ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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※独自設定あり。苦手な方はご注意ください。


第05章 ~『Riddle 94』~

        

 クィディッチ・ワールドカップ前日――。

 

 

 更なるスポンサーと開発資金を獲得するため、私たちはクィディッチ・ワールドカップ開催直前にゼネラル・マギティクス社(GM社)の社運をかけたデモンストレーションを決行しました。

 

 

 『サークル』の会場にはルシウス・マルフォイさんを始めとする多くの純血名家が集まり、さらには私のお爺さんなど大勢の株主やビジネス界の重鎮たちが出席し、まずは共同経営者であるジェマ・ファーレイ先輩とペネロピー・クリアウォーター先輩が四半期の業績について報告します。

 

 

 二人の様子は対照的でした。

 

 

 リラックスした様子で時にはユーモアすら交え、淀みなく質問に答えるファーレイ先輩の姿は主に投資家にウケたようで、著名なファンドからも満足そうな声がチラホラと。

 

 対して、ペネロピー先輩はガチガチに緊張して専門用語だらけの受け答えだったものの、むしろ技術畑のエンジニア特有の人間味が増したらしく、質疑応答の後には魔法技師出身の経営者であるノットの父親が珍しく感心している様子でした。

 

 

 

 こうして一通り四半期業績報告が終わると、新製品のデモンストレーションが始まりました。

 

 さて、この社運をかけた新商品のプレゼンという、一大イベントに学生ながら呼ばれた魔女がいます。あどけない美少女という人間心理に訴える演出が丸見えながら、それでも聴衆が聞き入ってしまうほどの美貌を持つ彼女は、いったい誰でしょう?

 

 

 

 ―――そう、私です。

 

 

 

「今日は、私がずっと待ち望んでいた日です」

 

 

 最初に映写機で屋敷しもべ妖精の映像を映し出し、次に両面鏡が並んだスライドを見せ、2つの間にクエスチョンマークを入れて、私はシンプルな問いを発しました。

 

 

「この2つの間に、第3のカテゴリーが入る余地はあるでしょうか? 私たちはこの問題について、常に考えてきました。ハードルは高く、課題も山積みでした」

 

 

 

 ――事実、私と先輩たちは総力をあげて突貫工事に勤しんだものの、まだまだ『Riddle 94』は課題だらけでした。

 

 

「ねぇ、やっぱり今からでも中止した方がよくない?」

 

 前日、弱々しく呟いたのはペネロピーさん。

 

「これ、100回やっても100回ぜんぶ上手くいかないよ」

 

 発表会を目前に控えてもなお、突貫工事で作り上げた『Riddle 94』は、完成にはほど遠いものでした。

 

 まだ製造ラインは出来ておらず、完成した試作品も10台ほどで、全て品質が異なっていました。何冊かの日記はページの色が明らかに違っていて、別の日記は表紙の裏に付属している鏡に擦り傷がついており、最高の試作品でさえ細かく見れば粗が残っています。

 

 おまけに演算サーバにあたる『魔導解析機関』に至っては、どうにか魔法ワイヤレスネットワーク(W W N)と接続させたものの、かなりの頻度でWWN回線が切れてしまう不安定なもの。

 

 

「正直、デモ品を試しに使わせたら一発で‟こりゃ酷い”って笑われるレベルだよな」

 

 フレッドの言葉通り、内部に組み込まれたチャームウェアの方も完成が間に合わず、色々とバグの多い杜撰な仕様でした。 

 

「飛行機事故で例えるなら、機体が勝手に出力を上げてエンジンが故障したり、特定の動きをとるとデータバグで自動操縦が解除されたりするようなもんですからねぇ」

「イレイナがたまに見せる謎の例え、ホント何なのよ……」

 

 ハーマイオニーがぼやき、隣ではパーシーさんが彼女のペネロピーさんを安心させるように背中をさすっていました。

 

 

 常識人のルーピンさんやセドリックはもちろん、双子やリー・ジョーダンさんですら「やめた方がいいんじゃないか」と思ってる様子の中、ファーレイ先輩は皮肉っぽい表情で試作品をいじりながら言いました。

 

「どうにか‟理想郷の庭園(Garden of Avalon)”を見つけたとはいえ、はてさて小鬼が出るかバジリスクが出るか……」

 

 この‟理想郷の庭園”とは業界用語で、一定の条件下において特定の手順で操作を行えば、未完成の魔道具でもまるで完成品のように魔法が発動する、というもの。

 

