ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第22章 ~ダンブルドアの校長室~

 私たちが泥まみれの血塗れで校長室の前に現れると、しばしの沈黙と叫び声があがりました。

 

「ジニー!」

 

 暖炉の前で泣きはらしていたウィーズリー夫人が飛び上がってジニーに駆け寄り、少し遅れてウィーズリー氏と二人で娘を抱きしめます。

 

「あなた達がこの子を助けてくれた!この子の命を!でも、どうやって?」

「私たち全員が、それを知りたいと思っています」

 

 マクゴナガル先生がぽつりと言いました。私たちはデスクまで歩いていき、ハリーは剣を、ロンは組み分け帽子、私がバジリスクの牙、ジニーはリドルの日記、そしてサヤさんが雄鶏を順番に置きました。

 

「雄鶏……?」

 

 リドルの日記までは落ち着いていたダンブルドア校長先生が、ちょっと意外そうに眼を見開きました。

 

 

「マクゴナガル先生の授業のお陰ですよ。ちなみに名前はコカトリスです」

 

 私はそう切り出し、一部始終を語り始めました。時に情緒的に、時に敢えて焦らすように間を設け、聞き手は魅せられたようにシーンと聞き入っています。

 

 

 全てを語り終えると、リドルの日記についてジニーとウィーズリー夫妻、そしてダンブルドア校長の間で議論が交わされます。どうやって日記がジニーを操ったのか、トム・リドルとは何者なのか、そしてヴォルデモート卿との関係について……。

 

 その後、ダンブルドア校長はマクゴナガル先生にウィーズリー夫妻とジニーを医務室に連れていくように伝え、後には私とハリー、ロン、そしてサヤさんが残されました。

 

 

「さて、君たちは校則を100近く粉々に破ったわけじゃが……状況が状況じゃ。処罰はなし。4人共それぞれの寮に100点と、ホグワーツ特別功労賞を授与しよう」

 

 ダンブルドア校長が続けて、ハリーたちにバジリスクの被害者たちがマンドレイクのジュースで回復したことを告げました。ロンが嬉しそうな顔で飛び上がります。

 

「じゃ、ハーマイオニーたちはもう大丈夫なんだ!」

「回復不能の障害も何もなかった」

 

 ダンブルドア校長はそう答え、まずは友人たちに見舞いに行くよう、ハリー達グリフィンドール生に告げ、3人は嬉しそうに出ていきました。

 

 

 そして私はというと、興味津々といった顔の校長先生から「少し時間をもらってもよいかの?」と聞かれて断る理由も無かったのでそのまま残り、部屋には私とダンブルドア校長の二人が残されました。

 

 

 

「さぁイレイナ、座りなさい」

 

 ダンブルドア校長が勧めるままに、私は椅子に座ります。

 

「まずは君に礼を言おう。『秘密の部屋』で、君は創意工夫を凝らしてリドルの陰謀を挫いてくれた」

 

 ダンブルドア校長はデスクに並べられた魔道具を見やり、最後に雄鶏のコカトリスを見ました。

 

「この子、コカトリスといったかな? じゃが、明日までは持つまい」

 

 魔法で生み出した生物ゆえ、やはり長くは生きられないようです。それは分かっていたことでしたが、いざ別れとなると少し寂しさを覚えるものでした。

 

「……どうにかなりませんか?」

「延命の方法もいくつか考え付くが、どれも根本的な解決には至らん。無理矢理に生を魔法で引き延ばしたとて、哀れな結果になるだけじゃ。君も去年、禁じられた森で見たであろう?」

 

 ダンブルドア校長がユニコーンの血のことを言っているのは、明らかでした。

 

「では、今晩はハリー達と一緒に、コカトリスの傍にいたいと思います」

「コカトリスも喜ぶじゃろう」

 

 ジニーの病室に夜までいられるよう、ダンブルドア校長が取り計らってくれるとのことでした。

 

「さて、続いてはここにおらん者の事じゃ」

「と、言いますと?」

「とぼけても無駄じゃよ。君も気づいておろう? ギルデロイの事じゃ」

 

 ダンブルドア校長が微笑み、半月型の眼鏡の奥にあるブルーの瞳が私を覗き込んできたので、私は反射的に目を逸らしました。

 

「ダンブルドア校長、レディをまじまじと見つめるのはマナー違反かと」

「おお、そうじゃったな。これは失敬した」

 

 ダンブルドア校長は柔和な顔で、私に優しく告げました。

 

「別に君を責めているのではない。儂の予想と少し異なる結末になったので、ちょっと聞いてみただけじゃよ」

 

