ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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 ※視点がアストリア→マルフォイに切り替わります。 


第24章 ~わたしのヒーロー~

   

「きれい……」

 

 

 ファイアボルトと並走して走るマルフォイ先輩の姿は、ありえないぐらい速いはずなのに。どうしてかそこだけシーカー2人の世界になってしまったように、スローモーションのように時間が止まって見えた。

 

 周りも興奮して騒いでいるけど、私の耳には何も入ってこない。ただ、ぼんやりと2人の姿を追う。その姿に魅せられてしまう。

 

 強さは正義。美しさも正義。そして強さを極めることは、美しさに通じるという。

 

 

 でも美しい時間は、ほんの一瞬で。

 

 

「うわ」

 

 隣にいるお姉様が、思わず目を覆う。全速力で急降下していたマルフォイ先輩はスニッチの急な方向転換に対応できず、地面に激突したのだ。正確には自分から飛び降りて、芝生の上を何度も宙返りしていましたけど。

 

「本物の、バカですわ……」

 

 思わず、そう口に出してしまう。

 

 だって、こんな泥試合に熱くなって全力出して、おまけに死にそうになるような大怪我までして。まるで論理的な説明がつかないはずなのに。

 

 流石に後悔してるんじゃないだろうかと思って、ちょっぴり捻くれてたから「ざまぁないですわ」なんて嫌味のひとつも言ってやろうと思って。

 

 目で追う。そして、見た。

 

 

 ――無邪気にスポーツを楽しむ少年そのものといった表情で、ドラコ・マルフォイが照れ笑いしているのを。

 

 

 隣ではイレイナさんが呆れた顔で、でも無慈悲に肩をぺちぺちと叩いていて。マルフォイ先輩はその度に痛そうな顔をしているけど、その表情はどこか楽しそうで。

 

 全身で今この瞬間を楽しんでるんだって、はた目にも分かった。

 

 優勝杯がかかって、相手にはファイアボルトがあって。誰もが負けだと思ってる試合で、緊張しないはずがない。心が折れそうにならないはずがない。

 

 それなのに、どこまでも楽しそうにニヤけた薄笑いを浮かべていて。

 

 

 ようやく、あの人が嫌いな理由がわかった。

 

 

 後悔はしていない、という自負はある。今のアストリア・グリーングラスは、両親にも教師にも褒められるホグワーツ1年で1番の優等生だ。クィディッチを諦めたのも、必死に勉強し続けた日々も、1人で抱え込もうとしていたのも。

 

 

 全部あったからこそ、今日の自分がある。わたくしは、今の自分を誇りに思う。

 

 

 ただ――。

 

 

(もしも、もし………あんな風に)

 

 

 全力で、子供っぽく普通の学生生活を送ることも出来たのなら――。

 

 

 

 **

 

 

 

 フーチ先生から応急処置を受けた後、マルフォイ先輩は観客席に向かって勿体をつけた一礼をしてみせた。

 全身泥だらけのくせに、顔だけはキリッと決めていて。やたらと様になった動きは、あんまりにもシュールで。

 

 

 気づけば、観客席からもドッと笑いが起こった。「コイツしょーもないな」みたいな。マルフォイ先輩の方も照れくさそうな顔になってるけど、演劇のカーテンコールみたいにゆっくりと観客席を見渡している。

 

 

 その時、不意に見上げた灰色の瞳と、ふと目が合う。

 

 悪戯を成功させた子供のような得意顔で、彼はくすっと笑ってウィンクしてきた。こういう不意打ちは、ちょっとズルいと思う。

 

 こんな状況で、そんな顔しないでよ。

 不覚にも、ちょっとドキドキしちゃったから。

 

 かぁっと頬が熱くなって、鼓動がどんどん早くなっていくのを感じる。必死に冷静さを保とうと押さえつけようとしているのに、全然止まってくれない自分の心臓がもどかしい。

 

 今日はやさぐれる日だって、決めてたのに。優勝杯で魅せてやろうだなんて子供っぽい発想を、澄ました顔で斜に構えてやろうって決めてたのに。

 

 

 どうしてかな。胸の高鳴りが止まってくれないよ。

 

 

 ――気づいた時には、走り出していた。

 

 

 驚くお姉様の横を通り抜けて、前にいた上級生を何人も押しのけて。ひらひらのローブは邪魔だから、少しでも早く走れるようにその場で脱ぎ捨てて。限界まで足の筋肉を動かし、全速力で観客席を駆け降りる。

 

 

 ――立ってよ、わたしのヒーロー。

 

 

 観客席の柵から身を乗り出して、あらん限りの声で叫んだ。

 

 

 

「立てぇぇぇぇぇえええええええええええッッッ!」

 

 

 

 あの人が驚いて、目を見開くのが見えた。

 

 なんかもう、難しいことはうまく考えられない。ただ、目の前で全力でバカみたいにはしゃいでいる先輩を応援したいと思った。抑えようとしても湧き上がってくるその気持ちを、どうしようもなく大切にしたい。

 

 どんなにルールが穴だらけだって、みっともない負け戦だって。そこで全力出して頑張ってる人たちの笑顔と努力は―――きっと嘘なんかじゃないから。

 

 

 だから、私――アストリア・グリーングラスは声の限りに叫ぶ。

 

 

 

「負けるなぁあああああああああッッ! ドラコ・マルフォイッ!!」

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 じゃり、という音が聞こえた。仰向けに倒れていた、ドラコ・マルフォイの足が再び大地を踏みしめる音だった。

 

