ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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※独自設定・解釈があります。


第06章 ~スリザリン寮~

 校歌の後、私たち1年生は美人の監督生に連れられて寮へと案内されました。

 

「なぜ地下牢……」

 

 玄関ホールから連れられた先は行き止まりになっていて、明らかに地下牢だと分かる鉄格子までありました。創設者サラザール・スリザリンの、なんというか独創的なセンスが窺えます。

 

 

「パーセルマウス!」

 

 監督生のジェマ・ファーレイさんが叫ぶと、行き止まりだった石造りの壁がするすると開いていきました。

 

 1年生が驚く様子を見て、悪戯っぽく微笑むファーレイさん。緑の瞳にミディアムショートの黒髪、モデルのようなプロポーション、自然体で色々なところに余裕と自信が感じられ、緩いけどしっかり集団を統率できるタイプなのが伝わってきます。

 

 

「今のは合言葉よ。2週間ごとに変わるから、談話室に張り出される新しい合言葉を忘れないでね」

 

 

 聞けば、それなりにセキュリティ体制も構築されているようです。ですが、私はそれよりも談話室の光景に目を奪われてしまいました。

 

 

(てっきり地下牢の談話室というから、下手したら刑務所の食堂みたいなのが出てくるかもと思ったのですが……)

 

 

 スリザリンの談話室は、中央部に大きな黒革のソファーが置かれた、細長くて天井の低い地下室でした。壁と天井は荒削りの石造りで、天井からは丸い緑がかったランプが鎖で吊るされています。暖炉には壮大な彫刻が施され、談話室に置かれた椅子にまで彫刻が彫られていました。

 

 

 しかし何より私の興味を引いたのは、談話室の窓から見える光景です。どうやらホグワーツ湖の水中に面しているようで、窓からは巨大イカや魚がのんびりと泳いでいる姿が見えました。それが月明かりに照らされると幻想的な美しさで、ちょっとした水族館、あるいはアクアリウム・ラウンジのよう。

 

 

 地下にあるのでどうしても冷たく陰気な印象を完全には拭えませんが、大理石の床や柱が醸し出す荘厳な雰囲気と、談話室を包む緑色の優しげな光のおかげで、歴史ある高級ホテルといった趣きがありました。

 

 

 

「1年の荷物はもう寝室に運ばれてるから、あとは各自で就寝の準備をするように。では、解散!」

 

 監督生のファーレイさんから解散命令を受け、私たち新入生はそれぞれ寝室へと向かいます。ドラコたち男子と別れ、女子寮へと足を運びました。さて、どんな部屋なのでしょうか。

 

 

「ふむ、こちらも中々」

 

 寝室の方も、談話室と比べて遜色ない豪華なものでした。

 

 絹で出来たグリーンのカーテンがついた、4本柱のアンティークなベッド。カバーには銀色の刺繍がされ、天井からも銀色のランタンが吊り下げられています。壁の方を見れば、マーリンなど有名なスリザリン生の冒険を描いたタペストリーが飾られていました。

 

 

 **

 

 

 明日に備えて荷物を整理しようとしていると、3人の女の子が入ってきました。黒髪、茶髪、金髪と見事なグラデーション。

 

「アンタ、えーっと」

 

 最初に話しかけてきたのは、少し甲高い声にパグ犬のような顔をした黒髪の女の子でした。組み分けの時にチラッと見かけましたが、なんとなく高飛車で気が強そうな印象です。名前はたしか……。

 

「パーキンソンさん、ですよね?」

「そうよ。聖28一族のパンジー・パーキンソン。あなたは?」

「イレイナです。イレイナ・セレステリア」

「セレステリア……どっかで聞いたような」

 

 

 残る二人も心当たりがあるような無いようなといった表情をした後、ウェーブがかった金髪の少女が「あっ」と声を上げました。

 

 

「セレステリアって、あの成金の?」

 

 なんですと?

 

「あ、ごめん」

 

 金髪の少女が慌てて口を抑えるも、もう遅いです。

 

 残る2人もハッと気づいたような顔をしているんですが、ウチの一族はそんな陰口を叩かれてるんですか。

 

 

 とりあえず金髪の子に視線を向けると、なんとかその場を取り繕おうという魂胆丸見えの苦笑いが。大きなエメラルドの瞳に、すっと通った鼻筋、きめ細やかな白い肌、華奢な細身……私ほどではありませんが、十分に可愛い部類です。

 

 きっと今まで愛嬌で甘やかされてたんでしょうが、同格かそれ以上の美貌を持つ私には通じません。

 

 

 私は可能な限りニッコリと満面の笑みを浮かべ、礼儀作法についてわからせるべく、不届き者の名前を尋ねました。

 

「そういえば、まだお名前を聞いていませんでしたね? どちら様で?」

「だふ……いや、ミリセントだよ」

「おいこらダフネ、勝手に人の名前を騙ってんじゃねぇぞ」

 

 それまで黙って腕組みしていたガタイの良い茶髪の女子が食って掛かると、ダフネと呼ばれたパツキンは「うぎゃっ」と情けない悲鳴を上げます。

 

 

 

 それを見てパンジーと名乗ったパグ犬顔の黒髪が、呆れたように小さくため息を吐きました。

 

「この金髪がダフネ・グリーングラスで、こっちの大きいのがミリセント・ブルストロード。どっちも聖28一族よ」

 

 グリーングラスにブルストロード。魔法界を代表する28の名門、聖28一族で二人とも立派な貴族です。

 

