ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第17章 ~獅子寮 vs 鷲寮

      

 クリスマスがあけて春が近づく中、ホグワーツの関心ごとはもっぱらグリフィンドール対レイブンクロー戦に向けられていきました。

 

 

 そしてグリフィンドール対レイブンクロー戦の朝、大勢の護衛を引き連れてハリーが大広間に現れました。前々から噂はあったものの、どうやらハリーが最新鋭の箒であるファイアボルトを手に入れたという噂は本当だったようです。

 

 ハリーが入ってくると、グリフィンドール以外のテーブルからも興奮した囁き声が聞こえてきました。キャプテンのオリバー・ウッドも栄光の輝きに浸っているのか、ファイアボルトをテーブルの真ん中に置いてちょっとした展覧会を開いています。

 

 

 対して、ライバルたる我らがスリザリン・チームはと言いますと。

 

「こんなの嘘でしょ……」

「何故なんですか……!?」

 

 全員が雷に打たれたような顔になり、ドラコも「信じられない」といった顔をしております。

 

 

(ちょっと、不味いですね……)

 

 周囲の空気が変わるのが、肌で感じ取れました。

 

 

 ―――ファイアボルトなんかと戦って、勝てるわけがない。

 

 

 そんな感じの、投げやりな空気。勝つ前から敗北に備えて言い訳を考え出しているような、不穏な空気が漂い出していました。

 

 

 実のところ、選手の地力でいえばスリザリン・チームはさほど強い方ではありません。

 

 

 

 聞けば、グリフィンドール・チームは週に16時間も練習していたとか。私たちの場合は月曜と火曜、木曜と金曜に1.5時間ずつ、土曜の午前4時間と計10時間なので、単純比較で1.5倍以上の練習量です。

 

 ちなみにスリザリンの練習量が少ないのは、単純に勉強に支障が出るから。例えばキャプテンのマーカス・フリント先輩は卒業試験を控えており、落第を避けるためにジェマ・ファーレイ先輩ら同期に勉強を手伝ってもらっています。

 

 

 もちろん練習はきっちりこなすものの、練習時間が伸びたりすることは基本的になく、あくまで「与えられた時間内で可能な限り効率的に」というバランス重視のメニューとスケジュール。

 

 それ以上は「箒の性能差でゴリ押し」という、上流階級が多いが故の資金力にモノを言わせて試合を有利に進めていくスタイルで、やたら練習量を増やしたり死ぬ気で頑張るといった精神論や根性論は、むしろハッフルパフやグリフィンドールの方が強い傾向にあったりします。

 

 

 そのため、実のところ選手の実力だけでいえば見た目ほど強いわけではありません。フィジカルを重視しがちなのも、テクニックを磨く練習時間が相対的に短いがゆえに、テクニックの伸びに期待するより、その土台となるフィジカルの初期スペックで押し切ろうという戦略ゆえ。

 

 対してグリフィンドールはハンデだった箒の性能問題を解決したことで、これまで以上に強いチームに仕上がっていました。

 

 

「その箒、乗りこなす自信があるのかい? ポッター」

 

 なので、ドラコ・マルフォイの冷たい気取った声は驕りというより、むしろ不安の裏返し。

 

「特殊機能が沢山あるんだろう? パラシュートがついていないのが残念だなぁ――吸魂鬼が近くに来た時の為に」

 

 意地悪く光る眼の奥には、怖れの色がうっすらと。

 

 もし自分たちを覆う親の威光や先祖の血筋やら家柄やらの優位が失われた時、格下にいたはずの相手が同格かそれ以上の存在になってしまった時。

 

 

 ――果たして自分には何が残っているのだろうかと。

 

 

 そんな不安が、そうでない相手を攻撃せずにはいられないのです。

 

 

 **

 

 

 そして試合開始後、さっそくリー・ジョーダンの解説が始まります。

 

『さて本日の試合ですが、最大の目玉はなんといってもグリフィンドールのシーカー、ハリー・ポッター選手のファイアボルトでしょう。『賢い箒の選び方』によればファイアボルトは今年の世界選手権大会ナショナル・チームの公式箒になるということで――』

 

「ジョーダン、試合がどうなっているか解説してくれませんか?」

 

『了解です、先生。ところでファイアボルトには自動ブレーキが組み込まれており、さらに――』

 

「ジョーダン!」

 

 毎度おなじみ実況漫才が繰り広げられる中、ハリーはファイアボルトの性能をこれでもかと見せつけます。対してレイブンクローのチョウ選手は、ハリーをマークする戦術に変更しました。

 

 そしてチェイサー戦ではグリフィンドールが80点差でリードしているものの、レイブンクローも負けじと巻き返しを図っています。

 

