ハリー・ポッターと灰の魔女 作:アストラマギカ
※独自要素あり。苦手な方はご注意ください。
ダーズリー家から離れた後、僕たちはウィーズリー家のあるデヴォン州オッタリー・セント・ポールへと、黒いジープ・グランドチェロキーを走らせていた。
ダーズリー家のあるサリー州からだと約2時間ほどかかり、途中でヴィクトリカさんが『Nando's』という南アフリカ発のイギリスで人気があるファーストフード店に寄って、ペリペリ・チキンというポルトガル風グリル・チキンとチキン・ラップなんかを注文してくれる。
ドライブスルーで食べ物を受け取り、車内でイレイナと他愛もない話をしながらチュロスをかじっていると、不意にヴィクトリカさんが話しかけてきた。
「そういえば、ハリー君ってけっこう真面目なのね。見た目はジェームズ君似だけど、こうして話してるとリリーちゃんを思い出すわ」
食べていたチュロスを喉に詰まらせそうになりながらも、僕は掠れる声で聞き返した。
「び、ヴィクトリカさん、僕の両親のことを知ってるんですか!?」
「多少はね。寮も違うし学年も離れてたから、それほど親しいわけではなかったけど」
「―――っ」
思わず息を吞んだのが、自分でも分かった。
「その、もしよければ……お父さんとお母さんのことを聞いても?」
僕の質問にヴィクトリカさんは「そうねぇ」と呟き、懐かしむように話し始めた。
「リリーちゃんは、スラッギー爺さん……当時のスリザリン寮監で、魔法薬学もしてたスラグホーン先生のお気に入りだったの。だから、先生の主催する『
そのまま「頭が良くて正義感のある、真面目な生徒だったわ」と続けるヴィクトリカさん。
「クラブで会った時も、最初は今のハリー君みたいな感じで礼儀正しかったわね」
少し、引っかかる言い方だった。まるで、どうも「お父さんの方は違う」といったニュアンスが含まれているような……。
けれど、「もっとお父さんの事を知りたい」という興味の方が勝った。
「僕のお父さんって、どんな感じだったんですか?」
「ジェームズ君なら、入学して3日目にラブレターを渡して来たわね」
「……ちなみに内容は?」
「一行目から‟好きです結婚してください”って」
父さんフルスロットル……。
「ついでに言うと、同じ日にシリウス君も告白してきたわ」
唐突に頭の中に浮かんできたのは、去年見たシリウスが小綺麗な恰好をしてセクシーなウィンクを決める光景だった。いや、たしかに絵になりそうだけど。
(ていうか、告白って入学して3日ぐらいでするものなの? そういう時代だったの? それとも僕の周りでそういう話を聞かないだけで、僕が知らない間に実はシェーマスとかラベンダーとか、とっくに誰かと付き合ったり別れたりとかしてるのかな……?)
謎の疑心暗鬼に陥る僕を他所に、イレイナが助け舟あるいは追い打ちをかけてくる。
「……それで、お母さんは何て答えたんですか?」
「うーん、たしか普通に‟告白してくれたのは嬉しいけど、卒業まで学業に集中したいから気持ちには応えられなくてゴメンね”って答えたと思うわ」
とっても大人の対応だった。
「まぁ、それでシリウス君は素直に次の日には他の女の子に興味を移してくれたんだけど、ジェームズ君は諦めないで毎日フクロウ便を送ってくれて」
「どっちにしてもロクな男じゃありませんね……」
「反論できないのが悔しい……」
やっぱり親の恋愛事情なんて興味本位で聞くもんじゃないな、と僕は強く心に刻みつけた。
「でも、見かねたリリーちゃんが‟迷惑でしょ!”ってジェームズ君に噛みついてからは、ハリー君も知っての通り、ジェームズ君はリリーちゃん一筋よ。知らないけど」