 『Riddle 94』でいえば、未だに何故か 四則計算 →記憶保存 →音楽再生 の順に操作を行うとフリーズするものの、順序を逆にするとあら不思議――なぜかスムーズに音楽再生も記憶保存も四則計算も出来る優れもの――に見えちゃう小細工テクニックです。

 

 しかし、この‟理想郷の庭園”通りに動かしても、当日も同じように動くかどうかは神のみぞ知る、という状態でした。

 

 

 

(とはいえ、こういう時のための‟名誉会長”職ですからね……)

 

 よく「偉い人の仕事は責任を取ること」と言いますが、最悪の場合には私が責任をとって名誉会長を辞任することになります。

 

 

 前日のやり取りを思い出しつつ、「まぁ最悪、辞任する羽目になっても高額の退職金も一緒だからいいか……」などと頭を切り替え、私はプレゼンを続けました。

 

 

 

「私たちは、色々な案を考えました。例えば『万眼鏡』、あるいは『両面鏡』、もしくは『動く肖像画』なんかも」

 

 聴衆の思いつきそうな答えをあげて、一個ずつ品質や価格、使いやすさといった観点から回答を踏み潰していきます。

 

 

 そして沈黙が訪れ、問いに対する答えが出ないまま2分が経ち―――ようやく、私はその言葉を口にしました。

 

 

 

「私たちは、答えを出せたと思います」

 

 

 

 満を持してローブから取り出したのは、小綺麗な黒い日記帳――それを浮遊呪文で浮かせると、屋敷しもべ妖精と『多機能両面鏡(多面鏡)』の映像の間に、ぴたりと収まりました。

 

 

「本日、私たちは革命的な魔道具を3つ発表します。1つ目は高度な計算機、2つ目は画期的な通信装置、3つ目は魔術的な‟しもべ”です」

 

 

 どうにかバグを起こさず動いてください……と心の中で祈りつつ、私はプレゼンを続けました。 

 

 

「3つです、お分かりですね? これらは独立した3つの魔道具ではなく、1つなのです」

 

 

 そして日記帳を手に取り、開発チームを信じて表紙を開きます。すると表紙裏に付属している多面鏡と真っ白なページが、聴衆の前で露わになりました。

 

 

「この革新的な『日記』を、私たちはどう動かすべきでしょうか? 羽ペン? キーボード? それとも指? いいえ、皆さんが生まれながらに持った最高のデバイス――『声』です」

 

 

 付属の多面鏡には既に『通信鏡』でライブ中継している会場の様子が映し出されており、にわかに聴衆がざわつくのを見ながら、私は口を開きました。

 

 

 

「――Riddle、音楽をかけてください」

 

 

《了解しました》

 

 

 爽やかな返事と共に『日記』から交響曲が流れ出し、私が命じるままに曲が切り替わっていきます。

 

 さらに私はラジオをかけながら付属の多面鏡に美しい写真を映し出し、アルバムでも読むかのように次々と異なる写真を表示していきました。

 写真は少し声をかけるだけで楽々と拡大したり縮小され、私がそれを眺める様子は記憶として保存されて、後から再生することも出来ます。

 

 次にスピーチの記録を命じると、日記帳は自動速記羽ペンの如く、私の言葉を白紙のページに一字一句違えず文字起こししていきました。

 

 続けて私が3冊のロックハート新書を通販で注文するように命じると、合計金額が自動的に計算されていきます。

 そして変幻自在術を使った『変幻自在術メッセンジャー』で注文票を送信すると、フローリアン&ブロッツ書店に置かれた業務用の多機能両面鏡が鈴の音のような着信音と共に点滅して、店員に着信を知らせました。

 

 その様子も店内に設置された通信鏡によってライブ中継され(店長さんの許可は取得済み)、私の『日記帳』表紙裏に付属された多面鏡に映像として映し出されます。

 

 

 

 ――この『変幻自在術メッセンジャー』はハーマイオニーのアイデアで、高度な呪文である『変幻自在術』を応用すれば、数字や文字を遠隔通信できるという優れもの。

 

 例えば偽ガリオン金貨の鋳造番号を変化させると、他の偽ガリオン金貨の鋳造番号も連動して変化し、金貨が発熱することで着信を知らせる、みたいな使い方もできちゃったりします。

 

 ちなみに翌年にはGM社から『変幻自在術メッセンジャー』を搭載した多面鏡の新型モデル『パランティア 3W』が発売されるのですが、それはまた別の話。

 

 

 

