ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第24章 ~ふくろう便~

 それから私もマダム・ポンフリーの所へ向かい、入れ替わるようにしてハリーに校長室へ来るように、とのダンブルドア校長からの伝言を伝えました。

 

 医務室ではハーマイオニーだけでなく、回復したジャスティンもいて、疑ってすまなかったとハリーに何度も謝っているのが見えました。

 

 

 そしてその日は、サヤさんたちと一緒に雄鶏のコカトリスが最後の命の炎を燃やし尽くすまで、傍にいました。冷たくなったコカトリスを抱きしめて泣いているサヤさんの姿が、あまりに儚くか弱くて。私は朝までずっと、その細い肩を抱きよせていました。

 

【毒蛇の王に立ち向かいし勇者 ここに眠る】

 

 コカトリスの亡骸はホグワーツの校庭の隅へと葬られ、私はそう墓標に刻んで彼の魂の幸福を祈り、指で軽く十字を切りました。

 

 

 **

 

 

 コカトリスの葬儀を終えてスリザリン寮へ戻ると、てっきり英雄として歓迎されるのかと思いきや、パンジーに勢いよくトライフル・カスタードを顔面に投げつけられました。

 

「バジリスクと戦うとか、イレイナあんたバカなの!? 死ぬの!?」

「……すみません」

 

 美貌をクリーム塗れにしたまま、私は友人に心配をかけてしまったことをお詫びします。

 

「昨日の夜にイレイナがいなくなって、てっきりイレイナもウィーズリー妹みたいに攫われたのかもって、みんな心配したんだよ?」

「……返す言葉も無いです」

 

 普段マイペースなダフネに真面目な声で言われると、思った以上に罪悪感が。

 

「ダフネには感謝しとけよ。イレイナの無事をスネイプ先生から聞かされた後、ずっとパンジーがイレイナぶん殴ろうとするの止めてたんだから」

 

 ミリセントがフンと鼻を鳴らして、「私もパンジーと同意見だったしな」と拳を鳴らす音が聞こえました。パンジーはともかく、ガタイの良いミリセントのパンチはちょっとシャレにならないので、ダフネ本当にありがとうございます。

 

 

「――というわけで」

 

 ミリセントがきびきびと言って、どこからか大きな二人分の皿を持ち出してきました。それぞれクリームたっぷりのバナナクリームパイと、レモンメレンゲパイが載せられています。

 

「ダフネ、どっちの子が好み?」

「色白の子で」

「かしこまりー」

 

 ダフネがバナナクリームパイの皿をがしっと受け取ると、二人は寝室の扉にガシャン!と鍵をかけ、逃げ道を塞ぐように悪い笑顔で私に迫ってきました。

 

「え、ちょ、ちょっと待ってください! さっきパンジーが」

「さっきのはアタシの分だから。まだ二人分残ってるわよ」

 

 ツンとしたパンジーの声を聞きながら、賢い私はこれから何が起こるか察知し、じりじりと後ずさります。

 

「あれ~、どうして逃げるのかなぁ?」

「一緒に楽しもうぜ。イレイナちゃんよぉ」

 

「ひっ!?」

 

 怯える私に向かって、大きなクリームパイを持ったダフネとミリセントは下卑たいやらしい笑みを浮かべ、にちゃあと口を開きました。

 

「ひひっ。嬢ちゃんには白くて濃いの、たっぷり顔にぶっかけてやるからよぉ」

「へっへっへ。嫌そうな顔して、ホントは特大サイズのコイツが欲しいんだろ?」

 

「や、やめてください……私に乱暴する気なんでしょう? マグルの薄い本みたいに!」

 

 ついには背中が壁についてしまい、完全に追い詰められた私の絶望顔を見て、二人はますます興奮しているようでした。

 

「は、話せばわか――」

 

「「問答無用!!」」

 

 結局、私の懇願が受け入れられることはなく、二人によって頭からベトベトに汚されてしまい、後の事はよく覚えていません。

 

 せっかくスリザリンの怪物からホグワーツを救った英雄に対して、それはもう、あんまりな仕打ちでした。

 

 

 

 ***

 

 

 

 その後、平和の戻った学校ではお祝いとして期末試験がキャンセルされ、今年の寮対抗杯は私の獲得した点もハリーとロンにサヤさん3人が増やした点には及ばず、8年ぶりにスリザリンが首位から脱落してグリフィンドールの滑り込み優勝となりました。

 

 また、サヤさんはホグワーツ特別功労賞によって学費が免除となり、晴れて来年も無事に通うことが出来るようになったようです。

 

 

