ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第26章 ~叫びの屋敷~

                  

 クィディッチ杯を逃した後、私たち3年生を待っていたのは期末試験でした。

 

 

 6月も近づき、空は雲一つない蒸し暑い日が続く中、涼しい地下のスリザリン談話室にこもってひたすら勉強した甲斐あってか、手ごたえは悪くありません。

 

 

 週明けの最初の試験は「変身術」で、課題はティーポットをリクガメに変えるというもの。昼食が終わったら「呪文学」で、「元気の出る呪文」が課題でした。

 

 火曜は午前が「魔法生物飼育学」で「レタス食い虫が1時間死ななければいい」というボーナスステージ、午後は「魔法薬学」で「混乱薬」を調合するというもの。

 

 真夜中には「天文学」があり、水曜日の朝は「魔法史」で中世の魔女狩り、午後は焼けつくような太陽の下で「薬草学」と続きます。

 

 

 

 そして試験最終日の午前は「闇の魔術に対する防衛術」で、水魔グリンデローの入ったプール、赤帽レッドキャップの潜む窪地、おいでおいで妖怪ヒンキーパンクの住む沼地、そして最後にまね妖怪ボガートを倒すという、かなり実践的な障害物競走のようなもの。

 

 

「リディクラス-バカバカしい!」

 

 私は全てを完ぺきにこなし、最後にゲル状になった私をなんなく倒して終了でした。私が私をどんなバカバカしい姿に変えたかは、私だけの秘密です。

 

 

「……君、人目がなければ普通に倒せるんだね」

 

 何とも言えない顔をしたルーピン先生に見送られ、いよいよ午後には最後の試験です。

 

 

 トリは選択科目だったので私の場合は「数占い」となり、試験内容はランダムに選ばれたパートナーの名前や生年月日などから、来年に病気にかかる回数を占うというものでした。

 結果以上に固有の複雑な計算式をどう解いたかという計算過程の論理性が重視されます。

 

 

 

 そんな感じで全ての試験が終わったあと、談話室に戻って自己採点でもしようかなーと考えていた時のこと。

 

 

「――セレステリア、少しいいかね?」

 

 

 珍しくスネイプ先生に話しかけられ、「吾輩の部屋に来たまえ」と言われるがままに研究室に入ると、丁度そこには調合中の魔法薬がありました。

 

 

「今から作る魔法薬を、ルーピンに届けて欲しい」

 

 グツグツと煮える大鍋をかき混ぜながら、そんなことを依頼してくるスネイプ先生。

 

 

(そういえば、スネイプ先生はまだ私たちが『脱狼薬』に気づいたことを知らないんでしたっけ)

 

 

 アストリアさんから口止めされたこともあり、ダフネもドラコも沈黙を貫いていたので、私にお鉢が回ってきた感じみたいです。

 

 一応すっとぼけて「何ですかこの薬?」って聞いたら、嬉しそうに原料と作り方まで教えてくれました。

 

 

 しかも、合間に「そういえば今日はよい満月だな(ちなみに窓の外はめっちゃ曇ってました)」とか、「この薬に銀を混ぜると、患者にとっては猛毒になる」とか、あからさまに人狼を匂わせて「はよ気づけ」と言わんばかりです。

 

 

「セレステリア、お前には期待している。ハッフルパフのロストルフや監督生のウィーズリー、そしてファーレイにも出来なかった快挙を、お前なら成し遂げてくれるかもしれん」

 

 

 去り際、めちゃめちゃ圧をかけられました。

 

 

 とはいえ、今のところ私からバラすつもりはありません。スネイプ先生には悪いですが、ルーピン先生のようにまともな「闇の魔術に対する防衛術」の先生に退職されるのは、私にとっても他の学生にとっても大きな損失ですので。

 

 

「ごめんくださーい」

 

 とりあえず依頼だけはこなそうと、ルーピン先生の部屋をノック。しかし、返事はありません。

 

(あれ、ニアミスでしょうか)

 

 ドアノブに手をかけると扉は簡単に開き、部屋の中には誰もいませんでした。鍵がかかっていないことから、たぶん一時的にトイレにでも行ったのだろうと私は予想します。

 

 

 とりあえずゴブレットを机に置いて、「スネイプ先生からお薬のお届け物です」と簡潔にメモ書きだけして帰ろうとした時でした。

 

 