「……僕、母さんの息子である事を誇りに思います」
そう返しつつも、僕はちょっぴり複雑な気分になった。
「でも――」
今の話を聞いて、少しだけ不安になったことがある。
「お母さんは、どうして父さんと付き合ったんだろう?」
情けない声で呟くと、隣で聞いていたイレイナが肩をすくめた。
「マジレスすると、女子の多くは本気で嫌いな男子には絡んできませんよ。露骨な無視もしませんけど、それとなく避けて距離を置きます」
あくまで私の知る限りですが、と付け加えたイレイナだったけど、その言葉からは妙な説得力を感じた。
◇◆◇
そんなこんなで、私たちはウィーズリー家のある『隠れ穴』へと辿り着きました。
暗くなってからは『透明ブースター』を起動して透明化し、時間移動しちゃう某デロリアンのように空をひとっ飛び。『隠れ穴』では、さっそくロンのお父さんが道路脇で待っていてくれました。
「やぁ、ヴィクトリカ。ハリーの送迎をありがとう!」
「アーサー先輩……それは?」
お母さんの視線の先には、アーサー・ウィーズリーさんが両手に持つ『歓迎 セレステリア&ポッター様ご一行』と書かれた、空港にありがちなプラカードが。
「なんでも、マグルの世界ではこうやって人を迎えると聞いてね」
「それは飛行機の時だけですよ」
「それよりだ! ヴィクトリカ、ちょっと見せてもらっていいかね?」
うずうずとした様子でウィーズリー氏は、私たちの乗ってきた車を見つめます。ハリーたちが一昨年に飛んできたフォード・アングリアは40年ぐらい前の車なので、割と発売されたばかりのジープに大興奮しておりました。
そしてウィーズリー氏にお母さんがあることないこと吹き込んでる間、ウィーズリー家から赤毛の兄弟たちがぞろぞろと集まり、私のとこにはフレッドとジョージがやってきました。
「イレイナ! 元気にしてたかい?」
「ちょっと背が伸びたか?」
「お二人が縮んだだけかもしれませんよ」
私が返すと双子がニヤッと笑って、久々に握手です。そのすぐ後ろには、知らない赤毛が二人いました。
「そちらは?」
「紹介しよう。ウィーズリー家が誇る、偉大なる首席のビルとクィディッチ・キャプテンのチャーリーだ」
「どっちも‟元”だけどな」
チャーリーさんの方は双子に似てがっしりした体つきで、鍛えられた筋骨隆々の身体の至る所にヤケドや傷の痕がありました。
対してビルさんの方はロン毛のイケメンで、私服もロックコンサートにいそうな洒落たもの。
「では、我が家に歓迎しよう」
双子に誘われるがままに『隠れ穴』へ入ると、中ではウィーズリー夫人がお茶の準備をしてくれていました。
すぐ隣では魔法省に就職したばかりのパーシー・ウィーズリーさんが、ハーマイオニーの前で熱っぽく大鍋について語っています。
「――輸入品には僅かに薄いのがあってね、なんと漏れ率が年3%を超えてるんだ!」
「魔法薬とかを扱うなら、ちょっと危ないかも」
「そう思うだろう? しかし今やイギリス魔法界の鍋は、ほとんど安価な海外製品で占められている。何らかの国際法を課さないと……」
「でも魔法省主導で‟鍋認証”を課してたら、かえって利権の温床になったりしない?」
ハーマイオニーがもっともな指摘をすると、パーシーさんは渋い顔になって「まさに、そこが問題なんだ」と大きくかぶりを振り―――そこで、ようやく私たちに気づきました。
「やぁ、ハリーにセレステリアさん」
「ハリーもイレイナも、久しぶりね!」
「お久しぶりです」
そんな感じで顔合わせをしたのですが、唯一、ウィーズリー夫人からは少しだけ距離を感じました。
