ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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※独自設定あり。苦手な方はご注意ください。


第04章 ~『魔導解析機関(ウィザーディング・エンジン)』~

  

「そうそう。さっきのイレイナちゃんの話だけど、今のところ演算に関してはマグルのテクノロジーをうまく使えないかなって思ってるの」

 

 ペネロピーさんが指さした先には、最初に部屋に入った時にルーピンさんがいじっていた巨大な機械がありました。

 

 

「これは……」

 

 改めて傍まで近づいてみると、それは私が今までに見たことも無いような構造物でした。

 

 大聖堂にあるパイプオルガンに無数の歯車がくっついたような壮大で奇怪なオブジェクトは、生きているようにあちこちでガシャン!ガシャン!と金属音を立てて歯車が回転しており、そこかしこで魔法で動かしているであろうタイプライターがカタカタと軽快なタップ音を鳴らし、いくつものシリンダーがプシュー、プシューとピストン運動を繰り返しと、まるで金属で出来た巨大な生命体のよう。

 

 

 異様な光景に双子までもが呆気にとられ、私もそっとルーピンさんに耳打ちしました。

 

「えっと、なんですか。これ」

「偉大なマグルの数学者、チャールズ・バベッジの夢を魔法の力で実現したものだよ」

 

 

 私も最近になって本で知ったんだけどね、と語るルーピンさん。

 

 実は母親がマグルの半純血な事もあり、同じく半純血のファーレイ先輩やマグル生まれのペネロピーさんと一緒に、色々な知識をマグルの図書館に通って勉強したため、今ではすっかりマグル通とのこと。

 

 

「本来ならば、この機械がマグル初のコンピュータになる()()()()()

「はずだった?」

「19世紀の英国マグル政府には、その価値が理解できなかった。結果、電気で動くコンピュータに取って代わられたが、原理は驚くほど似ている」

 

 曰く、マグルで主流の電気式コンピュータは、小型化と高速処理に最適だから電気を使って動かしているだけで、蒸気や歯車でも原理的には同じように計算問題を解けるとのこと。

 これはアラン・チューリングという20世紀の偉大な数学者の仮説で、マグルの数学書なんかには「チューリング完全」といった言葉で表現されていたりするらしいです。

 

 

 

「じゃあ、これは――」

 

 ハーマイオニーが呟くと、ペネロピーさんがにっこりと笑いました。

 

 

 

「多分、想像通りだよ。私とジェマとルーピン先生で、こっそり魔法界版のコンピュータ……魔導解析機関(ウィザーディング・エンジン)を作ってたんだ」

 

 

 

 ペネロピーさん曰く、最初はマグルの電子機器を使おうと考えていたものの、『国際魔法機密保持法』との兼ね合いもあり、19世紀より前に作られたこの機械式計算機である『階差機関』と『解析機関』に目をつけたとのことでした。

 

 

 このうち階差機関というのは、巨大な歯車式の関数電卓のようなもの。

 

 いくつもの歯車のタワーがあり、これをオルゴールのように動かすことで複雑な計算がこなせるというものですが、これを発明したマグルのチャールズ・バベッジはなんと19世紀の人物だそうで。

 

 

「ロンドンの国立科学産業博物館で見たオリジナルは2メートル超えの大きさなんだけど、それだと使いづらいから変身術で小型化したり薄く成形してみたんだ。動力も蒸気から‟ロコモーター”系列の呪文に変えて、複数の回路を“ピエルトータム”系列の呪文で同期・同調させてるの」

 

 

 他にも演算速度は歯車の回転速度に依存するため、部品には『割れない呪文』と『夜の騎士バス』なんかに使われている『加速呪文』を二重にかけて高速処理しているのだとか。

 

 

 

「オリジナルは武骨な感じだが、ユーザー・インターフェースを考えて試作したものがこれになる」

 

