ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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※作中エスニックジョーク描写がありますが、特定の文化への批判中傷を意図したものではございません。


第10章 ~ダームストラングとボーバトン~

 10月30日、既に大広間は来賓を迎えるために豪奢な飾り付けが施されていました。

 

 壁には4つの寮を示す巨大な絹の垂れ幕――グリフィンドールは赤地と金色のライオン、レイブンクローは青地にブロンズの鷲、ハッフルパフは黄色地に黒いアナグマ、スリザリンは緑地に銀色の蛇。教職員テーブルの後ろには巨大なホグワーツの紋章が描かれ、大きなHの文字の周囲を四寮のシンボルとなる動物たちが囲んでいます。

 

 そして生徒たちは大広間を抜けて、ボーバトンとダームストラングの生徒たちを迎えるべく玄関ホールに整列していました。

 外国の生徒たちを迎えるせいか監督する先生たちも少し神経質になっていて、スネイプ先生も自分の身だしなみを棚に上げて生徒たちの服装にあれこれ注意しています。

 

「ブルストロード、ネクタイをしっかり結びたまえ。ローパーはピアスを全て外して、ザビニは腕のタトゥーを隠せ。それからグリーングラス、胸元を開き過ぎだ」

 

 

 そうこうしているうちに禁じられた森の上で青白い月が輝き始め、誰もが期待に胸を膨らませて薄暗さを増す校庭を眺めました。

 

 

「そろそろ18時ね……」

 

 パンジーが腕時計を確認して、正門へ続く馬車道を見つめながら首を傾げました。

 

「でも、どうやって来るのかしら? 箒か、汽車か、移動キーって手も……」

「あるいは、空飛ぶ車かもしれないぞ?」

 

 ドラコがロンとハリーの方を見て意地悪く言い、パンジーもつられてクスクス笑いを浮かべた時、ダンブルドア校長が最後列から声を上げました。

 

 

「わしの目に狂いがなければ、あれはボーバトンの代表団じゃ!」

 

 

 視線の先にある森の上空には箒百本分よりも大きな何かが、ぐんぐん大きく成長しながら城に向かって疾走してくる最中で、よく見ればそれは巨大なパステル・ブルーの馬車でした。

 

 大きな館ほどの馬車が12頭のペガサスに引かれており、ペガサスは金銀に輝いて一頭一頭が象ほどの大きさがあります。

 

 馬車はどんどん高度を下げ、猛烈なスピードで着陸態勢に入り、大きな衝撃音と共に着陸しました。車体には金色の杖が交差して先端から3つの星が飛んでいるボーバトンの紋章が描かれ、中から現れたのは見たことも無いほど大きな女性でした。

 

 ハイヒールは子供用のソリほどもあり、背丈はハグリッドとほとんど変わらないほど。小麦色の滑らかな肌にキリッとした顔つき、大きな黒い瞳、つんと尖った端、頭から爪先まで黒繻子をまとい、襟元と太い指には何個もの見事なオパールが。

 

「これはこれは、マダム・マクシーム。ようこそホグワーツへ」

 

 校長同士で二、三言ほど挨拶をした後、十数人の学生が馬車から現れます。柔らかく身体に馴染む薄い絹の薄青色のローブを着ているせいか寒そうで、何人かはスカーフを被ったりショールを巻いたりしていました。

 

 

 

 そしてしばらくすると、今度は湖の方からくぐもった不気味な音が響いてきます。

 

「おい、湖を見てみろって!」

 

 ミリセントが叫び、指さす方を見ると――湖の水面からボコボコと巨大な泡が湧きだしているところでした。やがて湖の真ん中が渦を巻き、その中心から長い竿のようなものがゆっくりとせり上がってきます。

 

 徐々に浮上してくる竿には帆がついており、完全に浮上したそれはまさしく船のシルエット。古い船窓からほの暗い霞んだ灯りが光り、どこか骸骨のような船体はまるで幽霊船のよう。

 

 

 数分後、浅瀬に錨を投げ入れる水音が聞こえ、タラップから乗員が下船してきます。全員がもこもことした分厚いワイルドな毛皮のコートを着ており、先頭にいる銀髪の男性は白い滑らかな毛皮を着ていました。

 

「ダンブルドア! しばらくぶりだが、元気かね?」

「元気一杯じゃよ。カルカロフ校長」

 

