ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第09章 ~許されざる呪文~

   

 新学期の初っ端からホグワーツ中を賑わせた「マルフォイ白イタチ事件」ですが、その余波は翌日になっても留まるところを知らず、渦中のドラコ・マルフォイが「闇の魔術の教室」に入ってくるなり教室中がざわつき始めました。

 

「……ケナガイタチ」

「ケナガイタチw」

「ケナガイタチ……ぷっ」

 

「イジメかッ!?」

 

 たまらずドラコが悲鳴を上げたところで、ちょうどムーディ先生が入って来て、威圧感たっぷりの風貌とグルグル回る魔法の瞳で生徒たちを睨みつけます。

 

 

「教科書なんぞ、しまってしまえ」

 

 

 先日の事件のことなど無かったかのようにムーディ先生が威圧感たっぷりに言い放つと、ようやく教室中が大人しくなりました。

 

「このクラスについては、前任のルーピン先生から手紙をもらっている。闇の怪物と対決するための基本は学んでいるようだ」

 

 

 ムーディ先生は「魔法の目」をぐるぐる回して、生徒たちを見据えながら言い放ちます。

 

「だが、お前たちは遅れている――呪いの扱い方について、非常に遅れている。わしの役目は、それを最低限まで引き上げることだ」

 

 しわがれた声で言うと、ムーディ先生は節くれだった両手をパンと叩きました。

 

「さて、魔法界で最も厳しく罰せられる呪文が何か……知っておる者も多いだろう」

 

 それで割と全員が手を上げちゃうあたりが、我らがスリザリン・クオリティ。こういうとこなんですよね。

 

 

「セレステリア、1つ答えろ」

「『服従の呪文』です」

 

 指名された私が即座に答えると、ムーディ先生は「ほう」と笑います。

 

「お前の母親なら、詳しいだろう。アズカバン送りになるはずだった者を、何人もそれで回避してきたのだから」

 

 割とあからさまな皮肉で煽られましたが、元・闇祓いのアラスター・ムーディであれば嫌味のひとつも言いたくなるのでしょう。せっかく追い詰めた死喰い人に最後の最後で逃げられ、トンビに油揚げを攫われたようなものですし。

 

「そして『服従の呪文』だが、かけた相手を思いのままにすることが出来る」

 

 ムーディ先生はそう言うと、瓶から黒い大蜘蛛を一匹掴みだします。それから掌に載せた蜘蛛に杖を向け、一言呟きました。

 

 

「インペリオ-服従せよ!」

 

 

 すると蜘蛛はムーディ先生の手から飛び降り、机の上でタップダンスを始めます。男子がニヤニヤと笑い始め、女子からはクスクス笑いが漏れる中、ムーディ先生は低く唸りました。

 

「面白いと思うか? わしがお前たちに同じことをしたら、喜ぶか?」

 

 笑いが一瞬にして消え、ムーディ先生は蜘蛛をつまみ上げて言いました。

 

 

「しかし、この呪文と戦う事はできる。もちろん呪文をかけられぬに越したことはないが――油断大敵!」

 

 

 続けてムーディ先生は端っこの方にいたトレイシー・デイビスさんを指名し、別の禁じられた呪文をあげるように言います。

 

「は、『磔の呪文』です。相手に苦痛を与えます」

「その通りだ。どんなものか分かるように、見せてやろう」

 

 ムーディ先生は再び杖を蜘蛛に向けました。

 

 

「クルーシオ-苦しめ!」

 

 

 さすがに教室内の空気が変わり始め、いつも気取ってるドラコ・マルフォイや強気のパンジーも青い顔になり、ザビニやダフネも顔をしかめています。一方でクラッブとノットは興味深そうに身を乗り出し、逆にミリセントやトレイシーたちから引かれておりました。

 

 

「苦痛……この『磔の呪文』が使えれば、拷問で爪を剥いだり皮膚を焼いたりする必要もない。これも、かつて盛んに使われた」

 

 もっとも――とムーディ先生が続けます。

 

「この呪文が拷問に使われたのは、過去の話だ。今では真実薬か開心術の方が、よっぽど確実に情報を手に入れられる。使い道としては痛みで相手の動きを封じるか、単に相手を苦しめたいときに使う悪趣味な呪文だ」

 

 

 

 『服従の呪文』と『磔の呪文』の解説が終わり、いよいよ最後の「禁じられた呪文」ですが、やはり全員が手をあげました。

 

