ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第09章 ~お茶の葉~

   

 3年目の最初の授業は選択科目でした。

 

 『占い学』『数占い』『マグル学』の3つから、どれか1つを選ぶというものです。私は去年のファーレイ先輩のアドバイスをもとに、独学で学ぶのが一番厳しそうな『数占い』でした。

 

 マグルでいえば数学とか統計学なんかに相当する学問で、グリンゴッツ銀行なんかに就職すると景気予測とか顧客の債務不履行リスク率を算定するのに重宝します。

 

 私とダフネ、ノットが朝食を食べてから教室へ向かうと、既にハーマイオニーが先にいました。

 

 

 最初の『数占い』の授業は「何故この授業が重要なのか」とか「社会に出てどう使われるのか」みたいなガイダンス的な話を「へー」「ふーん」と聞き流しながら「なんだ楽勝じゃんファーレイ先輩おおげさな」とか思っていたのですが、後々これが大きな間違いだったと知ることになります。

 

 というのも、これは後の話になるのですが、4回目ぐらいの授業から大量の魔法式やら理論モデルが出てきて担当のベクトル先生が「まぁ教科書に書いてある公式ぐらい普通に暗記してるよね」みたいなノリでサクサク進めて勝手に話を自己完結したりするもんですから、ハーマイオニー以外の生徒は大慌て。

 

 私も急な変化に戸惑って4回目の授業こそ焦りましたが、この授業は予習ありきで講義中は先生に質問したり本に書かれてないポイントを先生が解説してくれる時間だと理解してからは、それなりに捗っています。

 

 

 

 というのはさておき――。

 

 

 

 昼食時、グリフィンドールのテーブルを通り過ぎてスリザリンのテーブルへ向かおうとしたのですが、いつもと少し雰囲気が違う事に気づきました。

 

 

 というのも、グリフィンドールのテーブルには葬式のような空気が流れていたからです。よくよく見ると視線はハリーに注がれており、ハーマイオニーとロンが口論しておりました。

 

「マクゴナガル先生がおっしゃっていたでしょう? 『占い学』っていい加減だと思うわ」

「でも、もし本当にハリーが『死神犬』を見て、憑りつかれたならお先真っ暗だぜ!」

 

 

 聞いた感じ、ハリーが『死神犬』に取りつかれて死ぬっぽいです。占い学の先生がそう予言したのを支持するロンと、否定したいハーマイオニーが、仏頂面のハリーそっちのけで言い争ってました。

 

 

 

「よかったら、私が占って差し上げましょうか?」

 

 ちょこん、とハーマイオニーの隣に腰かけ、突然の登場に目を見開く3人をよそに、私はその辺の紅茶にミルクを少しだけ垂らします。

 

「実家に伝わる秘伝のミルクティー占い、よく当たると評判なんですよ」

 

 紅茶に垂らされたミルクが渦を巻くのを見ながら、私は「むむむむむ……」とカップに目を凝らします。

 

「あー、なるほど、分かりましたよ、はい完璧に。ハリー、あなたは今、悩みを抱えてますね? どうです図星でしょう」

「見れば分かると思うけど……」

「あっ、待ってください。今、別のものが見えました……ふむ、これは死神ですね」

 

「イレイナ!?」

 

 ハーマイオニーが金切り声をあげるのを制止、私はハリーに向き直ります。

 

「見てください、この渦が何に見えますか? ええ、ターバンです。あなたは一昨年、ターバン巻いたやべー奴に殺されかけましたね?」

「まぁ、そうだけど」

「そしてこの渦の不規則な動き……これはブラッジャーですね。あなた、去年ブラッジャーに殺されかけましたね?」

「あー、ドビーのこと……」

 

 なんだか遠い目をしておられました。ドビーが何だか知りませんが、相手が勝手に自分が死にかけた原因を探してくれればこっちのもんです。

 

「やはりドビーでしたか。私もそう思ってたんですよ。む……おや? 今度は蛇ですか。ハリー、蛇にも殺されかけた経験に覚えは?」

「大いにあると思う……」

「そうでしょうそうでしょう。おや、今度はミルクが赤ん坊に見えてきましたね。そういえばハリーは生まれてた時にも殺されかけていましたね」

 

 トレローニー先生がどういう方か知りませんが、普通の人は10代のうちにそう何度も死にかけたりしません。ハリーの来歴を考えれば、「死神に憑りつかれている」という指摘は当たらずとも遠からず。

 

「おやおや、今度は紅茶がシリウス・ブラックそっくりに。そういえば凶悪犯ブラックはハリーを狙ってるとかいう噂もありますし、こりゃもう死神が憑りついてるとしか言いようがありませんね」

「………」

 

