ハリー・ポッターと灰の魔女 作:アストラマギカ
三大魔法学校対抗試合の開催という衝撃も翌日には収まり、夕食を食べるために玄関ホールへ向かう行列に向かっていると、ハリー達3人組に絡んでいるドラコ・マルフォイたちの姿が見えました。
「ウィーズリー! おーい、ウィーズリー!」
嬉しくてたまらないといった顔で呼びかけるドラコに、ロンが明らかに嫌そうな顔で振り返ります。
「マルフォイ、何の用だ?」
「聞けよ、君の父親が新聞に載ってるぞ」
ドラコは日刊預言者新聞をヒラヒラ振り、玄関ホールに居る全員に聞こえるように大声で記事を読み上げました。
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魔法省、またまた大失態!
特派員のリータ・スキーター記者によれば、魔法省のトラブルはまだ終わっていない。ワールドカップでの不手際や職員の失踪事件で非難されてきた魔法省は先日、「マグル製品不正使用取締局」アーノルド・ウィーズリーの失態で、また顰蹙をかった。
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玄関ホールの全員が耳を傾ける中、ドラコは得意満面で煽り散らしております。
「名前さえマトモに書いてもらえないなんて、君の父親は完全に小物扱いみたいだねぇ?」
普通に考えれば新聞記事で名前の誤植とか謝罪案件なのですが、それすら煽りネタとして自分に都合よく解釈できてしまうドラコ、意外と弁護士とか政治家とか向いてるんじゃないんでしょうか。
「ご両親の写真の後ろにあるのは、君の家かい? それとも豚小屋?」
「失せろ、マルフォイ」
怒りに震えるロンとせせら笑うドラコの間に漂う気配を感じ取り、玄関ホールが徐々にざわつき始めます。
「ロン、行こう」
そのままロンの手を引いて離れようとしたハリーに、ドラコが背後から追い打ちをかけました。
「そうだ、ポッター。教えてくれ、ウィーズリーの母親はホントにこんなデブなのかい? それとも写真映えの問題かねぇ?」
「君の母親こそ、鼻の端にクソでもぶら下げてるような顔つきだけど、いつもあんな顔してるのかい?」
サッとドラコの青白い顔に赤みが差し、笑顔が抜け落ちました。
「……ポッター、僕の母上を侮辱するな」
「なら、その減らず口も閉じとけ」
段々と緊張感を帯びてきた6人の周りには人だかりが出来始めますが、さすがに4年生ともなると周りもこの手のトラブルには慣れたもので野次馬根性を丸出しにして観戦モード。グリフィンドール生とスリザリン生は互いに「やっちまえ!」とノリノリでヤジを飛ばし、ハッフルパフ生とレイブンクロー生は「またかよ……」とか「どっちが勝つか賭ける?」と呆れつつも、他人事なので遠巻きに見守っているという感じです。
このまま放っておけば、遠からず乱闘になるでしょう。
「……まったく、世話が焼けますね」
ついでに言うと私もまた、この手の諍いを見るのはもう何度目になるのかも分からないぐらいなので、いつものように間に割って入ります。
「はい、そこまで」
もはや本人同士では引っ込みがつかず、かといって仲裁しようにも聞く耳を持ちそうにもありません。となると結局、去年の夏休みに元スリザリン監督生のジェマ・ファーレイ先輩がやってたように、さっさと決闘させて不毛な争いに決着をつけるに限ります。
「というわけで――決闘、ダブルスにします? それともシングルス? トリプルスでも構いませんが」
「私は結構よ。男子だけでやって頂戴」
ハーマイオニーが脱落し、残りメンバーに目配せするとドラコがクラッブとゴイルの身長を見比べて、ゴイルに「来い」と合図しました。
「じゃあ、ダブルスで決闘を始めます。では――」
「ちょっと待った!」
未だ怒りが収まらぬロンが不満そうな顔で、割り込んできます。
「イレイナ、君が審判やるのかい?」
「ええ。そのつもりですが」
「チェンジで」
「あの、当店でそのようなサービスは……」
「さっきマルフォイから、こっそり後ろ手でガリオン金貨もらったろ」
「………」
公平中立な審判がお金で買収されるみたいな不正はあってはならないのですが、それはそれとしてさておき、クレームにも真摯に対応するのが一流のサービスというものです。
「えーっと、じゃあロンの要望もあったことですし、司会進行の私とは別に審判をハッフルパフかレイブンクローの中から……」
群衆を見回し、さっそく適任者を見つけました。
「セドリックさん、ちょうど良いところに」
「えっ、僕?」
困ったような苦笑いを浮かべるセドリック・ディゴリーさんですが、私の一声で玄関ホールにいた大勢の野次馬の注目が集まり、逃げようにも逃げられない状況に。
「ロンもドラコも、品行方正で通ってる優等生のセドリックなら文句ありませんよね?」
「まぁ、監督生だし……」