 痩せて縮れたヤギ髭のカルカロフ校長が愛想よく挨拶すると、ダンブルドアも朗らかに返します。二人は両手で握手し、カルカロフ校長が一人の青年を招きました。

 

 青年が近づくにつれてざわめきが広がっていき、隣にいたミリセントとダフネが息を吞む音が聞こえてきます。

 

 

「く、クラムだ! 本物のビクトール・クラムじゃん!」

「やばば……サインとか貰えるかな? いや、それとも連絡先?」

 

 

 そこにいたのは、クィディッチ・ワールドカップの決勝戦でブルガリア代表シーカーを務めた、ビクトール・クラム選手でした。

 

 

「本物のクラムさんのサイン入り写真とか本なら、高値で転売できそうですね……」

「イレイナやめなさい将来どっかで刺されるから」

 

 パンジーに注意されながら、私たちは再び玄関ホールを横切って大広間に戻ります。

 

 **

 

 

 移動の間にも生徒たちは興奮冷め止まぬといった様子で、しきりに近くの人とワイワイ騒いでおりました。

 

「え、嘘でしょ? クラムの生試合が見れるってこと?」

「やっば、くっそツイてんじゃん! 留年して良かったわー」

「しっかし生で見るとやっぱかっけー!」

 

「皆さん、ダームストラングのお客様をお迎えするために席を譲りましょう!ビクトール・クラム選手が来てくれるかもしれません!」

 

 普段はクールなアストリアさん(実は隠れクィディッチ好き)までが顔を紅潮させ、何とかクラムさんを確保しようと音頭をとっていました。

 その努力は報われたらしく、どこに座ろうか迷っていたダームストラング生はいち早く空けられたスリザリンのテーブルへ向かい、順番に座っていきます。

 

 しかも幸運なことにクラムさんは私たち4年生の向いに座る事になり、他寮からの羨ましげな視線を他所に一刻も早くサインを手に入れようと躍起になるスリザリン生たち。

 

「ねぇ誰か、羽ペン持ってない?」

「あーくそ、どうして寮に置いてきちゃったかなー」

 

 反対側のテーブルでは6年生の生徒が数人、夢中でポケットを探っていました。しかし誰も持っていないようです。

 

「イレイナ、ペン持ってないか?」

 

「5本ありますよ。5シックルで色は5種類選べます」

 

 ミリセントは渋々5シックルで便乗値上げしたペンを1本、ザビニは20シックルで4本買い占めました。ザビニは色違いのサインでも貰うのでしょうか? などと思っていると。

 

「はい、注目! 今ならボールペンが限定3本、9シックルだ!」

 

 私以上のくそったれムーブをかましておりました。

 

 

「ブレーズ、1本くれ!」

 

 

 しかも早速、ドラコ・マルフォイという買い手が付いたようです。いち早く世界最高シーカーのサインをもらえるならば9シックル如き、はした金という感覚なのでしょう。

 

 

「く、クラムさん! 僕は貴方のファンで、ワールドカップの決勝戦も見ました!」

 

 青白い顔を紅潮させ、ここぞとばかりにクラムさんを持ちあげるドラコ・マルフォイ。

 

「その、ええっと……もし、よければ本にサインをいただけないでしょうか?」

「もちろん」

 

 さすがは現役のスター選手、慣れた様子でサラサラとドラコの持っていた『クィディッチ今昔』にサインを書いてくれました。気難しい性格なのか笑顔こそ見せてくれないものの、いちファンに過ぎないドラコに追加のサービスで握手までしてくれるあたり、根は良い人なのでしょう。

 

「く、クラムが握手してくれた! ノット、どうやったら手を洗わないで済むかな……!? 」

「まずはお前が落ち着け」

 

 推し選手と握手して知能指数が低下気味のドラコ・マルフォイに続けと言わんばかりに、沢山のスリザリン生がファンサービスに感激してクラムさんへ殺到します。

 

「クラム、愛してるー! 結婚してぇええッ!」

「ダームストラング、まじサイコー!」

「ブルガリアの魔法力は世界一ぃいいいッ!」

「クラムゥうううッ! 抱いてぇぇええええ―――ッ!」

 

 

「はいはーい、みんな順番に並んでねー。間隔空けて、あと大広間は走っちゃダメだよー」

 

 

 ――そんな中、真面目に待機列を整理していた生徒が1人。それは、意外なことにダフネ・グリーングラスでした。

 

 

「ほらほら、他の人の迷惑になるでしょー。サインもらった人はすぐ次に譲ってね!」

 

