ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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 ※今回はアストリア視点でお送りいたします。


第23章 ~迷子の気持ち~

 

 いけすかない男――。

 

 

 それがわたくし、アストリア・グリーングラスから見たドラコ・マルフォイの第一印象でした。

 

 

 昔パーティーで見た時、まず気になったのはワックスで固めたオールバックヘアに青白い顔。本人はカッコいいと思っているのかもしれませんけど、ぶっちゃけ微妙。気取った話し方といい、やたら家柄を自慢するのも、純血というだけで偉そうに周囲を見下すのも、とにかく何かと鼻に付く先輩でした。

 

 

 そんな風に言った後なので少し気は引けるのですが、私は人並み以上に努力家だという自負がありました。家柄や血筋に頼るのではなく、自分の力だけで魔法の腕を磨いていったという、強い自負が。

 

 

 ――自分の身は、自分で守らないと。

 

 

 それは『血の呪い』をこの身に受けた時から、常に自分に言い聞かせてきた言葉。両親やお姉様は優しくしてくれるけど、いつも傍にいられるわけじゃない。

 

 その証拠に、両親やお姉様のいないところでは、身体が弱いせいでイジメを受けることもありました。

 当然、小さかったわたくしは世の中の理不尽さに、泣いて泣きまくること一度や二度ではありません。

 

 

 でも、冷静に考えたら気づいてしまったのです。

 

 

 ――やっぱり、わたくし、何も悪くないのでは?

 

 ――身体が弱いからという理由で、ナメてくる方が悪いのでは?

 

 

 という訳で、段々とムカついてきた私は必死に体術を勉強して、からかってきた連中をまとめて返り討ちにしてやりました。他にも空になった薬の瓶で、髪を引っ張ってきた奴をぶん殴ったりだとか、猛獣のように噛みついてやったりだとか、ありとあらゆる手段で自己防衛。

 

 もちろん売られた喧嘩を買うだけじゃなくて、そもそも舐められないように、誰も文句を言えないような人間になるための努力もしました。

 

 

 結局、世の中は強くなくては生きてはいけません。

 

 ですから、どこまでも強くなるのだと。

 こんな場所で、倒れてやるものかと。

 

 

 辛い時も、甘ったれるなと自分を奮い立たせて。

 痛くて泣きそうなときも、私は歩き続けました。 

 

 誰の手を借りることもなく。

 誰の背中も頼ることもなく。

 

 1人でも、強くなれると信じて。

 

 

 ――そう信じた想いが、力になって。

 

 

 いつだって、私の心を支えていた。

 

 

 ――そうして、歩き続けて。

 

 

 色んなことを経験して。様々なことを体験して。

 どこまでも高く飛べるように。どこまで遠く歩いていけるように。

 

 

 

 ―――それなのに。

 

 

 

 振り返れば、記憶にはほとんど何も残っていなくて。

 

 覚えているのは、無数の呪文と100点満点の答案用紙。それは、とっても合理的で実用的な、世の中で生きてくために必要なもの。

 

 

 だから、それさえあれば強くて賢い魔女になった私は、幸せに生きていけるはずだったのに。

 

 

 ふと振り返ってみれば、あんなに仲の良かったお姉様の笑顔は遥か彼方にあって。

 

 いつも後ろについてくる双子のカロー姉妹だって、時々どっちが姉で妹か分からなくなってしまって。

 

 

 気づけば、私は一人ぼっち。

 

 

 

(当然の結果……ですわね)

 

 

 生きていくのに必要なのは呪文と満点だけだと思って、ろくに振り向きもしなかったら。差し伸べられた手を見ようともしないで、殴ってくる拳と一緒くたに捨ててしまっていたから。

 

 覚えているはずがない。記憶には誰もいなくて、何も残っていない。

 

 

 

 ――うまく守護霊が出来ない理由なんて、マルフォイの先輩の言う通り、蓋を開けてみれば分かり切ったものだったのです。

 

 

 生きていくために強くなること、いつもそればかり考えていたから。無駄なものを削ぎ落して、効率的かどうかでしか、周りを見ていなかったから。

 

 

 例えば、「自分だけは周りと違って冷静だ」みたいな澄まし顔で、クィディッチに夢中になる同年代の男子相手に「あんなのルール穴だらけじゃん」みたいな感じで一歩引いて醒めた態度をとって、さも自分が賢くなったような優越感に浸ったりだとか。

 

 結局のところ、それが自分の殻に閉じこもる言い訳でしかなかったことに、ずっと気づかない振りをして。

 

 

 だから、守護霊なんて出てこない。幸福な記憶なんて無駄なものを、私は非効率だと思って切り捨てていたから。

 

 

 

 それなのに――。

 

 

 

「今度の優勝杯は、僕たちのものだ」

 

 

 ドヤ顔でそう告げてきたのは、いけ好かないと思っていた先輩でした。

 

 