 ハリーは戸惑っている様子でした。冷静に考えてみて、「やだ、自分ひょっとして呪われてる……?」という気持ちになってきたのでしょう。

 

 

 その気持ち、そう間違ってないと思います。マジで一度お祓いに行った方がいいんじゃないでしょうか。

 

 

「他にも殺されかけた経験、ありませんか? きっとありますよね?」

 

「そういえば僕、フラッフィーにも殺されかけてたような……」

「トロールも勘定に入るのかしら?」

「アラゴグは間違いなく、僕たちを殺そうとしてたぜ」

 

 なんだか勝手にうんうんと納得する3人。というか、私の知らないとこでも割と死にかけてたんですね。

 

 

 

「むむむ……今度は何でしょう?」

 

 だから、私は続けて口を開きました。

 

「この白いもやもやしたものは……あー、なるほど。守護霊ですね。はい、完璧に分かりましたよ。ハリー、あなたには死神と守護霊の両方が同時に憑りついています」

「守護霊?」

「なので死神のせいで死にかけることはしょっちゅうあっても、守護霊が助けてくれるので毎回のように生き延びるわけです。どうです、完璧な占いでしょう?」

 

 ハリーは黙っていましたが、ほんの少し表情が和らいだのが見て取れました。

 

 

「トレローニー先生の事は知りませんが、あなたは普通のティーンエイジャーから見れば‟死神に憑りつかれてる”と見えて当然なぐらい死にかけてます。だから、占い学の予言は否定できないかもしれません」

 

 ですが、と私は続けます。

 

「その度に毎回、どうにか生き残っています。その事実もまた、否定できるものではありません。だって、あなたは『生き残った男の子』なんですから」

 

 私がそう言うと、ハリーはくすくすと笑みを漏らしました。

 

「イレイナって、たまには良いこと言うんだね」

「いつも良いこと言ってるつもりなんですが」

 

 私が肩をすくめると、ハリーは吹っ切れたような顔で口を開きました。

 

「ありがとう、イレイナ」

「では、占い料金として金貨を1枚」

「今の感動を返して」

 

 じとり、と目を細めるハリー。けれど、その表情は少し明るくなっていて。

 

「でも、今ので何となく分かった気がする。トレローニー先生が僕を殺したがってるなら、それに話を合わせりゃいいやって気がしてきた」

「ええ。そういうので良いんですよ。真実がどうあれ、顧客が欲しいと思ってる言葉を言ってあげるのがセールストークの基本というものです」

 

 ちなみにスリザリンでは完全にそういう扱いらしく、女たらしのザビニがやたらトレローニー先生から高評価っぽいという話も聞いたのですが、異性として落としたのではなく話術で先生を満足させたのでしょう。

 

 

 それに、と私は続けました。

 

「どうせなら死神犬なんかより、もっと悲劇的な散り様を予言してやりましょう。きっとウケますよ」

 

 おどけるように言うと、ハリーもニヤッと笑って。

 

「そうだね……仲間を逃がすために殿(しんがり)を務めて、手榴弾でエイリアンを道連れに自爆とかどう?」

「親指を立てて溶鉱炉に沈んでいくハリーの最期は、涙無しには見れませんでしたね」

 

 ハーマイオニーがプッと吹き出し、元ネタを知らないロンだけが「エイリアン?溶鉱炉?」と首をかしげておりました。

 

 

 

 たしかに死神ほどじゃないにせよ、‟私、ひょっとして呪われてる?”ぐらいに世の中、なかなか思い通りにはならないのです。

 

 どんなに足掻いても何度ぶつかっても、乗り越えられない溝や崩せない壁、というものはあるのでしょう。そういう時に、つい「この不幸はあらかじめ定められた、変えようのない運命なのだ」と絶望を正当化したくなることだって、生きていれば多々あるのかもしれません。

 

 だからこそ、世の中にはこんな格言もあるのです。

 

 

 ――運命なんてない。未来は自ら作り上げるものだ。

 

 

 自分の未来は、これから自分で作っていくもの。

 自分自身の力で、これから変えてゆけるもの。

 

 そう信じて、生きていればきっと。

 

 

 一生の最期に待っている死を変えることは出来ずとも。

 

 

 墓場に至るまでの道のり(人生)は、きっと変えられるはず――。

         




 数占い、大学の理数系科目にありがちな「1回目はガイダンス、2回目は高校の復習、3回目ぐらいで手応え出てきて、ここで油断すると4回目ぐらいの授業から怒涛の数式で唐突に付いていけなくなる」タイプの授業。

イレイナさん「こんな格言を知っているかしら?」
 
トレローニー先生の恒例行事「誰かが死ぬ」予言、ホグワーツだと毎年のように怪異が発生して誰かが死にかけてるので、当たらずとも遠からずのような。
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