ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第11章 ~代表選手選出~

 ダンブルドア校長が立ち上がると、大広間が緊張感で満たされました。双子のウィーズリー兄弟が身を乗り出し、誰もが「次は何が起こるのだろう?」と期待で興奮しているのが伝わってきます。

 

 

「時は来た!三大魔法学校対抗試合が、今まさに始まろうとしている!」

 

 ダンブルドア校長が高らかに宣言しました。

 

 

「じゃが、その前に2人ほど紹介したい者がおる。まず、こちらの紳士が国際魔法協力部の部長、バーティミウス・クラウチ氏じゃ」

 

 儀礼的な拍手がパラパラと起こります。クラウチさんの方も、にこりともしませんでした。

 

 

「続いて、魔法ゲーム・スポーツ部部長のルード・バグマン氏じゃ!」

 

 こちらは昔ビーターとして有名だったこともあってか、クラウチ氏の時よりもはるかに大きな拍手がありました。

 

 

「最後に、ダームストラングとボーバトンの生徒たちを受け入れるにあたって教員が不足するため、応援要員としてアメリカのイルヴァーモーニーからフラン・ビエラ先生に来ていただいた」

 

 ダンブルドア校長の手招きを受けて現れたのは、ワールドカップ会場で見かけたフラン先生でした。

 

 こちらも顔が良いせいか、それなりに大きな拍手が続きます。フラン先生は「気軽にフラン先生と呼んでくださいね」と言い、にっこりと笑顔で手を振って返しました。

 

 

 

「それでは、フィルチさん。例の箱をここへ」

 

 ダンブルドア校長が合図すると、管理人のアーガス・フィルチさんが宝石をちりばめた大きな木箱を持って、恭しくそれを教職員テーブルの前に置きます。

 

 

「皆も知っての通り、対抗試合で競うのは各参加校から一人づつ、計3人の代表選手じゃ。代表選手は3つの課題に取り組み、その合計点が最も高い者が優勝杯を手にする。代表選手を選ぶのは公正なる選者――『炎のゴブレット』じゃ」

 

 

 勿体ぶったダンブルドア校長が木箱の中から取り出したのは、大きな荒削りの木で出来たゴブレットでした。

 木箱の蓋の上にゴブレットを置くと、その縁からは溢れんばかりの青白い炎が燃え上がります。

 

 

「代表選手に名乗りを上げたい者は、24時間以内に名前と所属校名を羊皮紙に書いてゴブレットの中へ提出するように。明日、ハロウィンの夜にゴブレットは3人の勇者を選出するじゃろう。我こそはと思わんものは、自由に近づくがよい」

 

 ただし、とダンブルドア校長が続けます。

 

「年齢に満たない生徒は誘惑にかられることが無いように。『炎のゴブレット』が玄関ホールに置かれたら、その周囲に儂が『年齢線』を引く。17歳に満たぬ者は、何人たりとも線を越えることは出来ぬ」

 

 下級生から「えー」とか「そんなぁ…」みたいな不満の声が聞こえる中、ダンブルドア校長は真面目な表情で生徒たちを見回しました。

 

「ハッキリ言うておくが、軽々しく名乗りを上げぬことじゃ。『炎のゴブレット』に名前を入れて代表選手に選ばれた以上は、いかなる理由があれ途中で気が変わるということは許されぬ。よく考えて立候補するように」

 

 

 こうして、運命の24時間が始まりました。

 

 

 

 ***

 

 

 

 翌日、私たち生徒は興奮冷め止まぬまま『炎のゴブレット』の周りに集まりました。

 

 17歳未満の生徒も立候補こそ出来ないものの、上級生の誰がゴブレットに名前を入れるのか興味津々の様子。

 

 

「おい、イレイナ!」

 

 

 私が玄関ホールの前を横切ると、さっそくフレッドさんが目をキラキラさせて近づいてきます。

 

「イレイナは当然、立候補するだろ?」

「もちのロンです」

 

 なにせ優勝者には優勝カップのみならず、1000ガリオンという大金、そして「永遠の名誉」という将来めちゃめちゃ魔法界で役に立ちそうな称号が付いてくるのです。その誉は次代を経ても陰ることはなく、圧倒的な権威と栄光が持つパワーは計り知れません。

 

(先日の授業でムーディ先生には「調子に乗るな」と戒められましたけど、同時に「卑屈になるな」とも言われましたしね)