「おや? これは……」

 

 

 テーブルに無造作に放置されていたのは、古ぼけた四角い羊皮紙。どうやら地図のようですが、驚くべきはその中身でした。

 

「『忍びの地図』……?」

 

 そう書かれた羊皮紙は、なんとホグワーツ城と学校の敷地全体の詳しい地図だったのです。

 

 

 しかも羊皮紙の地図上には小さな点がいくつも動いており、1つ1つに細かい字で人の名前が書いてありました。おまけに私の知らない抜け道までが、いくつも記されています。

 

(この便利地図、ルーピン先生が作ったのでしょうか……? 施設警備のお仕事なんかには需要がありそうですね……)

 

 そんな事を考えていると、ふと端っこの方に「リーマス・ルーピン」と書かれた小さな文字が目に入りました。文字は校庭を移動していき、やがて「暴れ柳」の下にある抜け道から地図の外へと出て行ってしまいます。

 

 

(おや、暴れ柳の下に抜け道とは……)

 

 しかもどうやら、学校の外へ通じている様子。実はこっそりフレッドさんとジョージさんから「隻眼の魔女ばあさん」経由でホグズミードに行く抜け道を教えてもらっていたのですが、果たして「暴れ柳」の下の抜け道がどこへ通じているのやら。

 

 

 しかしそれ以上に気になるのは、ルーピン先生の行動です。

 

 真面目そうなルーピン先生がホグワーツの抜け道を知っているのもそうですが、脱狼薬を飲むのを忘れるというのも意外で、なんならそれほど重要ないし緊急の案件が「暴れ柳」の抜け道の先にあるとでもいうのでしょうか?

 

 

(はてさて、どうしたものでしょうか……)

 

 

 私は明晰な頭脳をフル回転させ、最善策が何かしっかりと考えた結果。

 

 

 

 ―――とりあえず、全部ありのままスネイプ先生にぶちまけました。

 

 

 

 というのも、このままルーピン先生を追いかけたとして、受け渡し完了の報告が無いことに気づいたスネイプ先生が確認に来るのは時間の問題だからです。

 

 

 それに私としても「満月の夜に脱狼薬を飲み忘れて、抜け道から学校外に外出」という、ルーピン先生の奇行は流石に止めた方がいいと思いました。あと一応、スネイプ先生は教師ですし寮監ですし大人ですし。

 

 

 というわけで常識的に考えて、ここはスネイプ先生に相談するのがベストプラクティスでしょう。

 

 

 

「……とまぁ、そういう次第でして」

 

 私が事情を説明すると、黙って話を聞いているスネイプ先生の黒い瞳が、徐々にギラギラとヤバそうな輝きを増していきます。

 

「ほぅ……」

 

 くっくっく、と肩を震わせ、長年待っていた敵討ちのチャンスが訪れたと言わんばかりに狂喜の表情を浮かべるスネイプ先生。

 

 

(う~ん……これは、何と言いますか)

 

 

 ――ひょっとして私、人選ミスったんじゃないんでしょうか。

 

 

 するとスネイプ先生はやべー感じの笑みを浮かべ、ねっとりとした猫撫で声で夢見るように呟きました。

 

「この日をどれほど心待ちにしていたことか……セレステリア、よくぞ吾輩に知らせてくれた」

「えっと、先生……?」

「吾輩が繰り返し、校長に進言していた通りになった………」

「あの」

「そればかりか、図々しくもあの古巣を隠れ家に使っていたとはな……よもやよもやだ」

 

 一人で聞いてもいないことまで語り出すスネイプ先生は、軽く目がイっておりました。

 

 

 

「この薬は吾輩が直接、ルーピンに渡す」

 

 そうおっしゃる割には、杖を抜いて殺る気満々のスネイプ先生。

 

 たしかに狼人間が相手ですし、そろそろ満月ですし、警戒するに越したことはないのでしょうが、なんだか強硬手段ありきなオーラがビンビンに漂っています。

 

「セレステリアは談話室へ戻っているように」

「はーい」

 

 

 

 もちろん、戻る訳がありません。

 

 

 

 天文学に使う用の望遠鏡を持ってきて、こっそり城の窓からスネイプ先生をウォッチング。

 油断なく杖を構えたスネイプ先生は速足で一目散に「暴れ柳」に近づいていき、しばらく辺りを見回したかと思うと、落ちていたハリーの「透明マント」を拾って握りしめました。

