ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第05章 ~イレイナの夏休み~

  

 なんだかんだで時間は過ぎ去っていって最終日――。

 

 この日はクィディッチの練習も勉強もなく、朝から晩までリゾートを満喫して青春を謳歌するという素敵な一日と伝統的に決まっており、朝っぱらから野郎どもは気合が入りまくっておりました。

 

 

「「「「「「夏だ!海だ!水着だぁぁああああッ!!」」」」」

 

 

 ハイテンションで浜を飛び回るフリント先輩やマイルズ・ブレッチリー先輩、ワリントン先輩にモンタギュー先輩に交じって、しれっとテレンス・ヒッグス先輩の姿まで。

 

 裸のムキムキ上半身に海パンという格好で「砂、熱ッ!? あっち、あっつぅ!」とか言いながら、ぴょんぴょん飛び跳ねながら海へ向かっていくゴリラ族たち。

 

「ファーレイ先輩、あの人たち何やってんでしょうか……」

「ホグワーツの奥地に住む部族に伝わる、歓迎の踊り的な?」

「控えめに言って蛮族ですね」

 

 それから普通にビーチサンダルを履いたセドリックさんとデイビース先輩が悠々とビーチまで歩いていき、「せこいぞテメェら!」とゴリラ族に絡まれて海へと引きずり込まれていきます。

 

 

 もちろん全員がそうという訳でもなく、5年生で唯一、落ち着いたイケメンのエイドリアン・ピュシー先輩だけは距離をおいて、相変わらず体育会系のノリから置いてけぼりをくらいがちなドラコ・マルフォイの面倒を親身に見ておりました。

 

「……ピュシー先輩、僕どうしたらいいと思います?」

「鼻で笑えばいいと思うよ」

 

 

 そしてグリフィンドールの4人はというと、ビーチとホテルの間ぐらいにある庭で庭小人(ノーム)を振り回しておりました。

 

「ほらっ」

「せいっ」

 

 双子とデイビース先輩が庭小人の足を掴んで大きく円を描くように回転させ、放り投げた小人をウッドさんとパーシーさんが頭陀袋に入れていきます。

 

 駆除された庭小人はホテルのスタッフに引き渡され、煙突ネットワークで遠くの田舎まで飛ばされていくそうな。

 

「なぁジョージよ」

「どうしたフレッド」

「俺たち、何で庭小人の駆除なんかやってるんだい?」

 

 ビーチで青春を謳歌している同級生を見て、苦々しげに呟くフレッドにジョージが溜息交じりに答えました。

 

「そりゃあ、あれよ。このバイト、金払いがいいからさ」

 

 親指と人差し指で円を作って「俺たちの開店資金の足しにもしたいし……」と言いながらも羨ましそうにビーチを眺め、付き合いでバイトに参加したウッドさんとパーシーさんも同意見のようでした。

 

 

 

 そして私たち女性陣はというと、色々と準備に時間がかかっておりまして。

 

「ペニー、用意できた?」

「もう少しだけ待って。あと日焼け止めクリーム塗ったら終わりだから」

「ねーねー、そこの綺麗なお姉さん。よければ手伝い――」

 

「イレイナちゃん、頼んでいい?」

「はーい」

 

 狙いを定めて手をわしわしさせる構えをとったファーレイ先輩から、するりと逃れたペネロピーさんからクリームを受け取り、陶器のように白くて滑らかな背中へと塗っていく私。

 

 ほっそりと繊細で華奢な私や、すらっと引き締まったファーレイ先輩と違い、適度にメリハリのある女の子らしい丸みを帯びた体型。そして少し力を入れただけでふにっと少し沈み込む柔らかさと、弾かれるような低反発が同居した滑らかな肌は、いつまでも触っていたい謎の心地良さ。

 

「あんっ♪ くすぐった……ぁっ……ひゃんっ♡ イレイナちゃんってば、そんなとこまで――」

「ジェミーは浜で男でも狩ってて」

「ぐすん、ペニーがイジメてくる……」

 

 器用にペネロピー先輩のえっちな声真似をするファーレイ先輩をご本人が蔑むような目で見ている間、ぺたぺたとクリームも塗っていく私。

 

 やっぱり監督生同士だと寮が違っても、校内の風紀維持という責任もあってか、同僚的な仲間意識も育つものなのかもしれません。

 寮同士が必要以上に対立して足を引っ張り合えばどちらの評価もマイナスですし、そういう部分を気にしないような無責任な生徒はそもそも監督生に選ばれないでしょうし。たぶん。

 

 

(とはいえ……)

 

 普段から制服をギリギリまで着崩したり、休日は露出の多い私服を着て色気を振りまいているファーレイ先輩と違い、日頃は露出が控えめなペネロピーさんはギャップが大きいだけに、同性でもついドキッとするような魅力をたたえています。

 むちっとした艶めかしい太ももはもちろん、上半身にも中々ご立派なものをお持ちです。

 

 本当に、いったい何を食べたらこんなに育つのでしょう?

