ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第08章 ~アストリア・グリーングラス~

 ホグワーツ3年目、いつものようにスリザリンのテーブルに座ろうとした私の前には、パグ犬顔のパンジーとガタイのいいミリセントの代わりに知らない女子が2人いました。

 

 1人目は黒髪ボブカットにくっきりした目鼻立ち、きりりと吊り上がった眉にぱっちりとした瞳の気の強そうな美少女。桃色の爪は整えられ、小さめの顔のパーツと溌溂とした雰囲気のギャップが人目を引きつけます。

 

 そしてもう片方は癖っ毛の茶髪セミショートに、無駄なく鍛えられた手足、引き締まった健康的なプロポーション。耳元には煌めくピアス、気の強さを感じさせる鋭い目つき、へらりとした皮肉っぽい笑みの、ちょっとヤンキーっぽいけどカッコいいめ女子。

 

「……えっと、どちら様で?」

「パンジーよ! あとこっちはミリセント!」

「去年と別人じゃないですか」

 

 私が驚いて目を見開くと、パンジーとミリセントはしてやったりという顔で、互いに顔を見合わせてにやりと笑います。

 

「去年から夏休みの間もずっと、食事制限と運動とメイク頑張ったんだから!」

「どうよ、アタシらのホグワーツ3年生デビューの感想は」

 

「正直、想像以上です」

 

 未だ衝撃の抜けきらない私が素直な感想を口にすると、パンジーとミリセントは「いぇーい」と二人でハイタッチ。

 

 去年からダフネの「美人は技術と努力で作れる」を合言葉にメイクのテクニックを磨き、ダイエットや筋トレに力を入れた成果が約1年越しに実った形となりました。

 

 

 そう、ホグワーツ3年目を迎えた私たちも13歳、だんだん食い気より色気というお年頃です。

 

 ませた女子の多いスリザリンはその辺も早く、先輩たちを見ても入学当初はそれほど目立たなかった子が徐々にあか抜け始め、他の寮に一歩先んじて先輩の彼氏ができたりする時期でもあります。

 

「なんかさ、前より視線を感じる気がするのよね。やっぱり注目されるのって気持ちいいわ」

 

 ふふん、と胸を張るパンジーは3年生デビューで色々と自信がついたようでした。

 

「ずっとイレイナが自画自賛するの見て‟ナルシストうざっ”て思ってたんだけど、なんか分かる気がしてきた」

「昔の写真バラまいてやりましょうか」

「むしろ努力の成果が際立つってものよ!」

 

 パンジー、随分と調子に乗っ――改め、ポジティブシンキングになって……。

 

 もちろん生まれつきの容姿や運動神経に頭の良さというのもありますが、幼稚園や小学生じゃ大した差はつきません。

 

 それでも習慣というのは大事で、幼少期のうちから勉強や運動に容姿を磨く習慣を身に着けていけるかどうかで、中学・高校・大学と歳を重ねていくうちに徐々に差が現れていくものです。

 

 

 

「おや、そういえばダフネの姿が見えませんが?」

 

 

 私が聞くと、ミリセントが「ああ」と答えます。

 

「妹が入学するとかで最前列で……おっと、噂をすればだな」

 

 ミリセントの視線を追うと、ちょうどマクゴナガル先生が恒例行事の「組み分け」を開始するところでした。

 

 

 そしてスリザリンのテーブルから一番「組み分け帽子」に近い場所では、やたら目立つダフネ・グリーングラスの姿が。

 

 シャギーを入れたセミロングの金髪ウェーブヘア、くりくりとしたエメラルド色の瞳、すっきりとした鼻筋にキリッとした顔の輪郭、透き通るような白い肌……と、ここまでは単なる美少女なのですが、問題は服装の方です。

 

 スカートは短く、ネクタイも緩めで第2ボタンまで開きっぱなし。しかもシャツまで敢えて小さめのサイズであるため、育ってきた胸にボタンが引っ張られてパッツパツになっており、さっそくスリザリンに選ばれた1年生男子が愛想よく歓迎されて顔を真っ赤にしておりました。

 

 

「……ダフネ、反抗期か何かなんですか?」

 

 パンジーに聞いてみると、何故か非難するような目で返されます。

 

「いや、ダフネがああなったのはイレイナのせい」

「何故そこで私の名前が」

「イレイナ、去年ずっとマグルの雑誌ホグワーツ中に横流ししてたじゃない?」

「してましたね」

 

