ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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 あけましておめでとうございます。2022年も何卒よろしくお願い致します! 

※引き続き、ドラコ視点でお送りいたします。


第22章 ~Never Give Up~

    

 雲行きが怪しくなる、とはよく言ったものだ。既に雨が降ることを皆が予想し始め、それを受け入れ始めている。

 

「やべぇよ、グリフィンドールの連中」

「むしろクアッフルをスティール出来ただけ大健闘じゃない?」

「それなー」

「ていうか、自爆し過ぎてウケるんですけどw」

 

 観客席の傍を横切った時、そんな言葉が身内のスリザリンからもチラホラと聞こえ始めて。競技場全体がグリフィンドールの勝利を期待する空気に包まれて。

 

 真綿で首を絞めつけるような空気は、徐々に選手たちにも伝播していく。ビーターの振る棍棒の動きにはキレが無くなり、キーパーのブロックには精彩さが欠け始めている。

 

 

 そしてついに、最後まで士気を維持していたチェイサーにも、諦めムードが伝染し始めた。フリント先輩のノールックパスに対して、集中を欠いたピュシー先輩の動きがワンテンポ遅れたのだ。

 

 

 たかがワンテンポ、されどもワンテンポ。優勝杯を目前にした試合では、一瞬の気の緩みが命取りになる。

 

「っ―――」

 

 すぐさまグリフィンドールのアリシア選手がスティールを仕掛け、ピュシー先輩はタックルでそれをブロックしたものの、落ちていくクアッフルはアンジェリーナ選手の手に。

 

 

 グリフィンドールはすぐさま陣形を組み、ホークスヘッド陣形――3人のチェイサーが矢じり型の陣形を組んでゴールに向かう戦法――でゴールに突撃していく。

 

 自陣を見やれば、2つのブラッジャーに追われているピュシー先輩、フリント先輩はブラッジャーを振り切ったものの距離が遠く、スティールの苦手なイレイナはホークスヘッド陣形を攻めあぐねている。

 

 

 ―――このままだと不味いっ。

 

 

 次の瞬間、考えるより先にニンバス2001の柄に張り付くように僕――ドラコ・マルフォイは身をかがめた。

 

(やらせるもんか……!)

 

 咄嗟に思いついた技は、ウロンスキー・フェイントを装った、進行方向の妨害。

 

 本来はスニッチを見つけたと見せかけて突っ込む、フェイントのひとつだ。だが、今回の標的はポッターではない。箒の角度と速度を計算して、ウロンスキー・フェイントに見せかけつつ、ホークスヘッド陣形を組むグリフィンドールのチェイサー目がけて突っ込む。

 

 

「なんだアイツ――」

「あのバカ来やがった!」

 

 意図に気づいた双子のウィーズリー兄弟が慌ててブラッジャーを打ってくるも、さらに加速して僕は突っ込んだ。

 

 

「きゃあッ!」

「ッーー!?」

 

 そして計算通り。ニンバス2001が思い切り突っ込んでくるのを見て、ラフプレーを仕掛けられると勘違いしたグリフィンドールのチェイサーが散り散りになっていっく。

 

「――おっと!」

 

 クアッフルを持つジョンソンと激突する寸前、ギリギリのラインで彼女の箒の穂先が肩を思い切りかすめていく。

 鈍い痛みが左腕から肩にかけて服と肌を切り裂き、痛みで体が悲鳴を上げた。それでも、そのままバレないように、最後までウロンスキー・フェイントを演じ切る。

 

 

 ファウル判定スレスレではあったが、身を切った甲斐もあってかペナルティを告げるホイッスルは鳴らなかった。

 そして計画通りにグリフィンドールのチェイサーたちの陣形は崩れ、バランスを崩したジョンソンは不安定な体勢でなんとか箒に留まろうとして。

 

 

 

 ――その真横を、灰色の髪が駆けていった。

 

 

 

「イレイナ!」

 