 ルーピンさんが渡してくれたのは、“鏡のついた小型タイプライター”といった感じの魔法道具でした。なんといいますか、魔法族っぽいレトロ感というかスチームパンク感があります。

 

 

「グリンゴッツの業務でも使えるかもしれないな」

 

 ビル・ウィーズリーさんが興味を示し、試作品の電卓サイズまで小型化した魔法の階差機関をしげしげと眺め、適当なキーを押すとテコの原理でアームが動いてインクを染み込ませた帯の上から、ローラーに固定された紙に文字や数字が叩きつけられます。

 すると紙にインクが染み込んで『リドルの日記』のように消えたあと、計算結果が鏡型のディスプレイに表示されました。

 

 

 

 

 そしてGM社が次に着手したのは、階差機関の発展形で史上初のコンピュータとも呼ばれる解析機関の魔法版こと魔導解析機関でした。

 

 

「さっきの階差機関が四則計算に特化した自動計算器(カリキュレータ)だとしたら、この解析機関は自動計算機(コンピュータ)。大きな違いは、後者ならパンチカードでプログラムを組めるという点にある」

 

 

 解析機関はバベッジが「複数の階差機関を配置すれば、もっと複雑な計算ができるのではないか?」という発想から始まったもので、電卓と違って「条件分岐」機能が備わっていました。

 

 これは計算の途中で条件分岐点に行き当たると、現在の値があらかじめ与えられた条件に一致すれば手順Aを、違う場合には手順Bといった流れで分岐して計算を続行できる機能で、こうした複雑な制御命令を書き換えたり、複数の命令を束ねたものがプログラムと呼ばれます。

 

 さらに解析機関には、パンチカードに書かれたプログラムを実行して計算や判定を行う演算装置や、プログラムを取得して演算装置に命令を与える制御装置をまとめた、中央制御装置(CPU)の原型まで備わっているから驚きです。

 

 

 

「入出力装置と制御装置は『動く肖像画』や『リドルの日記』の魔法を、演算装置には『魔導解析機関』を、記憶装置には『憂いの篩』に使われている魔法を応用した」

 

 ルーピンさんが丁寧に説明してくれます。

 

「今、君達が見ているのは、一番最初に製作した記念品だ。試作2号機からは‟レデュシオ-縮め”といった変身術で小型化したものを演算装置として、携帯用デバイスの『日記』とリンクさせる方向で開発を進めている」

 

 そう言って取り出したのは小綺麗な黒い日記帳で、開くと表紙の裏には鏡型ディスプレイが組み込まれておりました。

 

「イメージとしては『日記』がユーザー端末で、魔導解析機関の方はサーバーのようなものでしょうか?」

「もし私がまだ教師だったら、今の答えでスリザリンに30点だ」

 

 ルーピンさんはニッコリと微笑み、ハーマイオニーも「なるほど」と納得した様子でした。

 

 

 

 

「しかし、この研究が進めばマグルのコンピュータに追いつけそうですね……」

 

 私が呟くと隣にいたファーレイ先輩がニヤッと笑いかけてきました。

 

「実際、融資を受ける際にイレイナのお爺さんからは‟マグルに追いつけ、追い越せ!”って激励されたよ」

「あの人、基本的に発想が魔法万能主義なとこありますからね」

 

 ヴォルデモートの純血至上主義とも、グリンデルバルドの魔法族至上主義とも違う、魔法テクノロジー万能主義あるいは魔法至上主義とでも言いますか。

 

 

「まだ試作段階だけど、このプロジェクトに凄く興味を持ってくれてる。イルヴァーモーニーのフランって人とマクゴナガルが書いた、最新の論文なんかも紹介してもらったおかげで開発も一気に捗ったよ」

 

 

「そういえばマクゴナガル先生、1年の時にしれっと巨大チェスに対戦プログラム仕込んでおりましたね……」

 

 今さらながら、あれ結構とんでもない魔法なんじゃないんでしょうか。

 

 