 杖をマグルが使う交通整理の誘導棒のように赤く光らせ、停止するように掲げたりブンブン振って前進するように指示しています。

 

「はい、そこ押さない! ゆっくりしていってね!」

 

 軽薄そうな見た目に似合わぬしっかりとした振る舞いはクラムさんの興味を引いたらしく、待機列をさばき切った後にファンから解放されたクラムさんがダフネに話しかけてきました。

 

 

「ありがとう」

 

 根は律儀な人らしく、クラムさんが素直に感謝の意を伝えると、ダフネも嬉しそうに顔いっぱいの笑顔を浮かべます。

 

「いえいえ!」

 

 ひとしきりファンたちが去っていった後、二人っきりの場でクラムさんに感謝されたダフネは「待っていました」とばかりにほくそ笑んで急接近、一気に距離を縮めにかかりました。

 

「あいつ、最初から狙ってたな……」

 

 ミリセントのぼやきを他所に、あざとく上目遣いでクラムさんを見上げるダフネの瞳はまさに狩人のそれ。第3ボタンまで開かれたワイシャツの胸元を掴んで「暑いねー」などとうそぶきながなら、ぱたぱたと膨らませるようにして風を送り込んでいきます。

 

 そうなれば自然とクラムさんの視線もそこに吊られていき、だらしなく着崩した制服の内側で激しく自己主張する、たゆんたゆんの女性らしい丸みが周囲の視線を釘付けに。

 

 

「………」

「………」

「………」

 

 

 ――でぇっっか。

 

 

 白く眩しくきめ細かな肌に、若くて健康な女子高生そのものといった肉感的なハリのあるそれは、ワイシャツ越しでも――いやだからこそパツンパツンに引っ張られて出来るシワだの、透けて見えるブラの色だのが近くにいたスリザリン男子の妄想力を搔き立てます。

 更にはグリフィンドールやレイブンクローのテーブルでも4年生を中心に、なんかエロい感じの同級生女子を見て悶々とする生徒が続出。

 

 

「ダフネです! よろしくね!」

「よ、よろしく。ヴぉくは、ビクトール・クラムといいます。あー、ミス……」

「グリーングラスだよ! でも、名字だと妹もいて紛らわしいから、気軽に名前で呼んでくれると嬉しいかな?」

「では……だ、ダフネ」

「ありがと! 私もビクトールって呼んでいい?」

 

 

 イケイケな容姿で存分にアピールしつつ、敢えて待機列には加わらず真面目なギャップを演出したり、ためらうことなく女の武器で理性をゴリゴリ削って、妹を引き合いに名前呼びに持っていく流れまで――計算され尽くされたテクニックをこれでもかと使い、狡猾にグイグイと距離を詰めていきます。

 

 

「スリザリン女子、えげつないな……」

「あざといって言うか、なんかもう生々しいよね」

「だけどそこがいい……」

 

 グリフィンドール男子のテーブルでシェーマス、ネビル、ディーンが顔を赤らめながら各々の感想を漏らす中、全ての生徒が着席したのを見てダンブルドア校長が立ち上がりました。

 

 

 

 ***

 

 

 

「紳士淑女にゴーストの皆さん、それから客人の皆さん、こんばんは。ホグワーツへのご来訪、心から歓迎いたしますぞ!」

 

 ダンブルドア校長は親しげながらも威厳のある声で歓迎の意を伝え、朗々と三大魔法学校対抗試合の開始を宣言します。

 

 

「三校対抗試合はこの宴の終了と同時に、正式に開催される。それまでは大いに飲み、食し、くつろいでくだされ!」

 

 

 ダンブルドア校長が着席すると、すぐに目の前の皿がいつものように満たされました。

 

 ちなみにボーバトンの生徒は、レイブンクローの席についたようでした。興味津々で星の瞬く天井や金色の皿やゴブレットを眺めてるダームストラング生と違い、顔をしかめたボーバトンの生徒はひそひそ声で嫌そうな表情を浮かべております。

 

 その視線の先にあるのは――。

 

 

「イギリス人の忍耐強さの秘訣が分かりまーした。山奥に住むトロールだって、これよりもっと少しマシなもの食べてまーす」

 

 

 真っ黒に焼けたソーセージ(材料の半分はつなぎ)、油ぎったフィッシュ&チップス(それをモルトビネガーにジャブジャブ浸す)、病人でも食べやすいブッヨブヨのパスタ、イングランド風インゲン豆サラダ(茹でた豆にバターを載っけるだけ)、トースト・サンド(トーストしたパンがパティ)といった英国料理が、これでもかと大量に並んでいました。

