ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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※今話は主にハリー視点となります。最後に少しだけイレイナ視点に戻ります。


第12章 ~イレギュラーの選手~

「僕、やってない」

 

 ロンとハーマイオニーの方を向いて、僕――ハリー・ポッターは助けを求めるように言う。

 

「僕が入れないこと、知ってるでしょ?」

 

 でも、二人とも放心したように見つめ返すばかりだった。

 

 

 そしてスリザリンのテーブルを見ると、同じようにイレイナがマルフォイたちの方を向いて同意を求めるように口を開いていた。

 

 

「私がやりました」

 

 

 どうしてイレイナは誇らしげなんだろう……。

 

 

「皆さん、見てましたよね? この私がダンブルドア校長の『年齢線』を突破する勇姿を」

 

「嘘つけイレイナ、君ずっと失敗続きだったろう」

「てか、途中から先生たちに完全にマークされて手も足も出なかったじゃない」

 

 マルフォイとパンジー・パーキンソンが呆れたように溜息をつき、スリザリンのテーブルが失笑と苦笑いで沸いた。

 

 成績優秀なイレイナがあの手この手で『年齢線』を越えようとしている姿は大勢の生徒たちが目撃していたので、僕に比べると意外には思われなかったらしく、むしろ「アイツ、ついにやったのか」とか「どうやったんだろ?」といった興味が勝っているようだった。

 

 

 

「ハリーにイレイナ、こちらへ来るのじゃ」

 

 ダンブルドアの呼び声を受けて、放心状態でよろよろと教職員テーブルへと向かう。

 

 途中、何百という目のプレッシャーに押しつぶされそうになってイレイナを見ると、ふんぞり返って澄ました顔のまま軽やかに歩を進めているのが見えた。

 

 

「さぁ、あちらの扉じゃ」

 

 ダンブルドアに導かれるまま、イレイナと二人で大広間から出る扉を開けて、魔女や魔法使いの肖像画がずらりと並ぶ小さな部屋に入る。中では暖炉の火がごうごうと燃え盛り、3人の代表選手がその周りに集まっていた。

 

「どうしまーしたか? 伝言でーすか?」

 

 フラーにどう答えればいい分からず、イレイナを見る。イレイナが何か言いかけたところで、ダンブルドアとカルカロフ、マダム・マクシーム、クラウチ氏とフランさん、そしてマクゴナガル先生とスネイプ、ムーディが入って事情を説明した。

 

 当然ながら、カルカロフとマダム・マクシームは怒り心頭だ。

 

 どうしてホグワーツから3人も代表選手が出るのかとダンブルドアに詰め寄り、それを聞いたクラムたちも驚いたように目を見開く。

 

 

 

 ダンブルドア校長はひとしきり二人の校長を宥めたあと、まず僕の方を見た。

 

「ハリー、君はゴブレットに名前を入れたのかね?」

「いいえ」

 

 僕はきっぱりと首を横に振る。

 

 スネイプが「嘘つけ」といった意地悪い顔になり、カルカロフとマダム・マクシームは胡散臭そうな顔をする中、フラン先生は「あらあら」と困ったようにも楽しんでいるようにも見える微妙な表情を浮かべていた。

 

 

 続いてダンブルドアがイレイナに顔を向ける。

 

「イレイナ、君はゴブレットに名前を………何度も入れようとしていたのぅ」

「はい!」

「胸を張る場面では無いんじゃがの」

 

 ダンブルドアが溜息を吐き、聞き方を変えた。

 

「どうやったか、君が試した方法および考えた方法を聞いても?」

「もちろんです」

 

 イレイナは精一杯うっすい胸を張って、挑戦的に答えた。僕が見たのは浮遊呪文と矢文、そしてモンタギューの買収に失敗したのだけだけど、他にもフクロウを使っての空中投下とか色々と試していたらしい。

 

 

「後はポリジュース薬を使って、ユーフェミア・ロウル先輩に変身すれば誤魔化せるとも考えたのですが……」

 

 すらすらと淀みなく、イレイナはたっぷり10分近く十数通りの方法を次々に語っていた。

 

 

 その口から出てくる『年齢線』を誤魔化すためのありとあらゆる小細工に、最初はイライラしていたフラーやカルカロフも後半には呆れてものも言えないという顔になり、フラン先生はこみ上げる笑いをこらえるのに必死だった。

 

 

「最後にホグワーツで働いている屋敷しもべ妖精にも頼んだんですけど、断られてしまいましたね……はい、これで全部です」

 

 ようやくイレイナが語り終えた頃には「こいつ早くなんとかしないと……」といった空気が漂っていた。唯一、面白そうに笑っているのはフラン先生だけだ。 

 

「イレイナ。念のため注意しますけど、ルールを破るのはいけないことなんですよ?」

 

 

 だが、イレイナは相変わらず悪びれる様子も無い。

 

 

「おや、ルールは守ることそれ自体が目的ではなく、何かの目的を達成する手段として設定されるものでは?」

 

