ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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※前回に引き続きロン視点。


第17章 ~ハンガリー・ホーンテール~

 

 そして深夜、禁じられた森の前には僕――ロン・ウィーズリーを含めて5人の生徒が集まっていた。ハーマイオニー、マルフォイ、ダフネ・グリーングラス、そしてパンジー・パーキンソンだ。

 

 

「なんでマルフォイたちまで……」

「イレイナは同じスリザリン生だ。そっちこそ、グリフィンドールのくせに何でいるんだ?」

「僕たちにとっても友達だ!」

「余計なお世話って言葉を教えてやろうか?」

 

「いいから行くわよ」

 

 言い争う僕たちにハーマイオニーが呆れたように言うと、パンジーが噛みついた。

 

「なんでグレンジャーが仕切ろうとしてるわけ?」

「あら、嫌ならお先にどうぞ」

 

「4人共、早くしないと置いてくよー!」

 

 そんなことをしている内に、ダフネがどんどん先へ行ってしまう。

 

 慌てて後を追うと、すぐに辺りが真っ暗闇に覆われた。静寂の中、時おり遠くからは狼の遠吠えのような音が聞こえる。2年前にもアラゴグに会うために来たことはあるけれど、やはり不気味なことこの上ない。

 

 しばらく無言のまま進んでいると、沈黙に耐えられなくなったかのようにマルフォイがポツリと呟いた。

 

「……まさか、またこの森に来ることになるとはな」

「ドラコ、私たち大丈夫よね?」 

 

 不安の表情を浮かべたパンジーに、マルフォイは落ち着いた声で囁くように答える。

 

「森では何が起こるか分からない。それだけが分かっている……」

 

 なんか熟練の狩人みたいな台詞でキメようとしているけど、よく聞くと中身は空っぽだった。隣で「やだ、素敵……♡」みたいな乙女の顔になってるパンジーの気が知れない。あんなのの何処がいいんだろうか。

 

 

 そんな事を考えていると、不意にマルフォイが低い声で鋭く告げた。

 

 

「―――伏せろ!」

 

 

 そして次の瞬間、耳をつんざくような咆哮が響いた。

 

 

「……なんだ、あれ」

 

 

 凶暴な獣のような咆哮に、三頭犬のフラッフィーを思い出す。

 

 

「も、戻りましょうよ!」

 

 涙目になったパンジーがわっとマルフォイにしがみつき、ダフネも顔を引きつらせている。

 

「やっぱり……その、帰ろっか」

 

 なんだかんだでトロールだの三頭犬だのアクロマンチュラだの、バジリスクやら狼男やらで怪物慣れしている僕やハーマイオニーと違って、スリザリンの3人は怯え切っていた。

 特にパンジーは普段の強気な態度もどこに消えたのか今にも泣きだしそうだし、ダフネとマルフォイはそれを見て辛うじて平静さを保っているといった様子だ。

 

 

 だが、青い顔をしながらもマルフォイは静かに言った。

 

「いや、行こう」

 

 らしくない発言に僕たちが目を丸くしていると、マルフォイは気恥ずかしそうに目を伏せ、言い訳がましく返す。

 

「だって、ほら……その、イレイナとクラムがいるなら危険を伝えないと」

「急にいい奴かよ」

 

 基本的には嫌な奴だけど、最低限の仲間意識と倫理観ぐらいは持っているようだった。スリザリン生以外にもそうすればいいのに。

 

 

「だね……やっぱり行こっか」

 

 ダフネが頷き、僕たちは恐る恐る木々の間を移動する。周囲を警戒しながら進むと、再び咆哮が聞こえ――不意に森が爆撃にでもあったかのように明るくなる。

 

 

 そして、僕たちは()()を見た。

 

 

 

 ――ドラゴンだ。

 

 

 

 見るからに獰猛な5頭の巨大なドラゴンが、分厚い板で柵をめぐらせた囲い地の中に鎖で繋がれている。地上50フィートもの高さに伸ばした首の上でカッと開いた口は恐ろしい牙を剥き、暗い夜空に向かって火柱を噴き上げていた。

 

 長く鋭い角を持つシルバーブルーの一頭は、ひときわ体が大きく地上のドラゴン使いを激しく威嚇している。すべすべした鱗を持つ緑の一頭は全身をくねらせ、足を踏み鳴らしている。キノコ状の火炎を吐いていた赤い一頭は、顔の周りに金色の細い棘の縁取りがある。巨大な黒い一頭は他に比べるとトカゲに似ていて、最後の一頭は玉虫色に光る真珠のような鱗とキラキラ光る多彩色の瞳孔のない目を持っていた。