 

 こう見えて私もスリザリンの端くれなので、「自分の力を試してみたい」という野心というか向上心みたいな欲求が無いわけではありません。

 

 

「そうこなくっちゃ」

 

 ジョージがにやりと笑い、ローブから試験管を取り出します。

 

「それは?」

 

「よくぞ聞いてくれた。これぞ秘密兵器『老け薬』だ」

「ほんの数カ月、俺たちは歳をとればいいだけだからな」

 

 双子は得意げに言うと、腕を交わして同時に試験管の中身を飲み干しました。

 

「そんなに上手くいくかしら?」

 

 ハーマイオニーが警告するように言うも、双子はそれを聞き流すと、線の前まで歩いていきます。そして飛び込みをするダイバーのように爪先立ちで体を前後にゆすると、衆人環視のなか大きく息を吸ってジャンプしました。

 

「やったぜ!」

 

 フレッドさんがガッツポーズを決め、二人で羊皮紙を入れると周囲から歓声が上がりました。

 

 

「あんな単純な手で突破できるなんて、ダンブルドアも案外大したことないわね」

 

 憮然とした顔でパンジーがそう言い、私が口を開きかけた直後のことでした。

 

 炎のゴブレットが激しく燃え盛ったかと思うと、火の玉のようなものが双子を『年齢線』の外へ押し出すように飛んでいき、3メートルほど吹っ飛んで石の床に叩きつけられる双子。そして泣きっ面に蜂とばかりに、ポンッと大きな音がして二人の顔から白くて長い顎髭が生え始め、玄関ホールが大爆笑に包まれました。

 

 

「さすがはダンブルドア、見事な髭だぜ」

 

 ゲラゲラ笑いながら、双子の悪友リー・ジョーダンが聞いてきます。

 

「イレイナ、君はどうするんだい?」

「もっと単純な手ですよ」

 

 私は校長先生の言葉を思い出します。

 

 

「ダンブルドア校長が言ったのは、あくまで『17歳に満たない者は、年齢線を()()()()()()()()()』ということだけです」

 

 

 つまり――。

 

 

「なにも『年齢線』を素直に越えなきゃいいだけです」

 

 

 私はそう言うと、名前と所属校を書いた羊皮紙を手に取り、呪文を唱えました。

 

 

「ウィンガーディアム・レヴィオーサ-浮遊せよ!」

 

 

 浮遊呪文で羊皮紙を浮かせれば、私自身は『年齢線』を越える必要はありません。他の生徒たちも「その手があったか」みたいな顔で浮遊する羊皮紙を見守り――。

 

「あっ」

 

 年齢線を越えた瞬間、呪文の効果が消えて羊皮紙がひらひらと落ちていきました。

 

 どうやら『年齢線』はそれを越えようとする魔法を無力化するよう、一定の防衛措置がなされているようです。

 

 

 

「ふむ、ならば……」

 

 そんなこともあろうとかと。

 

 私は次なる一手―――魔術を使わない、純粋に物理的な遠隔投擲手段で対抗します。具体的には、ホグワーツ城に飾られていたクロスボウを「呼び寄せ呪文」で取り寄せ、矢の先に羊皮紙を括り付け、『炎のゴブレット』に狙いを定めました。

 

「矢文だ……」

「オレ、矢文を撃つ魔女とか初めて見たわ……」

 

 周囲がざわめく中、私は『年齢線』ギリギリまで近づき、「えいっ」とクロスボウの引き金を引きました。すると弓の張力で矢が勢いよくゴブレットの中へ吸い込まれ――。

 

 

「いけませんよ、イレイナ」

 

 不意に横から聞こえた声と共に、私の矢文は通りがかったフラン先生の呪文で弾き飛ばされてしまいました。

 

 

「まったく、油断も隙も無いんですから」

 

 口ではそう言いつつも、フラン先生はどこか面白がっている様子でした。

 

「おや、何か問題でも?」

「問題があるから止めたのですよ」

「年齢線のルールには違反してないはずですが」

「かもしれません。ですが審査員にも、17歳未満の生徒の脱法行為を止める義務がありまして」

 

 フラン先生は杖を取り出すと、何やらごにょごにょと『炎のゴブレット』に呪文を唱えます。

 