 

「イレイナちゃんも気になる?」

 

 視線がバレていたのか、ファーレイ先輩がすっとしたキツネのような緑色の瞳を細めてきました。

 

「はて、何のことでしょうか?」

「おっぱい」

 

 年頃のお嬢さんがそんなこと言うもんじゃありませんよ。

 

「大体、たかが脂肪の塊に一喜一憂するのもアホらしいといいますか」

「まぁ実際、胸なんてぶっちゃけ寄せ方ちょいと変えれば、結構どうにでもなるしねぇ」

 

 

 マジですか。

 

 

「普通に1つかギリギリ2つ上ぐらいなら、寄せ方の工夫で割と」

「ファーレイ先輩、嘘じゃないなら何卒ご教示の程をですね……」

「お主、(ほまれ)を捨てたな?」

 

 まぁちょっと来てみ、と手招きするファーレイ先輩に近づくと、まず背中のホックを外すように言われます。

 

「はーい」

 

 私がその通りにすると、ファーレイ先輩がニヤリと笑って「次が重要なんだけど」と口を開きました。

 

 

「お辞儀をするのだ」

 

 

 ……は?

 

 

 この人、何をほざいてるんでしょうか。

 

「いや、だからお辞儀よ。90度に腰曲げるやつ。アンダスタン?」

 

「ペネロピーさん、どうしたらいいと思います?」

「今のは素直に従っていい大丈夫なやつだよ」

「ふむ、では仕方ありませんね」

 

「なんでペニーの話は素直に聞くし……」

 

 ぼやくファーレイ先輩を無視して言われた通り、腰を90度に曲げる私。すると――。

 

(おや……?)

 

 なんということでしょう。脇なんかに流れていた脂肪が、本来あるべき位置に戻っていくような感覚がするではありませんか!

 

「すばらしい……まるで魔法のようです!」

「あれ、なんか急に知能指数下がった……?」

 

 そっからは、割と真っ当にブラの寄せ方を教えてくれました。

 

「じゃあ、次はブラの下の部分を両手の指で摘まんで」

「はい」

「ブラを左右に振って、胸の肉ぜんぶカップに入れる」

「はーい」

「背中でホックを止めて、アンダーをズレないように注意しながら少し下げて」

「ふむふむ」

「そんでショルダーの付け根を持って、引き上げながらお辞儀を解除」

 

 これで最初のセッティングが終わり、再びファーレイ先輩の指示に従ってお辞儀をする私。最初に盛るのは左の乳です。

 

「左手でワイヤーの端を持って、右手で背中から脇までのお肉をカップに入れ込む感じで」

「なるほど」

 

 反対側も同じようにして、再びお辞儀を解除すると、なんだかボリュームが少し増したような気が。

 

「じゃあ次。左手でカップの底を押さえながら、右手の人差し指と中指でバストラインに沿ってお腹の肉を引き上げてみて」

 

 これまた言われた通りすると、なんだか左の乳が前より丸みを帯びてきたような。

 

「最後にブラからはみ出した脇の肉を、完全にブラに入れ込む感じで収納。反対側も同じね」

 

「おおー」

 

 なんだかカップがワンランク上にレベルアップした感じがします。すごー。

 

「最後にストラップを軽く上げて、背中のアンダーを床と平行になるように整えたら完成よ」

 

 

 すると、なんということでしょう(本日2回目)!