 

「ではノット、答えろ」

「アバダ ケダブラ」

 

 

 ああ、とムーディ先生がひん曲がった口で微笑みます。

 

 

「効果は?」

「相手は死ぬ」

 

 

 ノットの答えに「完璧だ」と答え、ムーディ先生は再び蜘蛛を掴みました。蜘蛛はムーディ先生の手から必死に逃れようともがき、机の上に置かれるとすぐさま端の方へ一目散に逃げ出します。

 

 

 

「アバダ ケダブラ!」

 

 

 

 ムーディ先生の声が轟き、目も眩むような緑の閃光が走りました。

 

 閃光は蜘蛛を直撃し、次の瞬間には蜘蛛が仰向けにひっくり返ります。何の傷もありませんが、紛れもなく死んでいました。

 

 

 生徒たちが茫然とする中、ムーディ先生の声だけが教室に響きます。

 

「気持ちの良いものではない。しかも、これら禁じられた呪文に反対呪文は存在しないから、防ぎようもない。これを受けて生き残った者は、たった一人しかおらん」

 

 それが誰を指しているのかは、言うまでもありません。

 

「ただし、禁じられた呪文を使うには強力な魔力が必要だ。お前たちがわしに向けてこの呪文を放ったところで、鼻血さえ出させられるかも怪しい」

 

 裏を返せば、禁じられた呪文を使えるということは、それだけで力のある魔法使いということでもあります。

 

「さて、これら3つの『許されざる呪文』だが、同類であるヒトに対してどれか1つをかけるだけで、アズカバンにて終身刑を受けるに値する。お前たちが立ち向かうのは、そういうものだ。最悪の事態を知っておかねばならない。その上で戦い方について教える。だが、何よりまず――常に――絶えず――警戒しろ!」

 

 

 それからは『許されざる呪文』についてノートをとることに始終し、ベルが鳴って教室から出ると打って変わって興奮気味に会話が吹き出しました。

 

「ねぇ、あの蜘蛛がピクピクするの見た? あれヤバくない!?」

「わかる。マジぱねぇ」

「あとムーディが殺した時、ほんと一瞬だったし!」

「それな。ムーディの奴、分かってんだよなぁ」

 

 

 まるで素晴らしいショーのように、嬉々として語る生徒たち。

 

 

「まさか、4年の授業で見られるとは思いませんでした……良くも悪くも」

 

 かくいう私もまた、本能的な恐怖を覚えると同時に、好奇心を駆り立てられていたという事実は否定できません。そもそも「許されざる呪文」は使える魔法使いが少なく、長い歴史と伝統を持つホグワーツにおいても授業で実演されたのは、恐らく今回が初めてではないでしょうか。

 

 

 

 ――ところが「禁じられた呪文」を生徒たちの目の前で見せるというのはまだ序の口で、2回目の授業内容は更に驚くべきものでした。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

「今日の授業では『服従の呪文』を生徒一人一人にかけて、お前たちが抵抗できるかを試す」

 

 

 ムーディ先生がそう言うと、生徒全員が絶句しました。

 

「あの……それ普通に違法では?」

「ダンブルドアが、これがどういうものか体験的に教えて欲しいというのだ」

「だとしたら、ダンブルドア校長もアズカバンに放り込まれるのでは」

「………」

 

 私が言うとムーディ先生は押し黙り、ゴソゴソと机の中から書類を引っ張り出しました。

 

「そんなこともあろうかと、魔法省に確認した上で同意契約書を作成しておいた」

 

 顔に似合わず几帳面な一面もあるのか、ムーディ先生は取り出した書類を生徒一人一人に配り始め、さっそく私も書かれた内容を確認します。

 

 

 ―――――――――――――――――

 

 『闇の魔術に対する防衛術』特別講義に関する合意契約書

 

 ホグワーツ魔法魔術学校生徒(以下、甲)とホグワーツ魔法魔術学校教授、アラスター・ムーディ(以下、乙)は本日、以下の通りの合意に達した。

 

第一条(合意内容)

 第一項:甲は乙に対し、『闇の魔術に対する防衛術』に関する特別講義(以下、特別講義)を委託し、乙はこれを受託する。

 第二項:本契約の締結後、甲乙間で実施される特別講義の内容は、甲乙間で特約を求める場合を除き、本契約の定めるところとする。

 