にこやかに抱きしめてくれたのですが、ちらちらと視線が私と双子の間を行ったり来たりしているような。
「私、何か警戒されてます?」
「お袋は俺たちとイレイナがつき合ってるんじゃないかって、心配してるんだ」
「しかも二股で」
「はいはい。戯言はともかく、本当のところは?」
「「ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ」」
あー、と頷く私。
「例の悪戯専門店の話、やっぱダメだったんですか」
双子が悪戯専門店を開こうとしているという話は、私も知っていました。そして一昨年から一緒にマグルのエロ本を売りさばいたり、去年は『守護の呪文』をかけた防呪チョッキを魔法省に売ったりと、ある意味ではビジネス・パートナーのような関係でもあります。
その甲斐あってか開店資金はそこそこ集まっており、肝心の悪戯グッズも『だまし杖』だの『ひっかけ菓子』だの『ベロベロ飴』と順調に開発してるのですが、どうやらウィーズリー夫人は双子にも魔法省のような安定した職場に入って欲しいとのこと。
「つってもさ、そもそも俺たち向きの職場なんて魔法省にあると思うか?」
「私ならアズカバンを推薦しますね」
「よせやい、俺とジョージはあんな田舎で終わるタマじゃないぜ」
「そうだとも。俺たち、いつかビッグになるからさ」
「フレッドもジョージも、いい加減になさい!」
売れない自称ミュージシャンみたいなことをドヤ顔でのたまう双子に向かって、ついに堪忍袋の緒が切れたらしい、ウィーズリー夫人が凄みました。
「いいこと? もし貴方たちがビルやパーシーのように『
ですけど!と眉根に皺を寄せて続けるウィーズリー夫人。
「たったの3ふくろう! こんな酷い成績で悪戯だ専門店だのと言っても、なんの説得力もありません! 勉強をサボる口実にしか聞こえないわ!」
うーん、これは割と正論……振り返ると、双子もちょっとバツの悪そうな顔をしていました。
**
「けどさ――」
双子がウィーズリー夫人に何か反論しようと口を開きかけた時、不意に同じ女性の声が4つほど同時に響きました。
『――もしもし? 聞こえる?』
1つは私、2つは双子、そして最後の1つはパーシーさんのポケットからでした。
「ペニー?」
パーシーさんがポケットから取り出したのはカードケースに入った鏡で、そこにはガールフレンドで元・レイブンクロー監督生のペネロピー・クリアウォーターさんの顔が。続けて私やフレッド、ジョージと鏡を開けると鏡の中が万華鏡のように分裂し、5人全員の顔が映りました。
これぞ、去年の夏休みに私とペネロピー先輩、そしてスリザリン監督生7年のジェマ・ファーレイ先輩の3人で開発した『
『あ、みんな揃ってるんだ。良かった……この後の会議には来れそう?』
「パーシーが、クラウチさんにラブレターを書き終わり次第だな」
『――は?』
パーシーさんが答えるより早くフレッドさんが茶化して言うと、いつもは「やさしい生徒会長さん」みたいなペネロピーさんの穏やかで朗らかな声が、トーン2つ分ぐらい下がりました。
『――どういうこと?』
「待つんだペニー、誤解だ!」
慌てて弁明するパーシーさん。
「クラウチさんは尊敬できる上司で、いつも余裕をもってテキパキと仕事をなさる方だから、僕が早く報告書を上げればきっと喜ばれるかと思って……その、最近は忙しそうだし……」
『へー、そうなんだ』
「「「………」」」
さすがに「ないわー」みたいな表情で顔を見合わせる双子と私。何をどう思ったら、この流れで今のセリフが出てくるんでしょう?
