ハリー・ポッターと灰の魔女 作:アストラマギカ
そうして昼が少し過ぎた頃、皆が少し遊び疲れてきたところで、屋敷しもべ妖精たちが巨大なバーベキュー・グリルを持ってきてくれました。
なんというかアメリカのマイアミ・ビーチとかで使われてそうな感じの、大きな黒いドラム缶を横にして煙突をくっつけたようなアレです。
スライド式の蓋を開けると、中にはもうもうと熱を放つ焼き網が置かれ、その下では炭火がパチパチと音を立てて弾けておりました。
中には既に時間のかかるポーク・リブやビーフ・ブリスケットの塊肉がごろんと寝かせられており、そこに追加する形で肉を載せていきます。
「よし、じゃあ焼いていこうぜ!」
待ちきれない、といった様子でマイルズ・ブレッチリー先輩がトングをカチカチ鳴らしながら、サルシッチャと呼ばれるグルグル巻きの生ソーセージに、シュラスコというブラジル風の串に刺した牛のランプ肉に鶏の
肉を焼き網に載せると、すぐさまジュウッ!と美味しそうな音と共に脂の溶ける芳醇な香りが鼻をくすぐり、早くもテンションMAXに。
その間にもペネロピーさんにファーレイ先輩、そして予定より早く庭小人駆除の終わったパーシーさんも参加して、サクサクと手際よく包丁で野菜をカットしていく監督生グループ。
トマト・玉葱、レモン汁、キュウリ等のみじん切りを和えたヴィネグレットソースだの、そこに唐辛子を加えたサルサソースやアボカドを加えたワカモーレ、さらには東洋風の刻み長ネギとゴマ油に醤油とビネガーを混ぜたネギ塩ダレや、コチュジャンとゴマ油と刻みニンニクの甘辛ダレなんかをパパッと作られてく手際の良さは、さすが監督生というべきでしょうか。
そうこうしている内に、お肉もいい感じに焼けていき。
「「「「「うんまー」」」」」
頬張った瞬間、BBQを讃える合唱が響きます。
口に含む前から香ばしく焼けた肉の香りが鼻腔をくすぐり、ひとくち噛み締めた瞬間からパリッとした表面の弾けるような触感が歯に伝わって、そこからジューシーな肉の旨味が口いっぱいを埋め尽くします。
「肉ッ!」
「んまっ!?」
なんかもう難しいことは考えられなくなり、ただ「お肉食べたい」という食欲に突き動かされるがまま、ひたすら口いっぱいにお肉を頬張る私たち。
「飛び散る肉汁ッ!」
「弾ける脂ッ!」
「染みわたる旨味ッ!」
「ちゃんとパイナップルと焼きバナナも食べてねー」
どんどん語彙力が低下する中、ペネロピー先輩だけは冷静に食物繊維を配っておりました。肉ばかり食べようとするウィーズリー兄弟やゴリラ族に対して、「パイナップルの酵素は肉の消化に良いんだよ」とやんわり勧める姿には謎の包容力があり。
思わずフレッドとジョージ、デイビース先輩にファーレイ先輩までが魅了されたように口を揃えました。
「「「「ママ……!」」」」
「……ばか?」
さらにはせっかくの海ということもあり、肉だけじゃなくシーフードも加わります。ロブスターやダンジネス・クラブにキング・クラブ、牡蠣にホタテなんかも載せていき。
「フリントのタコも焼こうぜ!」
まだ生きているタコを腕に絡ませたワリントン先輩がやって来て、豪快にそのままオリーブ油をぶっかけてからグリルへとぶち込みます。
「「ファイアーぁあああっッ!」」
いちいち大げさに騒ぐ双子に、呆れたように苦笑するファーレイ先輩。
「男子ってさ、やっぱ小学生ぐらいで精神年齢止まってるよね」
「でも少年期が過ぎるとパーシーみたいに、一気に老ける」
「ホントそれな」