「この分野は変身術が発展したものだから、ダンブルドアが超大御所でマクゴナガル先生が第一人者、フラン先生は期待の若手研究者って感じみたい」

 

 そう言ってファーレイ先輩が持ってきたのは、高度な変身術である‟ピエルトータム”系列の呪文に関する学術論文で、筆頭著者はイルヴァーモーニー魔法学校の教授であるフランという魔女でした。

 

 

 

 フラン・ビエラ & ミネルバ・マクゴナガル (1993) 『階層型ネットワークを用いた大規模並列呪文処理システム構築のための集積魔術回路モデル選択』全米現代魔法協会, 26~49頁.

 

 

 

 なるほど、分かりません。

 

 

 頑張って読めば分かるかもしれませんが、面倒なので論文中の難解な魔法式なんかをすっ飛ばし、終章の「今後の展望と課題」を読むと、この研究分野における最終的な目標の1つは『魔法自律型汎用知能(Mystic Automaton General Intelligence)(略称:MAGI)』の完成とのこと。

 

 いずれは平凡な家庭でも家事に雑用、さらにはスケジュールや体調管理といった身の回りの世話ですら、魔法界版のAIこと『MAGI』が屋敷しもべ妖精のように全てこなしてくれる……かもしれません。

 

 

 **

 

 

「そういえば、この製品ってもう名前とかは決めたのかい?」

 

 パーシーさんが聞くと、ファーレイ先輩が答えました。

 

「まだ仮だけど、デバイスの方は『魔法知能日記(スマート・ダイアリー)』って呼んでて」

 

 もはや日記でも何でもないような。

 

呪文操作系統(チャームウェア)の方は、今年が1994年だから『Riddle 94』って呼んでる」

 

「………」

 

 

 

 

 

 ――― Riddle 94―――

 

 

 

 

 

 先輩たち曰く「‟Riddle”には‟謎なぞ”って意味もあるしね」とのことですが、神をも恐れぬ所業とは正にこのことでしょう。

 

 もちろんトム・リドルがヴォルデモート卿であることを知ってるのは、本人とダンブルドア校長、ハリー、ロン、私ぐらいなので仕方のないことではありますが。

 

 

 いずれにせよ気にしたら負け、という奴です。

 

 

 

 

「じゃあ、僕からも質問いい?」

 

 今度はセドリックさんが手を上げ、少し恥ずかしそうに質問しました。

 

「結局、この機械がどう使われるのか、正直まだよく分かってないんだけど……」

 

 言われてみればマグルのPCを知ってる私やハーマイオニーはともかく、純粋魔法族からすれば「パソコン?何それ美味しいの?」という疑問はもっともです。

 

 マグルですら年配の方は「ワープロもFAXも電卓もあるのに、今さら汎用計算機とか必要ある?」みたいな時代なので、たしかに説明不足感は否めません。

 

 

 

「よし、試しにシミュレーションしてみよっか」

 

 するとファーレイ先輩が悪戯っぽい笑顔を浮かべ、男子メンバーを見回します。

 

「今度のワールドカップ、どこが勝つと思う?」

 

 すぐさまセドリックさんが反応しました。

 

「絶対にアイルランドだ。準決勝でペルーをペチャンコにしてる」

「でも、ブルガリアにはビクトール・クラムがいるぞ。世界最高のシーカーだ」

 

 ジョージが反論しますが、セドリックさんはきっぱりと断言します。

 

「シーカーはブルガリアの方が上だけど、1人しかいない。他の6人はアイルランドが上だ」

 

 

 

 男性陣の意見を聞いたファーレイ先輩は面白そうに微笑み、例の『日記』に向かって、知り合いに話しかけるかのように声をかけました。

 

 

 

「――Riddle、今年のワールドカップ優勝杯の結果を予想して」

 

 

 

 すると日記に付属された鏡型ディプレイが緑色に点滅し、少し離れた場所にある魔導解析機関が連動して動き出しました。

 

 