 不意を突かれたウィーズリー兄弟のブラッジャー攻撃をかいくぐり、イレイナは突っ込んでいく。何の捻りもない正面突破……普段の彼女なら絶対にやらない。

 

 それでも、今はやるしかない。

 

 

「させるかッ!」

 

 イレイナのすぐ後ろからは、グリフィンドールのチェイサー、アリシア・スピネットが迫っていた。何としてでもスティールしてやろうと、油断なくイレイナの一挙一足を見据えている。

 

 

 すると、イレイナは予想外の行動に出た。

 

 

「よっ」

 

 

 イレイナは高度を下げ、いきなり胸に手を伸ばしてユニフォームのマントの紐を解いて脱ぎ始めた。そのまま脱げたマントは空気抵抗で後ろに広がっていき、真後ろでぴったりとくっついていたアリシア・スピネットの顔を包み込もうとする。

 

「きゃっ!?」

 

 どうにかスピネットは箒の向きを変えて回避するも、距離を空けたイレイナは一気にゴールへと突っ込んでいった。

 

 

 だが、スピネットを振り切った先にいるのはケイティ・ベル。彼女は正面からイレイナに突撃し、そのままクアッフルをスティールしようとする。

 

「逃がさない―――よ?」

 

 距離が箒ひとつ分ぐらいまで迫ったところで、イレイナはまさかの行動に出た。

 

 

 

「とうっ」

 

 

 

 クアッフルを抱えたまま箒から飛び降り、唖然としている敵チェイサーの真下をくぐり抜けた後、落下しながら澄まし顔で呪文を唱えたのだ。

 

 

「アクシオ-箒よ、来い」

 

 

 そして呼び戻した箒を片手でキャッチして、曲芸のように宙返りして飛び去っていくイレイナ。

 

 

 

(この場で「空中離脱」だって……!?)

 

 

 

 パフォーマンスでやる分には見栄えする技だが、ぶっちゃけ試合で使う選手はまずいない。

 難易度が高い割に失敗すると普通に大怪我するため、どう考えてもデメリットにメリットが釣り合ってないからだ。案の定、マダム・フーチは渋い顔してる。

 

 

 それでも――。

 

 

「イレイナー、かっこいいー!」

「アンコール!もっかい見せろー!」

 

 観客の反応は上々だ。ダフネとミリセントが叫び、スリザリンだけでなくグリフィンドールの連中までがどっと沸いている。

 

「ナイスプレー!」

「今の惚れたぜ!」

 

 ウィーズリー双子は敵に対して拍手喝采しているし、手を叩いている観客もいれば、目を丸くしている観客、眉をひそめている観客など反応は様々だ。

 

 

「まったく、何やってんだか……」

 

 

 でも、イレイナは遊びでもなんでもなく、本気で1つの戦法として効果的に使用して敵のチェイサーを回避したばかりか、キーパーのオリバー・ウッドの不意を完全に突いた。

 

 

 そして――。

 

 

「イレイナ! 決めろぉッ!」

 

 つい熱が入って、らしくもなく叫ぶ。

 

 ウッドが動くより早く。

 真っ直ぐに、一直線に。

 

 計算され尽くされた角度から矢のように放たれたクアッフルは、どこまでも合理的でありながら優雅に。

 

 

 ―――ひゅんっ、と。

 

 

 風を切って、音も無くゴールに吸い込まれた。

 

 

「あ……」

 

 たぶん、時間が止まったように感じたのは僕だけじゃない。その瞬間は、誰もがぼんやりとクアッフルの行方を追っていたと思う。

 

 

 一秒が永遠にも感じられるぐらい、しなやかなシュートは闇夜を切り裂く彗星のようで。

 

 

 

「「「うぉぉぉおおおおおおおーーーッッ!!!」」」

 

 

 

 完璧なシュートに、会場が一斉に沸き立つ。もうスリザリンもグリフィンドールも関係なく、ハッフルパフやレイブンクローからも「マジかよ!?」とか「アイツやべぇ!」みたいな感嘆の声が聞こえ、1人の選手としてイレイナのプレーを讃えていた。

