ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第14章 ~恐怖の敗北~

 

 10月に入る頃には、すっかり新しい授業にも慣れてきました。

 

 数占いは相変わらず難しいですがそれだけに理解できた時の充実感もあり、古代ルーン文字の授業はごく普通に文法とかを学んだりする感じなので可もなく不可も無く、といったところです。

 

 

 気にかかるのは、グリフィンドール戦を控えたクィディッチです。天候が明らかに悪化していくため、面倒くさくなった私はフリント先輩にダメ元で言ってやりました。

 

「いっそドラコの腕が悪い事にして、延期しません?」

 

「おっ、それアリだな!」

 

 そんな感じの軽いノリでスネイプ先生に直談判すると、先生は底意地の悪い笑顔を浮かべて返してくれました。

 

「ふむ、一理あるな。よかろう、吾輩から話を通しておこう」

 

 あっさり延期してくれました。

 

 グリフィンドール・チームはカンカンでしたが、勝負に手段は選ばないというのが我がスリザリンの信条です。それに私としても、去年の敗戦に思う所が全く無いわけではありません。

 

 そして何より、キャプテンのマーカス・フリント先輩が落第さえしなければ今年で卒業だからです。事実上の引退試合なので、私もお世話になった義理もありますし、最後となるトーナメントでは有終の美を飾って欲しい、という気持ちも少なからずあります。

 

 

「ハッフルパフはチームを一新した!」

 

 

 10月になってフリント先輩が持ってきた知らせは、スリザリン優勝を危うくするものでした。

 

「あそこはキャプテンを新しく、シーカーのセドリック・ディゴリーに変えた! 他のメンバーも入れ替えて、どうなるか分からん」

 

 都合よく弱体化してる可能性もありますが、強化されてる可能性も低くありません。さらにメンバーの入れ替えによってハッフルパフが戦法を変えた可能性も高く、従来の対ハッフルパフ戦法が通用しないことが大いに考えられます。

 

 

 つまり今年はハッフルパフがジョーカーとなり、彼らと初戦で戦うチームが一番割を食うと言っても過言ではありません。

 

「いつもならハッフルパフと最初に当たるのはレイブンクローだが、あそこはシーカーのチョウ・チャンが怪我をしてから不調が続いてると聞く。ハッフルパフの勝利はまず揺るがないだろうが、ディゴリーの新スタイルが公になれば、ウッドの奴もすぐに対抗策を編み出すだろう」

 

 つまりジョーカーであるハッフルパフ初戦をグリフィンドールに当てれば潰し合ってくれるだろうという、一石二鳥の作戦なのです。

 

 

 

 ***

 

 

 

 という訳で、私たちはまんまとハッフルパフ戦をグリフィンドールに押し付け、病気で休んだルーピン先生の代わりにスネイプ先生がいきなり人狼について解説しだす謎イベントを過ごした後、今年の初クィディッチとなる土曜日を迎えたのでした。

 

「これは回避して正解でしたね……」

「まったくだ」

 

 私の言葉に、ドラコが嬉しそうに意地悪い笑顔を浮かべます。

 

「ポッターめ、いい気味だよ」

 

 その日の天気は大荒れで、文字通りの泥仕合になることが容易に予想されました。特に小柄で華奢な美少女の私には不利な環境です。

 

 すさまじい風と雨の中、雷鳴まで轟き始め、もはや試合がどうなっているのかよく分かりません。

 5分もすると、隣にいるドラコとクラッブ&ゴイルは傘をさしているにもかかわらず、びしょ濡れになっていました。

 

 

「……イレイナ、君はどうして濡れてないのか聞いても?」

「防水呪文を自分にかけたので」

「同じ呪文を僕たちにもかけてくれないか」

「金貨1枚です」

 

 金貨3枚を貰って、3人に防水呪文をかけてあげました。

 

 ぼそっと「ぼったくり……」という恨みがましい声が聞こえましたが、市場価格というのは常に変動するものです。

 