 ファーレイ先輩の命令が『リドルの日記』のように魔法のパンチカードに自動で転記されて次々と読み取られていき、オルゴールのように配置されたクランクが回転します。

 そしてカチャカチャと無数の歯車列のドラム群が連動して回転・停止・逆回転を繰り返し、位置や回転角で情報を記憶・一時保存・表示していき、チーン!というベルの音と共に、計算結果が出力されたようでした。

 

 

 

《1番可能性が高いのは、ブルガリア160点対アイルランド190点でアイルランドの勝利です》

 

 

 

 返ってきたのは、なんか聞き覚えのある爽やかイケボな感じの合成音。

 

「Riddle、もっと詳しく」

《質問の範囲が、不明瞭です。より具体的な指示を、お願いします》

 

「Riddle、得点の内訳はどうなってるの?」

《クアッフル得点は、ブルガリアが10点、アイルランドが190点、です。スニッチ得点は、ブルガリアが150点、です》

 

 

 『Riddle 94』の回答に、フレッドは微妙な顔に。

 

「へい、Riddle。なんで負けると分かって、クラムはスニッチを取るんだ?」

《過去のデータから、クアッフル支配率と得点差が一定以上に達した場合、ビクトール・クラムには、そうした傾向が存在します》

 

 『Riddle 94』の機械的な答えを、ファーレイ先輩がフォローします。

 

「要するに、イングランドみたいに赤っ恥をかかないうちにスニッチを取って終わらせよう、って感じじゃない?」

 

 ちなみにイングランドはトランシルヴァニア相手に10点対390点という大差を付けられて負けており、多くのファンの失望をかっていました。

 

 

「それはありそうだね。チャーリーも似たようなこと言ってた気がする」

 

 ビルさんが納得したように頷き、セドリックやパーシーさんも興味津々でテーブルに置いてあった営業用パンフレット『Riddleで出来る30のこと』を手に取って読みながら、あれこれ話しかけております。

 

「Riddle、明日の天気は?」

《場所を指定してください》

 

「クィディッチ・ワールドカップ会場の天気はどうなの?」

《晴れのち曇りです》

 

 

「Riddle、なんか盛り上がる感じの音楽かけて」

 

 フレッドが横から割り込んで声をかけた瞬間、様々な声や楽器の音が混ざった爆音が鳴り響き、慌てて全員で耳を押さえます。

 

「ストップ! 止まれ!」

 

 ルーピン先生が叫ぶと『Riddle 94』は大人しくなったものの、そのままフリーズして再起動が始まってしまいました。

 

 

 ――― 問題が生じたため、Riddle を再起動しています。(12%完了)―――

 

 

 

「一体、どうしたんだ?」

 

 フレッドが質問すると、ルーピンさんが答えました。

 

「君の命令でRiddleが混乱したんだ。‟なんか盛り上がる感じの”といった、曖昧な指示は人間にも難しいからね」

 

 それに、と続けるルーピンさん。

 

「先ほどは言いそびれてしまったが、演算装置には『魔導解析機関』を使っているが、制御装置は複数の『動く肖像画』による合議制システムをとっている」

「合議……ホグワーツの『肖像画』同士がお話しているみたいに?」

 

 ハーマイオニーの言葉に、ルーピンさんが頷きました。 

 

「特定の人間の『肖像画』をベースにすると、その人の価値観が強く反映されてしまうからね」

「じゃあ、この『Riddle』には……」

「例の『動く肖像画』の魔法を使って、私とジェマ、ペネロピーの3人の思考パターンを制御装置に移植し、結合させて1つのシステムにしたんだ」

 

 

「それって――」

 

 ルーピン先生が言っていることの意味に気づき、自然と私の口から呟きが漏れました。

 

「疑似的な『組み分け帽子』みたいなものでしょうか……?」

 

 

 たしか『組み分け帽子』には4人の創設者達の人格がコピーされていて、組み分けの際に生徒がどの寮に相応しいか見抜く、と聞いたことがあります。

 