ぷっとペネロピー先輩と一緒に吹き出してクスクス笑いながら、焼いたパイナップルにシナモンをかけてお洒落感を出していたファーレイ先輩でしたが、不意に「そういえば」と呟きました。
「ねぇ、ペニーはアレしないの?」
「何のこと?」
「ほら、‟はい、あ~ん♡”って奴」
ちらりとパーシーさんの方を一瞥して、悪戯っぽく口元を吊り上げるファーレイ先輩。
「ジェマ、して欲しいの?」
「うん!」
「じゃあ……」
きょとんとした表情のまま、ペニー先輩は小さく切り分けた肉をソースに付けていき。ファーレイ先輩の口元に運んでいきます。
「はい、あーん」
「あーん」
ぱくん、と親鳥から餌をもらったひな鳥みたいな感じで、もぐもぐと咀嚼するファーレイ先輩と、それを温かく見守るペニー先輩。
パーシーさん何処いったし……。
「美味しい?」
「うん」
「もっと食べる?」
「食べる!」
「……あの、誰か突っ込んでくださいよ」
ツッコミ不在の状況に、呆れて男性陣の方を見ると――。
「尊い……」
「たまらん」
「しゅき……」
皆さん恍惚とした表情で、うっとりと二人のやりとりを眺めておりました。
ドラコとセドリックさんは信じてたのに……。
あと、パーシーさんは彼女がそれでいいんでしょうか。いえ、もうどうでもいいんですけど。
「ほらよ! フリント、あーん♡」
「マイルズてめぇケツからウツボ突っ込むぞ」
そしてスリザリン・チームは相変わらずのノリで、最年少のはずのドラコ・マルフォイが一番お父さんしていました。
**
とまぁ、そんな感じで遅めの昼食をのんびりと食べ終わった頃には、徐々に日も落ち始めており。
最初に到着した時のように、海の彼方には真っ赤な夕日が沈み、空にはうっすらとお月様の姿が。始まりがあるものには、やはり終わりがあるという事なのでしょうか。
そう考えると、つい先ほどまでの非現実的なほど充実した休日が、永遠に続くかのようにすら思えたバカ騒ぎも――やっぱり、いつかは終わるんだなーと、急に現実に引き戻されたような感覚になりました。
先輩たちも私と同じことを感じているのか、少しばかり言葉数が少なくなっていくのを感じます。
特に7年生の先輩たちにとっては、これが本当に最後の思い出。もちろん社会人になっても休暇とってリゾートなんかに行く事はあるでしょうが、それでも学生時代に見る景色とはきっと違う景色になっていることでしょう。
「やっぱり、終わるんだねぇ」
4日間の宴もお開きの時間が近づきつつあるのを感じて、ファーレイ先輩がしんみりと夕日を見つめながら呟きました。
「分かってはいたけれど、ちょっと寂しいかも」
「終わりは避けられないさ」
センチメンタルなファーレイ先輩の声に答えたのは、マーカス・フリント先輩でした。
「夏休みだって終わるし、学生生活だって終わる。始まりのあるものには、全て終わりってもんがあるんだ」
そして感傷的な雰囲気をぶった切るように、へっと口元を吊り上げ。
「だが、今日じゃない」
だ が、 今 日 じ ゃ な い。
**
――というわけで。
「よし、これからガンガン薪を焼こうぜ!」
夏といえば海、海といえば海水浴にBBQにキャンプファイアーの欲張り3点セットです。
「ウィンガーディアム・レヴィオーサ-浮遊せよ!」
バーベキューではあまり働けなかったので、私がひょいひょいと浮遊呪文で太い薪を浮かせて、タテ・ヨコ、交互に積んでいきます。これは所謂「キャンプファイアー積み」という奴でして、ひとたび火がつけば大きく派手な炎が高く燃え上がるものの、着火し辛いのが難点と言えば難点。
と思いきや、セドリックさんがビーチの近くにあった砂防林から何故か松ぼっくりを集めていたらしく、自慢げに見せてきます。