 例えるなら、お祭りの場では原価1ポンドぐらいのホットドッグが5ポンドぐらいで売られていても、それでもいいから買いたいという人が多いので正当な値段になる、というのが市場価格。定価なんて幻想です。

 

 もし私が防水呪文をかけてあげなければ、ドラコたち3人は凍えて風邪をひいてしまうかもしれません。そう考えると、むしろ良心的な価格設定とさえ言えます。

 

 

「そもそもドラコがしっかり勉強して防水呪文を使えてれば、1クヌートたりとも払う必要なかったのでは」

「割と正論でトドメ刺さないでくれ」

 

 

 そんな話をしている間にも、試合は進んでいきます。

 

 

「悪天候にしては、グリフィンドール粘ってますね」

「ああ。ハッフルパフの新戦法による初見殺し効果はあるみたいだが、それ以上にハッフルパフがまとまり切れてない」

「まぁ、時間もありませんでしたしねぇ」

 

 ハッフルパフのチーム再編は、敵だけでなく自軍にも少なからぬ動揺をもたらしており、当のハッフルパフ・チーム自身がまだ新スタイルに慣れていないようでした。

 加えて私たちスリザリンによる急なスケジュール変更で、当初より1か月も早く初試合になってしまったという不運も重なります。

 

 

「もともとハッフルパフって防御重視で、さらに防御偏重に変えたみたいですけど……」

「いまいち利点を使いきれてない。クアッフルのスティール成功率は上がったが、それだけだ」

「ですよねぇ。奪ったクアッフルのパス回しが、うまく繋げられてないと言いますか」

 

 

 ちなみに私が何故こんな悪天候のなか観戦しているのかというと、一応は選手として視察をしなければならないからです。

 

「急ごしらえのチームにしてはハッフルパフも粘ってるが、やっぱり決定打に欠けるのが痛いな」

「このまま長期戦になれば、ベテランの多いグリフィンドールの方が有利ですもんね」

「ディゴリーには期待してたんだが、案外ふがいないな」

 

 

「――でも、この悪天候では一発逆転があるかも知れませんわ」

 

 

 ドラコと二人で「こりゃグリフィンドールの勝ちかなー」なんて思っていたところ、横から声をかけられました。

 

「おや、アストリアさん」

「ごきげんよう。イレイナさん、マルフォイ先輩」

 

 大雨の中、優雅に礼をするアストリアさん。彼女も防水呪文をかけているようで、背後にクラッブ&ゴイルよろしく付き従っているカロー姉妹も、雨などどこ吹く風です。

 

 

「一発逆転というのは、ディゴリーの事かい?」

 

 ドラコがせせら笑います。

 

「別にポッターの味方をするわけじゃないが、あんなデカブツがシーカーじゃ勝ち目は薄いさ」

 

 シーカーは軽くて素早い小柄な選手がなるもの、というのが常識です。もちろん箒の腕次第では大柄な選手がシーカーになることも無くはないですが、ハリーの腕はディゴリーさんに劣らず、箒の性能でも負けていないことを考えれば、不利だと考えるのが普通でしょう。

 

 

 ですが、アストリアさんの意見は違うようでした。

 

「この悪天候ですよ? ポッター選手はやや風に煽られ気味ですし、ニンバス系の箒の弱点は尾の先端に僅かな傾斜があって、これが強風を受けて減速する事例もあります」

 

 意外と詳しいアストリアさんに、思わずドラコと顔を見合わせます。

 

「へぇ、随分と詳しいじゃないか」

 

 

 その時でした。

 

 

 突然、競技場にサーッと気味の悪い沈黙が流れたかと思うと、冷たい波が全身に押し寄せるような感覚に襲われます。

 

「この感覚………まさか」

 

 辺りを見回すと、ピッチの方で何かが蠢いていました。目を凝らすと、少なくとも100人の吸魂鬼が立っていて、見えない顔を宙に向けています。氷を押し付けられたような感触が胸にひたひたと込み上げ、身体の中を切り刻まれているようでした。

 

