがたいのですが……。

 

「魔法生物は自分自身の魔法に対しては免疫がある! そんな事をしても無駄だぞ!」

 

 遠くからリドルが勝ち誇ったように叫ぶ声が聞こえました。

 

(やっぱり、これで死ぬならミセス・ノリスやハーマイオニーたちが水たまりや鏡で石化した時点で、バジリスク自身も死んでますよね……)

 

 ちょうど毒を持つ生物が自分自身の毒では死なないように、不死鳥が自分自身の炎で燃えないように。バジリスクも自分の毒や視線に何らかの免疫を持っているようです。

 

 

 

「助けて! 誰か!」

 

 ハリーが夢中で口走ると、今度こそ美しくも妖しい、背筋がぞくぞくするような旋律が、がらんとした秘密の部屋に響き渡りました。

 

「あれは……!」

 

 見れば、白鳥ほどの大きさの深紅の鳥が、不思議な旋律を響かせながら飛翔してきます。孔雀の羽のように長い金色の尾羽を輝かせ、眩い金色の爪、炎に包まれた全身……私も初めて見る、正真正銘の不死鳥でした。

 

「フォークス!?」

 

 ハリーが不死鳥に向かって呼びかけると、不死鳥のフォークスは返事代わりにまばゆい金色の爪で掴んだボロボロの包みをその足元に落とし、バジリスクへ急降下していきました。

 

 そのままフォークスはバジリスクの鎌首の周りを飛び回り、バジリスクはサーベルの様に長く鋭い毒牙で狂ったように何度も空を噛んでいます。どちらも決め手を欠く中―――。

 

「コケコッコー!」

 

「また雄鶏か!」

 

 リドルの悪態をものともせず、フォークスを応援するように雄鶏のコカトリスが大声で叫びます。苦手な雄鶏の声を聞いたバジリスクの動きが、ほんの一瞬だけですが止まりました。

 

 その僅かな隙を逃さず、不死鳥のフォークスは矢のようにバジリスクへ急接近、その瞳に長い金色の嘴をブスリと突き刺します。痛みにのたうち回って動きが鈍るバジリスクに反撃の機会を与えず、フォークスは容赦なくもう片方の瞳も嘴でブスリ。

 

 どす黒い血が床に流れ、盲目になったバジリスクが暴れまわりました。

 

「不死鳥はいい! 匂いで分かるだろう! 小童どもを殺すんだ!」

 

 リドルが叫ぶと、バジリスクはフラフラしながらも再び私たちめがけてスルスルと床を這ってきます。目を潰されたとはいえ、その巨体と毒牙が依然として脅威であることに変わりはありません。

 

 

 

「皆さん、早く部屋から出ましょう! 扉を爆破呪文で塞げば、倒すことは出来ずとも部屋に閉じ込めるぐらい―――」

 

 私が次善の策を講じていると、ハリーは何故だか組み分け帽子を被って何かを呟いていました。

 

「今さらスリザリンに移りたくなっても遅いですよ! そもそも―――って、あれ?」

 

 

 なんか銀色の剣が帽子から出てきました。

 

 

「これ……」

 

 柄には卵ほどもあるルビー、そして眩い光を放つ刀身は、通常の両手剣ではありません。

 

(グリンゴッツ銀行に飾られているような、小鬼の剣じゃないですか……!)

 

 小鬼は金属の扱いに優れ、特殊な魔法で様々な武器を鍛造することでも有名です。小鬼たちの作った武器は頑丈で切れ味が良いばかりか、中には錆や汚れを受け付けずに自らの力になるものだけを吸収する、といった性質まで帯びるものもありました。

 

 

 ―――であれば。

 

 

「っ……! それでバジリスクに傷をつけられるかもしれません!」

 

 私の叫びにハリーが「わかった!」と力強く返事をして、古の騎士よろしく剣を構えます。これで斬るなり突くなりして、バジリスクを倒そうというのでしょう。

 

 私は叫びました。

 

「頭を使って下さい! あなたはそれでも魔法使いですか!!」

「あっ、そうだった」

 

 ハリーが思い出したように杖を取り出し、叫びました。

 

「ウィンガーディアム・レヴィオーサ-浮遊せよ!」

 

 すると剣が宙に浮かび、バジリスクに対して刺突するような形で宙に固定され、ハリーがサッと杖を振ると弾丸のようにバジリスク目がけて射出されていきます。

 