 

 その時でした。

 

 

「―――お止めなさい!」

 

 

 背後で大きな声が聞こえたかと思うと、そこにはカロー姉妹を引き連れたアストリアさんが、フリント先輩とクラッブとゴイルを引き連れたマルフォイの前に立ちはだかっておりました。

 

 ドラコたちは大きな黒いローブを持っていて、「めんどくせー奴が来たな」みたいな顔のまま口を開きます。

 

「どいてくれないか、アストリア」

「そのローブを置いていけば、すぐにでも道を空けますとも」

 

 まったく、とアストリアさんが腰に手を当てて首を振ります。

 

「ポッター選手への恨みは根拠あるものかもしれませんが、こんな頭の悪い方法で騒ぎを起こそうとするなんて……」

 

 そこでようやく、私もドラコたちが吸魂鬼のフリをしてハリーを妨害しようとしていることに気づきます。

 

 まぁ、ファイアボルトにビビってどうにかしたい気持ちは分からなくないですけど、かといってこういう姑息な手段で足を引っ張ろうとするのも大人げないと言いますか。

 

 

 そんなことを思っている間にも、マルフォイとアストリアさんは双方一歩も引かずに喧嘩腰に。

 

「これは僕とポッターの問題だ。アストリア、君には関係ない」

「いいえ、私も伝統と格式あるスリザリンの一員です。たとえ先輩といえども、その品位を貶めるような行為は見過ごせません」

 

 アストリアさんの堅苦しい優等生のお手本みたいな台詞に、マルフォイがせせら笑います。

 

「なんだよ、ひょっとしてアストリア、君はポッターに気があるのかい?」

 

 つられてクラッブとゴイル、そしてフリント先輩までが小馬鹿にしたようなニヤニヤ笑いを浮かべました。

 

 

「あ、やば……」

 

 いつの間にか隣にいたダフネがそれを見て、口元を押さえます。

 

 そして彼女が止める間もなく、アストリアさんは表情の抜け落ちた顔で口を開きました。

 

 

「――礼節が(Manners)

 

 

 その声は静かで落ち着いたものでしたが、その場にいた誰をも釘付けにしてしまうような圧がありました。

 

 

作るのです(M a k e t h)

 

 

 アストリアさんの美しくも恐ろしい顔に、ドラコたちは後ずさりしようとしたものの、足が動きません。

 

 

魔法使いを(M a g e)

 

 

 そしてアストリアさんが目の前まで来ると、ドラコたちは突然足の感覚が戻ったように、よろめきながら狼狽えます。

 

「く、来るな!」

「あら、丸腰のレディに杖を上げるのですね」

 

 おろおろしながら無意識に杖を取り出したドラコ・マルフォイへ、挑発的にニッコリと笑いかけるアストリアさん。

 

「ですが、決闘なら負けるつもりはありませんわ」

 

 更に踏み込んできたアストリアさんに、さっと耳を赤くしたドラコ・マルフォイは「年下のくせに生意気な」みたいな顔で杖を振り上げます。

 

「ロコモーター・モル――」

 

 次の瞬間、目も留まらぬ速さでアストリアさんはローブの中から小さなガラス瓶を抜き放ち、ドラコの手元にぶつけて杖をはたき落とします。

 

「アクシオ-杖よ、来い!」

 

 慌てて杖を拾おうとしたドラコの目の前で、杖はアストリアさんの手元へ飛んでいき、バランスを崩してズッコケるドラコ・マルフォイ。

 

「てめぇ!」

 

 さらにアストリアさんは肩を掴もうとしたフリント先輩のローブの裾を引くと同時に、足を引っかけて東洋武術みたいな要領で転倒させました。

 

 慌ててゴイルが拳を振り上げるも、それより早くアストリアさんが杖を抜き放ちます。

 

「グリセオ-滑れ!」

 

 ゴイルがバランスを崩して引っ繰り返り、起き上がろうとしていたフリント先輩の上に落下。しかしアストリアさんの背後からはクラッブが忍び寄っており、ローブを掴んでそのまま羽交い絞めにしようと手を伸ばします。

 

 しかしアストリアさんは綺麗に体を捩じってするりとローブを脱ぎ、逆に「フェルーラ-巻け!」と呪文を唱えてクラッブをローブで拘束、そのまま身動きの取れなくなったクラッブの足を蹴って転倒させました。

 

 

「えぇ……」

 

 いくら優秀とはいえ1年生とは思えないほど、軽々と呪文を使いこなすアストリアさん。

 

 

 近くいた全員が唖然とする中、当の本人は悠々とドラコに近づいて。

 