「……なぜ松ぼっくり?」
「実はね、松ぼっくりの中には松脂が含まれていてよく燃え――」
はぁ、そうなんですね。
「インセンディオ-燃えよ!」
セドリックさんのうんちくを遮って炎上呪文を薪にかけると、一瞬で火が着いて見る見るうちにパチパチと薪がはぜ、炎に照らされた夕闇に煙が高く立ち上っていきました。
「え、この流れで魔法は卑怯……」
ライターまで準備万端なセドリックさんには悪いですが、現代っ子はコスパが全てなのです。
「それにしても」
追加の薪を炎の中に放り込みながら、セドリックさんが不意に言いました。
「なんか変わった面子だよね。今さらだけど」
「似たようなことドラコも言ってましたね」
「やっぱり、みんな考えることは一緒か」
くすっと笑って続けるセドリックさん。
「ロジャーとは前から仲良くやってるけど、双子やモンタギューたちとこんなに話をしたり遊んだり一緒に食事したのは初めてだ」
「で、どうでした?」
「想像以上に手に負えない人たちだった……」
「ですよねー」
双子はいわずもがな、ブレッチリー先輩とかワリントン先輩なんかも基本ガラ悪いですし。
去年とかチームに入りたてのドラコにいきなり‟経験人数いくつ?”みたいなノリで絡んできて、実は今でも若干の苦手意識持たれていたり。
「でも、しばらく話してたら慣れたよ。ちょっとスリザリンのコミュニケーションは独特だけどね」
「独特って、そんなにですか?」
首をかしげる私に、セドリックさんは苦笑して「割とね」と続けました。
「なんていうか、悪意なく会話の中で毒を吐くというか」
「それは、まぁ……」
言われてみれば、口が悪い人は多いかもしれません。別に純血主義者じゃなくても、授業で魔法が上手く使えない時に「血でも穢れた?」なんてブラックジョークを飛ばすのは日常茶飯事です。
そうなると皮肉や遠回しな表現を好むレイブンクロー生はいいとして、直情的なグリフィンドール生や生真面目なハッフルパフ生はまともに受け取ってしまい、マウントをとられたように感じるのかも……と推測する私。
「だから昔ブレッチリーと話をした時に‟なんで無駄にマウントとりたがるんだろ?”って思ってたんだけど、スリザリン生同士でも基本そんな感じなんだなーって」
「そうですね。ブラックジョークや弄りの無い真面目な会話はつまらない、みたいな風潮はあるかもです」
「そうそう。だから思い切って適当な自虐ネタで軽く流して、こっちが逆に皮肉で弄り返したら特に怒るでも無かったし」
この辺、どっちかというとハッフルパフ生は‟互いをリスペクト”みたいな風潮があって弄りでも控えめに留めるのに対して、スリザリン生は結構えげつない部分まで踏み込むので、内輪のノリで他寮の生徒と接すると感じ悪い印象を与えかねないのかもしれません。
「まぁ、何事も慣れですよ。私の家も代々スリザリンの家系ではないので、最初はなかなか毒舌トークに苦労したものです」
「……こんなに分かりやすい嘘ってある?」
**
――そんなこんなで。
良い感じに炎が燃えてきたところで、皆でキャンプファイアーを囲むように手を繋ぎ、皆で定番の『オクラホマミキサー』あるいは『藁の中の七面鳥』と呼ばれるフォークソングを歌っていきます。
最初こそ男女とか寮の違いとかで少し気恥ずかしい部分もあったり無かったりしましたが、歌ったり踊ったりしている内に緊張もほぐれていき、互いに手を取り合ってリズムに乗る私たち。