 それから私がフクロウ便で発送された本の配送状況を確認するよう命じると、日記帳は『忍びの地図』のようにダイアゴン横丁の地図を表示し、地図上で動くフクロウの動きをリアルタイムで追跡してくれました。

 

 

 

 かくして幸運なことに最後まで『Riddle 94』はバグを起こすことなく、私は最後まで無事にデモンストレーションを終えました。

 

 プレゼンが終わる頃になると、出席者ほぼ全員が興奮していたばかりか、狂喜乱舞の表情で私の台詞を一言たりとも漏らすまいと耳を澄ませており。

 

 

「そういえば、このイノベーティブな製品の名前を、まだ発表していませんでしたね」

 

 

 全世界が待望する、その名前は―――。

 

 

 

「R i d d l e 9 4」

 

 

 

 次の瞬間、事情を何も知らない聴衆から歓声が爆発し、ヒューッ!という口笛と共に「Foooooo!」とか「Yeaaahhhh!」みたいな叫び声が、あちこちで上がります。

 

 

 まさかマグル生まれをホグワーツから追い出すための闇の魔術の品がキッカケで、マグル生まれの起業家たちとスリザリンの後輩たちが一緒になってイノベーションを起こしかけているとは、ヴォルデモート卿とて夢にも思わないでしょう。

 

 

 そして大勢の聴衆が熱狂の渦に包まれる中、ルシウス・マルフォイさんだけが真っ青な顔で固まっておりました。

 

 

 

 ***

 

 

 

 こうしてデモンストレーションは成功裏に終わり、その日の夜は成功祝いの宴でした。

 

 

「えー、まずは皆さん。株主総会、お疲れ様です!」

 

 喜びを隠し切れない、といった表情のファーレイ先輩がビールジョッキを掲げて音頭をとると、周りからも「おつかれー!」と歓声が上がりました。

 

「それでは僭越ながらこの度は私、ジェマ・ファーレイが乾杯のご挨拶を取らせて頂きます。ここ数日のデスマーチの疲れを癒し、今後に向けて英気を養ってください。今日は時間が許す限り、飲んで食べて楽しみましょう」

 

 やたら形式ばった挨拶に、すかさずフレッドが「堅い堅い!」と茶々を入れ、ファーレイ先輩も慣れた様子で「だよねー!」と返します。

 

 

「んじゃ、みんな飲み物の準備はいい?」

 

 先輩の掛け声に合わせて成年組はエールビール、未成年組はバタービールのジョッキを掲げます。

 

 

「お疲れ様でしたー! かんぱーい!」

 

 

 

「「「「「かんぱーい!!」」」」」

 

 

 

 ひとしきり飲んで騒いで料理が空になったところで、フレッドが「まだ遊び足りないな」と呟き、さっそくファーレイ先輩が反応しました。

 

「なら、『サークル』内に新しく出来た‟カラオケ・ボックス”に行ってみない?」

「なんだそりゃ?」

「ジュースとか飲みながら歌えるとこ」

 

 

 二次会がてらマホウトコロ出身の魔法使いが息抜きに利用するという‟カラオケ”なる施設へ向かうと、バブリーなミラーボールに照らされたステージとそれを囲むようにソファが並べられていました。

 

 テーブルの上にはマイクとマラカス、タンバリンなどが置かれ、壁にはソーダ・ファウンテンに、派手なネオンの目立つ魔法ジューク・ボックスと至れり尽くせり。

 

 

 

「んじゃ、最初はオレたちだ!」

 

 

 さっそくフレッドとジョージ、そしてリー・ジョーダンが名乗りを上げ、派手な振り付けと共にノリノリで合唱していきます。

 

 マホウトコロ式では一人づつ順番に歌って他の人は座っているらしいのですが、曲に合わせて皆が適当に踊り出すのがホグワーツ式というか英国流。知っている曲であれば集まって合唱し、歌と踊りをどちらも楽しむ感じ。

 

 

 イケメンのビルさんやセドリックが歌い始めれば二人の先輩たちがキャーキャー黄色い声をあげてはしゃぎ、何とも言い難い音程のパーシーさんがマイナー曲を歌えばバックダンサーの双子がキレッキレの振り付けを勝手に追加して場を盛り上げ、私とハーマイオニーが可愛らしく歌うと「イレイナ、かわいいかよw」とか「娘の学芸会で親父が泣く奴や」みたいな茶々が入りながらも、皆さんで手拍子をしながらリズムに合わせて首を振ったりしていました。

 

 