 ちなみに今年は続ける気はなく、権利ごとロックハート先生の出版社に売り払ってます。なのでロックハート出版社は小説部門に加え、ファッションを中心にした雑誌部門も抱えていたり。

 

「それよ。ロックハートが早速、『L.Aスタイル特集』みたいなの取り上げてたでしょ?」

「あー、それでトレンドに乗っかったと」

「そゆこと」

 

 どうやらロックハート先生は「魔法界とマグル界のハーモニー」という理想を、ファッション誌という方向で実現させつつあるようでした。

 

 大っぴらに「マグル風」と言わずに「L.Aスタイル」みたくぼかしていること、そもそも魔法界はファッションに関してはマグル界より寛容というか、ヘンテコな恰好の人ばかりということもあって、なんだかんだで徐々に浸透している様子でした。

 

 

 

 とまぁ、そんな世間話をしている内にも組み分けは進んでいき。

 

 

「グリーングラス・アストリア!」

 

 

 先生が名前を呼ぶと同時に、1人の女子生徒が優雅に進み出ます。

 

 ウェーブのかかった蜂蜜色のくびれロングに切れ長の青い瞳、くっきりした二重で1年生にしては大人びたスタイルの美人ですが、何より特徴的なのはその落ち着いた佇まいでした。

 オーラというか、持てる者が持つ独特の雰囲気が、仕草のひとつひとつに滲み出ているのです。

 

 アンニュイな表情で組み分け帽子を被ったアストリアさんは、組み分け帽子が「スリザリン!」と大声で寮を決めた時も表情ひとつ動かさず、さも当然であるかのように悠然と私たちのテーブルへと歩いてきました。

 

 

「じゃーん! ということで、妹のアストリアだよ! はい拍手~」

 

 

 ぱちぱち~とダフネが拍手するのを「うーん、この」みたいなジト目で一瞥した後、アストリアさんはふわりと上品な仕草で私たちに軽く会釈しました。

 

「アストリア・グリーングラスです。いつも姉がお世話になっております」

 

 快活なダフネの妹とは思えないほど上品で落ち着いた佇まいに、ミリセントが苦笑します。パンジーもやれやれといった表情で、やはり純血同士で昔からの知り合いみたいでした。

 

「よせよアストリア、今更だろ? スリザリンなんて半分は顔見知りだし、そんな他人行儀にしなさんなって」

「ミリセントさんがそうおっしゃるのでしたら、お言葉に甘えさせて頂きますわ」 

 

 くすっと表情を崩すアストリアさん。笑うと急に幼く見えて、ダフネの妹だというのが納得の笑顔です。

 

 

 彼女は私の方に視線を向け、気品のある微笑みと共に口を開きました。

 

「お初にお目にかかります、ミス・セレステリア。アストリア・グリーングラスです」

「イレイナで構いませんよ。アストリアさん」

 

 同じ後輩いえども馴れ馴れしいというかフレンドリーなサヤさんとは違うなー、なんて思いながら「うふふ」と笑顔で挨拶する私。

 

 

「なにはともあれ、アストリアもスリザリンでお姉ちゃんは嬉しいよ! 祝って祝って!」

「なんか、お姉様が祝われる側みたいなノリですわね」

「どっちでもいいじゃん。はいカンパーイ!」

 

 テンション高めなダフネの音頭に合わせて、パンジーやミリセントたちも「いぇーい」とか「うぇーい」みたいなノリで、ギリーウォーターとかかぼちゃジュースの入ったゴブレットをがちゃがちゃ合わせます。

 

 

「なに、ダフネの妹? オレにも紹介して」

 

 さっそく騒ぎを聞きつけて現れたのは、同期で一番チャラいと評判の伊達男ブレーズ・ザビニ。ちょうどパンジーの横から身を乗り出す形になったので、迷惑そうな顔でパンジーがアストリアさんに囁きます。

 

「アストリア、ザビニは忘れていいわよ」

「パンジー先輩がそう言うなら」

「ひでぇ!?」

 

 

 そしてセオドール・ノットが「面倒くさいけど社交辞令だし仕方ないから挨拶するけど早く飯食いたい」といった本音が顔に出た形式的な挨拶をしてきた後、クラッブとゴイルを引き連れたドラコ・マルフォイが現れました。

