ハリー・ポッターと灰の魔女 作:アストラマギカ
「グリンゴッツ銀行に金庫破り!」という衝撃的な見出しのニュースが朝を騒がせた後、初めての飛行訓練が始まりました。
こちらもグリフィンドールとの合同授業です。そういえば、何故ホグワーツはやたら仲の悪いこの2寮で合同授業をさせたがるのでしょう。
仲が悪いからこそ一緒にして理解の場を作ろうという発想なのか、あるいはライバル心を利用して競争しながら切磋琢磨させようとしているのか。まぁ前者は明らかに失敗してるっぽいので、たぶん後者でしょう。
「まったく、1年生がクィディッチ・チームの寮代表選手になれないなんて、意味が分からないよ」
飛行訓練の授業を前にして、ドラコ・マルフォイの箒自慢が始まりました。同じ話を何度もするので、付き合わされているセオドール・ノットが死んだ魚のような目で「はいはい」「へー」「ふーん」と気のない返事をうわ言の様に呟いています。
ドラコの自慢話は何故かいつもマグルのヘリを危うく躱したところで終わるのですが、まぁ親が過保護になってそれ以降は箒に触らせてもらえなかったんでしょうね。
「そういえばイレイナも箒でよく飛んでたんだっけ?」
ダフネの緑色の瞳が覗き込んできます。彼女も家がロンドンに近いせいか、やたらマグルのヘリやら飛行機やらが飛んでくるので、あまり箒に乗せてもらえなかったとか。
「ええ、お母さんに何度も頼んで教えてもらいました」
なにせ私の将来の夢は旅人です。魔女になって箒に跨り、色んな国を旅するのが目標です。箒の扱いを覚えて困ることはありません。
マルフォイがノットやザビニたちスリザリン男子とクィディッチで盛り上がるのを聞きながら、私たちは禁じられた森に近い草原へと向かいます。飛行訓練場に着くと、既に全員分の箒が並べられていました。
**
「何をボヤボヤしているんですか! みんな箒のそばに立って! さあ早く!!」
飛行訓練場に着くなり、担当のマダム・フーチがガミガミと怒鳴りつけてきます。銀髪を短く刈り込み、鷹のような黄色の瞳のマダム・フーチは、いかにも厳しそうな体育会系の先生といった感じです。
「右手を箒の上に突き出して! それから‟上がれ!”という!」
「「「上がれ!」」」
ホグワーツの練習用箒には当たり外れがあるという話を上級生から聞いていたのですが、私の箒は特に何の問題もなく手に収まりました。
周りを見ると、ドラコやロンなども成功しています。とはいえ純血がみんな乗れるわけでもないらしく、案外パンジーやノットの箒は地面を転がるだけで苦戦しているようでした。ネビルに至ってはピクリとも動きません。学年トップのハーマイオニーも、今回ばかりはマグル生まれのハンデで箒を地面に転がすのが精一杯。ハリーは意外なことに、初めて箒を触ったと思えないほど自然に箒が手に収まっています。
「セレステリア、なんですか? その体勢は」
いつものように私が箒に腰かけようとすると、ドラコに箒の握り方を注意していたマダム・フーチに目を着けられました。
「箒に乗っているだけですが」
「箒は腰かけるものではなく、跨るものです」
「誰がそう決めたんですか?」
「魔法省の学生指導要領です」
「えぇ………」
マダム・フーチ、体育会系な見た目のくせして指導がお役所仕事。
まぁ実際、教師だからほぼ公務員みたいなもんですけど。
さすがに魔法省相手にゴネても仕方がないので、ここは大人しく従うとしましょう。
「では、……よっと。はい、これで問題ありませんか?」
「ちゃんと指導要領に沿った乗り方が出来るなら、最初からそうしなさい」
余計な手間をかけるな、と言わんばかりに憮然とした顔で去っていくマダム・フーチ。
しばらくして全員の手に箒が握られたことを確認すると、いよいよ本格的な飛行訓練が始まります。
「さあ、私が笛を吹いたら地面を強く蹴って!箒をしっかり握って、数メートル浮上したら前かがみになって下りてくること! 笛を吹いたらですよ? さぁ、1、2の―――」
マダム・フーチが笛に口をつける直前、再び事件が発生しました。
「うわぁあああああ!!」
なんとネビルが緊張のあまり、フライングして笛より先に地面を蹴ってしまい、勢いよく飛びあがってしまったのです。
「こら! 戻ってきなさい、ロングボトム!」
マダム・フーチが制止するも、ネビルは自分の箒を制御できていないらしく、フラフラしながら急上昇していきました。しまいには暴れ出した箒に振り落とされ、数十メートルも上空から落下。その様子を見ていた生徒たちが悲鳴を上げる中、スリザリンのセオドール・ノットは確かこう言ったと思います。
「なんてことだ、もう助からないぞ!」
ノットの鬼畜発言にもかかわらず、ネビルは幸運にも木々の茂みの上に落ちたおかげで、どうにか一命を取り留めました。すぐにマダム・フーチが駆けつけます。怪我の状態を確認したところ、ひどい骨折を除いて命に別状はありません。彼が陥った状況を考えれば、まさに幸運と言って良いでしょう。
「全員、ここで待っていなさい! もし箒に指一本でもふれた場合は、クィディッチの『ク』の字を言う前に、この学校から出て行ってもらいますからね!」
マダム・フーチは厳しい口調で言い放ち、泣きじゃくるネビルを連れて医務室へと向かっていきました。
**
「アイツの顔を見たか?あの大まぬけの」
マダム・フーチが見えなくなったタイミングで、マルフォイが皆に聞こえるようにあざ笑い始めます。手には光るガラス玉のようなものが握られていました。