 要するにですね、と続けるイレイナ。

 

「今回の年齢制限は『試練を受けるだけの技量が無い者を制限する』というのが目的であって、年齢制限というルールは、あくまで前述の目的を達成するための手段の1つでしかありません」

 

 イレイナの屁理屈を聞いたフラン先生はますます面白そうな顔になり、マクゴナガル先生は大きな溜息を吐き、スネイプはチベットスナギツネみたいな虚無の表情になっていた。

 

「つまり?」

 

 

「今世紀最高の魔法使いアルバス・ダンブルドア校長の魔法を破った私、どう考えても代表選手になる資格しかないと思います!」

 

 

 ついに堪え切れなくなったフラン先生がプッ!と吹き出すのを、マダム・マクシームとカルカロフがイライラした表情で眺めていた。

 

「誰かが、オグワーツにリンゴを三口もかじらせよーうとしたのでーす!」

「その通りだ。あれだけ会議や交渉を重ねて妥協したというのに、こんなことが起こるとは思いもよらなかった!」

 

 マダム・マクシームが憤慨する声に、カルカロフが同調した。

 

「わたしは抗議しますぞ。魔法省と国際魔法連盟に―――」

 

 

「文句を言いたいのは、まずポッターだろう」

 

 

 カルカロフの声を遮り、ムーディが唸った。

 

「もし誰かポッターが死ぬことを欲した者がいるとしたら……」

 

 どうやらムーディは闇の魔法使いの誰かが、僕を殺すために『炎のゴブレット』に名前を入れたと考えているようだった。

 

 強力な錯乱の呪文をかけて、試合には三校しか参加できないということを忘れさせ、僕とイレイナをマホウトコロとイルヴァーモーニーで4校目と5校目の候補者と誤認させたのだと主張している。

 

「もっともセレステリアの方は、金目当てでセコい手を使ったとしても誰も疑わないと思うが」

 

 ムーディの「魔法の瞳」がぎろりとイレイナを睨みつけたが、ダンブルドアの前ということもあってイレイナも少し強気のようだった。

 

 

 

「怪しいというなら、イルヴァーモーニーはどうなんだ?」

 

 不意にカルカロフが矛先をフラン先生に向ける。

 

「こっそり不正参加した、という可能性も考えられるが?」

「あら」

 

 フラン先生は余裕たっぷりに答えた。

 

「肝心の代表選手がホグワーツの生徒じゃ、優勝してもおいしくありませんよ」

 

 それに、とフラン先生が続ける。

 

「ハリーの方はここにいないマホウトコロですし、単に犯人は適当な魔法学校の名前を入れただけだと思いますけど」

 

 

 カルカロフは青筋を立て、今度はクラウチ氏を見た。

 

「クラウチさん、えー、その……あなたは中立の審査員でいらっしゃる。こんなことは異例だと思われますでしょうな?」

 

 クラウチ氏は暗がりの中から、事務的に答えた。

 

「規則に従うべきです。そして、ルールは明白です。『炎のゴブレット』から名前が出てきた者は、試合で戦う義務がある」

「ならば、私はダームストラングからもあと二人、カステロブルーシューとワガドゥーあたりの名を借りて代表選手を出すよう要請する!」

 

 カルカロフが歯をむき出して唸る。

 

「それが公平というものだろう」

「ボーバトンも、同ーじ対応を要求しまーす」

 

 マダム・マクシームも首を縦に振ってクラウチ氏、そしてダンブルドアを見る。

 

「じゃが、先ほど『炎のゴブレット』の火は消えてしもうた。次の試合まで、もう火が付くことは無い――」

 

「しかし……!」

 

 なおも食い気味に抗議しようとするカルカロフに、フラン先生が「まぁまぁ」と仲裁を買って出た。

 

 

「そうは言っても、結局のところ採点するのは審査員なのでしょう? それならハリーとイレイナはオブザーバー参加という形にして、審査員全員がゼロ点を付ければ全て解決するのでは?」

 

 

 フラン先生の提案にイレイナが「そんな!?」と絶望したような声をあげた。

 

 

「おお、それは名案じゃ」

 

 ダンブルドアが手をポンと叩き、マダム・マクシームとカルカロフの方を見ながら言った。

 

 

「フラン先生の言う通り、ハリーとイレイナはあくまでオブザーバー参加という扱いにするのはいかがかの? 公式には二人とも最初から最後までゼロ点とし、何があっても優勝することはない」

 

 

 ダンブルドアが「これでどうじゃ?」聞くと、ようやくカルカロフとマダム・マクシームも溜飲を下げたようだった。

 

「そういーうことでーしたら」

「犯人だろうとそうでなかろうと、点にならないのなら構わん。せいぜい見物させてもらおう」

 

 二人とも、と渋々といった表情で頷く。

 

「クラウチさんもそれでよいかの?」

「問題ない。代表選手は試合で戦う義務があるが、採点は審査員の裁量と良心に一任されている」

「では、決まりじゃな」

 