「クィディッチ優勝杯を、スリザリンが掴んでやる!」

 

 

 スリザリンが優勝杯を掴んだ瞬間を見れば、幸福な気持ちになるに違いない――と。

 

 

 やだ、素敵……♡

 

 

 などと少女漫画みたく感動するわけありません。

 

 

 むしろ勉強で鍛えた私の頭は、どんどん捻くれた方向へフル回転。そんなんで守護霊出せたら苦労しねーよ、と全力でやさぐれモードです。

 

 

 でもまぁ、なんか寮全体がそんな雰囲気なので、一応は空気を読んでお姉様と一緒に観戦したクィディッチ優勝杯。

 

 

 そこには優勝杯どころか、プレッシャーに負けてラフプレーからの自爆という、実にみっともない惨敗を喫しているスリザリン・チームの情けない姿が。

 

 試合に勝って優勝どころかボロクソに負けだして、失望やら呆れやらで開いた口が塞がりません。

 

「マルフォイには荷が重いな、こりゃ」

「もともと、箒の技量じゃポッターには敵わないからねぇ……」

「去年の取り柄だった箒の性能でも、今年は負けてるしなー」

 

 応援しているスリザリン生からも当初の勢いが失われ、観客席はもはやブーイング直前ムード。むしろ、これ以上の惨敗を喫する前に早く試合を終わらせてくれ、といった雰囲気すらありました。

 

 

 見るに堪えない、とはよく言ったものです。

 

 

 もともと大して期待していなかったはずなのに、どういうわけか腹立たしいやら情けないやらで、無性に苛立ちが募ってきて。

 

(結局、口だけでしたわね……)

 

 百歩譲って、50点差が付くまでであれば「優勝杯を取る」という大義名分も通用するでしょう。

 ですが、その差も埋められてしまった状態で、箒の技量でも性能でもハリー・ポッターに負けていて。チーム全体の士気も、観客の応援も低下している中、負け戦で粘る合理的な理由はない。

 

 

 もし自分が選手だったら、とっくに見切りをつけている状況。どうにもならないことは諦めて、別の事に時間と体力と頭脳を使った方が、よっぽど合理的なはず。

 

 

(……そう、思ってましたのに)

 

 

 試合はボロ負けしているのに、一向にスニッチを見つけられていないのに。イレイナさんやポッター選手と違って、格別にクィディッチが上手いという訳でもないのに。

 

 

(どうして、そんな顔をしているんですの……?)

 

 

 苦しいような、楽しいような、どっちつかずの表情が、ころころ変わる。ちょっと勝てそうになればすぐ嬉しそうになるし、負けそうになったらすぐ悔しそうな顔になる。

 

 2歳も年上のくせに、子供ですか。

 

 

(でも……)

 

 

 ちょっとだけ羨ましい。

 

 

 目の前の一瞬に、一喜一憂しているマルフォイ先輩が。

 

 たぶん強がりだとか、見栄っ張りだというのもあるのでしょう。けれど、それだけではない。

 

 クィディッチが好き、仲間と一緒にプレーするのが好き、応援してくれる友達にカッコいいとこ見せるのが好き。

 だから目を見張るような才能が無くとも、試合に負けたら不貞腐れても――最後には、戻って来る。

 

 たぶん、そこに大層な理由などないのだ。

 

 どんなに小さくたって、続けたい理由が少しでもあればいい。そんなことを続けている内に、いつしか本気になれる。結果ではなく行為それ自体を、幸せだと感じることが出来るようになる。

 

 

 今のマルフォイ先輩には、それがあるのだ。私には、無い。

 

 

 やがて金のスニッチが見つかると、それまでのキザったらしい表情が、分かりやすく真剣なものに変わっていく。いつもの皮肉っぽい薄ら笑いは跡形も無く、ただ真剣に勝負を追い求めるシーカーの表情へと。

 

 

 ――それはまるで、夜空に煌めく流れ星のようで。

 

 

 かの動きは、稲妻のように鋭く美しく。

 疾風怒濤、その素早さは流星のごとく。

 

 

 スニッチを掴むという、ただ一瞬の輝きのためだけに生まれてきたかのような。美しくも、どこか儚い背中は、ひたすらに勝利を目指して。

 

 

 ここまで大差がついているのに、どうしてまだ戦えるの? まだ粘ろうと思えるの? そんな意味ある? それって楽しい?

 

 

 つい、目で追っている彼の後ろ姿に、そんな質問をぶつけたくなってしまう。

 

 

 

 ――その答えは、自分で見つけるしかない。

 

 

 

 けれども。

 

 

 

 ――答えを探す旅は、きっと苦しいだけじゃない。

 

 

 

 そんな風に、背中で返された気がした。   




 ひねくれアストリア。ませてはいるけど、まだ所詮は1年生なので所謂「大人が思うほど子供ではないけど、自分で思ってるほど大人でもない」という思春期特有の面倒なアレ。
 
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