周囲ではホテルの屋敷しもべ妖精がサービスでヴァイオリンやギター、マンドリンやバンジョーといった弦楽器をフィドル奏法で民族舞踊っぽく演奏してくれ、さらにバグパイプやティン・ホイッスルにアコーディオン、アイリッシュ・フルートといったケルト音楽に使われる楽器が素朴ながら温かく場を盛り上げてくれます。
特に盛り上がったのは情熱的な曲調の『ジョン・ライアンズ=ポルカ』で、色々な相手と激しいステップでタップダンス合戦をしたり、腕を組んでグルグル回ったり、最後の方はペアと手を組みながら猛スピードで高速回転したり。
そしてすっかり日も沈んで焚火も燃え尽きた頃、シメにドラコが持ち出してきたのは手持ちの小型花火。
「おっ、わかってんな!」
さっそくブレッチリー先輩が花火に火をつけてワリントン先輩とチャンバラを始め、フリント先輩は何本もの花火を束ねてハンドキャノンのようにして轟々と噴きあがる火柱のシャワーを浴びております。
「おいロジャー、決闘しようぜ!」
「グラハム、二刀流はズルくないかい?」
もちろん、花火とくれば双子のウィーズリー兄弟も負けてはいません。
「こんなこともあろうかと」
「試作『ウィーズリーの暴れバンバン花火』があってだな」
「どんなことがあると思ってたんですか」
私の呆れ声に双子はニヤッと笑い、魔法の仕掛け花火を一斉に爆発させました。
すぐさまビーチは砲撃戦状態になり、双子が繰り出す魔法の仕掛け花火はドラゴンの形になってワリントン先輩に襲い掛かります。ネズミ花火は空飛ぶ円盤群のようにビュンビュンとところかまわず暴れまわって、けばけばしいピンクの線香花火はヒッグス先輩の前で空中に下品な言葉を書いて煽り散らしていて。
「反撃するぞ! ―――ドラコ、ちょっと貸せ。出し惜しみは無しだ!」
「え、フリント先輩!?」
スリザリン・チームも負けじとばかり、ドラコの持ってきたロケット花火をオルガンのように横一列に並べ、走りながら松明で次々に点火していきます。
すると無数のロケット花火が容赦なく双子めがけて飛翔していき、空中でクラスター爆弾のように炸裂、もはや絵面は完全に戦争映画のそれ。
「ピュシーの塹壕がこんなとこで役に立つとはな!」
「お姉さん方が作った砂の城塞だって負けて無いぜ!」
発射する時はもちろん、飛んでくるさまも圧巻で、さらに向こうから放たれた花火が、岩やら砂浜やらに直撃すると破裂して吹き飛んでいくのも臨場感たっぷり。
おまけに無駄に派手な煙の出る爆竹がそこら中でナパーム弾のように爆発するものですから、あたり一面が煙に包まれてスモークの中で光が点滅する中、「僕だ!パーシー!味方だ!」と誤射まで生じ始めるに至って、カオスも極まれりといった感じです。
「あいつら、ほんと若いわねぇ」
「ジェマお婆ちゃんや、私の名前ちゃんと覚えてる?」
「リアルお尻に火ぃつけちゃうぞ?」
戦争に参加していない女子の先輩2人も、子供のようにはしゃぐ男性陣を眺めながらクスクスと楽しそうに笑い、私もまた無意識に頬が緩んでいきます。
――こんな時間が、いつまでも続けばいいのに。
次から次へと打ちあがる花火は、いつまでも私たちを楽しそうに照らしていました。
フリント「だが今日じゃない」
ウッド「あいつアホだな・・・」
オクラホマミキサー
・キャンプファイアーでよく聞くあの曲
ジョン・ライアンズ=ポルカ
・映画「タイタニック」でジャックとローズが三等客室でぐるぐる踊ってる時の音楽。ケルト・アイリッシュ音楽はよい文化
花火合戦のモデルはギリシャ・ヒオス島のロケット花火戦争(祭り)のイメージ
夏休み編が長くなっちゃいましたが、次からホグワーツの話に戻ります。