ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第28章 ~守護霊の呪文~

  

 とりあえず、ペティグリューさんをホグワーツまで連行し、吸魂鬼に引き渡すことでスネイプ先生も合意してくれました。

 

「よかろう、城まで吾輩も同行しよう。ルーピンはここに残れ」

 

 縄を解いてもらったスネイプ先生は空中から手錠を出し、応急処置を施したロンとシリウスさんに、ピーターさんを手錠で確保するように指示します。

 

「なんでお前が仕切っているんだ……」

 

 どこか不満そうなシリウスさんを見て、スネイプ先生はニタニタと意地の悪い笑顔を浮かべて言いました。

 

「親友とやらの息子を守るために、少しぐらいは役に立て。それとも何だ、そこの薄汚い小男を女子生徒に押し付けようというのではあるまいな?」

「ふん、学生時代に彼女はおろか友達もロクにいなかった奴が言うと、説得力が違うね」

「ほう、アズカバンが懐かしいと見える」

「お前こそ、もう一回気絶させてやろうか」

 

「2人とも、私が変身するまで続ける気かい?」

 

 ルーピン先生に急き立てられ、ようやく私たちは進み始めました。

 

 先頭にはハーマイオニーの猫、その後をハリー、ロン、ペティグリューさん、シリウスさんがムカデ競走のように続き、背後からはスネイプ先生が「少しでも怪しい動きを見せたら殺してやる」とばかりに杖を向けています。

 

 時折、呪いをかけたくて堪らないといった様子で、杖先がうずうずとシリウスさんの背中にも向けられているのですが、たぶん気のせいでしょう。

 

 

 **

 

 

 長いトンネルを通り抜けて校庭に出ると、すでに辺りは暗闇に包まれていました。明かりといえば城からもれる灯だけで、私たちは無言で進みます。

 

 しばらく進むと不意に雲が途切れ、月明かりが私たちを照らしました。

 

 ですが、この場にルーピン先生はいないため、人狼が大暴れなんていうイベントは起こりません。

 

 

 そして校庭を歩くシリウスとハリーが上機嫌で「もしダーズリー家から出て一緒に暮らすならどうするか」といった話をするのを聞きながら、城の窓から漏れる灯りが徐々に大きくなってきた頃のことでした。

 

 

 やっと出会えた親友の息子であるハリーとの会話に夢中になってしまったシリウス、そんな2人をスネイプ先生が苦々しげに睨んで、注意が逸れていた僅かな隙をペティグリューさんは見逃しませんでした。

 

 

 

「ブラックだ! ――シリウス・ブラックがここにいるぞ!」

 

 

 

 それまで大人しくしていたペティグリューさんが突然、校庭の隅々まで響くような大音量で叫び出したのです。

 

 

「ピーター! 貴様――」

 

 

 シリウスが慌てて黙らせようとするも、時既に遅し――。

 

 

 次の瞬間には、暗闇の中からゾッとするような冷気が迫りくるのを感じて、誰もが言葉を失います。

 

 

「っ……!」

 

 スネイプ先生が舌打ちと共に足を止め、背後を振り返ると「禁じられた森」の方から気味の悪い冷気が漂い始め、そこから無数の吸魂鬼が現れました。

 

 

 その数、少なくとも100体以上。真っ黒な塊になって、滑るように私たちへ急速接近してきます。

 

 

「エクスペクト・パトローナム-守護霊よ来たれ!」

 

 

 すぐさまスネイプ先生が杖を振り上げて呪文を唱えると、銀色の雌鹿が現れました。その姿に何か思うところがあったのか、目を丸くするシリウスさん。

 

「スネイプ、お前……」

「そんなことより、さっさと守護霊を出さんか!」

 

 一喝され、シリウスさんもルーピン先生の杖を使い、守護霊の呪文を唱えます。

 

 しかし長い潜伏生活で疲弊していることや、杖が借り物であること、また長いアズカバン生活によるブランクのせいもあってか、本調子では無いようでした。

 

 

 対する吸魂鬼は数の優位性を生かし、散開して私たちを包囲するように四方八方に上空からも押し寄せてきました。

 

「エクスペクト・パトローナム!」

 

 防戦一方のスネイプ先生とシリウスさんを援護するべく、ハリーが守護霊の呪文を唱え、私とハーマイオニーもそれに続こうとした時でした。

 

 

「うわぁっ!?」

 

 

 突如、背後から聞こえてきたのはロンの悲鳴。振り返れば、包帯をした足で不安定だったロンは転倒して地面に倒れ、落とした杖にはペティグリューさんが飛びついてきました。

 