 

 

 ですが、考えようによってはゴドリック・グリフィンドール、ヘルガ・ハッフルパフ、ロウェナ・レイブンクロー、サラザール・スリザリンという、4つの創始者のコピーされた人格が密接に協力しあって1つの人格のように振舞う集団知性こそが、あの『組み分け帽子』の本質とも言えるのではないでしょうか。

 

 

 

 そうなると、この『Riddle 94』もまたルーピンさん(グリフィンドール)ファーレイ先輩(スリザリン)ペネロピーさん(レイブンクロー)という3つ異なる思考パターンからなる疑似『組み分け帽子』型AIと解釈した方が適切かもしれません。

 

 3人とも元・監督生なので、寮の代表としての素質は充分です。後はハッフルパフの監督生さえ揃えば完璧……。

 

 

 ――あっ。

 

 

 気づけば、獲物を前に舌なめずりするようなファーレイ先輩の視線と、実験動物を前にしたようなペネロピーさんの視線が、模範的なハッフルパフ生(セドリック・ディゴリー)に注がれていました。

 

「えっ」

 

「ねぇそこの君、お姉さん達とイイ事してみない? 」

「大丈夫だよー、痛くしないから」

 

 身の危険に気付いた頃には、時既に遅し。悪ノリに目が無い双子まで先輩たちに乗っかり、4人は狩りをするヴェロキラプトルのように少しずつ包囲の輪を狭め、じりじりと後退りするセドリックさん。

 

「経験は若いうちに積んだ方がいいんだぜ?」

「なぁに、天井の染みを数えてる間に終わるって」

「難しい事ぜーんぶ忘れてぇ♡ お姉さんと一緒になっちゃお♪」

「ふふっ、いい子だから大人しくしようねー?」

 

「そこの3人は平常運転として、クリアウォーター先輩キャラ変わってません!?」

 

 セドリックさんの悲鳴にルーピンさんが慌てて間に立ちはだかり、「ステイ、ステイ」と支配するのではなく信頼関係を築く姿を眺めつつ、私は小さな溜息をつきました。

 

 

「今さらですけど、ホグワーツ創始者って生まれる時代が早過ぎましたね……」

 

 

 もっとも詳しく話を聞いたところ、創始者たちが『組み分け帽子』にかけた魔法はロストテクノロジー化している上に職人技の要素が強いため、より汎用性を高めるために『Riddle』シリーズではマグルの技術と合わせてコストダウンを図るとのこと。

 

 将来的にはホグワーツや魔法省にも『魔導解析機関(ウィザーディング・エンジン)』を置くためのサーバ室が設置され、魔法ワイヤレスネットワーク(W W N)が飛び交う中、『Riddle』システムを搭載した『魔法知能日記(スマート・ダイアリー)』なるデバイスが、杖と並ぶ魔法使いの必需品になる日も来るのかもしれません。

 

 

 **

 

 

「――というわけで、ここからが本題」

 

 じゃれ終わったペネロピー先輩が一転して真剣な表情になり、私や双子たちの前に立ちました。

 

 

「本当に悪いんだけど、Riddleをワールドカップ前の株主総会でデモンストレーションできるよう、突貫工事に付き合って欲しいの」

 

 

 先輩たちの見立てでは、10万もの魔法使いが押し寄せるワールドカップ期間中は、注目を浴びる絶好のチャンスとの話でした。

 

「でも、チャンスはリスクでもあるから、限りなくゼロリスクに近づけたくて。さっきみたいなトラブルが絶対に起こらないよう、準備を手伝ってくれないかな?」

 

 少し強めに“トラブル”という単語を強調していたのは、先ほどのようなエラーが本番で生じてしまうことを意識しているのでしょう。

 

 ここ数年のイギリス魔法界は安定・リスク回避志向が強く、良い点を10個あげても、悪い点が1つでも目立てば投資してくれない、というのが現実です。

 