 そのまま剣は吸い込まれるようにバジリスクの胴体へと突き刺さり、バジリスクは悲鳴をあげて苦しみにのたうち回ります。ですが、まだ死んではない模様。

 

「アクシオ-来い!」

 

 私が叫ぶと剣がバジリスクから引き抜かれ、手元へ向かってきます。しかし当然ながら、手に持って戦う気など全くありません。

 

「レラシオ-放せ!」

 

 俗に「追い払い呪文」と呼ばれますが、アクシオと対になる反対呪文でもあるため、使い方次第ではアクシオと逆に、対象の物体を勢いよくすっ飛ばす応用も可能です。

 

 再びバジリスクに向かって剣が弾丸のように放たれると、今度は鎌首に勢いよく刺さりました。

 

 いや、ほんと切れ味いいですね。頑丈なはずのバジリスクの鱗をものともせず、面白いようにグサグサッと刺さっていきます。

 この調子でいけば、そのうち失血死でもするんじゃないでしょうか。

 

 

「アクシオ! レラシオ!」

 

 私は「呼び寄せ呪文」と「追い払い呪文」を交互に唱え、繰り返し繰り返し、何度も何度もバジリスクの胴体を銀色の剣でブスブスと刺していきました。

 やがてバジリスクの全身は傷だらけになり、全身からおびただしい量の血が流れ、苦しみのたうち回ります。

 

 しかし容赦はできません。勝負は殺るか殺られるか。せっかくめちゃくちゃ凄い便利な剣があることですし、ここは徹底的にやってしまいましょう。

 

「うわぁ……」

 

 ロンがドン引きしているのを横目に、私は何度も無慈悲に剣をバジリスクへ突き刺し、逃げようとするバジリスクをサヤさんが抱えた雄鶏の鳴き声と不死鳥のフォークスが妨害します。

 

 さらに出血多量で動きの鈍ったバジリスクに、私はトドメとばかりに剣を鍔まで届けと、その口蓋に深くブスリと突き刺しました。

 

 そしてついに怪物バジリスクはドッと床に倒れ、ひくひく痙攣した後、完全に沈黙しました。

 

 

「………」

「………」

「………」

 

 割とあっけないバジリスクの死に様に、ハリーたちに加えて、遠くにいるリドルさんまで引きつった顔で私と怪物の死体を交互に眺めていました。

 

 そして沈黙する私たちの微妙な空気を破ったのは、不死鳥のフォークスでした。激しい羽音と共に頭上に舞い戻り、私たちの足元に何かをポトリと落とします。

 

 

 ―――リドルの日記でした。

 

 

「………」

「………」

「………」

 

 ほんの一瞬、ハリーも私も、遠くのリドルも、日記を見つめました。

 

「アクシオ-剣よ来い!」

 

 リドルが口を開くより早く私が「呼び寄せ呪文」を唱えると、例のめちゃくちゃ凄い便利な剣が手元に収まります。

 

「やめろ――ッ!」

 

 それを見たリドルが悲鳴を上げてきますが、やめろと言われて本当にやめるなんてのは二流のすることです。

 リドルが次の行動に移る前に、私は素早く剣を日記帳の真ん中めがけてズブリと突き立てました。

 

 

「っ――――――」

 

 

 恐ろしい、そして耳をつんざくような悲鳴が長々と響きました。日記帳からインクが激流の様にほとばしり、床を浸していきます。

 

 ですが、所詮は13歳のか弱い少女のか細い腕では、なかなか深々と突き刺すまでには至りません。困りました。

 

「ハリー、ロン、サヤさん、ちょっと手伝ってください」

 

 リドルが身をよじり、悶えながら悲鳴を上げる中、私は落ち着いて皆を呼び集め、そして。

 

「せーのっ」

 

 ブスリ。

 

 改めて全員で力を入れて日記帳に剣を刺すと、今度こそリドルは内側から眩い光を放ち、大声で叫ぶと破裂したように細かい光の粒子となって消えていきました。

 

 




 
 レラシオ:アクシオの反対呪文。物体を呼び寄せるアクシオとは反対に、物体を飛ばす。アクシオの反対呪文として使えば元あった位置に戻るため、バジリスクからアクシオで引っこ抜いた剣にたいして使えば、バジリスクに再び刺さると解釈。
 
 あとグリフィンドールの剣でバジリスクを頭から突き刺した時に毒が吸収されてるので、原作同様に分霊箱を破壊できる仕様になっております。
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