 恐らく、吸魂鬼の出現でロンが動揺している隙を狙って、タックルでもかましたのでしょう。

 

 

「エクスペリアームス-武器よ去れ!」

 

 すぐさま私が武装解除の呪文を唱えるも、もはや手遅れでした。

 

 ペティグリューさんは既にネズミに変身しており、だらりと伸びたロンの腕にかかっている手錠を、禿げた尻尾がシュッと掻い潜っていきます。

 そのままペティグリューさんは草むらを走り去り、わき目も振らず吸魂鬼の群れの下へと飛び込んでいきました。

 

 

 こうなってしまうと、もう手の出しようがありません。

 

 動物に変身したペティグリューさんは吸魂鬼に襲われませんが、私たちは話が別です。

 残った唯一の動物もどき(アニメーガス)であるブラックさんもおぼろげな守護霊で襲い掛かる吸魂鬼を捌くので精一杯。

 

 そして時間が経てば経つだけ、暗闇の中でネズミ1匹を探すのは絶望的になってていくでしょう。

 

 

(しかし、この土壇場でよく考えましたね……)

 

 どうあがいてもアズカバンという危機的状況で生まれた一瞬の隙を見逃さず、咄嗟の機転で全員を出し抜いたペティグリューさん。まさに敵ながら天晴というやつです。

 

 ブラックさんの脱獄の手口を即座に応用する機転に、一瞬の隙をついて杖を奪って逃げる決断力、迷わず吸魂鬼の群れに突っ込む大胆さ。保身のためとはいえ、まさしくグリフィンドールとスリザリンの長所が見事に発揮されていました。

 

 

「シリウス、あいつが逃げた! ペティグリューが変身した!」

 

 ハリーも気づいて大声を上げましたが、もはや後の祭り。シリウスさんとスネイプ先生も吸魂鬼の対応に精一杯で、とても後を追う余裕などありません。

 

 それどころか、一転して少しでも油断すれば全員が魂を抜かれかねないという絶体絶命の状況に。辛うじてスネイプ先生とシリウスさんの守護霊で場を持たせていますが、それもいつまで持つか。

 

 ハリーもどうにか守護霊を出そうとするも悪戦苦闘しており、怪我をしたロンはもちろんのこと、私とハーマイオニーも使いどころがニッチな守護霊の呪文を後回しにしていたせいで、せいぜい霞のような守護霊を出すのが現状では精一杯。

 

 

(それならば……!)

 

 

 私は杖を城の方に向け、呪文を唱えました。

 

 

「ペリキュラム-救出せよ!」

 

 

 呪文を唱えると、杖の先から煙と赤い光が飛び出し、ホグワーツ城へ向けて救難信号が放たれます。

 

 そう、自力での解決が難しいなら、無理に自分たちで追い払わずとも、他人の力を借りればいいのです。

 

 校庭は城から大して離れていませんし、ダンブルドア校長なり夜勤で見回りをしているフィルチさんなりが、救難信号を受け取って増援と共に駆け付けて来るまでの時間稼ぎだけなら、靄のような守護霊でもどうにかなるでしょう。

 

 

「エクスペクト・パトローナム-守護霊よ来たれ!」

 

 

 ダメ元で私が呪文を唱えると、杖先から煙のようなものが出てきて、近くに寄ってきた吸魂鬼の動きが鈍りました。

 隣のハーマイオニーの方はうまくいってませんが、ハリーの杖からは私と同じように霞のような守護霊が出ているため、現状はギリギリなんとか自分たちの身は守れるといったところ。

 

 であれば、後は救助が来るのを信じて耐えるだけ――。

 

 

「ハリー」

 

 私の加勢で少し余裕が出来たのか、守護霊を出そうと悪戦苦闘するハリーに、シリウスさんが優しい声をかけます。

 

「シリウス、僕―――」

「落ち着くんだ……ジェームズとリリーも、最初のうちは苦労してたが、最後には二人とも得意の呪文になっていた」

 

 そうハリーに語り掛けるシリウスさんの声は、とても温かいもので。

 

「だから、君だって出来るはずだ。ジェームズとリリーの息子である君に出来ないわけがない。私は、そう信じている」

 

 それに、と続けるシリウスさん。

 

 

「これから、一緒に暮らしてくれるんだろう?」

 

 

 シリウスさんがニッコリと笑うと、ハリーはしばし呆気にとられたような表情をしておりましたが、やがて吹っ切れたような顔になりました。

 

「シリウス、一緒にやろう」

「わかった。私も呪文を仕切り直したいと思ってたところでね」

 