「今かけた呪文は生物が『年齢線』を越えないまま、ゴブレットに入れられた羊皮紙を無効化する呪文です。矢文だけではなく、紙飛行機なんかも無効化の対象になるので、しっかり『年齢線』をまたいで入れるように」

 

 そう言ってフラン先生は去っていきました。

 

 

「ふむ、ではプランC-3で行きましょう」

 

「イレイナどんだけ準備してきたのよ……」

「ダフネ、賭けるか?」

「じゃあ、2ガリオンで」

 

 呆れ顔のパンジーに、私を賭博の対象にするミリセントとダフネ。そして他のホグワーツ生も大概「アイツ次は何やらかすんだ?」みたいな顔で見守る中、遠巻きに見ていた上級生の一人、スリザリンのクィディッチ選手の一人であるグラハム・モンタギュー先輩に近づきました。

 

「モンタギュー先輩、代表選手に立候補しました?」

「いや、ワリントンはしたけどオレはまだだ」

「ならば、ひと仕事受けてみる気はありませんか?」

 

 私はそう言って、羊皮紙と一緒に1枚のガリオン金貨をモンタギュー先輩の手に握らせます。思わず「イレイナ、お前……」と目を見開く先輩に、私は悪い顔で告げました。

 

「私の代わりにモンタギュー先輩が『年齢線』を越えれば、フラン先生のかけた追加呪文の穴を突くことが出来ます。それにダンブルドア校長だって『17歳以上が()()()()()()入れなきゃいけない』なんて一言も言ってませんし」

「た、たしかに……!」

「つまりモンタギュー先輩はただ歩いて『年齢線』を越え、紙をゴブレットに入れるだけで1ガリオンを手にすることができるのです。こんな美味しい儲け話はありませんよ?」

 

 

 そう、まさに完璧な計画のはずでした。

 

 

 

 ―――カンカンに怒った、マッドアイ・ムーディが出てくるまでは。

 

 

 

「小娘、そんなことをするな!」

 

 

 おどろおどろしい声が響いた次の瞬間、バーン!という大きな音と共に羊皮紙が一瞬で燃え始め、悲鳴を上げて手を放すモンタギュー先輩。

 

 突然のことに私も驚いて振り返ると、怒り狂ったムーディ先生の「魔法の目」がギラギラと私を見据えておりました。

 

「浅ましく、小賢しい、悪知恵だけは働く奴め……」

 

 凄みのある顔で睨まれ、つい先日ドラコ・マルフォイが白いイタチに変えられた事件が脳裏をよぎります。その時と同じ嫌悪感の浮かんだ顔をムーディ先生は私に向けており、少しでも口答えしたら体罰を加えてやる、と全身で語っておりました。

 

 

「小娘、わしの気が変わる前に今すぐ出ていけ! 次にまた姿を見せてみろ、この城から放り出してやる!」

 

 

 ムーディ先生は交渉の通じる相手ではありません。出禁を食らった私は慌てて回れ右して、そそくさと玄関ホールから立ち去っていったのでした。

 

 

 

 ***

 

 

 

 結局、何ら成果をあげることも出来ないまま、私はハロウィンの宴を迎えていました。

 

 

 蝋燭の灯りに照らされた大広間は満席で、誰が選ばれるのか興奮気味に隣人と議論しながら金の皿がさっぱり綺麗になった頃、ようやく満を持してダンブルドア校長が立ち上がりました。

 

 

「さて、ゴブレットの選定が終わったようじゃ。選ばれた代表選手は名前を呼ばれたら、隣の部屋に入るように」

 

 

 ダンブルドア校長がそう言って杖をひと振りすると、大広間の蝋燭が全て消えて部屋が真っ暗になりました。

 生徒たちは静まり返り、唯一の光源である『炎のゴブレット』の青白い炎を食い入るように見つめています。

 

「来るぞ」

 

 2つ離れた席にいたドラコ・マルフォイが呟くと、ゴブレットの炎が青から赤へと変化して火花が飛び散り始めました。次の瞬間には炎がメラメラと高く燃え盛り、炎の舌先からは焦げた羊皮紙がひらひらと舞い降りてきます。

 

 そして全員が固唾を呑んで見守る中、ダンブルドア校長が最初の代表選手の名を読み上げました。

 

 

「ダームストラングの代表選手は――――ビクトール・クラム!」

 

 

