ハリー・ポッターと灰の魔女 作:アストラマギカ
翌日、大広間に女子4人で向かうと、さっそくマルフォイたちがハリー・ポッターとロン・ウィーズリーに喧嘩を売ってる場面に出くわします。
「おや、ポッターとウィーズリーじゃないか。今さらだけどポッター、君はそんな連中と付き合うべきじゃないね。ウィーズリーも朝食かい? それなら君の家にもぜひ送ってあげるといい。さぞご馳走になることだろう」
「マルフォイ、黙れよ!」
ロンが顔を真っ赤にして反撃していました。
「入学早々、男子は青春してて微笑ましいですね」
「いや、その感性はおかしい」
振り返れば、呆れたようなパグ犬顔。
昨晩から話をしていて思ったんですが、この子わりかし常識人です。だから今まで3人のまとめ役を務めていたんでしょうが。
「考えてみてください。ほら、よく好きの反対は嫌いではなく、無関心と言うじゃないですか。つまり、大嫌いは大好きの裏返しでは?」
「イレイナ、深いねー」
「別に深くはないだろ」
ダフネは分かってくれたそうですが、ミリセントには伝わらなかったそうです。
仲間想いのパンジーがマルフォイに加勢しに行っている間、私たちは朝食をとるべく椅子に座りました。
紅茶はもちろんのこと、ベーコンエッグ、ソーセージ、トマトのグリル、糖蜜パイ、ベイクドビーンズ、ハギス、トースト……これぞ大英帝国の誇るフル・ブレックファストです。イギリス料理がメシマズとか言ってるマグルは、英国式朝食を朝昼晩3食べてから考え直しましょう。
「イレイナ、マッシュルームのグリルいる?」
「何が悲しくて木から生えてる菌類なんぞを食べなきゃならんのですか」
キノコなんてクラッブとゴイルにでも食わせときゃいいんです。
**
「すごいすごい!階段が動いてる!」
最初の授業に向かう途中、動く階段の上でダフネ・グリーングラスが子供のようにはしゃいでます。まぁ実際、私たち全員11歳の子供なんですけど。
「落ち着けダフネ」
「あんた死ぬわよ」
はしゃぎ過ぎてダフネが転落死しそうになるのを、ミリセントとパンジーが慣れた様子で止めにかかっています。
「しかしこの仕掛け、本当に実用性が皆無ですね。見てる分には楽しいですけど」
創設者が悪ノリしたにしても、やり過ぎではないでしょうか。動く階段はまだしも、途中で段が消えていてジャンプしないといけない階段、いつの間にか現れたり消えたりする通路、合言葉や謎かけを解かないと入れない扉………新入生が独力で突破するのは色々と無理があります。
その点、スリザリンの良いところは、良い意味でムラ社会といいますか身内意識が強いおかげでガラの悪そうな上級生でも、スリザリン生であれば親切に道を教えてくれました。
なんとなく、故郷ロベッタにいたご近所のヤンキーが思い出されます。大都会ロンドンで忙しそうにしているリーマンじゃ、こうはいきません。
ちなみに最初の授業は『妖精の呪文』なんていう、なんとも可愛い名前の授業です。教室に入るなり、私は名前の意味が分かった気がしました。
「妖精の呪文を教える、フィリウス・フリットウィックです!」
とても小柄な先生で、机の上に本を積み重ねて立っている。かわいい。
しかも授業まで分かりやすく、しかも面白いものでした。
ガイダンスの後に簡単な講義と実習があり、杖の先から小さな火花をほとばしらせるという内容。正確には呪文とまで言えず、ただ杖先に魔力を込めると飽和した魔力が火花となって外へ放出されるだけという代物なんですが、杖先に魔力を誘導する基礎訓練としてよく用いられるそうな。
「オーッ、よくできました! 皆さん見てください、セレステリアさんが最初の成功者です!」
ドヤ顔でフリットウィック先生からご褒美のカップケーキを貰うと、隣ではパンジー・パーキンソンが苦戦中。ブルドッグのような形相で杖を振っているんですが、未だ何の変化も起こりません。
「イレイナ、なんかコツとかないの?」
「コツも何も、杖先に魔力を込めるだけですが」
「聞くんじゃなかった……」
パンジー、そんな憮然とした顔をしなくても。
「あっ、イレイナの言う通りにしたら出来た。ありがとね!」
ダフネは無事に出来たようです。アホっぽい見た目とは裏腹に、意外と魔法の腕は確かなのかもしれません。人は見かけによらない、とはよく言ったものです。
そんな風に思って視線をミリセントに向けると――。
「叩けばいけるかな?」
「貴女は原始人ですか」
結局、フリットウィック先生の丁寧な指導もあってか、最終的には大半の生徒が杖先から火花を出すことに成功しました。
