ハリー・ポッターと灰の魔女 作:アストラマギカ
「スリザリンにようこそ!」
上級生の歓迎を受けながら、先に着席していたスリザリンの男子の横に座ります。なんだかチャラそうな黒人のイケメンです。
「やぁ、僕はブレーズ・ザビニ。よろしく、イレイナ!」
いきなり名前呼び。第一印象は間違ってなかった模様。
「汽車で誰かのヒキガエルを探していた子でしょ? あの汽車の中で一番の美人だったから覚えてるんだ」
一番の美人……ふむ、人を見る目はあるようですね。まぁ、私ほどの美貌であれば一度見たら忘れられないでしょうが。
「でも僕はてっきり、君はハッフルパフかグリフィンドールに行くと思ってたな」
「おや、それは何故でしょうか?」
「だって人助けするタイプは基本、あの2つの寮に行きがちだし。せっかくの美人をとられて残念だなって思ってたから、本当に嬉しいよ!」
なるほど、イケメンはこうやって女子を落とすのですね。とにかく褒めちぎる。正直な話、人に褒められて悪い気になる人は少ないでしょう。
そして何より、日頃から歯の浮くようなセリフを言いまくることで、言う方も聞く方も挨拶感覚で自然なやり取りが出来る。要注意です。
「イレイナ、君もスリザリンだったんだね」
しばらくすると、マルフォイが隣に腰かけてきました。ブレーズさんのナンパを適当にあしらいながら遠目で見ていましたが、マルフォイも本人の希望通り一瞬でスリザリンに決まっていました。
「あなたも、希望通りで良かったですね」
「当然だ。万が一にでも、ハッフルパフなんかに入れられてみろよ、僕だったら即退学するね」
マルフォイはハッフルパフに恨みでもあるのでしょうか。
その後も組分けの儀式は順調に進んで行き、割と満遍なく30人強ほどに組み分けられる形で、100人強ほどで終わりました。
ハーマイオニー、ネビル、ロン、ハリーは全員がグリフィンドール、クラッブとゴイルはスリザリンとなりました。他でいうと、背が高く寡黙そうなセオドール・ノット、女子ではパンジー・パーキンソンにダフネ・グリーングラスなんかが遅れてスリザリン入りしています。
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組み分け儀式の終了と共に、今まで座っていたダンブルドア校長が、すっくと立ち上がります。流れ的に、宴の前に祝辞の言葉でも述べるのでしょう。
(祝辞ですか……)
ぶっちゃけ、さっさと終わって欲しいものです。校長先生のありがたいお話を真面目に聞く生徒なんて、ほとんど絶滅危惧種でしょうに。長旅でお腹もすいたので、早く宴に入りたいものです。
「新入生の諸君、入学おめでとう。在校生の諸君、久しぶりじゃ。歓迎会を始める前に、わしから言うことはこれだけじゃ。それ、わっしょい、こらしょい、どっこらしょい! 以上じゃ」
前言撤回、ダンブルドア校長めっちゃ良い先生ですね。
「それでは、宴を始めるとしようかのう」
ダンブルドア校長が手を挙げると、宙に浮かんでいた金色の皿の上に、大量の料理が現れました。
ローストビーフ、ローストチキン、ポークチョップ、ラムチョップ、ソーセージ、ベーコン、ステーキ、マッシュドポテト、ベイクドポテト、フライドポテト、ヨークシャープディング、ベイクドビーンズ、グレービー・ソースにケチャップ、ハッカ入りキャンディー……。
さすがの私も少々驚きましたが、上級生を見ると当然のように皿から料理をとって宴を始めています。
私も目の前のローストビーフを手に取り、切り分けてから口に運びました。
「……おいしい」
ほどよい柔らかさに、ジューシーな味わい。焼き加減に塩加減、ソースの甘さもバッチリでした。ホースラディッシュと合わせると、甘さと辛さと塩気の絶妙なハーモニーが口いっぱいに広がっていきます。
「まぁ、悪くはないな。もちろん、僕の家の料理の方が凄いけどね」
隣ではマルフォイが料理相手に謎マウンティングをしかけています。
「なるほど、ドラコはお袋の味が大好きと」
「ちっ、違う、そうじゃない!」
「ではお父さんが料理を?」
「そういう意味でもない! 僕の屋敷では、一流の料理人をだな!」
「照れ隠しだとしても、そんなこと言ってると両親が悲しみますよ」
「うっ……」
あら、思わぬ弱点を発見。