 

 出来上がった胸をみてビックリする私。これは本当に私なのでしょうか? ホグワーツ卒業してからが本番だと思っていた私の胸も、なかなかいい感じに仕上がったではありませんか。

 

 

 そんな感じで水着の装着も終え、いよいよ、出陣の時です。

 

 

 **

 

 

 というわけで、さっそく外に出てみると。

 

「ああぁッ!?」

「目がぁ、目がぁぁぁぁあ~~!」

 

 まずはすれ違った双子のウィーズリー兄弟がノックアウト。断末魔の悲鳴を喚き散らした後、そのままドボンッ!と庭の池へと沈んでいきます。

 

「なんだ?」

「ウィーズリーがやられた」

「だが、奴はグリフィンドールの中でも最弱……」

 

 双子の悲鳴が聞こえたのか、海でワイワイやってたスリザリン・チームの男子たちもぞろぞろと浜に上がってきます。そして私たち3人の水着姿を目に止めると、見事に動きが固まりました。

 

「……………」

「……………」

「……………」

 

 あれ、思ったより反応薄い? なんでしょう、この無言タイム。

 

 ひょっとして案外みんな、こういうの慣れてるんでしょうか? 一応は上級生ですし、彼女いる先輩なんかは異性の素肌ぐらい見慣れてるのかな……――などと思っていると。

 

 

「だああああああああああああぁぁぁぁっっ!!」

「いぇぇええええええええええぇぇぇぇッッ!!」

「んほおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっっ!!」

 

 

 ワンテンポ遅れて、野太い野郎どもの咆哮がビーチ全体に轟きました。そのまま目を押さえて「いやんいやん」と首を振るモンタギュー先輩といい、浜をごろんごろんと転がるワリントン先輩といい、想像以上のキモさです。

 

「……ファーレイ先輩、あれは?」

「発情した大型霊長類の求愛行動」

 

 ついに野生動物にまで落ちぶれましたか。

 

 

 テンション高めのゴリラ族や双子に対し、鉢合わせたパーシーさんは顔を真っ赤にしてペネロピーさんを見つめ。

 

「えっと……か、かわいいよ。ペニー」

「……あ、ありがと」

「うん」

 

 もじもじする二人に、復活した双子が声を揃えて言いました。

 

「「何そのガチっぽい反応!?」」

 

 ちなみに服装はと言いますと、クリアウォーター先輩は黒のVネックの三角ビキニに紐ショーツという格好で、シンプルながらグラマラスな素材の良さをダイレクトに反映する仕様となっております。

 

 特にエグいのがブラからはち切れんばかりにはみ出す2つのお椀状の物体で、私の努力を鼻であざ笑うかのような凶悪さです。なまじ普段きっちりネクタイを襟元まで締めて脚もタイツとか穿いている分だけ、ギャップで破壊力も大きいのかもしれません。

 

 スリザリンの先輩方も「くっ、なんでマグルの親なんかに生まれちまったんだ……!」と理性と本能の間で激しく葛藤しており、「男の人っていつもそうですよね……」という言葉を呑み込む私。

 

 

 

 ちなみに私ですが、ギャップ萌えとかは狙わずストレートに清楚なキュート系で直球勝負です。白を基調としてピンクの花柄なんかがあしらわれたフリル水着で、ショーツはもう少しカラフルな水色を基調にしたトロピカルな柄でスカート状のものをチョイスしました。

 

 先輩たちに比べれば子供とはいえ、二の腕や胸にウエストとお尻なんかには、やっぱり女の子らしい曲線があって、適度に鍛えられた筋肉と柔らかな肌のコントラストが神秘的な印象を与え、全体的にほっそりした華奢な体型は庇護欲をそそらずにはいられません。ええ、そうですとも。

 

「カメラ! だれかカメラ持ってこい!」

「世界一かわいいよ!」

「はい優勝ッ! 第3部完っ!」

 

 ゴリラ族と双子はいつものこととして、周りを見回すとドラコも分かりやすく青白い頬を赤く染めて目を逸らし、珍しくセドリックさんとデイビース先輩も俯きがちでした。

 

 

 

 そして最後の残ったファーレイ先輩はというと、艶めかしい身体のラインを強調するようにしなを作り。

 

「Hey Guys♪ We have――」

 

 5秒と待たず、とりあえずスキップしましょう。

 

 なお、水着それ自体は落ち着いた色合いのリーフ柄を基調とした、トップの紐を首の後ろで結ぶクロスホルターネックのビキニに腰に巻いたパレオといった組み合わせで、攻め過ぎず華やか過ぎず、落ち着いた上品さというか気品が漂っています。

 

 

 **

 

 