クラッブとゴイルはダメでした。
**
「いやー、良かったねー。先生も可愛いし」
「成功したらお菓子もくれましたしね」
興奮冷め止まぬまま、私はダフネたちと一緒に次の授業へ向かいます。2限目は「闇の魔術に対する防衛術」でした。
闇の魔術に対する防衛術……もはやネーミングだけで勝利が約束されているような授業です。生徒たちの多くも期待を胸に、担当のクィレル先生のいる教室の扉を開きます。
そこで私たちを迎えたのは―――。
バタン!と開きかけた扉を、先頭にいたパンジー・パーキンソンが思わず閉めます。再び恐る恐る扉を開き、やはり顔をしかめて扉を閉じました。
「気のせいかしら、とんでもなくニンニク臭いんだけど」
「奇遇ですね、パンジー。私も同意見です」
教室を包み込むガーリックな香り。担当のクィレル先生が朝食に教室でペペロンチーノを作っていたにしては、香ばしさが足りないといいますか、生臭いといいますか。
すると後からやってきたドラコ・マルフォイが顔をしかめながら、ひそひそと話しかけてきました。
「噂じゃルーマニアで吸血鬼に遭遇して以来、吸血鬼避けにニンニクを身に付けているらしい。クィレルのターバンにはニンニクが詰まってるって、上級生が教えてくれた」
せめて魔法で対処してください。一応、闇の魔術の防衛術を担当してるんでしょうに。
「もう帰ろうかな……」
「そうですか。さよなら、パンジーさん」
「なんで止めてくれないのよ!?」
パンジー、付き合ったらクッソ面倒な女になりそうですね。
さすがに初っ端からサボるわけにもいかないので、私たちは渋々「闇の魔術に対する防衛術」の教室へと入ります。
結論から言いますと、授業自体はまぁ、普通でした。
大半の生徒からは肩透かし的なコメントでしたが、初回の授業なんてガイダンスと先生の自己紹介で終わるようなものでは、という気がしないでもありません。むしろ魔法界の危険な魔法生物の紹介や特徴などを説明しただけ、初回の授業にしては充実していたような。
―――もっとも、その後も似たような授業が続く&クィレル先生のどもりが酷くて聞き取り辛く、前言撤回するのはまた後の話。
そして迎えた昼ご飯。
「アヒージョとペペロンチーノ、シュクメルリにガーリックライス……」
なんという、ニンニク尽くし。
嫌がらせでしょうか?
スリザリン生のテンションは見事に急転直下。例外は授業中から「ニンニクの匂い嗅いでたら、お腹すいちゃった」とのたまっていた、ダフネさんぐらいのもの。あの子きっと、大手チェーン店で異物混入があった直後に「そういえばあの店最近行ってないなー」みたいなノリで行っちゃうタイプですよ。きっと。
私を含めて残りのスリザリン生は食欲が無いまま昼食を終え(結局、ケチャップなりマスタードなりを山盛りにかけて味と匂いを誤魔化した)、げっそりとした顔で次の授業へと向かいます。
**
昼食が終わると、次は「変身術」の授業でした。‟物体に効果を付与する”という「妖精の呪文」と違い、こちらは‟物体そのものを根本から変化させる”というもの。
実際、教室にいた猫にダフネが「可愛いー!」と叫んでモフモフしようとした瞬間、仏頂面のマクゴナガル先生に変身し、クラス中が青ざめていった光景は忘れられません。
「変身術はホグワーツで学ぶ中でも最も複雑で危険なものの一つです。いい加減な態度で私の授業を受ける生徒には出て行ってもらいますし、二度とクラスに入れるつもりはありません。初めからの警告をしておきます」
マクゴナガル先生は開口一番、生徒全員に厳格で聡明といった印象そのまま警告します。
その後、実演として机を豚に変えるという高度なデモンストレーションをした後、マッチ棒を金色の針に変えるという実習になりました。
大半のスリザリン生が何の変化も起こせない中、私はというと――。
「どうでしょうか? マクゴナガル先生」
「……黄金のマッチ棒ですね」
「いえ、針です」
「先端が尖っていませんが?」
「マクゴナガル先生、では逆にお聞きしますが、そもそも‟針”とは何でしょうか」
「針」の定義を要約すると、要は何かを刺すための道具なのです。つまり先端が尖っているというのは手段の1つに過ぎず、何かを刺すという目的さえ達成できていれば、先っぽが尖ってる必要は必ずしもないという解釈ができるわけでして。
「ほら、よく見てください。ちょっと力を入れれば、私のローブに刺せてるじゃないですか」
「スリザリン、1点減点」
世の中は理不尽です。
初回授業は割とガイダンス的な感じなので、ちょっと詰め込みます。
マクゴナガル先生だけはガチ。