ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第12章 ~アストリアは主張したい~

   

 ルーピン先生が就任してからというもの、『闇の魔術に対する防衛術』はすぐ生徒たちの人気授業になりました。二回目は赤帽鬼(レッド・キャップ)河童(カッパ)と危険な魔法生物に対する実践的な授業が続き、また説明も明瞭で生徒にも優しいからです。

 

 

 ただ、ドラコはまだ素直になれないらしく、ルーピン先生が通るとツンツンした嫌味を言ってデレを誤魔化そうとしている節がありました。

 

「あのローブのざまを見ろよ。僕の家の『屋敷しもべ妖精』の格好じゃないか」

「黙れよ、マルフォイ」

 

 対して、グリフィンドール生は全力でルーピン先生の擁護にかかっているようでした。

 

 ムカっとした顔のロンが「放っておきなさい」というハーマイオニーの忠告を無視して喧嘩腰になると、マルフォイはますます嬉しそうに気取った口調で煽ります。

 

「そうだろうねぇ、あんな服装でも君たちにとってはオーダーメイドの一張羅に見えるんだろう?」

「マルフォイ、それ以上言ってみろ。ただじゃ済まさないぞ」

 

 ロンが杖を抜くとハリーもそれに合わせ、クラッブとゴイルが指をボキボキ鳴らせてまさに一触即発。ハーマイオニーとマルフォイはまだ杖に手を触れていませんが、西部劇のガンマンよろしく、いつでも抜けるよう指をそわそわさせています。

 

 

 

 そんな彼らの様子を、私とダフネは興味津々で観戦中。すぐ後ろにはパンジーやミリセントも控え、逆にハリーたちの周囲にも騒ぎを聞きつけたシェーマスさんやラベンダーさんたちがぞろぞろと集まってきました。

 

「どっちが勝つと思います?」

「この距離ならクラッブの右フックが早いかなー」

 

 個人的にはルーピン先生に関してハリー達を擁護したい気持ちが強いのですが、少し前にはヒッポグリフ事件もあったことですし、何度も面倒な喧嘩の仲裁を買って出るほどの義理はありません。

 

 

 大怪我しそうだったら止めに入るかー、ぐらいの気持ちで観戦気分に入っていたところ、硬い声が横から割り込んできました。

 

 

「――失礼ですが、よろしいでしょうか」

 

 

 振り返ると、そこにいたのは腰に手を当ててふんぞり返ったアストリアさんでした。両脇にはクラッブとゴイルよろしく双子のカロー姉妹が並んでおり、同族なんちゃらといいますか、そこはかとなーく見覚えのある光景です。

 

 ちなみにアストリアさん、家柄だけじゃなくてダフネが自慢してた通り魔法の腕は中々のもので、早くも名実ともにホグワーツ1年生の学年カースト頂点に君臨し、スリザリンでは軽く有名人でもあったり。

 

 

「聞くつもりはなかったのですが、どうにも不穏な話が聞こえてきたもので」

「聞くつもりがあったんじゃないか?」

 

 苦い顔になるドラコ・マルフォイを無視して、アストリアさんは挑戦的に決闘寸前の上級生たちを見上げます。

 

 

「話は聞かせて頂きました。ルーピン先生の見た目がどうとか」

 

 すると、アストリアさんが意外なことを言い出しました。

 

 

「差し出がましいことを承知で言わせて頂きますが、正直ルーピン先生の格好はありえません」

 

 

 アストリアさんは一歩も引かずに言い放ち、カロー姉妹もうんうんと頷いていました。

 

 すると見る見るうちにロン達の怒りのボルテージが上がり、マルフォイの顔がニヤけていくのが見えました。今にも飛び掛からんばかりのロンを、ハーマイオニーが必死に抑えています。

 

 

 ですが、アストリアさんは怯んだ様子も無く、びしっとハリーたちを指さして言い放ちました。

 

「ここホグワーツは、由緒正しき歴史と伝統ある魔法学校。当然ながら、その顔となるべき先生方にもそれに相応しくあることが求められます。であれば、あのような格好など論外ですわ。ルーピン先生はもっと、身だしなみに気を使うべきだと申し上げているのです!」

 

「え、そっち……?」

 

 なんだか話が変な方向へ動き出したことを察知したらしいドラコの表情が変わり、ハリー達も呆気にとられたような顔で見つめる中、アストリアさんは「まったく嘆かわしいことです!」と首をやれやれといった感じで左右に振ります。

 

 

「あれほど素晴らしい授業をして下さる先生だというのに、服はヨレヨレ、みすぼらしいローブはツギハギだらけ、トランクはボロボロ、顔も疲れ果てて青白い、とび色の髪なんてまだ若いのに白髪交じり! とてもではありませんが、わたくし、いち生徒として見過ごせません!」

 

 

「そんな言い方……!」

 

 抗議しようとするハーマイオニーに、アストリアさんは眉をひそめて詰め寄ります。

 

「では逆にお聞きましょう。グレンジャー先輩は、ご自身の兄弟なりお父上なりが毎日あんなヨレヨレの恰好で過ごしてたり、意中の殿方や自慢の先輩があの恰好でディナーに来たら――どう思われます?」

 

「えっ……それは」

 

「私だったら蹴っ飛ばしますわ」

 

 アストリアさんは、想像以上に武闘派のようでした。

 

「なにもダンディズム溢れる感じの、イケてるオジ様になれとまでは言ってません。ですが、せめてスーツの1着ぐらい、しっかり仕立てたもので教壇に立つのが、生徒の模範たる教師の務めでしょう」

 

「っ……!」

 

 ハーマイオニーは衝撃を受けたようでした。

 

 