最初にマダム・マルキンの店で会った時からそんな気はしていたのですが、この子たぶんマザコンとファザコンちょっと入ってますよね。まぁ、家庭崩壊が社会問題となる中、円満そうで何より。
「ですが、そこまで自慢されると気になりますね」
「そっ、そうだろう。本当に凄いんだからな! パーティーともなれば、父上がわざわざフランスから3つ星のシェフを招いてくれるんだ」
フランス料理の3つ星シェフ……たしかに目の前にあるローストチキンやラムチョップ、ヨークシャー・プディングやベイクドビーンズも美味しいのですが、全体的に茶色いんですよね……まぁ、これが英国料理なんですが。
「なんだイレイナ、招待して欲しいのか?」
「……いえ、別に」
「今ちょっと間があったぞ。遠慮しないでいいんだからな」
「うぐ」
この金持ちボンボン、私を食べ物なんかで釣るつもりですか。残念ながら私は本来、食べ物で釣られるような安い女ではないのです。ただ、3つ星シェフの料理とやらに、ちょっとばかり知的好奇心をそそられただけでして。
「なんなら、君の家族ごと招待してやってもいいんだぞ? 」
「むむむ」
「去年はたしか、コンフィした鮭のパイ包みに、熟成させた和牛フィレ肉のフォアグラ詰め、ホワイトアスパラのムースを添えたホタテと黒トリュフのテリーヌ……、あとオマール海老のソースをかけた鰆のポワレなんかも絶品だったな」
じゅるり………グルメなお父さんが、舌鼓を打ちながら大喜びする姿が目に浮かんできます。お母さんも時折「人の金でフレンチが食べたいわぁ」なんて言ってますし、よい親孝行の機会になるやもしれません。
「……考えておきましょう」
「ああ、その気になったらいつでも言ってくれ。……ふっ」
最後、鼻で笑いましたね?
なんか無性に腹が立ったので、こっそり激辛ソースをプディングの中にぶち込んでやりました。何も知らずに食べたマルフォイの青白い顔が、見る見るうちに真っ赤になっていくのは中々の見ごたえでした。
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皆が料理を食べ終えた頃、ダンブルドア校長が立ち上がりました。
「全員よく食べ、よく飲んだことじゃろう。じゃあ寮に向かう前に一言二言、伝えなければならん。まず1年生じゃが、校庭にある禁じられた森に入ってはいかんぞ。もちろん上級生もじゃ」
ちらり、と半月眼鏡の奥にある青い瞳がグリフィンドールに向けられます。思い当たる生徒がいるのでしょうか。
「続いて管理人のフィルチさんから、廊下で魔法を使わないようにという注意があった。それとクィディッチのチームに参加したい人は、マダム・フーチに連絡すること。最後じゃが、とても恐ろしく痛い死に方をしとうない者は、今年いっぱい4階の右にある廊下に入ってはいかんぞ」
学校なのに、生徒の命にかかわるレベルの危険区域があるとは。さすがは魔法学校、それはそれで興味が沸いてきます。
……今度ドラコでも煽って、けしかけてみましょうか。
「言っておくがイレイナ、僕は行かないぞ」
「おや、1年生で開心術とはドラコも中々やりますね」
「お前のにやけた顔を見れば大体想像はつくさ」
どうやら無意識に顔に出ていたようです。
ダンブルドア校長の話が終わり、続いて全校生徒で謎校歌を全員で合唱します。
ホグワーツ ホグワーツ
ホグホグ ワツワツ ホグワーツ♪
教えて どうぞ 僕たちに
老いても ハゲても 青二才でも
頭にゃ何とか詰め込める
おもしろいものを詰め込める♪
今はからっぽ 空気詰め
死んだハエやら がらくた詰め♪
教えて 価値のあるものを
教えて 忘れてしまったものを
ベストをつくせば あとはお任せ
学べよ脳みそ 腐るまで♪
なんとまあ酷い……改め、とっても個性的な曲なのでしょう。作詞者のセンスを疑わざるを……改め、独特過ぎて人類には早すぎると思うのですが。
しかも、各々が好きなメロディーで歌うので、歌い終わるタイミングも見事にバラバラでした。双子のウィーズリー兄弟に至っては、飛びっきり遅い葬送行進曲です。
「ああ、音楽とは何にも勝る魔法じゃ!」
ダンブルドア校長だけが感激の涙を流していましたが、流石にその感性は理解できませんでした。
マルフォイ家、なんだかんだで家庭環境は原作でもかなりの恵まれっぷりですよね。
あとホグワーツの食事、どう見ても野菜が足りてない。