 デモンストレーションが大成功を収めたおかげもあってか、なんとなく全員テンション高めのまま、マグル界のポップソングから十八番のネタ曲、魔法界の定番ソングなんかを歌いながら夜が更けていきます。

 

 

「はぁー、疲れた疲れたー……よし、次はマホウトコロ式で行こう」

「いや、そこは素直に休みましょうよ」

 

 まだまだノリノリでエンジョイしているファーレイ先輩にツッコミを入れつつ、とりあえず踊りから解放されたのでハーマイオニーたちと一緒に私もソファに座りました。

 

 

 ふと時計を見れば日付も変わっており、まだ双子にジョーダンさん、ファーレイ先輩は「いぇーい」とか「うぇーい」などとパーリーナイトしていて、人の好いビルさんもそれに付き合っておられますが、さすがにハーマイオニーやルーピンさんには疲れが見えています。

 私とセドリックは体力こそあれ気力的には「そろそろかな」という感じで、パーシーさんとペネロピーさんのカップルはしれっと少し前から消えていてこの場にはいません。

 

 

「歌っただけなのに、慣れないとクィディッチの練習並みに疲れるね」

「明日は筋肉痛になりそう……」

 

 セドリックの言葉にハーマイオニーがぐったりしながら答え、反応のないルーピンさんの方を見ると既に舟を漕いでいました。

 

「私も少し、はしゃぎ過ぎたみたいです……」

「なんだかんだで、そろそろ3時間は経つしね」

「というか、あの5人が元気過ぎるのよ」 

 

 ぐびぐびとキュリオスティー・コーラを飲みながらのたまうハーマイオニーの視線の先には、罰ゲームでリー・ジョーダンさんにカナリア・クリームを食べさせて変身させている双子や、いい感じの雰囲気でハイタッチなどをしているファーレイ先輩とビルさんたちの姿がありました。

 

「ぷはぁっ……私も今年から、少し運動でもして鍛えようかしら」

 

 ソファにもたれながら一気にコーラを飲み干し、そんな事を呟くハーマイオニー。

 

「別に引け目に感じる事もないと思いますけど」

「でも実はイレイナも、それほど疲れてはないでしょう?」

「そこそこクィディッチで鍛えてますからね」

 

 同じ選手の双子やセドリックさんは言わずもがな、ファーレイ先輩も昔は選手で辞めた後も運動系のクラブに所属しており、ジョーダンさんもアウトドア系のクラブ活動をしているらしく、ビルさんも「呪い破り」という現場系ハードワークでそれなりに体力が付いているのでしょう。

 

「最近、たまに思うのよね。いくら呪文を頭で覚えてても、ある程度フィジカルも無いと実技に活かせないんじゃないかって」

「ハーマイオニー、実は去年の『闇の魔術に対する防衛術』でハリーに負けたの、根に持ってたりします?」

「……ちょっとだけ」

 

 ‟ちょっと”の範囲がどれほどなのか気になるところではありますが、言われてみればハーマイオニーの方が色々な呪文や高度な魔法を知ってる割に、いざ実戦となるとハリーに後れを取りがちなのも、その辺が関係しているかもしれません。

 

「まぁ、やっといて損は無いと思いますよ。パンジーとかミリセントなんかは美容効果もあったみたいですし」

「あの二人の変貌、違法な魔法薬とか使ったわけじゃなかったのね……」

 

 ぐぬぬ、と負のオーラを放ち始めたハーマイオニーからそっと目を逸らし、いそいそとカラオケに戻る私とセドリック。最近はお互い「寮と個人は別」という空気に変化しつつあるものの、やはり個人的に合わない相手というのはあるようです。

 

 

 はてさて――この会話がキッカケになったのかは分かりませんが、新学期からは休日の早朝にランニングをするハーマイオニーの姿をチラホラ見かけるようになったのでした。

 




次回からはハリポタ本編に戻って、ワールドカップの話になります。

Riddleシリーズ
 裏話ですが、原作の展開的にプロジェクトは大幅に遅れると思われ。本格的な普及はRiddle98かRiddleXPになりそう・・・。

ランニングを始めたハーマイオニー
 個人的な見解ですが、実戦だとハリーの方が成績の割に活躍してるのってクィディッチで鍛えてるからなのかなと(もちろん主人公補正もあるでしょうが)。

変幻自在術メッセンジャー
 変幻自在術の応用。ハリポタ5巻でハーマイオニーがダンブルドア軍団の招集に、偽ガリオン金貨の表面の数字が集会日時に変わるような魔法をかけていましたが、それの発展形でメールとかチャットアプリのように改良。
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