 

「アストリア、君……スリザリンだったんだな」

 

 ドラコにしては珍しくぎこちない態度です。

 

「ええ、まぁ。先祖代々、そういう家柄ですし……」

 

 対するアストリアさんの方も、どういうわけか余所余所しい表情で、硬い作り物の笑顔を浮かべています。

 

 

 ちらりとダフネの方を見ると「あちゃー」みたいな顔になっておりました。

 

「……ダフネ、アストリアさんってドラコのこと苦手なんですか?」

「どっちかっていうと、ドラコがアストリアのこと苦手なんだよね」

 

 なんでも昔はそれほど険悪でもなかったらしいのですが、だんだんと話が合わなくなって……というのは思春期の男女あるある案件なのですが、特にここ2年ぐらいはピリピリした間柄とのこと。

 

「それはまたどうして……」

 

 

 その答えは割とすぐ分かりました。

 

 

 ちょうど大理石の階段からハリーが現れると、ドラコの灰色の瞳が意地悪く光り、ぱっと表情が喜びに輝きます。

 

「ポッターじゃないか! こわーい吸魂鬼で気絶したばかりだというのに、絶対安静で入院しなくて大丈夫なのかい?」

 

 どうやら図星だったらしく、ハリーは真っ赤な顔で歯を食いしばり、苛立たしげにグリフィンドールのテーブルへ去っていきます。

 パンジーがクスクスと笑い、ドラコがますます嬉しそうにバカっぽい仕草で気絶する物真似をすると、ザビニら周囲のスリザリン生から「やめて差し上げろw」みたいな笑い声が上がりました。

 

「かのハリー・ポッターが吸魂鬼で気絶とはねぇ……英雄とは何だったのやら」

 

 

「――マルフォイ先輩」

 

 

 水を差すような硬い声は、アストリアさんのものでした。 

 

「真っ青な顔でコンパートメントから逃げ出した口で言われても、あまり説得力はありませんわよ」

 

 たちまちドラコの青白い顔がさっと赤くなり、後ろで思わずプッ!と吹き出しかけたクラッブとゴイルは、自分たちより小さなドラコに睨みつけられて縮み上がります。

 

 そのまま「ふんっ」と立ち去っていくドラコを見送った後、ダフネが「はぁ~」と大きな溜息をつきました。

 

「アストリア、放っておけばいいって何度も言ってるじゃん」

「そうはいきませんわ」

 

 アストリアさんはムスッとした顔で腕組みします。

 

「歴史ある純血の名家には、相応の立ち居振る舞いというのが求められます。あのように軽率な行動では、自ら自分の品位を貶めているようなものです。栄えあるスリザリン、そして聖28一族の一員として見過ごせませんわ」

 

 アストリアさんの反論に、ダフネが「言ってることは分かるんだけどぉ……」と微妙な表情を浮かべます。

 

 

 どうやらアストリアさんの場合、純血主義を他人を見下す道具としてではなく、己を高める矜持として割と真っ当に誇っているようでした。

 ただ、だからこそ無駄なマウンティングする同胞を放置することもできず、こうして注意しているうちにドラコから煙たがられてしまったとのこと。

 

「アストリアはさ、ちょっと頭堅いんだよ。もうちょっとお姉ちゃんみたいに、ゆるふわ路線でいこ? そんなんだとモテないよ?」

「お姉様は逆に頭のガードをもう少し堅くされた方が」

「誰が頭ゆるふわお姉ちゃんだい!」

 

 ダフネがうまくオチを付けてくれたところで、ちょうど組み分けが終わったらしくダンブルドア校長が立ち上がり、私たちは話を中断してテーブルに座ります。

 

 

 その後は和やかに恒例行事の「闇の魔術の防衛術」の新任の紹介と、「魔法生物飼育学」の教授にハグリッドが就任したこと、シリウス・ブラック対策にホグワーツ周辺に吸魂鬼を放つといった話が続き、私たちは宴に入ってホグワーツ3年目最初の1日を終えたのでした。

   




 「呪いの子」に出てくる後のマルフォイの嫁、アストリア・グリーングラス初登場です。
 いわゆる「高貴なる義務(ノブリス・オブリージュ)」型の純血主義者。

 あとパンジーは去年からの努力の甲斐あって、映画版3作目みたいな感じに可愛くなりました。  
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