 それからは、特に皆で何かするとかいう予定があるわけでもないので、各々が適当に好きなように思い思いの時間を過ごしていきます。

 

 

「うぉおおおおおおおおッッ!」

「おらああああああああッッ!」

 

 例えばワリントン先輩とモンタギュー先輩には浜で激しいビーチ・フラッグス対決を繰り広げており、まさしく夏の悪ガキ対決といった趣きで。

 

 

「おらぁっ!」

「やってやんよ!」

 

 庭では双子のウィーズリー兄弟が開き直ったのか、猛烈な勢いで庭小人をぶん投げており、パーシーさんとウッドさんが慌てて拾っており。

 

 

「せいっ!」

「ふんっ!」

 

 そしてデイビース先輩とセドリックさんは大海原に繰り出し、割とガチめな遠泳対決を繰り広げており、普段は落ち着いた二人が少年のようにはしゃぐのは中々にレアな光景でした。

 

 

 そんなアクティブ組の様子をブレッチリー先輩はプカプカと浮き輪に座ってヤジを飛ばしながら眺めており、ヒッグス先輩は少し離れた岬でマイペースに釣りを満喫しております。

 

 

 謎なのはピュシー先輩で、どこからか持ち出してきたシャベルでせっせと砂浜の穴掘りに精を出していて、しまいには対空機銃とかが入ってそうな塹壕が出来上がっていました。

 

 

 ペネロピーさんとファーレイ先輩は二人でせっせと砂のお城を作りに精を出しており、しかも謎のこだわりがあるのか、よくありがちなシンデレラ城タイプではなく、中世に十字軍が東地中海沿岸(レヴァント)に建てた感じの本格的な城郭都市タイプ。

 

 

 そしてマーカス・フリント先輩はというと、覚えたての「泡頭呪文」を頭にかけて、どこからか調達してきた(もり)を片手に大海原へと飛び込み――。

 

 

「獲ったどぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 

 しばらく姿が見えなくなったかと思いきや、タコだのウツボだのを次々に仕留めておりました。

 

 

「あの人、石器時代とかならさぞモテてたんでしょうねぇ」

「正直、生まれる時代を間違えた感はあると思う」

 

 残る私とドラコはというと、パラソルの下で優雅にアウトドア用のリクライニングチェアに座り、小さな唐傘付きのトロピカルなドリンクを飲んだり、ひんやりしたシャーベットをのんびり食したりしております。

 

 

「――そういえば」

 

 

 ピスタチオのジェラートを食べながら、私は横にいる同級生に話しかけます。

 

「ドラコ、今日なんかあったんですか?」

 

 聞かれた方が「何のことだ?」と首をかしげているのを見て、補足する私。

 

「いえ、なんだか悩んでいるというか、困っているような……そんな気がしたので」

 

 勘違いだったら流してください、と続けた私にドラコは少し目を見開いて。

 

「……開心術?」

「ええ」

「嘘つけ」

「開心術でしょうか?」

 

 しばし二人で互いの腹を探り合うように視線を合わせ、やがて堪え切れなくなって、どちらからともなくプッと吹き出します。

 

 ひとしきり笑い合ってから、ドラコが苦笑しながら答えました。

 

「大したことじゃない。ただ、()()()()()()でいいのか?って思っただけだ」

「こういう感じ?」

 

 聞き返すと、ドラコは青白い顎で先輩たちを指して。

 

「あんな風に純血も寮の違いも無いみたいに、仲良しこよしでいいのかって話」

「はぁ……嫌なんですか?」

 

 私が聞くと、ドラコはゆっくりと首を振り、困ったような顔で。

 

「それが……そうでもないんだ。だから困ってる」

 

 基本的に気取ったドラコ・マルフォイにしては、随分と素直な反応で。そういえば、こんな風に本音っぽい吐露を聞いたのは初めてかもしれません。

 

 

「知っての通り、僕の家は純血で代々スリザリンで、僕はそのことを誇りに思ってる。だからマグル生まれだとか、グリフィンドールの連中とは対立するのが当たり前だと思ってた」

 

 でも、と続けるドラコ。

 

「イレイナは僕やダフネたち純血のスリザリン生とも、グリフィンドールのポッターやマグル生まれのジャスティン・フィンチ=フレッチリーなんかとも平気で、さっきの僕たちみたいなノリで話せるだろ? 最初は、単に君が変人なだけだと思っていたが……」