 ダンブルドアが手を叩き、話はまとまったようだった。

 

 

 **

 

 

「セドリック、ハリー、そしてイレイナ。3人とも寮に戻って寝るがよい」

 

 それまで険しい表情だったダンブルドアが、ようやく微笑みを見せる。

 

「ハッフルパフもグリフィンドールもスリザリンも、君たちと一緒にお祝いしたくて待っておるじゃろう。せっかくドンチャン騒ぎをする格好の口実があるのに、ダメにしてはもったいないじゃろうて」

 

 

 イレイナとセドリックも頷き、僕たちは3人で部屋を出た。大広間の蝋燭は燃えて短くなっていて、すでに誰もいなくなった後だった。

 

 

「それじゃあ、僕たちクィディッチ以外でもまた戦うことになったわけだけど」

 

 セドリックが何とも言い難い微笑みを浮かべて言う。

 

「ハリー、君は一体どうやって名前を入れたんだ?」

「僕、入れてない」

「ふーん……そうか」

 

 反射的に否定したけど、セドリックは信じていないようだった。一方のイレイナはというと。

 

「あと少しで1000ガリオンあと少しで1000ガリオンあと少しで1000ガリオン……」

 

 自分が優勝する前提で、とっても悔しそうにブツブツ呟いていた。本当に、どこからそんな自信が出てくるんだろう?

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ハリーとセドリックと別れた私がスリザリン寮に戻ると、とたんに大音量が耳を直撃しました。

 

 すぐに10人あまりの手が伸びてガッチリ捕まえられ、そのまま談話室に引きずりこまれてしまいます。気づくと私は拍手喝采、大歓声、そして口笛を吹きならしているスリザリン生に囲まれていました。

 

「さぁ、我らが代表選手のお通りだ!」

「よくやったイレイナ!」

「ダンブルドアの魔法を突破したんだ!やるじゃないか!」

 

 興奮したようなドラコの声を皮切りに、モンタギュー先輩が感心した顔で声を張り上げ、ワリントン先輩もバシバシと痛いぐらいの勢いで肩を叩いてきます。

 

「残念ながら、校長同士の談合で優勝争いからは合法的に脱落させられてしまったんですが」

 

「まぁ他校のメンツもありますし、落としどころとしてはそんな所になりますわね……」

「とはいえ、別に出禁になったわけじゃないんだろう?」

 

 顎に手を当てて難しい顔をしたアストリアさんの声を遮り、ドラコ・マルフォイが肩をすくめました。

 

「僕としては、君がポッターを出し抜けるところが見れれば御の字だ」

「そうそう。ギャラリー的には、面白い試合が見れれば満足ってわけよ」

「無論、必要な協力は惜しまない。闇討ちなら任せろ」

 

 ドラコに続いてザビニが無責任な本音で茶化し、ノットが本当か冗談か微妙な助力を申し出ると、周囲からも「そうだそうだー」と「いいぞー」と賛同する歓声があがります。

 

 

「でも、本当にどうやったんですの?」

 

 アストリアさんの質問に対して私が思いついた手の内をあれこれと明かすと、その度に「おぉーぅ」とか「わーお」みたいな反応が。

 

「といっても、結局どれがうまくいったのか分かんないんですけど……」

 

「どれでもいいじゃん!」

「きっと数撃って当たったんだよ!」

「むしろ、よくそんなに考え付いたな」

 

「まっ、詳しくは分かんないけど何か困ったことがあったら力になるわよ!」

 

 最後、パンジーがそう締めくくると、他のスリザリン生からも「YEEEEES!!!」とか「YEAHHHHHH!!!」みたいな野次馬感あふれる応援の声があがります。

 

 こうして代表選手として選ばれた私は参加を認められ、スリザリン寮の全面的なバックアップを取り付けたものの、校長たちの談合によって優勝金は獲得できなくなってしまい――。

 

「イレイナ、頑張ってね!」

「ハッフルパフの連中に嫌がらせとかされたら、いつでも頼ってくれ」

「俺もポッターがズルしていないか見張ってやるぜ!」

「そうだ、念のため父上に頼んで魔法省にセキュリティ強化の圧力かけておくよ」

 

「…………」

 

 私が代表選手に選ばれたことを純粋に喜んでくれるスリザリン生たちを前に、今さら「優勝金もらえないなら参加するメリット無いやんけ……」などと言い出せるはずもありません。

 

「皆さん、ありがとうございます……」

 

 こうして汚い手をあれこれ使って優勝金を手に入れようと画策していた魔女は、思いがけずタダ働きをする羽目になってしまい、セコい行いの報いを受ける羽目になったのでした。




 原作を読むに得点は審査員の良心に任されているため、フラン先生の提案でハリーとイレイナさんは事前に審査員全員で「ゼロ点にする」という形で示し合わせ、合法的に正規の優勝争いから脱落させる方式に。
 これなら多分、ダームストラングとボーバトンもニッコリ。
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