 

 

 

(本当に、君は……いつも美味しいとこだけ綺麗に持っていくな)

 

 

 だが、ここからが本番だった。

 

 

 イレイナはドヤ顔でゴールの周りを飛び回ると観客に一礼すると、呪文を唱えながら杖をひと振りした。

 

 次の瞬間、杖先から火花がバチバチ走ったかと思うと、みるみる内に燃え上がって緑色と赤色に輝く巨大なドラゴンへと変身していくではないか。

 

 

「セレステリア! 試合中に関係ない――いや、関係ある魔法はもっとダメなんですが――ええっと、試合に集中なさい!」

 

 

 マダム・フーチが杖を出して呪文で消そうとするも、ドラゴンは逆に巨大化してしまい、観客席の真上を悠然と飛んでいく。

 

 さらにイレイナが杖を指揮棒のように振ると、ドラゴンは観客席の上に火の粉をシャワーのように巻き散らしながら、鼻と口から不気味な紫色の煙を噴き始めた。

 

 

 もちろん、観客席からは歓声の嵐だ。

 

 

 そして当のイレイナはようやく杖をしまったかと思うと、おどけるように右手をくるくる回して観客席に敬礼し始めた。

 たった10点しか取ってないのに、まるで試合に勝ったかのような大盛り上がりだ。そして誰よりも、イレイナ自身が楽しんでいるように見える。

 

 

 

(そういえば、去年もフリント先輩がしょーもないジョークで試合前の緊張をほぐしてたな……)

 

 今年はファイアボルトの恐怖に呑まれてしまったみたいだけれど、きっとイレイナは忘れていなかったんだ。本当に辛い時、挫けそうな時こそ、茶目っ気が必要なんだって。

 

 

 

「余裕だな! 君は」

 

 すれ違い様、そんな事を言ってみる。すると彼女は案の定、けろっとした顔で。

 

「だって、この流れで巻き返した私、どう考えてもヒーローじゃないですか」

 

 自信たっぷりに言ってのけるものだから。

 

 

(全くだよ。たった10点で流れが変わりかけている)

 

 

 つい、頬が緩んでしまう。

 

(ほんと、無茶苦茶だ……!)

 

 素直に賞賛したい気持ちが沸き上がってくると共に、不意に込み上げてきた正体不明のもどかしさが、それを口にすることを阻む。

 

 それは純粋な羨ましさと、少しの妬ましさ。そして、たぶん小さな対抗心だ。

 

 そりゃイレイナが守られるだけの、か弱い女の子じゃないことぐらい知っていたけれど。そんな彼女に頼りっぱなしというのも男が廃る、とちっぽけなプライドに火が着く。

 

 

 こっちも良いとこ見せないとな、と思った次の瞬間。

 

 

 

 ―――僕は、心臓が止まるようなものを見た。

 

 

 

 芝生の1、2メートル上には、金色に煌めくものが。

 

 

 

「っ――」

 

 頭で考えるより早く、箒を急降下させていた。

 

 条件反射で動けたのは、日頃の訓練の賜物だろう。けれども、油断はできない。離れた場所にいたポッターも、すぐスニッチの存在に気づいて箒を飛ばしてきた。ファイアボルトとの性能差を考えれば、かなり際どい。

 

 

『ハリー・ポッターが、スニッチを追うマルフォイに急接近しています! クソッ、ブラッジャーがハリーに――すげぇ、避けた! さすがファイアボルトだぜ!』

 

 

 飛んできたブラッジャーを、ポッターは箒の柄にぴったりと身を伏せることで、速度を落とすことなく躱していく。そして――。

 

 

『よし! ハリーがマルフォイの踵に追いついた!』

 

 

 観客が一斉に、息を吞んだような音が聞こえた。

 

「行け!行け!行け!」

 