 

 変人とは失敬な。

 

「先輩たちを見ていると、君みたいな考えの人も結構いるんだなって思った。まるでスリザリンの友達同士みたいな感じで、一緒に遊んで勉強して……でも」

「本当にこんな呑気にしてていいのか、みたいな?」

「まぁ、そんな感じだ」

 

 それっきり、黙りこんでずずーっとお洒落ドリンクを一気飲みするドラコ。

 

 

 もしかしたら、私を見て去年か一昨年からずっと、ドラコはそんな思いを胸に秘めていたのかもしれません。

 

 

 ――マグル生まれやグリフィンドールは、純血名家やスリザリンにとって敵なんじゃないのか?

 

 ――まだ『闇の帝王』が生きてるって噂もあるのに、自分たちはこんな平凡な学生みたいな毎日を送ってていいのか?

 

 ――それとも間違っているのは自分の方で、本当は純血主義も寮の対立も『闇の帝王』も無かったことにして、ハリーたちと仲良くするのが正解なのか?

 

 

 なんて。

 

 

「それはまぁ、貴方の問題なので自分で解決してくださいとしか」

「絶対にそう言うと思ってた」

 

 はぁ、と溜息を吐くドラコ。

 

「君って色々と考えてるようで、案外ノリで生きてるとこあるよな……」

「人生は楽しむためにあるものです。何かにこだわって楽しいならのめり込めばいいし、そうじゃないなら他の事を優先するってだけですよ」

 

 別にドラコが純血主義やスリザリン寮にこだわって楽しいなら、それは本人の選択です。ただ、私は気にする方が面倒くさいので気にしないというだけでして。

 

 

 もっとも、そんな事を言えるようになったのも、ここ数年のことなのですが。

 

 

 親世代にあたる1970~1980年代までは、イギリス中がヴォルデモート陣営とダンブルドア陣営に分かれて対立しており、例えば現役死喰い人の親を持つスリザリン生とマグルの片親を死喰い人に殺された半純血のグリフィンドール生が一緒の学校で学んでいたわけですから、いくら同期といっても対立するのは仕方のない事でした。

 

 しかし、ポスト・ヴォルデモート世代である私たちは親から暗黒時代の恐怖の記憶を聞かされてはいるものの、実際に友達や家族を殺されるような経験をしたり、毎日どこかで誰かが戦っている、みたいな戦争状況に置かれているわけじゃありません。

 

 そうなれば必然、認識も変わってくるわけでして。

 

 マグル界でも世界大戦を体験した祖父母世代は反ドイツ感情が少なくなかったものの、戦後世代にあたる親世代からは徐々に緩和されてきたと聞きます。

 

 

 たぶん、魔法界ではその最初の雪解け世代が、目の前ではしゃいでいる先輩たちや私たちなんじゃないんでしょうか。

 

 

 

「私個人としてはギスギスしてる学生生活より、あんな風にバカな景色眺めながら残り5年間過ごす方が、面白そうに思えますけどね」

 

 案外、こうやって平和に過ごせる時間というのは限られているものです。ファーレイ先輩の受け売りじゃありませんが、人間関係なんて簡単なことで変わっていくもので、卒業してしまえば仕事で忙しくなったり、子育てやら親の介護やらで長らく会えないことも珍しい話じゃありません。

 

「……そういえば君、将来は旅人になるとか言ってたな」

「ええ、まぁ」

 

 だから、せめてホグワーツで皆と一緒に会えるうちは、楽しい思い出だったと懐かしめる方がいいな――と。

 

「……そうか」

 

 ドラコの方も雰囲気で察してくれたのか、あるいは別に思うところがあったのか。いずれにせよ、そこで一区切りをつけて。

 

 

「おーい!メシにすっぞー」

 

 

 そう叫んだフリント先輩の声に応じて、ドラコは手を振って返します。

 

「僕たちも、そろそろ食べに行こうか」

「ですね」

 

 

 ――どこまでも優雅に、そして賑やかに。

 

 

 13歳の夏、私は正しく学生生活を謳歌しておりました。

        




 
 イレイナさんたち戦後世代は、ヴォルデモートが過去の人になりつつある世代なので(この時点では後で復活するとか知りませんし)、その辺の認識の変化を自然に受け入れられる人たちと、変化に戸惑う人たちが混在している時期なのかなと。
 

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