「悪くはないな」
ロンとドラコも納得し、「あれ、僕の選択肢は……?」などとおっしゃっているセドリックさんを巻き込み、いよいよ決闘開始です。
「はい、杖を掲げて、相手と向き合って」
2年の時の決闘クラブでロックハート先生が教えてくれたように、形式に則って決闘の手順を粛々と進めていきます。
「それでは、お辞儀をしてください」
「イレイナ、なんでマルフォイにお辞儀なんか――」
「こっちこそ、ウィーズリーにお辞儀なんて――」
「お 辞 儀 を す る の で す」
伝統ある決闘の作法は、守らねばなりません。でないと後々、ガチな決闘をする時に後悔するのはハリーたち自身なのですから。知りませんけど。
「それでは私が3つ数えたら、決闘を始めてください。では、いち、に―――」
ところが、最後まで言い終わらない内にドラコの杖から白熱した閃光が炸裂しました。
「っ―――!?」
しかしハリーの方も伊達に事件に巻き込まれているわけではなく、反射的にドラコの攻撃を躱して閃光がその頬を掠めました。
「待っ―――」
ドラコのファウルに対して審判のセドリックさんがペナルティを与えようと口を開きかけた瞬間、またもやバーン!と別方向から大音量が炸裂しました。
「若造、そんなことをするな!」
大声に驚いて振り返れば、新任のムーディ先生が大理石の階段を下りてくるところでした。
「ポッター、やられたかね?」
「いいえ、外れました」
ハリーが答えると、ムーディ先生はクラッブに「触るな!」と大声で怒鳴りつけます。その視線の先には――。
「………ケナガイタチ?」
そこには、小さな純白のケナガイタチがおりました。
「敵が後ろを見せた時に襲うヤツは気に食わん」
ムーディ先生は唸り、怯えたイタチに向かって杖を振るって何度も空中を浮かべては地面にぶつけます。
「鼻持ちならない――臆病で――下劣な行為だ――!」
為すすべもなく跳ね上がり続けるイタチを見て、私は慌てて声をかけました。
「ムーディ先生!」
ケナガイタチとの間に割って入ると、ぐるぐる回っていたムーディ先生の魔法の瞳がピタッと止まって私を睨みつけます。
「どうした、小娘」
「あの、それ……ドラコですよね?」
「そうだ」
当然のように体罰を全肯定。時代錯誤なムーディ先生の教育方針に「うわぁ……」と内心ドン引きしながら、私は再び口を開きました。
「えっと、闇祓い局がどういう職場だったかは知らないのですが、とりあえず本校では懲罰として変身術を用いた体罰は校則で禁止されていまして……―――って、ええぇっ!?」
柄にもなく素っ頓狂な声を上げてしまったのは、ムーディ先生の呪文が切れた一瞬の隙をついてケナガイタチが私のローブに入り込んできたからなのでした。
ドラコは必死なのでそれどころではないのかもしれませんが、私もこう見えて一応は女の子なのでして。
「な……なんてことしてくれやがるんですか……!?」
これが只のケナガイタチならともかく、中身は同級生の男子ドラコ・マルフォイです。それがローブの中に入り込んで、あろうことか安全な場所を求めて私のローブの内側を駆けずり回っているのです。ついでに言うと、ホグワーツの女子制服規定ではスカート着用が定められておりまして。
「あっ、ドラコがイレイナのスカートに入り込んだ!」
「まだ入ってませんがッ!?」
衆人環視の中、明らかに誤解されそうな事をのたまう野次馬スリザリン女子1号こと、リリィ・ムーンさんのフェイクニュースを慌てて否定するも、既に時遅し――。
「「きゃぁあああああ♡」」
野次馬スリザリン女子2号トレイシー・デイビスと3号ソフィー・ローパーが黄色い声を上げ、あること無い事ほざきながらキャーキャー盛り上がる生徒たちの伝言ゲームは、光の速さで学校中に拡散していきます。
「いいのかパンジー、旦那さん浮気してるぞ」
「いいわけないでしょッ!?」
ニヤニヤ笑うザビニのアホな煽りに釣られて、パンジー・パーキンソンまで出てきやがりました。
「ちょっとイレイナ、寝取りとかやめてよ!」
「だからそんな趣味はありませんって!?」
愉快犯と化したザビニの煽りにあっさりと乗せられたパンジーに大声で否定するも、パニック状態のパンジーは「ドラコを返して!」と私のローブをまさぐってケナガイタチを捕獲しようとします。
「パンジー、負けるな! ガンバ!」
「イレイナも頑張れ!ファイッオー♪」
「トレイシーとソフィーは黙ってください!」
ドラコを追い出そうしつつ暴れるパンジーを押さえ、さらに要らん激励を加える2人にも一喝を加えていると、ギャーギャーと騒ぎ出した生徒たちにムーディ先生が苛立ったように声を荒げます。
「貴様ら、わしは罰則を与えておるのだ! ここは乳繰り合う場ではない! 今すぐそのイタチを渡さねば、まとめて全員に罰を与えてやるぞ!」
「待って、イレイナは悪く無いよ!」