せっせと墓穴掘りに勤しむパーシーさんを見るペネロピーさんは、スノードロップのように可憐な表情を浮かべてじっと聞いています。
『――それで結局、今晩は来れそう?』
「えっと、その……」
「行くってさ! だろ、パーシー?」
フレッドが「空気読め」とアイコンタクトしながら軽く足で小突くと、煮え切らなかったパーシーさんもやっと「あ、ああ……そうだな」と言葉を発しました。
『じゃあ、こっちに着いたら二人でゆっくり話せるね』
うふふ、と微笑むペネロピーさんの笑顔に、あたふたし出すパーシーさん。私はフレッドさんに顔を寄せ、小声で質問します。
「あの、ペネロピーさんって怒ると怖い人だったりします?」
どっちかというと、いつもパーシーさんの面白くもない政治談議とかをニコニコ聞いてるイメージ強いのですが。
「ジェマさんの話じゃ、笑顔で社員をクビにするタイプらしいぜ」
「あー、なんか浮気されても別に怒らないけど、無言で家からすぐ出ていく人っていますよね」
「そうそう」
『聞こえてるよー、二人とも』
とりあえずパーシーさんが浮気してるわけでも何でもないことを改めて説明すると、ようやく「まぁ、どうせそんな事だと思ってたけど」と少しいじけたような反応が返ってきました。
『じゃあ、準備できたら来てね』
そして通話終了と共に5人の顔が表示されていた鏡の表面が波打ち、元の鏡へと戻っていきました。
***
通信が終わると、ビル・ウィーズリーさんが興味深そうに、しげしげとパーシーさんの鏡を見つめて言いました。
「驚いた。これが君達が発明した噂の『
見た目は「カードケースに入った鏡」といった感じで、シンプルながらスタイリッシュなビジュアル。
その中身は魔道具の1つ、対になった2つの鏡で相手の名前を叫ぶと、お互いの顔を見ながら会話できる『両面鏡』を発展させ、1対1の会話しかできなかったものを、登録すれば複数人で会話できるようにした改良版が『多面鏡』です。
「一応、商品名としては『パランティア』って名前がありまして、いま使ってるのは2世代機の『パランティア 2W』です」
ちなみに2代目モデルでは『吠えメール』や『
「パランティア……どこかで聞いたことがあるような」
「魔法史でビンズ先生が教えてくれただろう? 古代ローマ魔法元老院を支えたといわれる、『両面鏡』の先祖だ」
首をひねったロンに、パーシーさんが意気揚々と解説していきます。
「古代ローマの偉大な魔法使いたちは、高度な魔法をかけた直径30センチほどの黒い水晶――『
なんか変な歴史スイッチが入ってしまったらしく、めっちゃ早口で蘊蓄を語り始めるパーシーさん。
試作品こそ去年の夏休みに私とペネロピー・クリアウォーター先輩、そしてジェマ・ファーレイ先輩の3人で開発したものですが、それを実用段階に持っていくまでの開発には、パーシーさんも大きく関わっております。
ペネロピー先輩の彼氏であり、ホグワーツ男子首席でもあるパーシーさんは持ち前の几帳面な性格で精密さが要求される工作に能力を発揮し、滑らかで美しい映像が途切れることなく鏡に通信できるよう、
「ペニーから何か良い名前が無いかアイデアを聞かれて、僕はすぐにピンと来た。ビンズ先生の授業を思い出して‟これだ!”ってね」
ファーレイ先輩なんかは「シンプルに『O-Mirror』とかの方が、スタイリッシュでよくない?」などと言っておりましたが、最終的にはパーシーさんにも途中から開発を手助けしてもらったお礼の意味も込めて、ペネロピー先輩が『パランティア』案の方を支持して決着がつきました。
「とはいえ、僕はてっきりペニーも最終的には魔法省に入るものだと思っていたので、スリザリンのジェマやルーピン教授と一緒に起業すると言い出した時は驚いたものです」
パーシーさんがやれやれ、といった口調でかぶりを振りました。
「えっ、ルーピン先生も働いてるの!?」
驚いて目を見開くハリー。
「去年、一緒に『防呪チョッキ』を作った仲でもありますしね」
あれで味をしめたファーレイ先輩が「いっそ起業しない?」と思い立ち、同期のペネロピー先輩と退職したルーピン先生を誘い、さらにグリンゴッツに勤めるビルさんや私の実家のセレステリア金融グループから融資を受け、『防呪チョッキ』や『多面鏡』といった魔法道具の開発・製造・販売を手掛けるスタートアップ企業『