「どうして吸魂鬼がこんなところに……!」

 

 顔面蒼白になって呻き声をあげるドラコに、気を紛らわせようと「クィディッチ観戦に決まってるじゃないですか」とクソリプで返した直後、事件は起こりました。

 

 

 ―――ドサッ。

 

 

 音がしたのは、私の左にいるドラコと反対側……右で観戦していたアストリアさんのいた場所からでした。

 

 

「「アストリア!?」」

 

 

 双子のカロー姉妹が同時に声を上げ、振り返ると、膝から崩れ落ちるアストリアさん姿が目に入ります。

 

 

「おい、大丈夫か!?」

 

 ドラコが慌ててアストリアに駆け寄り、脈を確かめます。

 

「ぁ……」

 

 苦しそうに呻くアストリアさんの顔は蝋燭の様に真っ白で、ぐったりと力の抜けた身体はか細くて。

 

 どう見ても尋常じゃない様子に、双子のカロー姉妹たちも気が動転しています。

 

 

「まずいな、体温が下がってる気がする……」

「スネイプ先生のところまで運びましょう」

「わかった」

 

 そう言うとドラコはアストリアさんを一旦うつ伏せにして、正対した彼女の腋の下から自分の首を差し入れた後、肩の上に相手を担ぎ上げました。

 

 これは消防士や軍隊で人を担ぎ上げて運ぶための技術でファイヤーマンズキャリーと呼ばれ、クィディッチでも試合中に倒れた選手を急いで運ぶために一応は学びます。

 

 

「あまり揺らさないでくださいね」

「分かってる」

 

 魔法で浮かせるというのも一つの手ではありますが、こうも周囲に人が多いと杖が誰かにぶつかった際にコントロールを失ってしまうリスクもあるため、昔ながらの方法で慎重にアストリアさんを運んでいきます。

 

 

 

 教員席につくと、ちょうどカンカンに怒ったダンブルドア校長が「守護霊の呪文」で吸魂鬼を撃退し、アストリアさんと同じように気を失って箒から落ちたハリーを浮かせているところでした。

 

「先生!」

 

 私たちが駆け込むと、すぐに事態に気づいたスネイプ先生が駆けつけ、脈と体温を測ってから小さな小瓶を取り出します。

 

「グリーングラス、吾輩の声が聞こえるか?」

「ぅ……はい……」

 

 消え入りそうな声で答えるアストリアさんは辛そうでしたが、まだ意識はあるみたいです。

 

「飲むんだ。気休めだが、しばらくは楽になる」

 

 スネイプ先生が小瓶を飲ませると、徐々にアストリアさんの蒼白だった顔色に赤みがさしていき、呼吸も段々と落ち着いていきました。

 

 

 それからダンブルドア校長が硬い表情でいくつかの呪文でアストリアさんの体調をチェックしたところ、貧血と軽めの低体温症に疲労が重なった可能性が高いとのこと。

 

「セブルス、ポピーに連絡を」

 

 スネイプ先生に素早く指示を出してから、ダンブルドア校長は魔法で担架を2つ出現させました。

 

 そして浮かぶ担架にアストリアさんとハリーを乗せ、そのまま自分で直接二人を医務室まで運んでいきます。その後をロンとハーマイオニー、カロー姉妹が追いかけるのが見えました。

 

 

 校長先生が去っていくと、どっと疲れが一気に押し寄せてきます。

 

「まさか吸魂鬼が来るとは……」

「まったくだ。しかし、あのアストリアが気絶するなんてな」

 

 意外そうな顔をしているドラコですが、思う所はあるのでしょう。

 

 まぁ、たしかにアストリアさんはダフネの妹というだけあって、お嬢様ぶっても中身は結構アレな部分があります。

 それだけに普段のイメージと違う、弱々しい姿は私としても少し衝撃でした。

 




 ドラコも根は良いヤツなんだフォイ。
  
 今日は金曜ロードショーで「炎のゴブレット」放送なので、合わせて投稿しました。
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