 すぐ後ろでは、ポッターが箒を鞭打っていた。箒の性能差もあってか、徐々に距離が縮まっていく。

 

「やらせるか!」

 

 ポッターが並ぶ寸前、わずかに行き先を遮るように箒を動かす。進行方向をブロックされたポッターが僅かに逸れ、少しだけ再び距離が空く。それでも、せいぜい稼げる時間は10秒かそこらだろう。

 

 

『ハリーとマルフォイ両選手、互いに一歩も譲りません! ですが、このままだと地面に―――』

 

 

 初めてリー・ジョーダンがマトモな解説してるな、なんて場違いな事を考える。いつものグリフィンドール贔屓をする余裕も消えたのか、慌てた声で何か叫んでいるけど、それも耳を切る風の音で聞こえなくなっていく。

 

 視界の端では観客まで一斉に立ち上がっているような気配を感じたけど、構わず地面に向かって加速する。

 

 

 一秒でも早く。最速で、最短で。まっすぐに、一直線に。

 

 

「おおおおおおおおおおおおおッ!!!」

「あああああああああああああッ!!!」

 

 

 僕とポッターの叫び声が重なる……ということは、完全に横に並ばれたということだ。箒の性能差を考えれば、あと3秒もかからずポッターが前に出る。

 

 

 ――でも、させない。

 

 

「うぉぉおおおおおおおおおッッ!!」

 

 

 箒から手を放して、身を乗り出す。

 

 地面はもう目と鼻の先で、芝の一本一本までが見える距離だ。それでも、退避するという選択肢だけは無かった。

 

 

 ――去年のように、怯えて負けるのはもうゴメンだから。

 

 

 代わりに、前へ前へと腕を突き出す。

 

 

(届け……ッ!)

 

 

 すぐ隣には、ポッターの手が。もう数インチでスニッチに指先が触れる。

 

 

 ―――そして。

 

 

 2つの手がスニッチをキャッチする寸前、黄金のスニッチはひらりと向きを変えてしまった。

 

 

「え」

「あ」

 

 

 上昇反転する間もなく、そのまま僕は地面に激突した。辛うじて直前で箒から飛び降りたけど、そのまま地面を何度も何度も転がっていく。

 

 頭のすぐ上では、ギリギリで急降下からの反転に成功したポッターが飛び去って行くのが見えた。全身打撲で身体中がズキズキと痛む中、せめてもの幸いはスニッチが再び行方をくらませたことぐらいだ。

 

(ファイアボルトめ……)

 

 箒の性能差を見せつけられたような気がして、ついペッと地面に唾を吐いてしまう。

 

 

 

「まったく……自殺なら他所でやってくれませんかね」

 

 ふと顔を上げると、灰色の髪をふわりと風になびかせたイレイナの呆れ顔。片方の手には僕のニンバス2001が握られていて、どうやら彼女が回収してくれたらしい。

 

「少し箒から転んだだけさ」

 

 そう返して肩をすくめてみせようとしたけど、ちょっと身体を動かしてだけでも痺れるような痛みが全身を貫いた。原因は明らかで、どんどん痛みは酷くなっていく。

 

 

 そんな僕の様子を見て、イレイナが顔をしかめた。

 

「フーチ先生に頼んで、試合を一時中断しましょう。ドラコ、あなたは――」

 

 その先を言われる前に、無理やり腕を動かして遮る。呆れたような美貌を真っ直ぐ見据えて、皮肉っぽく笑う。

 

「敵前逃亡はガラじゃない。僕だって、そのぐらいの意地はある」

 

 さらに呆れ返った顔になった彼女に、構わず続けた。

 

 

「それに、もし今から巻き返したら――今度は僕がヒーローだろう?」

  




 イレイナさんの空中離脱は魔女旅で見せた技で、本作だと実用的というよりはパフォーマンス技という扱い。

 そんなイレイナさんに触発されてか、スポーツで堂々と打倒ハリーを目指すフォイ。闇の魔術にのめり込んだりはしない・・・。
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