「もちろん、特別手当は出すよ。だから――私からも、お願いします。力を貸してください」

 

 ファーレイ先輩も珍しく真面目な声になり、真っ直ぐに頭を下げてきました。少数精鋭といえば聞こえは良いものの、なんだかんだで人手不足の問題は深刻なのでしょう。

 

 

「まぁ、俺とジョージなら構わないぜ!」

 

 双子が同意し、宿題をとっくに終えている私とハーマイオニーも異論はありません。セドリックさんやジョーダンさんも右に同じで、ビルさんとパーシーさんは仕事があるので手伝うのは無理とのことでしたが、相談ならいつでも受け付けるとのことでした。

 

 

 **

 

 

 はてさて、そんな流れでGM社の社運を賭けたデモンストレーションがワールドカップ前に開催されることになったわけですが、そこでプレゼンをやる羽目になったのは名誉会長という、こんな時ぐらいしか役に立たない肩書を持つ魔女でした。

 

 彼女はいったい誰か。

 

 

 ――そう、私です。

 




リドルの日記 →実質アレ〇サじゃん
巨大チェス  →実質コンピュータチェスじゃん
組み分け帽子 →実質AIじゃん

 巨大チェスと組み分け帽子については、前話を投稿した後にハリポタ1巻を読み直して、そのヤバさに気づいた作者です(汗)。ネ〇フのマギ、メタル〇アの「らりるれろ」もビックリ。


フラン先生
 本作ではイルヴァーモーニーの教師。名字のビエラは魔女旅原作におけるフラン先生の故郷の名前から。

MAGI(Mystic Automaton General Intelligence)
 魔法自立型汎用知能の略。フランら(1993)を代表とする魔法使い達によって、研究蓄積が進んでいる魔法理論。AIの魔法版で、マクゴナガルの巨大チェスや組み分け帽子、動く肖像画などに使われる魔法の延長線上。

魔法知能日記(スマート・ダイアリー)
 スマート日記。もはや日記でもなんでもない。表紙の裏に鏡型のディスプレイが組み込まれていて、手帳型の保護ケースと一体化したスマホみたいなイメージ。『呪いの子』あたりの孫世代には普及しているかもしれない。

『Riddle 94』
 GM社製の『魔法知能日記』に搭載されている標準システムソフトウェア。『組み分け帽子』を参考に、グリフィンドール的思考回路の「L.R.(リーマス・ルーピン)」、スリザリン的思考回路の「G.F.(ジェマ・ファーレイ)」、レイブンクロー的思考回路の「P.C.(ペネロピー・クリアウォーター)」という3つの思考パターンからなる合議制をとる、一種の集合知性による制御システム。将来的には、もっと思考パターンが追加されて洗練された集合知性になってるかもしれない。

魔導解析機関(ウィザーディング・エンジン)
 チャールズ・バベッジの『解析機関』を、魔法で動く仕様にした演算用サーバ。繰り返し計算とかが必要な時に『Riddle』から命令を受け取って計算を行う。

呪文操作系統(チャームウェア)
 魔法を用いたソフトウェア。呪術程式、魔法術式とも。


階差と階差機関
 階差とは、数列で隣り合う数字の項の差のことで、例えば二乗の数列は「1×1=1, 2×2=4, 3×3=9, 4×4=16, 5×5=25」となり、得られた数列「1,4,9,16,25」の差は「4-1=3, 9-4=5, 16-9=7,25-16=9」となり、この「3,5,7,9」という数列が第1階差数列。ここから更に第1階差数列の差をとると「5-3=2, 7-5=2, 9-7=2」で「2,2,2」という一定の数の数列が出来上がり、これが第2階差数列。
 3乗なら3階差、4乗なら4階差をとれば一定の数の数列となり、この規則性を使えば対数や三角関数のような複雑な計算でも計算できるようになる……という性質を利用したのが、階差機関のメカニズム。
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