 

 呆気にとられてドラゴンを見つめる僕の隣で、ハーマイオニーが大きく息を呑む。

 

「スウェーデン・ショート・スナウトにウェールズ・グリーン、チャイニーズ・ファイアボール、ハンガリー・ホーンテール、それにオーストラリア=ニュージーランド・オパールアイまで……」

 

 順にドラゴンを指さすハーマイオニーに、パンジーが呆れ返ったように言った。

 

「グレンジャーあなた、こんな時まで魔法生物飼育学の答え合わせが全問正解じゃないと気が済まないわけ?」

 

 ハーマイオニーは満更でもなさそうに頬を赤らめた。あれは「全問正解」で喜んでいる顔だ……僕には分かる。

 

「いや照れんなし」

 

 そんなハーマイオニーを見て、思わずスリザリン仲間にするようにツッコミを入れてしまうパンジー。直後にハッとした顔になって、誤魔化すようにそっぽを向いた。素直じゃないな、この子も。

 

 

 当のハーマイオニーの方に目をやると、ドラゴンの方を見ながら何やらブツブツと呟いている。 

 

「それにしても、いったい誰がこんな所にドラゴンなんか……」

 

 マルフォイが呆れたように目を細めた。

 

「自慢の脳みそをもう少し使ったらどうだい? あの野蛮人の森番(ハグリッド)以外に誰がいるっていうんだ?」

「でも、動機が――」

「あいつが怪物を愛するのに、そんなものが必要なのかい?」

 

 否定したい気持ちとは裏腹に、目を輝かせてドラゴンに頬擦りするハグリッドの姿が脳内で再生されてしまう。ノーバートとアラゴグと尻尾爆発スクリュートの前科もあるし、常識で考えたらマルフォイのハグリッド犯人説が説得力だろう。

 

 どう反論すべきか考えていると、別方向から援護射撃が来た。

 

「動機なら、あれじゃないかな? 第1の課題!」 

 

 閃いたとばかりに指をパチンと鳴らすダフネに、パンジーが渋い顔をする。

 

「冗談でしょう? 死人が出るわよ?」

 

 だが、それがあり得るのが三大魔法学校対抗試合だ。というか、過去にはあった。

 

「え、冗談よね……?」

「いくらダンブルドアでも、冗談でドラゴン使いを40人近く動かすほど暇じゃないと思うわ」

 

 ハーマイオニーの視線の先では、ドラゴン1頭につき8人ほどの魔法使いたちが握った鎖を引き締めながら叫んでいた。ドラゴンの首や足に回した太い革バンドに鎖を付け、抑えつけようとしている。

 

 

「あれは……」

 

 よく見ると、その中には僕の兄であるドラゴン使いのチャーリーもいた。

 

「よーし、いい子だ……大丈夫、怖がらなくていいからな」

 

 チャーリーは灰色の花こう岩のように巨大な卵をいくつか毛布に包み、ドラゴンの傍に注意深くそれを置いた。毛布をとると、ひときわ目立つ金色の卵がドラゴンの卵に紛れて入っていく。

 

「チャーリーの奴、何してんだろ?」

「偽の卵を紛れ込ませてるみたいね」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「たぶん、それが課題なんじゃないかしら」

「ドラゴンを倒さなくてもいいの?」

「たぶん違うわ。きっとドラゴンを出し抜いて金の卵を取れとか、そういうのだと思う」

「わーお、なんとも寛大な課題だね」

 

 適当な軽口で返しつつも、ドラゴンとは別の不安がよぎる。図らずも第1の課題を知ってしまったことで、今さらながらこの場に長居するのはマズイような気がしてきたのだ。

 

「ねぇ、もう十分じゃないかな。そろそろ此処から離れ――」

 

 

 その時だった。

 

 

 

「―――誰だ!」

 

 

 背後から鋭い声が聞こえる。暗闇の中から杖を掲げた人影が近づいてきて、ヤギ髭が見える―――カルカロフだ。

 

 

 それから、別の声も。

 

 

「……皆さん、こんなとこで何やってんですか」

 

 

 カルカロフの後ろにいたのは、イレイナとクラムだった。イレイナは大きなローブのフードを脱いで、驚きとも呆れとも似つかぬ表情をしている。

 

 

「僕たちは……いや、君たちこそ何してるんだい?」

「えーっと」

 