 

 

 それを見て、小馬鹿にした表情を浮かべるフランス人たち(ボーバトン生)

 

「どれだけ屋敷しもべ妖精に恨まれたら、こんな料理が出てくるか想像できませーん」

「食卓に必要なのは調味料よりも、麻酔薬の方でーす」

「イギリス料理かイギリス料理が載ってるお皿か、どっちか食べろと言われたらお皿の方を食べまーす」

 

 

「……ねぇミリセント、あいつら()高くない?」

「どうするパンジー、処す? 処す?」

 

 

 青筋を立ててプルプル震えるパンジーにミリセントが物騒なことをのたまう中、ボーバトンとは対照的にスリザリンのテーブルに座ったダームストラング生はビーフ・ウェリントン(ローストビーフと刻んだ香味野菜のパイ包み)や、スコーンとジャム&クロテッドクリーム、ミンスパイ(ブランデーに漬けたドライフルーツをぎっしり詰めたもパイ)、カレンスキンク(燻製タラのチャウダー)なんかを、美味しそうにもぐもぐと食べておりました。

 

 

 ちなみに、この差はダンブルドア校長のボーバトンに対する嫌味でも当てつけでも何でもございません。

 

 

 

「ホグワーツには寮が4つあってね、それぞれ創始者の好みに合わせて少し特徴があるんだ」

 

 ちゃっかりクラムさんの隣に座ったダフネが無駄に距離を詰めながら話しかけると、それまでたじろいでいたビクトール・クラムさんも少し興味をそそられたように反応しました。

 

「そうなんですか? ヴぉく、気づかなかった」

「まぁベイクドビーンズとかローストチキンなんかはどこも同じなんだけど、ほら見て――」

 

 ダフネが指さしたのは、グリフィンドールのテーブル。そこには鹿肉のロースト(癖のない淡白な赤身)、ヨークシャー・プディング(堅めのシュークリームの皮みたいな付け合わせ)、ブラックプディング(血のソーセージ)、シェパーズパイ(羊肉をマッシュポテトで覆ったもの)、ヤツメウナギのパイと、ひたすら肉料理の山。

 

 勇敢な戦士でもあった創設者ゴドリック・グリフィンドールらしくスタミナが付きそうな肉々しい料理が多めで、純血を重んじたサラザール・スリザリンの貴族趣味を反映して小洒落た料理の多い私たちのテーブルとは様相が異なります。

 

 そしてハッフルパフのテーブルに目を向ければ、家庭的なヘルガ・ハッフルパフが創設した寮らしくコーニッシュ・パスティ(パイ生地の肉まん)、スコッチエッグ、チキンティッカマサラ、ダンディーケーキ(アーモンドとマーマレードのフルーツケーキ)といった素朴ながら美味しそうな料理がずらりと並んでおりました。

 

 そして合理主義者のロウェナ・レイブンクローは食事をもっぱら「栄養補給の手段」と見なしていたようで、手軽に栄養補給が出来るという効率性を追求した結果、どうしても味の残念さが目立つのが、ボーバトン生が選んでしまったレイブンクローのテーブルなのでした。

 

 先ほどの料理以外だと、クランペット(英国風パンケーキ)、スコッチ・ウッドコック(スクランブルエッグとアンチョビのサンドイッチ)、キッパー(ニシンの燻製)、マーマイト(ビールの搾り粕で作ったビタミン豊富な黒いペースト)なんかがありますが、やはり味や触感よりも手軽な栄養補給に重点が置かれ、合理的な生徒の多いレイブンクロー生からも特に不満の声は上がっていないものの、舌の肥えたボーバトン生には合わなかったようです。

 

 

 そんな感じで金の皿が再び空になったところで、ダンブルドア校長が改めて立ち上がりました。

 




 個人的なイメージですが、各寮の料理に創始者たちの嗜好なんかが反映されていたら面白いなー、なんて。

グリフィンドール →戦士のイメージから。スタミナ抜群、肉マシマシ。
スリザリン    →純血重視から貴族のイメージ。お洒落でゴージャス。
ハッフルパフ   →家庭的なイメージから。素朴で落ち着いた美味しさ、おふくろの味。
レイブンクロー  →合理主義者なイメージから。味より手軽さと栄養補給の効率性重視。
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