 

 

(なんでハリーの透明マントが……って、まさか()()厄介ごとに巻き込まれてるんですか)

 

 

 しかも今日は狼人間になりかけのルーピン先生もいますし、やっぱトレローニー先生の言うように呪われてるんじゃないでしょうか。

 あと、ハリーは父親の形見の「透明マント」をそこらへんに落とし過ぎでは。お父さん、きっと天国で軽く泣いてますよ。

 

 

 そんなことを思っているうちに、スネイプ先生は折れた枝を拾って「暴れ柳」の幹にあるコブを突っつきました。すると柳は暴れるのを止め、根本にある穴へとスネイプ先生は消えていきました。

 

 ルーピン先生といいスネイプ先生といい、何食わぬ顔でフレッド&ジョージさん並みに抜け道に詳しいのがちょっと驚きです。

 

 

 

「さて………どうしたもんですかね」

 

 まぁ、スネイプ先生は年中不機嫌なのを置いとけば、魔法使いとしては普通に優秀です。

 

 狼人間相手だろうとハリーたちが何かしら厄介ごとに巻き込まれていようと、そう簡単に後れを取ることは無いと思うのですが、どうにも何かが引っかかるのです。

 

 

 なにか、とても重要なことを忘れているような……。

 

 

 暴れ柳に近づくスネイプ先生を見た時、感じた妙な違和感。それが何なのかしばらく考えた後、私は違和感の正体が何なのかに思い至りました。

 

 油断なく右手で杖を握りしめ、左手で落ちていたハリーの透明マントを拾ったスネイプ先生……。

 

 

「あっ」

 

 

 

 ――ひょっとしてスネイプ先生、ついでに脱狼薬を持っていくのを忘れているのでは?

 

 

 

 慌ててルーピン先生の部屋に戻ると、「忍びの地図」も悪臭を放つ脱狼薬の入ったゴブレットもそのままでした。

 

 てっきり脱狼薬をスネイプ先生が持って行ってくれるとばかり思っていたのですが、忘れたのか別の理由があったのか、完全に放置されていました。

 

 

(いや、まぁ今日のスネイプ先生はなんか変でしたけど……)

 

 あえてルーピン先生が狼男に変身したところを現行犯逮捕して、業務上過失致死未遂かなんかで法的にホグワーツから追い出そうとしているのかもしれません。

 

「……というのは考え過ぎにしても、とりあえず脱狼薬は届けた方がいいですよね」

 

 一応、ルーピン先生の元へ届けるようにという依頼を承諾した手前、私としても依頼内容を果たす義務はあるわけで。「暴れ柳」の止め方も分かりましたし、最悪なんかあってもスネイプ先生がいれば大丈夫でしょう。

 

 

 

 そう考えた私は校庭を横切り、スネイプ先生が使った枝を拾って「暴れ柳」のコブを突いて動きを止め、根元の穴から中へ入ります。

 

 

「ルーモス-光よ」

 

 

 延々と続く長いトンネルを抜けると、その先にあったのは雑然とした埃っぽい部屋でした。

 誰も使っていないのか家具も壁紙もボロボロで、窓という窓には何故か板が打ち付けられています。

 

 

「ここは……叫びの屋敷?」

 

 体感ですがホグズミードぐらいの距離で、また窓に板が打ち付けられて使われていない建物といえば「叫びの屋敷」ぐらいのもの。

 

 

 そしてしばらく先へ進むと、2階から人が話をしている声が聞こえました。

 

 

「――お前はジェームズとリリーが死ぬ1年も前から、ヴォルデモートに密通していた! ピーター、お前がスパイだった!」

 

 

 階段を上っていくと、割れるような大声が部屋の中から響き渡り、びっくりした私は思わず脱狼薬を落としそうになります。

 

 どうにか臭いゴブレットを握りしめたまま部屋に辿り着くと、開け放たれた扉の先にはハリー、ロン、ハーマイオニーといつものグリフィンドールトリオに加え、険しい顔をしたルーピン先生、なぜか気絶して地面に伸びているスネイプ先生、ハゲ散らかした低身長ぽっちゃりの知らないおっさん。

 

 

 そして――。

 

 

「シリウス・ブラック……?」




 正直者イレイナ(なお、ありのままスネイプに話して事態を面倒にした模様)
 
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