 危機的状況ではあるものの、その表情は心躍る冒険を前にした悪戯っ子のようでもあって。

 

「3つ数えたらだ、いいね?」

 

 ハリーが頷き、シリウスと二人で並んで杖を構えます。

 

「さん、に、いちーーー」

 

 

 

「「エクスペクト・パトローナム-守護霊よ、来たれ!!」」

 

 

 

 ハリーとシリウスさんが強く叫ぶと、二つの杖先から目も眩むような閃光が走り、今度こそハッキリとした形ある牡鹿と大型犬の守護霊が現れました。

 

 2体の守護霊は白く幻想的な光を放ちながら、吸魂鬼を次々に蹴散らしていきます。それは傍目にも見事な連携で、今日が初めてとは思えないほど、ぴったりと息の合った動きでした。

 

 

「………プロングズ」

 

 

 掠れるような声で呟いたシリウスさんの頬を一筋の涙が伝い、やがて吸魂鬼の群れは諦めたように撤退していきました。

 

 

 

 **

 

 

 

 こうして、吸魂鬼の脅威は去りました。

 

 シリウスさんは疲労困憊で倒れており、スネイプ先生は怪我をしたロンを魔法で出現させた担架に乗せ、私とハリー、ハーマイオニーは途方に暮れていました。

 

 

 もちろん、目下の問題はシリウスさんのことです。

 とにもかくにも、ペティグリューがいなければ無実は証明できません。

 

 

 見れば、ホグワーツ城からはポツポツと灯りがつき始めています。恐らく私の発した救難信号を受け取ったと思われる先生方が、ランタンを掲げたフィルチさんを先頭に慌てて走ってくるのが見えました。

 

 

 

「ブラック」

 

 沈黙の中、最初に口を開いたのはスネイプ先生でした。明らかに不本意だという顔でシリウスさんに近づいていくと、ポケットから茶色い塊を取り出しました。

 

「さっさと食え」

 

 そう言って差し出したのは、ハニーデュークス菓子店の最高級板チョコレート。似合わないにも程があります。

 

 シリウスさんも呆気にとられた顔で、スネイプ先生の手の中にあるチョコをしげしげと眺めていました。

 

「毒とか入れてないだろうな?」

「お望みなら、アクロマンチュラの毒でもバジリスクの毒でも入れてやる」

「……遠慮しておく」

 

 まるで「遠慮しないでくれればよかったのに」と言わんばかりの表情で、スネイプ先生はチョコをシリウスさんに押し付けました。

 

「ダンブルドアには吾輩の方から伝えておく。気が変わらん内に、さっさと立ち去れ」

 

 すぐさまハリーが抗議します。

 

「待って! ダンブルドアなら――」

「ダンブルドアが信じるかどうかは問題ではない」

 

 食って掛かるハリーに、スネイプ先生はぴしゃりと言い放ちました。

 

「ペティグリューがいない以上、無罪であることは証明できん。その状況でこの脱獄犯が何を言おうと、未成年や狼男、元死喰い人が弁護しようと誰も聞く耳を持つまい」

 

 それでもまだ何か言いたそうなハリーとシリウスさんに、スネイプ先生がイライラしながら口を開きました。

 

「後から、ふくろう便で手紙でも何でも送ればいいだろう。少しは頭を使いたまえ」

 

 そう、スネイプ先生の言う通り、シリウスさんが生きてさえいれば何度でも機会はあるのです。

 

 

「ハリー、また会おう」

「絶対にだよ?」

「ああ」

 

 シリウスさんはハリーの方を名残り惜しそうに一瞥してから、一気にバリバリとチョコを呑み込んで大きな黒犬に変身しました。動物の姿であれば、ホグワーツの外にいる吸魂鬼の警備網も突破できるでしょう。

 

 最後に一度だけ私たちの方を振り返ると、黒い大きな犬は遠吠えと共に森の方へと去っていきました。

 




ピーター「\(ブラックが)ここにいるぞ!/」
吸魂鬼「いたぞおおおおおおおおお!!!!!!」

 ピーターは不意を突いて原作通りに脱出。死の呪文も余裕で使えるし、動物もどきだし、なんだかんだで潜在能力は高め。

 逆転時計のくだりは原作者自身が「あまりに気軽に時間旅行に踏み込んでしまった」と3巻以降からは活躍させておらず、本作でも既にバックビークの処刑が回避されていることなどもあって、出番は無しになりました(ハーマイオニーは最後まで他言無用の秘密を守って、ひっそりマクゴナガル先生に返却)。
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