「見ろよ! ロングボトムの婆さんが送ってきたバカ玉だ!」
たしか「思い出し玉」とかいうアイテムです。忘れ物があると赤く光って教えてくれるのですが、肝心の忘れ物が何なのかは教えてくれない欠陥商品。どうやら、ネビルが箒から落ちた衝撃で落としてしまったようです。
「ドラコ、やけに詳しく覚えてますね」
「やっぱりグリフィンドール大好きなんじゃない?」
ダフネと二人でうんうんと頷きながら、「むしろよく落ちてるの見つけたよねー」とか「あの高さから落ちても割れないなんて丈夫ですね」みたいな話を呑気にしていると、いつの間にかハリーとドラコは箒に乗って空を飛んでいます。
ちょっと男子ぃ……。
「ああ、もうハリーったら! このままじゃ減点されちゃう!」
ハーマイオニーの悲鳴をよそに、残るスリザリン生とグリフィンドール生はそれぞれドラコとハリーを応援してます。どうやらネビルの「思い出し玉」を奪い合っているようです。
「ねぇ、イレイナからもマルフォイを止めるように言ってくれない? あのままじゃスリザリンもグリフィンドールも減点、最悪2人とも退学よ!」
「え、あー、はい。そうですね……」
まぁハリーとドラコが退学になるのは自己責任ですが、連帯責任で私たちまで巻き込まれては堪りません。
「あーあー! そこにマクゴナガル先生がー!」
それっぽいホラを吹くと、さーっと潮が引いたように皆が一斉に静まり返ります。
「というのは冗談で」
「「「「冗談なんかい!!!」」」」
グリフィンドールとスリザリンが仲良くツッコミを入れてきます。なぜこの連帯感を日頃から発揮できないのか。
「しかしですね、私たちマダム・フーチから箒に触るなと言われてますし、とりあえず形だけでも止めるポーズをしとかないと。ほら、例えばもし運悪くマクゴナガル先生なんかに見つかったら、私たちも連帯責任を食らうかもしれませんよ?」
いったん冷静になったところで説得を試みようとしたのですが、未だ赤毛のロン・ウィーズリーをはじめ半数ほどの生徒はナンセンスだといった表情。
「イレイナ、考え過ぎだよ。そんなタイミングよくマクゴナガルに見つかるわけ……」
「ハリー・ポッターぁああああああッ!!」
ほーら、言わんこっちゃない。
ロンの見事な前振りを待っていたと言わんばかりに、激おこマクゴナガル先生が全力疾走してきました。
その先に視線を向ければ、ドラコ・マルフォイが落とした「思い出し玉」をナイスキャッチしたハリー。その他大勢の生徒と同様、見たことも無い形相のマクゴナガル先生の顔を見て、誇らしげだった顔からさーっと血の気が引いていきます。
「まさか……こんなことはホグワーツで一度も」
マクゴナガル先生の眼鏡が激しく光り、怒りのせいか体がわなわなと震えています。それを見たハーマイオニーが、慌てて駆け寄っていきました。
「あの、マクゴナガル先生、ハリーは……」
「ハリーはともかく、残りの生徒は止めるよう注意はしました。ですよね、皆さん?」
私はハーマイオニーの声を遮り、マクゴナガル先生の前で私は誤解が生まれないよう、釈明を試みます。振り返ると、どちらの寮生も空気を読んでコクコクと首を縦に。
「とまぁ、見ての通り全員で止めたようとしたのですが、残念ながら力及ばず誠に遺憾の限りで……」
「ミス・セレステリア、事情はこちらで判断します」
マクゴナガル先生の言葉には、一切の反論を許さない迫力がありました。これは本格的にヤバイんじゃないでしょうか。
「ポッター、私についてきなさい」
しゅんとしているハリーを連れて、マクゴナガル先生が去っていきました。
「これでポッターは、退学だな」
ドラコは余裕そうに高笑いをしていましたが、彼もけっこうヤバイんじゃないでしょうか。私は念のため、こっそり耳打ちしてみることに。
「これは確認なんですが、ドラコ、貴方はマクゴナガル先生に見られてませんよね?」
「も、もちろんだとも!」
「本当の本当に?」
「…………………………………うん」
「ダウト」
タイミング的には中々際どいですが、窓から見ていたのであれば、ドラコが箒に乗っていた様子も見られていた可能性は低くありません。何より、グリフィンドール生が証言すればアウトです。
「悲しいですね、せっかく仲良くなれると思った矢先にこんな事になるとは」
「待て! まだ退学と決まったわけじゃ――」
「たしか図書館に、退学処分を受けた生徒が不当だとして裁判を起こした判例が残ってるはずです。頑張って調べれば、金銭で解決できるかもしれません」
「人の話を聞けって!」
こうして友人との別れを惜しんだ私でしたが、結論からいうと二人とも特にこれといったお咎めはありませんでした。
それどころかハリーは箒の腕をマクゴナガル先生に見込まれ、特例として1年生にもかかわらずグリフィンドールのクィディッチ・チームにシーカーとして編入されたとか。
しかも、厳格で有名なマクゴナガル先生から現状で最速の箒であるニンバス2000までPON☆とくれちゃう超豪華特典付き。なんと太っ腹なことでしょう。
もちろん、そのことを知らされたスリザリン寮は軽く放心状態。
「フィクションであって欲しかった……」
セオドール・ノットの呟きが、全員の心情を代弁していました。
セオドール・ノット「なんて事だ、もう助からないゾ♡」
ハリー&マルフォイ「キャッキャ」
イレイナ&ハーマイオニー「ちょっと男子ぃー」
マクゴナガル先生、クィディッチになると人が変わるのでハリーが処分どころかシーカー&ニンバスまでプレゼント、知ったスリザリンはきっと宇宙猫状態。