ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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※マルフォイ視点→アストリア視点に切り替わります。


第25章 ~青空の下で~

  

 やっぱり、ポッターとファイアボルトは強かった。

 

(負けた……)

 

 あーあ、と溜息がこぼれる。

 

(本当の本当に、最後の最後まで……たぶん初めて負け戦で粘ったんだけどな……)

 

 少しでもポッターがミスをしたら、足をすくってやる気で戦った。少しでも油断してたなら、どこまでも追いすがってやる気で箒に乗った。

 

 

 それでも、ポッターは完璧な動きで、ひとつの迷いも間違いも無くスニッチを取った。

 

 

(でも、僕だってやり切った)

 

 

 負けたけど清々しい気分……というのは結局、負け犬の遠吠えでしかないのだろう。悔しいしカッコ悪いし、後悔も沢山あるけど。

 

 今なら、自分以外の誰にも自分を否定させやしない。誰か後ろ指をさす奴がいても、笑顔で「知った事か」って返せるだろう。

 

 

 そこには、何の後ろめたさもない。本気を出して負けたから、本気を出して開き直れる――そんな単純な理屈だ。

 

 

 だってスニッチをポッターが掴む瞬間までは、僕はアイツと同等かそれ以上だったから。

 

 負けたのは最後の瞬間だけ。それ以外は負けていなかったという自負がある。

 

 

 スニッチを掴んだ瞬間だけが、シーカーの存在意義だとは思わない。ちょっと良いプレーが出来たとか、新しい技が成功したとか……そういうのも、きっと小さな「勝ち」だ。

 

 

 

(……そういえば)

 

 ふと、思い出す。それは去年、ホグワーツに入学する前の事だ。

 

「――ひとつ質問だ。ホグワーツ特急は何のために存在するのだと思う?」

 

 キングズ・クロス駅で両親と別れる直前、急に父上がそんな質問をしてきたっけ。

 

「えっと……ホグワーツに到着するためじゃないのですか?」

「いや、それなら移動(ポート)キーの方が早い」

 

 言われてみれば、たしかにその通りだ。ポカンとして悩み始めた僕に、父上は数枚のガリオン金貨を渡して言った。

 

「たしかに目的の1つは移動だが、それだけじゃない。車内販売のお菓子を食べたり、友人と下らない話をしたり、窓の外から景色を眺めたり……ホグワーツまでの道中を楽しみながら、目的地に到着するために、わざわざ列車に乗るんだ」

 

 

 

 ――その時はいまいちピンと来なかったけど、今なら父上が伝えようとしたことが分かる。

 

 

 イレイナが10点入れた時に派手なパフォーマンスをしたのも、きっとそれと同じことなんだ。もちろん勝利は大事だけど、その過程はきっと楽しんだ者勝ちなんだって。

 

 

 

 もちろん、楽しいだけの時間はいつまでも都合よく続いてはくれない。いつかは笑顔が消えて、歯を食いしばって努力しても、泣きながら我慢しても、どうしようもない時だってやってくる。

 

 

 もし余裕がなくなって、楽しめなくなっているのだとしたら。その時はそれでいい。

 

 

 けれど、‟その時”は永遠じゃないんだ。

 

 

 正直な話、今日の僕はポッターに負けた悔しさで、この後ちょっと不貞腐れたりもするだろう。

 それでも来年の試合が始まる頃には、きっと嫌味の10個ぐらいは言って、パンジーやブレーズの前で大口叩けるぐらいには立ち直っているはずだ。

 

 

 もしかすると天才に見えるイレイナだって、本当は嫌なことがあったらやっぱり逃げ出したりして。ちょっと回復したら「もしかしたら、次大丈夫かも」なんて、おっかなびっくり行ったり来たりして。

 

 そうやって、少しずつ。でも、しっかりと歩き続けていれば。

 いつかきっと、欲しいモノにこの手が届くんじゃないかって。

 

 たぶん、そんな風に世界が見えているんだ。

 

 

 ―――その気持ちが、彼女に少しでも届けばいいな、と思う。

 

 

 ゆっくりでも、他人と違くても構わない。

 自分のペースで、一歩ずつ歩き出せばいい。

 

 

 その延長線上にはきっと、求めてたものがあるはずだから――。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 試合がグリフィンドールの勝利に終わった後、私――アストリア・グリーングラスの隣で、お姉様がポツリと呟きました。

 

「……結局、負けちゃったね」

「ええ。ですが、少なくとも一人の少女の心は揺さぶられましたよ」

 

 そう返すと、お姉さまはくしゃりと笑って。

 

「一人どころじゃないと思うよ。私もそうだもん」

 

 けっしてお世辞ではない。

 

 

「綺麗だったね」

 

 