「ちなみに企業理念は『GMにとって良いことは、魔法界にとっても良いこと』です」
「随分と大きく出たね……」
これが巨大独占資本なら傲慢と受け取られますが、スタートアップ企業だと逆に未来志向の壮大なビジョンに聞こえるような気がしないでもないから、言葉とは不思議なものです。
「でも、ルーピン先生の就職先が見つかって良かった」
「その点については、むしろこちらの方が感謝したいぐらいですよ」
いくら創業者2人が元監督生とはいえ、所詮は純血名家でも何でもないポッと出の学生が作ったスタートアップ企業に過ぎません。
なので通常であれば創業当初からルーピン先生レベルの人材を雇うのは至難の業ですが、優秀な人材を欲する先輩たちと狼人間ゆえに就職先に困っていたルーピン先生の利害が一致した形となり、幸先の良いスタートを切ることが出来ました。
「あれ? でも、ルーピン先生はどうして共同経営者にならなかったんだい?」
「ロン、ルーピン先生は
この辺は社会的信用との兼ね合いで、先輩たちとルーピン先生が起業の際にグリンゴッツ銀行に勤めるビル・ウィーズリーさんに相談したところ「ただでさえ学生ベンチャーってだけでハンデなのに、共同経営者が狼人間だと余計に融資が受けられなくなる」との話でした。
それを聞いたハリーの表情が少し曇ったのを見て、フレッドが明るい声で肩を叩きました。
「そうそう。ハリーにはまだ言ってなかったけど、俺とジョージにイレイナも働いているんだぜ」
「悪戯専門店は諦めたの?」
「まさか。むしろ、そのための下準備ってわけさ」
GM社で起業の経験を積んだり、経営ノウハウを学んでおけば悪戯専門店を開いた時にきっと役に立つはずだ、と力説するジョージ。
「結構、3人とも色々と考えてるんだね……」
「その通り。こう見えて、既に私もれっきとした社会人なのです」
ふふんっと得意げになる私に、ハリーが聞いてきます。
「ちなみにイレイナの役職は何なの?」
「名誉顧問です」
「それ実質リタイアなんじゃ」
「実は名誉会長も務めていまして」
「もっといらない……」
**
そんな話をしている間に、どうやらハーマイオニーも『多面鏡』に興味を示したようでした。
「用途としては、マグルで使ってるポケベルみたいな感じかしら?」
「そうですね。ただ、従来からある『両面鏡』の延長線上なので、ポケベルに魔法をかけるのと違って『国際魔法使い機密保持法』にも引っかからずに済みました」
この辺は法律に詳しいお母さんに頼んで、特別割引料金で必要書類を作成してもらいました。
新しいテクノロジーにはリスクが付き物であり、それを規制するのが行政組織の仕事なので仕方は無いのですが、魔法界の技術進歩を妨げる最大の壁が1692年施行の『国際魔法使い機密保持法』という側面は否定できません。
もっとも、規制する側からすれば「規制緩和したせいでマグルに存在がバレて、中世のような魔女狩りにあったら責任とれんのか」という反論も当然あるでしょう。
なので俗にいう「大砲とバター」のバランス……すなわち、どこまで「安心できる生活」のための安全保障を重視して、かつ「豊かな生活」をもたらす技術進歩を重視すべきか、という議論は常に意見の分かれるところ。
続いて質問してきたのは、ビル・ウィーズリーさんでした。
「そういえば『パランティア 2W』の後半部分の『2W』って、どういう意味なんだい?」
「普通に『2』は2世代目という意味で、『W』は通信方式です」
「あ、ひょっとして『
流石はグリンゴッツに勤めているだけあって、理解の早いビルさん。
両面鏡やウィーズリー家でも流れてる魔法のラジオで使われている『魔法ワイヤレスネットワーク(通称:WWN)』には魔法と相性の悪い電気ではなく、煙突飛行ネットワークや「姿をくらますキャビネット棚」なんかに使われる空間転移系の魔法が使われています。
「あれ、ということは……」
ハーマイオニーが首を捻って確認するように言いました。
「ねぇイレイナ、この多面鏡とか両面鏡って空間転移魔法を使って、映像通信してるのよね?」
「そうですね」
「じゃあ、例えば誰かが多面鏡でクィディッチの試合をその人の多面鏡に映せば、ライブ中継とかも出来るってこと?」