 イレイナはクラムを見て、次にカルカロフを見た。

 

「カルカロフ校長から、お月見でもどうかと招待されまして」

「月……」

 

 思わず空を見上げる。マルフォイたちもそれに続く。木々に覆われて、月どころか月光すらロクに見えない夜だった。

 

「綺麗な月だろう?」

 

 カルカロフがイレイナの雑ホラ話に乗っかった。目を合わせて「そういうこと」にすると決めたらしい。だが、2人とも視線が泳いでいる――というより、ドラゴンの方をまじまじと見ている。

 

 つまりは、そういうことなのだ。

 

「………」

「………」

「………」

「………」

 

 大体の真相が分かってきたところで、4つの冷え切った視線がダフネに集まっていく。

 

「……んだよお。文句あっか、ん?」

 

 唐突な謎の不良キャラで虚勢を張るダフネに、パンジーが笑顔で近づいた。そしてすぅ、と大きく息を吸って、そのままダフネの首を絞めはじめた。

 

「このっ、おバカっ!」 

「いだいっ!? やめて死ぬっ!?」

「馬鹿は死なないと治らないのよ!」

 

 どうやらイレイナとクラムが逢引きするとかいう話は、目の前でギャーギャー騒いでいるお騒がせガール(ダフネ・グリーングラス)の勘違いだったらしい。

 

 そして真相は見ての通り、どういう経緯かは謎だけど、イレイナとカルカロフが手を組んで一緒にカンニングしに来ただけのようだった。それはそれで問題なんだけど。

 

 

 詳しく聞けばカルカロフはイレイナのお母さんに昔、かなーり世話になったことがあるらしい。それ以上は教えてくれなかったけど、たぶん談合的な話なのだろう。

 

 

 そして僕たちがここにいた訳を話すと、イレイナは呆れ顔になった。

 

「何かと思えば、半端なく下らない話でしたね……」

「僕もそう思う」

 

 クラムはむっつりと無言のまま、そしてカルカロフは取り繕ったような苦笑いを浮かべた。

 

「まぁ、君たちぐらいの年頃の若者にとっては一大事なのだろう。ともあれ、もう遅い時間だ。早く寮に帰ってベッドに入りなさい」

 

 話はここまでとばかりに早く帰るよう促すカルカロフだったが、和やかなお帰りムードをぶち壊すようにハーマイオニーが立ちはだかった。

 

「あ、でもカンニングはいけないと思うわ」

 

 カルカロフが笑顔のまま固まった。

 

「……お嬢さん、いいかね」

 

 猫なで声で手を揉むカルカロフ。

 

「君たちがここにいることを私がマクゴナガル先生に伝えれば、グリフィンドールの大幅減点は免れない」

「私が貴方とクラムのことをバグマンさんに伝えても、大問題でしょうね」

「そうだ。それはお互い望むところじゃないだろう?」

「でも、より問題が大きいのは貴方のほう」

「そこでだ」

 

 カルカロフが提案するように人差し指を立てた。

 

「君たちはここで見たことを忘れる。私たちも忘れる。しかし、どういうわけか―――このことを、ついうっかり、君が恋人のハリー・ポッターに漏らしてしまう」

 

 リータの記事を鵜呑みにしているのだろう。カルカロフは顔を引きつらせるハーマイオニーを見て、ますます確信を深めたようだった。

 

「愛しい恋人の言うことなら、ポッターも疑うことはあるまい。第1の課題で彼が大怪我を負うリスクは、大幅に避けられる」

 

 悪い話じゃないだろう?と返すカルカロフに、ハーマイオニーも渋々、頷くしかなかった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「いいの?」

 

 カルカロフとクラムが去った後、僕が聞くとハーマイオニーは肩をすくめた。

 

「仕方ないでしょ。相手が相手だもの」

「にしてもカルカロフの奴、思ったよりあっさり引き下がったな……」

 

 ハーマイオニーがフンと鼻を鳴らした。

 

「あの人、ハリーを舐めてるのよ。ドラゴンが相手じゃ、どうせ長く持たないって」

 

 

 普通に考えれば、そうだろう。大人の魔法使いだって、たった1人でドラゴンの相手をするなんてほとんど自殺行為なんだから。

 

(でも……)

 

 ハリーはこれから、あの怪物と戦うのだ。

 

 代表選手として、たった1人でドラゴンに立ち向かわなければならない。最悪の場合、ハリーが死んでしまう可能性だってある。

 