 

 ダンブルドア校長は、膝の上で羽を休めているフォークスを撫でながら言いました。

 

「正直に言おう。儂はあの者を、君たちの反面教師とするために雇った。ハリー達の手で、彼の後ろめたい真実が明らかになることも含めてじゃ」

 

 じゃが、とダンブルドア校長は続けます。

 

「儂ですら見落としていた美点を、君はギルデロイの中に見出した。彼の行為はとても褒められたものではなく、ましてや英雄でもないが、それでも作家として君は彼を慕った。そしてギルデロイ本人も気づかぬうちに、彼の中に変化が少しずつ生まれていたのじゃろう」

 

 ダンブルドア校長はデスクの引き出しの中から、綺麗に畳まれた新聞を取り出します。それは明日の朝に発行される日刊預言者新聞の試し刷りでした。

 

 

 

《ギルデロイ・ロックハート氏、私財を投げうって聖マンゴ魔法疾患傷害病院に多額の寄付》

 

 

 

「これは……」

「ギルデロイの中にも、一抹の良心が残っていたということじゃ。もっとも、それで今までの悪行が消えるわけではないじゃろうが……君はそれを知りたいかね?」

 

 ダンブルドア校長の言葉に、私はゆっくりと首を振りました。

 

「サヤさんから聞いたのですが、東洋には『知らぬが仏』という言葉があるそうです。真実はとても美しくも、恐ろしいものだと」

「そうじゃな。だからこそ、注意深く扱わねばなるまいて……まだ君がその時でないと感じておるなら、儂からはこれ以上は何も言うまい」

 

 口ではそう言いつつも、ダンブルドア校長の声はどこかでまだ納得しきれていないようでした。まぁ、流石に闇討ちとかはしないでしょうが……。

 

 

 

 そんな風に感じた私の思考を見通したように、ダンブルドア校長は微笑みました。

 

「イレイナ、儂は君の母君をよう知っておる。ホグワーツ時代も、その後もな」

 

 私は顔を上げました。

 

「ヴォルデモート卿の全盛期、この国が真っ二つに割れていた時、彼女はどちらの陣営につくか旗印を明らかにしなかった。その代わり、愛する夫と共にアメリカへと亡命した。安全なアメリカで家族を危険に晒すことなく、幼い君を生み育てた」

 

 ヴォルデモート消滅後も、そのことで私たち一家を臆病だと後ろ指をさす人たちは、どちらの陣営にもいました。そして実際、その指摘はあながち間違いでもないのです。

 

 

「ヴィクトリカは驚くほど君と似ていてな。社交的でどちらの陣営にも友人が沢山いた。傍目には亡命先のアメリカで悠々自適に暮らしているように見えても、内心は穏やかではなかったはずじゃ」

 

 そのことについて、お母さんはあまり話したくなさそうでした。色々と教えてくれはするのですが、話が暗くなり過ぎないよう言葉を選んでいるのが、なんとなく伝わってくるのです。

 

「それでも、ヴィクトリカは彼女なりの方法で友人たちを助けようとしていた。アメリカ魔法議会 (M A C U S A)にイギリスからの難民を保護するよう働きかけ、そのために苦手な君の祖父にも頭を下げたと聞く」

「お母さんとお爺さんの不仲まで知ってるんですか……」

 

 これには思わず、私も驚きを通り越して呆れるばかりです。

 

 セレステリア家の当主であるお爺さんのことを、お母さんは徹底的に嫌っていました。大人なので大っぴらにはしませんが、アメリカにいる親戚のところへ遊びに行く時も、お爺さんから出来るだけ距離をとろうとしているのは、子供の目にも明らかでした。

 

 

「というより、ヴィクトリカ自身が儂に話をしてくれたのじゃよ――自身が隠し子であって、リドルと同じように孤児院で育てられたという事を、然るべき時に君と話すようにと」

 




 
 ヴィクトリカさんの孤児設定は魔女旅の原作より。次の話でもう少し触れます。

 ちょっと改心したロックハート、イメージ的には仕事で他人を破滅させてきたビジネスマンが晩年やたら慈善事業に熱心になるアメリカ的お金持ちみたいな(石油王ロックフェラーとか)感じに。

 見方によっては勝ち逃げのように見えるかもしれませんが、ロックハートを破滅させても被害者たちの記憶が戻る訳ではないので、改心させた上で残りの人生を名声と文才を活かして慈善事業などに捧げる形で償ってもらうのが、一番世の中の為になるのかなぁと考えたので、本作ではこのように。
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