 3人の様子から見るに、どうやら純血の名門同士、入学前から付き合いがある様子。こういうコネもまたスリザリンの強みであり、少数派の純血一族が長年にわたって魔法界を牛耳ることができた大きな理由です。

 

 

 そして名門といえば貴族。貴族といえば、我がイギリス魔法界には「本当の貴族は働かない」という格言があります。

 本人が汗水垂らして稼がないと食っていけないというのは労働者階級の証で、そんな泥臭いことをせずとも先祖代々の土地や資産だけで食っていけるのが正真正銘の「貴族」階級なのです。

 

 例外的に高級官僚や弁護士、学者なんかは公益性の高さから貴族でも就職しますが、どちらかといえば食うための職業というより「高貴なる義務(ノブレス・オブリージュ)」としてボランティアの側面が強く、報酬はそれほど高くありません。

 

 そんなわけで聖28一族の多くは、不動産収入やら先祖が発明した魔道具の特許収入なんぞで稼いでいるのが大半です。

 

 

 

 ですが、文明の発達に伴う分業化・専門化の波は魔法界とて例外ではありません。餅は餅屋というように、不労所得の運営・維持・管理も専門家に任せた方が効率的になってきます。

 

 そこで台頭してきたのが、セレステリア家をはじめとする新興の純血(と言い張ってる)貴族です。セレステリア家も元々、こうした貴族の代官とか御用商人のような存在だったらしいのですが、徐々に聖28一族に及ばずとも準ずる名門へと発展していきました。

 成金とか言ってはいけません。世の中、血より金です。

 

 

「ダフネさん、ひとつ良いことを教えましょう。1クヌートで笑える者は、1シックルで29回笑える――お金の豊かさは人生の豊かさですよ」

「言われてみれば、たしかに……」

「ダフネ、セレステリアの口車に乗せられない」

 

 パンジー、余計な事を。ウチの一族に恨みでもあるんですか。

 

「私のお爺さんがね、うっかりセレステリア家の口車に乗せられて酷い目にあったんだから」

 

「ほほう、それはどのような?」

 

 

 ぜひ聞かせてもらおうじゃありませんか。

 

 リスクの説明をきちんと聞かずに、放漫投資して「マネーゲームに騙された!」みたいな被害者ヅラする貴族は少なくありません。どうせパーキンソン家のご先祖様もその類で――。

 

 

「ゲラート・グリンデルバルドに投資するようにって」

 

 

「………」

 

 

 

 すみません、パンジーのお爺さん。その都度は大変ご迷惑をおかけしました。

 

 

 ちなみにゲラート・グリンデルバルドというのは、ヴォルデモート出現まで最も危険とされた闇の魔法使いのことです。

 

 ヨーロッパとアメリカで大暴れしていたものの、最終的にダンブルドアと決闘して敗北。自分で作ったヌルメンガード城の牢屋に、自分自身が閉じ込められるという因果応報な末路を迎えています。

 

 そして私のご先祖様なんですが、まぁ、その、早い話が相場師でした。

 

 「――時代はグリンデルバルド! ここは断然買いでしょ!」

 

 という予想をもとに、グリンデルバルドが拠点としていたドイツ魔法省の公債を吊り上げておきながら、いざダンブルドアが決闘の覚悟を決めるとこれをいち早く察知、慌ててバブル状態のグリンデルバルド株を高値で売りさばき、ダンブルドア株=イギリス魔法省公債を安値で買い叩きました。

 

 

 結果はご存知の通りダンブルドア勝利でしたので、イギリス魔法省公債は高騰して差額で大層な暴利をむさぼったそうな。

 

 

 まぁ、控えめに言ってクズですね。いったい誰に似たんだか。

 

 

「ご先祖様はさておき、生きていれば色々とありますよ。人生は長いんですから、前向きに生きましょう、パンジーさん」

「しれっと良い話風にまとめないで。ねぇ、ミリセントもニヤけてないで、なんか言ってやってよ」

 

「いや、まーたなんか濃ゆいのが来たなと」

 

 ふてくされるパンジーを宥めつつ、ミリセント・ブルストロードが握手を求めてきました。

 

 

 こちらは骨太でがっしりした印象で、パンジーやダフネと違って化粧っ気もあまり無く。バスケかバレーなんかやらせたら強そうな印象です。

 

「一応、よろしくな。イレイナ」

「ええ、こちらこそ。ミリセントさん」

 

 そう言ってミリセントと握手をすると、見た目通りの強い力で握りしめられます。こういう時、舐められたら負けです。

 

「へぇ、やるじゃん」

 

 負けじと笑顔で強く握り返すと、面白い物を見つけたチンピラのようにミリセントの眉根が吊り上がりました。

 

 

(なんだか癖の強い子ばかりですけど、退屈はしなさそうですね)

 

 それからしばらく4人で明日の準備をしながら話をして、順番に寝落ちしていったのがホグワーツで迎えた最初の夜でした。

 

 




イレイナのご先祖様の話と、スリザリン女子とのファースト・コンタクト。

 聖28一族はいわゆる「地主」的な古くからのジェントルマン階級に相当し、イレイナさんの一族は金融関係でのし上がった新興ジェントルマンということに。

 史実のイギリスでも20世紀以前の貴族はほとんど地主でしたが、20世紀以降は銀行家や貿易商人、実業家などが新興貴族として台頭、しかし両者は大陸に比べると対立するより協調関係にあり、魔法界でも概ね似たような感じかなーと。

イレイナさんの両親の現在の仕事などについては、後ほど触れたいと思います。
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