(そう、なんだよな……)

 

 そうだ、僕の親友はこの試合に文字通り命をかけているのだ。たとえ事故死にまで至らずとも、腕の一本ぐらいは失うかもしれない。

 

 

 ――それなのに、僕は。

 

 

 

「ちょっと、ロン!?」

 

 

 気づいた時には走り出していた。

 

 

「伝えなきゃ……僕、ハリーのとこに行ってくる!」

 

 

 後ろでイレイナたちが何か言っていたけど、走り出した足は止まらない。一刻も早く、課題のことをハリーに伝えないと。 

 

 自分のちっぽけなプライドと、大事な親友の命。どっちが大事かなんて比べるまでもないだろう。

 

 

(馬鹿か、僕は……!)

 

 

 

 ***

 

 

  

 グリフィンドールの談話室に戻った時、ハリーは暖炉の傍で本を読んでいた。僕が近づいてくるのに気づくと、驚いたような表情がすぐに険しくなった。

 

「……何か用?」

「大事な話があるんだ」

 

 ハリーは皮肉のひとつでも言いたそうな表情をしていたけど、真っ青な僕の顔を見てただならぬものを感じたらしい。黙って寝室まで付いてきてくれた。

 

 

「落ち着いて聞いてくれ。ハリー、君の相手はドラゴンだ」

 

 

 ハリーが怪訝な顔になった。

 

「待って、なんの話? ダンスの相手?」

「違う、第1の課題だ」

「なるほど。第1の課題はドラゴン……」

 

 最初こそ「ふーん、ほーん」みたいに何度も頷いていたハリーだったが、徐々にペースが落ちていき、やがて完全に停止した。顔からも血の気が引いていく。

 

「……嘘でしょ?」

 

 ここ数日の諍いなど忘れたかのように、ハリーが素で聞き返した。

 

「ドラゴンってあれだよね? 翼があって火を吐く、ノーバートのでっかい奴……」

「ああ、そのドラゴンで合ってるよ」

「っ――」

 

 ショックで思考力が落ちていたハリーから、表情までもが抜け落ちた。

 

「……運営は正気なの?」

「正気じゃないと思う」

 

 ははは、と乾いた笑いを漏らすハリーに、僕は言葉を続けた。

 

「全部で5頭だ。選手1人につき1頭で、君はドラゴンを出し抜かなきゃいけない」

 

 ハリーはまじまじと僕を見た。

 

「確かかい?」

「絶対だ。僕、見たんだ」

「でも、なんで知ってるんだい? 知らないことになってるのに……」

 

 どう説明すべきか悩んだが、素直に打ち明けることにした。

 

 ダフネ・グリーングラスの誤情報、それを確認するためにマルフォイたちと禁じられた森にいったこと……。

 

「どうして、僕に教えてくれるんだ?」

 

 信じられない気持ちでハリーを見た。

 

 もしハリーだって、自分の目であのドラゴンを見ていたら、絶対にそんな質問はしないだろうに。どんなに酷い喧嘩をした相手にだって、何の準備もなくあんな怪物と戦わせたりはしない。

 

 

 そして、何より――。

 

 

「僕、気づいたんだ」

 

 意を決して、ハリーの目を見る。

 

 

「君の名前をゴブレットに入れた奴が誰にしろ――そいつは君を殺そうとしてるんだと思う」

 

 

 まるで、この数日が解け去ったかのようだった。時間が巻き戻されて、ハリーが代表選手になった直後に会っているような気さえした。

 

 

「……ようやく気付いたってわけかい? ずいぶん長いことかかったみたいだけど」

「ごめん。もっと早く気付くべきだった」

 

 僕とハリーの間に、沈黙が降りた。パチパチと暖炉の炎が何度か弾け、それからハリーがポツリと呟いた。

 

 

「いいんだ、気にするな」

「でも――」

「気にするなって」

 

 ハリーは仕方ないな、とばかりに肩をすくめた。つられて頬を緩めると、ハリーも笑い返してきて、軽く肩を叩かれる。

 

 僕たちの間に、それ以上の言葉は要らなかった。

 




マルフォイとパンジー
 たぶんツンデレ。自覚はない。 

イレイナ母にお世話になったカルカロフ
 めちゃくちゃ弁護してもらった。カルカロフとイレイナさんの談合の詳細については、また別の機会で明かされます。

素直になったロン
 本物のドラゴンを見て事の重大さに気づく。嫉妬とかしてる場合じゃねぇ!
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