第二条(特別講義の確認)

 第一項:特別講義では、乙が甲に対して『禁じられた呪文』のうち『服従の呪文』を使用する。

 第二項:甲が『服従の呪文』にかけられている間、甲の行動は全て乙の指示によるものと見なし、乙は甲の行動に対して全ての責任を負う。

 

第三条(期間)

 特別講義の期間および第二条の効力は、ホグワーツ魔法魔術学校にて開講される『闇の魔術の防衛術』の講義時間のみとする。

 

第四条(契約の解除)

 第一項:甲は契約期間内であっても、任意に合意契約を直ちに破棄して講義より退出できるものとする。

 第二項:乙は甲の契約破棄に際しては、教育指導上の責任を負わないものとする。

 

 

(以下略)

 

 ―――――――――――――――――

 

 

 最後の方には連帯保証人をダンブルドア校長が務める旨が書かれており、一番下にサイン欄がありました。

 

 

「ふむ……手続き上の問題は特に無いようですね」

 

 契約書を隅々まで読んでから私がサインすると、他のスリザリン生も一斉に私にならうようにサインし始めます。

 

 

 **

 

 

 それからムーディ先生は生徒一人ひとりに「服従の呪文」をかけ始め、たちまち教室中が生徒たちの奇行で溢れました。

 

 

 例えばクラッブとゴイルは本物そっくりの豚とゴリラの物まねを、ドラコ・マルフォイは見事なムーン・ウォークで教室を三周し、ダフネは大声でデスメタルを歌い始めたりと、中々にレベルの高いカオスです。

 

 

「セレステリア、次だ」

 

 そして私の番が来ると、ムーディ先生が杖を振るって叫びました。

 

 

「インペリオ-服従せよ!」

 

 

 直後、私は気づきました。あっ、この呪文はマズいと。

 

 

 ――それは最高に素晴らしい気分でした。

 

 

 全ての思い出や悩みが優しく拭い去られ、一夜にして数万単位のガリオン金貨を手にしたような、全身をえも言えぬ幸福感が包み込みます。

 

「えへへ……」

 

 もはやクールな天才美少女の面影はどこにもなく、時おり「ふふふ」とこぼれる笑みは金に目が眩んだ小悪党が如し。完全にやべー奴ですね。

 

 

 するとマッドアイ・ムーディの声が、緩みきった脳味噌に響き渡るように聞こえてきました。

 

 

『―――きこえるか……わしは今、お前の心に直接……呼びかけている……』

 

 

 ムーディ先生の声は、続けて言いました。

 

『―――ダンスを踊るのだ』

 

(……はぁい)

 

 ヤバめのハーブでも吸ったかのような状態の私は、ムーディ先生の言葉を受けて「なるほどダンスですか。例のダンスパーティーとやらも遠くないですし、ここで練習がてら踊っておきますか」といった軽いノリでステップを踏み始めます。

 

 

 ぼんやりと周囲が私を見つめていることを意識する中、ふと頭のどこかで別の声がしました。

 

 

『――別に今この場で踊る必要なくないですか? 明日できる事は今日やらないようにしましょう』

 

 

 なるほど、なるほど。それも一理ありますね。しかし直後に別の声……悪魔の囁き声が聞こえてきました。

 

 

『――いい感じにダンスで魅力を振りまいて、男子も女子も悩殺してやりましょう。便利な駒が増えるかもですよ』

 

 

 ふむふむ、これはこれで一理あるような……? ですが、すぐ頭の中で悪魔と入れ替わりに天使がやって参ります。

 

 

『――どうせ踊るなら見物料を頂いてしまいましょう。ついでにムーディもハラスメントで訴えましょう』

 

 

 天……使……?