 こうして夏学期の残りの日々は平穏で、焼けるような太陽の中で勉強とクィディッチの練習なんかをしているうちに過ぎていきました。

 休暇前にはようやく私もドラコも、スリザリン訓練歌を歌いながら走っても息切れしないだけの体力がついたことは大きな進歩と呼べるでしょう。

 

 

 

 そして家に向かうホグワーツ特急のコンパートメントの中で、私のところへ一匹のフクロウ便が送られてきました。

 

 走る機関車の気流に煽られてフラフラ飛ぶフクロウを、慌てて窓を開けて捕まえると、そこには見覚えのある文字が。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――

 

 

 イレイナ、私だ。

 

 

 闇の力に対する防衛術連盟名誉会員にして、勲三等マーリン勲章を授与、『週刊魔女』チャーミングスマイル賞を5回連続で受賞に加え、最近では元・ホグワーツ教授という肩書きも!

 

 私がホグワーツを去る時、君とはあまり話が出来なかったので、まずは手紙という形で話をさせてください。

 

 

 私はずっと子供の時から、英雄に憧れていました。子供の頃に本で読んだ冒険物語は、私に夢と希望、そして落ち込んだ時には慰めを与えてくれたからです。

 だから、私もそうなりたいと望んでいたのですが、クリスマス休暇でのやり取りを通じて、君は「物語」にどれだけの力があるか気づかせてくれました。

 

 

 ‟夢”というのは残酷なものです。英雄に憧れる子供は微笑ましい目で見られますが、大人になってもそれを追い続けるのは非常に難しくなります。

 安定した生活を送るための職業が‟夢”になり、堅実で現実的な職業ではない夢は幻に過ぎないと、誰もが善意で「諦めろ」と心配してくれます。

 

 そして残念ながら、私の才能では英雄の境地に至ることは出来ませんでした。賢い君はもう気づいてると思いますが、私の本で書いたことは本物の英雄たちの体験談を、私が物語としてまとめて世に送り出していたものです。

 

 

 ですが、自分で冒険をすることは出来ずとも、そういった英雄たちの物語を人々に届けることで、誰かに夢や希望を届けることが出来るのだと。それでいいのだと、君が気づかせてくれました。

 

 

 だから私は最近、新しく本を出版する会社を立ち上げました!

 

 

 これからは小説家としてだけでなく、編集者として、そして経営者として。どこかの誰かの物語を、沢山の人々に届ける仕事に専念していきたいと考えています。

 

 私はもう十分に有名になりましたし、そろそろ次の世代にバトンタッチする頃かもしれません。

 君のような前途ある若者が書いた物語が埋もれてしまわないよう、少しでも私が手伝えるなら、その手助けをしたい。

 

 

 さて、話が長くなってしまいましたが、イレイナさんには本当に感謝しています。もし私の力が必要になったら、いつでも手紙をくださいね!

 もちろん、私のサイン入り本や会社で出版する本が欲しい時は、特別にタダで差し上げますよ!

 

 

 ギルデロイ・ロックハート

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 封筒の中を確認すると、小さなパンフレットが同封されていました。

 

 

《ロックハート書房の新作! 期待の新人たちによる書き下ろし5作品が、5か月連続発売予定!》

 

 

 作家たちは知らない名前でしたが、未来から送り込まれたホムンクルスが滅びの運命を変えるために将来の英雄となる少年と冒険するタイムリープもの、反乱を起こした熱血漢エルフリック最後の14日間、中世を舞台にしたテンプル騎士団対アサシン教団の殺人ミステリーから、魔法界の伝説的チェス・プレイヤーの栄光と挫折、魔法動物をこよなく愛する変わり者の主人公ニュートン・サラマンダーがニューヨークで大騒動に巻き込まれる話まで、あらすじを読んだだけでも興味を惹かれる本ばかりです。 

 

 

「……本当に、商魂たくましいといいますか」

 

 いつの間にか、つい自分の頬が緩んでいることに気づきます。

 

 

 また小さくも新しい楽しみが増えたことを喜びつつ、私は夏休みに向けて思いを馳せるのでした。

 




 マグルの薄い本を横流していたイレイナさん、ここにきてブーメラン。クリームパイは美味しくいただきました(食べ物以上の何かを感じ取ったらアズカバン)。
 
 ニュートン・サラマンダー、一体何者なんだ・・・。
 

 ようやく「秘密の部屋」編も終わり、次回からは「アズカバンの囚人」編です!

 
 いつも感想をくださる方、また誤字報告をくださる方に、ここで改めてお礼を申し上げます。執筆を進める上でとても励みになっており、引き続き楽しんで頂けるよう頑張りたいと思います! 
   
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