 まだ試合は続いてる。

 チャンスは残ってる。

 

 ここで終わりじゃない。この身体が少しでも動くのならば。

 

 

「っ―――」

 

 再び起き上がる。

 

 全身が悲鳴を上げていた。骨も何本か折れてるかもしれない。ろくな力は残っていないだろう。

 

 それでも――それが、どうした。 

 

 

 好きなようにやってやる。ファイアボルトとか会場のプレッシャーとか怪我とか、そんなの知ったことか。僕の中では、いつだって僕が主人公なんだ。

 

 

 ――だから。

 

 

 ここで踏ん張った今日の僕は、きっと世界で一番カッコいいぞ。

 

 

 

 ***

 

 

 

「―――ドラコてめぇ」

 

 

 照れ笑いした僕の背後から、不意に声がした。

 

 

「やってくれたな……!」

 

 

 そこには、全身から闘志を迸らせたマーカス・フリント先輩がいた。

 

「イレイナもだ。ガキんちょ共が、いっちょ前にカッコつけやがって……!」

 

 フリント先輩の目が燃えていた。他の選手も全員、めらめらと瞳に怒りの炎を燃やしていた。

 

 出しゃばった挙句、大ケガした僕に対してではない。プレッシャーに負けてラフプレーに逃げて、そうせざるをえない状況を作り出してしまった、ふがいない自分たち自身に対してキレていた。

 

 

「畜生、たかがファイアボルトが何だってんだ!オレの大バカ野郎!」

 

 

 我慢しきれなくなったフリント先輩が、自分で自分の顔を思いっきり平手打ちする。観客がドン引きする中、フリント先輩はふうと小さく息を吐く。

 

 

「わりぃ、かっこ悪いとこ見せちまった」

 

 

 それを見ていたイレイナが、悪い魔女の顔でニヤリと笑う。

 

「くっそダサかったですよ」

「こっからは違う」

 

 ファイアボルト、敵のリード、グリフィンドールの選手陣の厚さ、観客からのプレッシャー……こちらに不利な要素は全て揃っている。

 

 

 それが目を曇らせた。

 

 

「感謝するぜ。有利だろうが不利だろうが、オレたちがやるべきことは変わらない。お前らのお陰で、覚悟が決まった。今すぐ巻き返してやる」

 

 既にだいぶ点差を開けられているが、そんなことは関係ない。

 

 

 フリント先輩だけじゃない。ワリントン先輩やブレッチリー先輩も肩をバシバシと叩いてくる。

 

「来年こそは、なんて一瞬でも思った自分が情けねぇよ……!」

「ああ。今この瞬間を大事に出来ない奴に、次なんて来ない」

 

 それを思い出させてくれてありがとう、とピュシー先輩が頭を下げた。

 何が何でもここから晩回するぞ、とモンタギュー先輩が拳を握り締める。

 

 

 結局のところ、答えは最初から出ていたのだ。

 

 

 分かり切った答えから目を背けて、勝負から逃げる言い訳ばかりを考えていた。そんなことに使う脳味噌が少しでも残っているのなら、踏ん張る言い訳を考えろ。負けるためじゃなくて、勝つために頭を使え。

 

 

 ――諦めることなんて、一瞬あれば誰でも出来るから。

 

 

 せめて、試合終了まではあがき続けよう。

 

 

 大の男が下級生の背中に隠れるだなんて、クソだせぇ真似してんじゃねぇぞ――と、むさ苦しい先輩たちの想いがシンクロする。

 

 

 

「筋肉は――」

 

 

 突如、フリント先輩が大声を張り上げた。

 はっ、とスリザリン・チームがキャプテンを見る。

 

 

「裏切らないッ!!」

 

 

 その行為は、試合に対して何の意味もないだろう。それでも、魂が導くままにマーカス・フリントは絶叫した。

 

 

「練習は――」

 

 

 その問いかけに、6つの声が答えた。

 

 

「「「「ウソつかないッ!!」」」」

 

 

 ワリントン先輩も、ピュシー先輩も、モンタギュー先輩に、ブレッチリー先輩も。全員が天まで届けと声を張り上げる。

 

 雷が落ちたような咆哮が、グラウンド中に轟いた。グリフィンドール・チームが動揺し、観客も唖然としている。けれど、叫びは止まらない。

 

 

「ならば鍛えよ!!」

 

「「「さすれば与えられん!!!」」

 

 

 イレイナから僕、僕からはフリント先輩に。フリント先輩からはチームの全員、そして観客へと。火傷しそうなほどの熱量が流れ込んでいく。ハートに火が付くって、きっとこういうことなんだ。そう、肌で感じた。

 

 

 

 ――空気が変わる。

 

 

 

 それはまるで、どんよりと立ち込めた雨雲が晴れていく様子を見ているようだった。

 

 

 

「スリザリンは―――」

 

 

 

 光が差し込める。

 

 

 

「「「「地上、最強ぉぉぉおおおおおッ!!」」」」

 

 

 

 曇り空は散り散りになって、真っ赤な太陽が皆を照らしていた。

 





 個人的な見解ですが、マルフォイってキャラ・ポジション的にハリーやハーマイオニーよりもロンに近い部分があると思ってて、家柄を除けば良くも悪くも「普通」の子供・・・だからこそ、イレイナさんのようにキッカケを自分から作ることは出来ずとも、凡人の彼がそこに続くことで周りも付いて来られるようになるのかなと。

 クィディッチ優勝杯の話、作者が調子に乗って長くなってしまいましたが次話で最後なので、何卒ご容赦ください(汗)。
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