 

 

 **

 

 

 結局、私も含めてスリザリン生を相手にした授業では、誰一人として「服従の呪文」を初回で破った生徒はいませんでした。

 

 

「そう気に病むことはない。よく訓練された闇祓いを除けば、一人前の魔法使いであっても多くは『服従の呪文』に抗うことは出来ぬ」

 

 逆に言えばそれだけ強力な闇の魔術なのだと、危険性を強調するムーディ先生。

 

 

「今までの授業で、この呪文を最初から破れた生徒はハリー・ポッターだけだ」

 

 ムーディ先生が告げるとドラコが苦々しい表情になり、クラッブが「ポッターと一緒にされてもなぁ……」と案外もっともな事をぼやきました。

 

 

「個人差はあるが、儂の印象だとグリフィンドールとレイブンクローの生徒には早い段階から『服従の呪文』に対して強い耐性を持つ生徒がいる」

 

 反骨心の強さから条件反射的に他者に反発するグリフィンドール型の耐性と、自分の世界に没頭することで外部の干渉をはねつけるレイブンクロー型の耐性は、ベクトルは違えど『服従の呪文』に対して有効な抵抗手段だと語るムーディ先生。

 

「しかし、練習を重ねることによる伸びしろは、むしろスリザリンの方が大きいとわしは見ている」

 

 現実主義者の多いスリザリン生は反射的に抵抗したり自分の殻に閉じこもる前に、まず日和って様子見する傾向があるため、最初のうちは流されてしまうことが少なくないのだとか。

 

 

「はっきり言う。お前たちは――――弱い」

 

 

 挑発的な言葉にゴイルなど何人かの生徒たちが不満を露わにしたものの、魔法の瞳でギロリと睨まれると慌てて目を逸らすのを見て、ムーディ先生が歪んだ顔で笑いました。

 

 

「そう、それよ。己の弱さから目を逸らし、にもかかわらずプライドだけは一丁前に高いくせに、いざ覚悟を迫られるとすぐ目先の保身にばかり走る。だから、お前たちは『服従の呪文』を破ることが出来んのだ」

 

 

 ぐうの音も出ない正論で反論を封じ込めた後、ムーディ先生は再び話し始めました。

 

「よいか、『服従の呪文』の破るコツは‟己を制御すること”だ。自分の弱さも含めて状況を客観視し、その上で呪文を破ろうという強い意志を持たねばならん」

 

 恐らく、それが本来あるべきスリザリン型の臨機応変さなのでしょう。

 

 てっきりスリザリンを嫌っているのかと思いきや、むしろ激励するような言葉をもらって困惑する私たちにムーディ先生は語り続けました。

 

 

「熟慮の末に適切な状況判断に基づいて、断固たる決断を下す……そういった性質もまた、スリザリン生の多くが持っている。目先の状況や感情から己を切り離し、何をすべきか冷静に考えてから行動に移すのだ。そうした訓練を積めば、ゆくゆくは『服従の呪文』を打ち破ることがかなう日も来るだろう」

 

 

 それまでの脅すような口調とは少し違う真剣な言葉を受けて、反抗的だった生徒たちの方も、今や一言たりとも聞き漏らすまいと耳を傾けていました。

 

 

「お前たちは最悪の状況を知り、己の小ささを受け入れ、その上で先を見据えて行動せねばならない。卑屈になるな、されど調子に乗るな。常に備えるのだ、油断大敵!!」

 

 

 最後にムーディ先生がいつものキメ台詞を教室に轟かせるのと同時に、授業終了を告げるチャイムが鳴り響きました。

 

 

 

 ***

 

 

 

「なぁ、ひょっとして今年も()()()()なんじゃね?」

 

 授業終了後、教科書を抱えたミリセントがそんな言葉をかけてきました。

 

「ちょいちょい煽ってくるスタイルだけどさ、なんかコツは掴めそうな感じはする」

 

 まだ呪文の効果が消えていないせいで三歩進んでは二歩下がってを繰り返すミリセントに、私も頷きます。

 

(しかし、「調子に乗るな」ですか……)

 

 順調に誰もが羨む完璧超人美少女に成長している私にとって、それは考えさせられる言葉でした。『服従の呪文』への耐性でハリーに後れを取ったという事実、そして先日の白イタチ事件も気の緩みが招いた側面が無かったとは言えません。

 

 油断大敵――その言葉を胸に留めつつ、私は来たる三大魔法学校対抗試合に思いを馳せるのでした。




 クラウチjrについて、原作だとどの寮の出身なのか明かされていませんが、多くの二次創作作品ではスリザリン出身だと考えられているようです。個人的にもそんな感じがするので、本作でもクラウチjrは、スリザリン出身という設定にさせて頂きます。

 任務とはいえ教師として手を抜かずレベルの高い授業をしていたあたり、根は真面目な人だと思ってます。もし死喰い人にならないでホグワーツの教師にでもなってれば案外、後輩たちから慕われる良い先生になってたんじゃないんでしょうか。
       
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