「この前の借りがあるので、貴方には正当防衛以上の危害は加えません。ですが、次があったら容赦しませんわよ?」

 

 そのまま呆気にとられているドラコ・マルフォイに杖を返し、アストリアさんは競技場の方へ視線を移します。

 

「あら、グリフィンドールがスニッチを取ったようですわね」

「へ……?」

 

 つられて競技場へ目を向ければ、たしかにハリーがスニッチを取ったところでした。

 

 

「では、試合も終わった事ですし。ご学友をマダム・ポンフリーの所までお願いしても?」

「あ、ああ……」

 

 呆けた顔のドラコに向けて優雅に会釈し、「では、ごきげんよう」という貴族のテンプレみたいな台詞と共に、アストリア・グリーングラスは髪をふぁさっとかき上げて立ち去っていきました。

 

 その後ろには取り巻きの双子のカロー姉妹がキャーキャー叫びながら付いていき、自然と生徒たちがモーセの海割りのごとく道を開いていきます。

 

 

 

 スリザリン生が呆気にとられたような顔でアストリアの後ろ姿を見送る中、艶やかな黒髪を靡かせてやってきたのは監督生のジェマ・ファーレイ先輩。

 

「はいはい、見世物じゃないからねー。四馬鹿カルテットの黒歴史は心の中だけに留めて、先生たちにバレる前に解散しよー」

 

 ぱんぱんっと軽く手を叩いて生徒たちを解散させ、マルフォイ以外の怪我をした3人を「エピスキー-癒えよ」の呪文で応急処置していきます。

 

 

「ったく、4人ともあの子に感謝しなよ。吸魂鬼に変装して妨害とか、マクゴナガルあたりにバレたら50点ぐらいは減点されてただろうし。他にもまぁ、その………ふふっ」

 

 吸魂鬼っぽいローブを着て無様に倒れている4人を見て、ついに堪え切れなくなったようにプッ!と吹き出すファーレイ先輩。

 

「てか、4人ともダサくない!? 特にマーカス、いい歳して精神年齢3年生か!」

「わーってるよ! 好きに笑え!」

 

 バツの悪そうな顔になるフリント先輩にファーレイ先輩はけらけらと笑い、しれっと証拠品のローブを一瞬で燃やし尽くして事実を隠蔽します。

 

 ひとしきり笑い転げた後、ファーレイ先輩が今度は少し優しい声で言いました。

 

「いい? マーカスもドラコも、見た目以上に頭悪いんだから吸魂鬼を利用しようとか小賢しいこと考えんな」

「おっと、二重に貶められた気がするんだが?」

「私も他のスリザリン生も、アンタらに期待してるのはひとつだけ」

 

 ぐっ、と拳を前に突き出すファーレイ先輩。

 

 

「グリフィンドールもファイアボルトも、正面から蹴散らせ。ビビるな、男でしょ」

 

 

 にかっと笑う美人お姉さんに、フリント先輩とドラコが顔を見合わせました。

 

「やべぇ、オレまたアイツに惚れ直しそうなんだけど」

「見る目あると思いますよ、キャプテン」

 

 

 

 

 そんな感じでドラコたちが出ていった後、私とダフネも競技場を後にします。

 

「不安ですね……次の試合」

「でもまぁ、先輩の言う通りなんじゃない?」

 

 ダフネがあっけらかんと言います。

 

「別に試合で死ぬわけでも無いんだし、ごちゃごちゃ考えないで純粋に楽しめばいいと思うよ」

 

 確かに、その通りかもしれません。クィディッチなんて冷静に考えれば、試合のルール穴だらけですし。無心に目の前のクアッフルでも追っかけてる方が、一周回って健全のような。

 

 

「にしても、アストリアさんやりますね。前からあんな感じなんですか?」

「前から、あんな感じかな」

 

 凄いでしょーと胸を張るダフネが言うには、入学前から既に親に頼んで呪文の練習を始めていたとのこと。

 

「アストリアあんな性格だから、ドラコみたいなのとは喧嘩が絶えなくてさ、下級生だからってナメられないように張り切ってるんだ」

「まぁ、得てして第一印象が最悪な男女の間には恋愛が始まるものですよ」

「お姉ちゃんは応援しないかなー」

 

 くすくすと下らない話で笑い合う二人の美少女の声は、誰の耳に留まるでもなく。春の青空に消えていったのでした。

   




『Manners Maketh Mage』:マナーが魔法使いを作る
・グリーングラス家の家訓(捏造設定)。元ネタは某スパイ映画……ですが、一応、イギリスに中世から伝わる、とある神学者が残した格言でもあるそうな。
 
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