「ムーディ先生、これは流石に度を越しています!」
さすがにこの暴論には見かねる部分があったのか、謎の正義感を発揮したハリーとセドリックまでもが要らん
「あ、ああああ……い、いっ、イレイナさぁあああああああんッ!? 」
しかも事態はそれに留まらず、またもやグリフィンドール生の中から、聞き覚えのある悲鳴が上がりました。
「ボクというものがありながら寝取り不倫とか、何やってるんですかぁああああああああッ!?」
絶望的な悲鳴を上げたサヤさんまで割り込んできて、もう何が何だか分かりません。
「どうせならボクも交ぜてください!」
「貴女、とんでもない変態ですね!?」
わけが分からな過ぎて泣きたくなります。流石の明晰な私の頭脳をもってしても、この辺で処理能力が限界に達しました。
私のローブからドラコを取り返そうとパンジーが掴みかかかり、サヤさんまで私に抱き着き、ハリーとセドリックが私たちを庇うように覆いかぶさる恰好となり、もうメチャクチャです。
ですが、まだ手が無いわけではありません。一縷の望みをかけてスリザリンの集団の中を探すと、ミリセントとダフネの姿がありました。
(やはり持つべきは友達ですね……)
なんだかんだで、ルームメイトとして3年も過ごした仲です。二人に助けを求める視線を送ったところ、アイコンタクトだけで伝わったようでした。そして、ミリセントとダフネは表情筋を奇妙にこわばらせ、プルプルと肩を震わせた後――。
「あはははははは! イレイナ、めっちゃ逆ハーレムしてんじゃん! くっそ羨ましいんですけど!」
「ふふっ、はははははは! お腹痛い……これ笑い死ぬ………ひひっ、あははははははは!」
お腹を抱えて大爆笑。マジで何の役にも立たないどころか、ほぼ敵に回っておりました。
ちょうど夕食時ということもあってか食事中の生徒までもが色めき立ち、わらわらと集まってきて言いたい放題です。
「聞いた? マルフォイがイレイナのスカートに突撃したって!」
「絶対に入ってんじゃん」
「てか、正妻のパーキンソンはどした?」
「そらもう激おこよ。大広間で修羅場ってるらしい」
「やるなー、マルフォイ両手に花やんけ」
「そしたらポッターとディゴリーまで出てて、サヤまでイレイナを巡ってくんずほぐれつ……♡」
「そんな……不潔ですわ!」
無責任で面白おかしいざわめきはついに副校長室にまで達したらしく、マクゴナガル先生が血相を変えて殴り込んできました。
「な―――何をなさっているのですか!?」
「教育だ」
もはやムーディ先生の返答すら「教育(意味深)」にしか聞こえず、大広間の後ろの方で「ヒューッ♪」と下品な口笛が聞こえてくる有様。
「アラスター、これはどういう状況なのですか!?」
「まったく、分からん!」
「ええ、私にも何ひとつ分かりませんとも!」
そこでようやく、マクゴナガル先生は私のローブからのぞく、白いケナガイタチに気づいたようでした。
「まさか……それは生徒なのですか?」
「さよう」
「そんな!」
マクゴナガル先生が杖を取り出して解呪すると、私、パンジー、サヤさんに囲まれる形で顔を真っ赤にしてプラチナブロンドの髪を乱したドラコ・マルフォイが姿を現しました。
「ムーディ、本校で体罰は無いと言ったでしょう!? ダンブルドア校長がそうお話したはずです!」
「そうかもしれんが、わしの考えでは一発厳しいショックで……」
「本校では居残り罰を与えるだけです!」
マクゴナガル先生がぴしゃりと言い放ち、それから私たちに向かって「事情が全く分からないので、あなた達もついて来なさい」と告げました。
いや、私に聞かれてもよく分からないんですが……。
「こりゃあ、永久保存版だな。脅威の弾むケナガイタチ……」
去り際、瞑想に耽るように目を閉じるロンと、頭を抱えたハーマイオニーの姿がチラリと映りました。
「あー、いいもん見たな。しっかし、あのイレイナとパンジーの顔……くくっ」
「ちょっとミリセント思い出させないでよ! ふふふ……あははは! これヤバイ……ぷっ」
裏切り者2名は後で粛清しましょう。
結局、ハーマイオニーほか数名の証言もあって最終的には誤解が解けたのですが、しばらくドラコ・マルフォイはスリザリン内で散々ネタにされて弄られてしまい、見かねた寮監のスネイプ先生が直々にダンブルドア校長に「すでに社会的制裁を受けている」と直訴したらあっさり罰則が取り消されたほどでした。
めでたし、めで……たくはありませんね。
新年度に入って忙しくなり、先週は投稿できず失礼いたしました。今後もしばらく仕事が多忙につき、これまでのような頻度で投稿することは難しくなりそうなのですが、何卒ご理解の程を頂ければ幸いです。
みんな大好き白イタチ事件。映画版だとゴイルのボトムスに逃げ込んでいましたが、本作だとイレイナさんが被害者に。悪いことをすると自分に返ってくるという話で、きっともう懲り懲りだフォイ。