 大本命の登場に、大広間中が歓声と拍手の嵐に包まれます。クラムさんはスリザリンのテーブルから立ち上がり、堂々とした歩みで大広間を横切って教職員テーブルの後ろの扉へと消えていきました。

 

 

 そして数秒後には炎のゴブレットが再び燃え上がり、二枚目の羊皮紙が炎に巻き上げられて飛び出します。

 

 

「ボーバトンの代表選手は――――フラー・デラクール!」

 

 

 私に負けず劣らずの美少女が優雅に立ち上がり、シルバーブロンドの豊かな髪をサッと後ろに流してテーブルの間を滑るように進んでいきました。

 

 

 そして最後は、我らがホグワーツの代表選手の番です。溢れるように炎のゴブレットから火花が飛び散り、ダンブルドアが三枚目の羊皮紙を取り出し、そして。

 

 

「ホグワーツの代表選手は――――セドリック・ディゴリー!」

 

 

 ダンブルドア校長が名前を言い終わらない内に、ハッフルパフ生が総立ちになって叫び、足で地面を踏み鳴らしました。

 ハンナさんやエステル先輩も笑顔で興奮気味に大きな拍手をし、アーニーとジャスティンに至っては軽く小踊りしています。

 

 そしてセドリックさんは完璧なスマイルを決めると、爽やかに大広間を抜けて隣の部屋へと抜けていきました。

 

 

 セドリックさんがいなくなった後も、興奮冷めやまず長々と拍手を続けるハッフルパフの生徒たち。

 数々の武勇伝を持つグリフィンドールや、名家ゆえ有名人が多いスリザリン、成績上位層に名を連ねるレイブンクローに比べると、真面目で控えめな生徒の多いハッフルパフはどうしても埋もれがち。それだけに、今回のような大型イベントの中心になれた喜びも大きいのでしょう。

 

 

「結構、結構!」

 

 ようやく拍手が鳴り止むと、嬉しそうに目を細めていたダンブルドア校長先生が再び口を開きます。

 

「さて、これで3人の代表選手が決まった。選ばれなかった生徒も皆が揃って力を振り絞り、代表選手たちを応援してくれることと信じておる。声援を送ることで、皆が本当の意味で貢献でき―――」

 

 

 そこで突然、ダンブルドア校長が言葉を切りました。

 

 

「い、イレイナ! ゴブレットが……!」

 

 ダフネが目を見開き、一点を指で指し示します。彼女だけでなく、ドラコやパンジー、ハリー達も含めた全員が、ダンブルドア校長の言葉を遮った原因を凝視し始めました。

 

 

 ――なんということでしょう。

 

 

 あろうことか、『炎のゴブレット』が再び燃え始めていたのです。

 

 

 4度目の火花がほとばしり、空中に燃え上がった炎の先から、またしても羊皮紙が舞い降りました。ダンブルドア校長は反射的にそれをとらえ、書かれた名前をじっと見つめます。

 

 おやおや……?

 

「ふむ。これはひょっとしたら、私の出番かもしれませんね」

「あんたは何で嬉しそうなのよ……」

 

 呆れたようなパンジーの声を無視して、私は期待のこもった眼差しでダンブルドア校長を見つめます。しかし―――。

 

 

「マホウトコロ………ハリー・ポッター」

 

 

 ダンブルドア校長が読み上げた名前は残念ながら、私のものではありませんでした。非常に残念です。

 

 というのはさておき。

 

「マホウトコロ?」

「いまマホウトコロって言ったよね?」

「そう聞こえたけど……」

 

 どこからも拍手は起こらず、当のハリーは茫然とした表情で硬直し、教職員テーブルではマクゴナガル先生もダンブルドア校長の耳元で何やら切羽詰まったように囁いています。

 

 

 そして大勢の視線がハリーに注がれる中、再び事件は起こりました。

 

 

 なんと、またもや『炎のゴブレット』が燃え上がったのです。

 

 

 はてさて大勢が困惑する中、最後に吐き出された羊皮紙には、美しくも格調高い名前が書かれていました。それは一体、誰のものでしょう?

 

 

「イルヴァーモーニー………イレイナ・セレステリア」

 

 

 

 ―――そう、私です。

           




 イレイナさん「下手な小細工も数撃てば……」

 クラウチJr「ヤメロォ!(手の内がバレそうで内心ヒヤヒヤしてる)」
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