「「「………」」」
私と双子が固まり、3秒ほど経ったあと。
がしっ――と。
がっちりしたフレッドとジョージの手がハーマイオニーの両肩に置かれ、双子から圧のある微笑みを向けられて「え、なに?わたし悪いことした?」と混乱するハーマイオニー。
「うふふ……知られたからには、タダで帰すわけにはいきませんね」
「えっ!? イレイナまで!?」
咄嗟にハリーとロンに助けを求めるハーマイオニーでしたが、明らか「関わらんとこ……」みたいな顔でわざとらしく咳払いをして顔を背ける2人。
「そうだチャーリー、ノーバートはどうなったの?」
「ノーバート? 何の話だ?」
「3年前のノルウェー・リッジバックだよ。ハグリッドが飼ってた」
「ああ、ノーベルタのことか!あれ、後で分かったんだけど実は雄じゃなくて雌で――」
「ちょっと二人とも!?」
孤立無援になったハーマイオニーは屈強な双子によってズルズルと暖炉まで連れていかれ、彼女の嘆きは薄情な赤毛男子と眼鏡男子には届かないようでした。
「じゃあ、俺たちは行こうぜ」
「こんな時間に何処に!?」
「俺たちの会社だ」
「まさかの深夜残業!?」
「ただの社会科見学ですよ。ハーマイオニーも興味ありません?」
「それは、まぁ……少しぐらいなら」
グリフィンドールに所属しているとはいえ、それなりにレイブンクロー的な研究者気質のあるハーマイオニーのこと。私の見立て通り、何だかんだで知的好奇心をそそられたようでした。
完成品の使い方に興味はあっても開発工程とかはどうでもいいタイプのロンやハリーとは、こういうとこに差が出ます。
(まぁ、あわよくばハーマイオニーも開発チームに引き入れたいところですけど……)
知り合いに声をかけまくって優秀な人材を集めているところなので、人手は一人でも多く欲しいところ。
***
「――じゃあ、行こうか」
査察の意味も含めて同行するビルさんが、暖炉に向かって『煙突飛行粉』を投げ入れると、すぐさま炎がエメラルド色に変わって高く燃え上がります。
「くれぐれも、節度を弁えるのよ」
ウィーズリー夫人は唇を真一字に結び、フレッドとジョージを見て言いました。双子は「大丈夫さ」と肩をすくめ、大声で行き先を唱えました。
「「サークル!」」
双子の姿が消え、ハーマイオニーが首を傾げます。
「イレイナ、『サークル』って?」
「ノッティンガムのシャーウッド王立林にある、セレステリア財閥が貸し出してるビジネス・パークみたいなもんです」
「なんで『サークル』なの?」
「建物が丸いからです。アメリカの
パーシーさんとハーマイオニーが続くと、最後が私の番です。お母さんは笑顔で手を振っていました。
「イレイナ、楽しんできてね」
「はい!」
私も暖炉に足を踏み入れて「サークル!」と叫ぶと、身体が急転回を始めてエメラルド色の炎に包まれ、ウィーズリー家の居間はさっと視界から消えていきました。
パランティア
元ネタは『ロードオブザリング』より。本作では両面鏡のご先祖様。
ローマ魔法元老院
アメリカ魔法議会(MACUSA)やイギリス魔法省の前身であるイギリス魔法評議会のモデルになった、古代ローマにおける魔法族の統治機関。
モットーは『元老院とローマ魔導士(Senatus MagusQue Romanus:S.M.Q.R)』。純血名家・聖28一族の1つ、杖作りのオリバンダー家の歴史は紀元前・ローマにまで遡るらしく、古代ローマにも魔法省的なものはあったのかなと。
ゼネラル・マギティクス社(General Magitics Company)
通称:GM社。企業理念は「GMにとって良いことは、魔法界にとっても良いこと」。『防呪チョッキ』や『多面鏡』といった魔法道具の開発・製造・販売を手掛ける総合魔法道具メーカー。
元スリザリン監督生のジェマ・ファーレイと元レイブンクロー監督生&女子首席のペネロピー・クリアウォーターが共同経営者となり、製品担当はリーマス・ルーピンで、実質的には三頭政治。イレイナさんは名誉会長と名誉顧問を兼任。
サークル
セレステリア財閥が所有するビジネスパーク。建物は上から見るとドーナッツみたいな形をしている。元ネタはハーマイオニー役の人が出演した同名の映画。