「ダフネ、あんたの妹やるわね」

「でしょー」

「グリーングラス妹の言う通りかも……」

 

 ハーマイオニー以外の女性陣も、なんだか乗り気になって空気が変化しつつあります。

 

「考えてみてくださいな。お洒落にスーツを着こなした、ルーピン先生のジェントルメンなお姿を!」

 

「「「ッーーー!?」」」

 

 思春期女子の逞しい妄想の中に放り込まれたルーピン先生は、まるで英国を代表するスパイ映画のような甘いマスクのスタイリッシュな紳士に大変身。ぜひ、一度でいいから見てみたい……そんな気持ちが彼女たちの心を1つにします。

 

「アストリアさんの言う通りだわ!」

 

「「ハーマイオニー!?」」

 

 雷に打たれたような顔になるハーマイオニーに、ハリーとロンが同時にツッコミます。ですが、ハーマイオニーは激しい剣幕でハリーたちに向き直りました。

 

「ロン、ハリー、私やっぱりルーピン先生のような紳士が、見た目のせいで損するなんて耐えられないわ!」

 

「「えぇ……」」

 

 訳が分からない、といった顔のハリーとロン。先ほどまでの諍いも忘れて思わず助けを求めるようにマルフォイに視線を向けますが、「こっち見んな」とばかりにそっぽを向かれてしまいました。

 

 

「まぁ、今のはアストリアに一理あるよな」

「ルーピン先生、ずっと同じ服ですもんね」

「フツーに人としてそれはありえないでしょ」

「良い先生なんだけど、ちょっとキツいよねー」

 

 対して、ミリセントに私、パンジーとダフネは完全にハーマイオニーと同意見でした。見れば、ラベンダーさんやパーバティさん達も同じようにうんうんと頷いているのが見えます。

 

 流れが変わったのを見て取り、アストリアさんはビシッと人差し指を立てながら宣言しました。

 

 

「紳士にまず必要なのは、きちんとしたスーツですわ」

 

 

 もちろんオーダーメイドで、と続けるアストリアさん。明らかに「既製品でいいじゃん」みたいな顔をしてるロンたちグリフィンドール男子勢に、呆れ顔で腰に手を当てます。

 

「服装は、着る者の内面を他人へ伝える第一歩。スーツというのは、何はともあれ殿方の姿勢を示すものです。スーツがあれば一目で本気であることが示せるというもの。もちろん、己に対する自信と真剣さも」

 

 ハリーたちとドラコたち男子勢が困惑する中、私たち女子勢は「そうだそうだー」「よくぞ言ってくれたー」と、寮の垣根を越えてアストリアさんの演説に聞き入っています。

 

「私の考える一流の魔法使いとは、単に高度な魔法が使えるというだけではなく、素晴らしい魔法界の伝統を己のうちに取り込み、またそれを他人や外に向けて伝える姿勢を持つ者を指します。ゆえに、いかに素晴らしい魔法使いと言えども、見た目を疎かにしてはなりません」

 

 魔法使いは現代の騎士、そしてスーツは現代の鎧なのですから――。

 

 そうアストリアさんが締めくくると、感激した女性陣からは拍手の渦が巻き起こりました。

 

「アストリアさんの言う通りよ!」

「ダフネ、いい妹を持ったわね!」

「それほどでもあるよ!」

「ルーピン先生、どんなスーツが似合うかしら?」

 

 男子を置いてけぼりにして、盛り上がるスリザリンとグリフィンドールの女性陣。もともとパンジーたちもドラコに合わせていただけで、内心ではルーピン先生の授業と人柄については高評価でした。

 

 とはいえ、見た目だけはドラコの言い分にも一理あるために表立って擁護できなかったのですが、ここに来てアストリアさんが全てを解決する方法を見つけてくれたのです。

 

「では、お姉様?」

「お姉ちゃんに任せなさーい!」

 

 アストリアさんのアイコンタクトに、ダフネがそこそこある胸をどーんと張ります。

 

「みんなっ! 今週末のホグズミードは、ルーピン先生のイメチェンでいい?」

 

「「「おおーっ」」」

 

 

 **

 

 

 そして週末の土曜日、よく晴れたホグズミード村にて。

 

 

 そこには、どこからか噂を聞きつけて集まっていた大勢の女子に囲まれて、大層困惑しておられるルーピン先生がいました。

 

「えーっと、君たちの気持ちは嬉しいんだが……」

 

 なんだか苦笑いを浮かべるルーピン先生。

 

「私はその、恥ずかしいことに、あまりお金の持ち合わせが……」

「出世払いで構いませんよ。私たちが出します」

「いや、そういうのは学校の規則的に……」

「監督生のファーレイ先輩に頼んで、ダンブルドア校長から特別許可証はもらっておきました」

「………」

 

 金貨の詰まった袋と特別許可証を目の前に突き出すと、ルーピン先生は何も言えなくなってしまいました。

 

 

 

「ダンブルドアはいったい何考えてるんだ……」

「元から頭おかしかっただろ、ダンブルドアは」

 

 ちょっと離れた場所でロンとドラコがぼそぼそと呟くのを尻目に、私たちは大通りへレッツゴー。

 

 いざ、ショッピングの始まりです。

 




 貴族というか名家は見栄張ってナンボだから、見た目がみすぼらしいと気になるフォイ。
 
  
 魔法使いの正装がスーツでいいのか、という点についてはファンタビのテセウス・スキャマンダーと部下の闇祓い達、若い頃のダンブルドア、MACUSAのグレイヴスなんかのスーツ姿がやたらキマってたり、ファッジ、スクリムジョール、魔法省勤務時のパーシーもスーツだったので、魔法界でも英国紳士の正装はスーツなんだろうなと。
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