 強さは正義。美しさは正義。そして限界まで研ぎ澄まされた強さは、洗練された美しさになる。その姿に、たぶん惚れてしまったのだろう。

 

 ぎゃーぎゃー騒いだり、ちくしょーって舌打ちしたり、皆わいわい騒いでる。そのぐらい、ラスト15分のプレーは全員を魅了した。

 

 本気になったスリザリン・チームの猛攻に、グリフィンドールの選手たちも全力で応えてくれた。結局、グリフィンドールは守り切ったけど、スリザリン・チームの勢いは鬼気迫るものがあった。

 

 

 ―――終わってほしくないな。

 

 

 ポッターさんがスニッチをとったとき、ふとそんな風に思った。

 

 

 ―――もっと見ていたいな。

 

 

 そう思えるぐらい、美しい試合だった。真剣勝負でありながら優雅に踊っているようで、華麗なダンスを舞う選手たちは楽しそうに見えた。

 

 

 何より、そんな景色を見せようとしてくれた人がいる。

 

 

 ――わたしの為に。

 

 

 その事実だけで、もう十分。

 自信を持って、言い切れる。

 

 

 今の私はきっと、世界でいちばん幸せな女の子だ。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 そして競技場の反対側では、ピッチになだれ込んだ深紅の応援団にグリフィンドール・チームが囲まれていた。

 

 腕を絡ませ、抱き合い、もつれ合い、声を枯らして勝利を祝っている。キャプテンのオリバー・ウッド選手は涙でほとんど目が見えなくなっていて、マクゴナガル先生すら寮旗で目を拭っていた。

 

 

 ――意外だったのは、泣きはらしていたオリバー・ウッドがスリザリン・チームの方へ歩いてきたこと。

 

 

 群衆が息をのみ、競技場に緊張が走る。ウッドは波をかき分けるように進んで、地面で大の字になっているマーカス・フリントの前で足を止めた。

 

 無言で手を差し出すウッドに、フリントは「へっ」と笑って。

 

「……野郎の手をとってもな。美少女つれてきて出直せよ、ウッド」

「あいにく、お前の毒牙にかけるわけにはいかないんだ」

「真面目なこった」

 

 そう言って、フリントは立ち上がって口を開いた。

 

「いい試合だったな」

 

 ウッドは「あぁ」と言いかけて、思い直したように別の言葉を紡ぐ。

 

「欲を言えば、もう一戦したかった」

 

 それを聞いて、フリントがふっと笑う。

 

 

「試合はきちんと勝ち負けで終わるから、試合なんだぜ」

 

 

 それはきっと、さよならの言葉だ。

 

 二人は今年で卒業する。泣いても笑っても、これが最後の試合だ。これまでホグワーツで過ごした日々に、練習の毎日に別れを告げて、それぞれの人生の分かれ道を進んでいく。

 

 

 ――だからせめて、最後ぐらいはグリフィンドールもスリザリンも無く。ただのクィディッチを愛する、同じスポーツマンとして。

 

 

「フリント、正直お前の腕ならプロでも……」

「先は言うな。そこまでだ」

 

 言いかけたウッドの言葉を、フリントが遮る。

 

「意外かも知れないが、オレはこう見えて賢いんだ。夢と現実の区別ぐらいはできる」

「……そうか」

 

 ずっと続けてきたからこそ、努力を重ねて腕を磨いてきたからこそ。自分の能力と気力の限界が、誰よりも分かってしまう……そんな事もある。

 

 そして選択を迫られたマーカス・フリントは、既に決断を下したのだ。

 ならば、もう部外者はどうこう言える立場に無いだろう。

 

「じゃあ……本当に、お前のラフプレーもこれで最後なんだな」

「ああ。試合前の場外乱闘で、お前にかけ損ねた呪いもまだまだあるってのによ」

 

 フリントの言葉に、ウッドもニヤリと笑う。

 

 ありがとう、なんて死んでも言わない。そんな間柄ではないし、今でもやっぱりクソ野郎だと思ってる。たぶん、向こうも同じだろう。

 

 けれど――。

 

「楽しかったぜ、フリント」

「元気でやれよ、ウッド」

 

 

 そう言って、互いの手を握る。

 

 

 ――これが選手としての、最後の握手だから。

 

 

 これ以上ないぐらい、お互いの指を強く握り締める。やっぱり傍目には、互いの指を握り潰そうとしているようにしか見えないけど。

 

 

 二つの大きな背中は、どこか名残惜しそうに見えた。

 

 

 そんな彼らを照らす太陽は、赤く眩しく輝いていて。

 

 

 

 大きく広がる空は、どこまでも青く澄み渡っていた。

 




 原作通り優勝杯を逃したスリザリンですが、得られたものも少なくない・・・はず。

 優勝杯の話が長くなってしまいましたが、次からは本編に戻ります。
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