ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第22章 ~思春期と反抗期~

 

 結局、ロウル先輩の主催した合コンでは、私やセドリックさんを含めて参加者の3割ほどがパートナー確定となりました。

 

 ダフネやミリセントなどは何人かと簡単なランチデートの約束だけ取り付け、様子を見ながら決めていく感じで、半分ほどの参加者がこのパターン。

 

 一方でクラムさんやチョウ・チャンさんなどは友人づきあいで一応は参加したものの、本命が別にいるか特にピンと来る相手がいなかったようで、「今度みんなで」とか「行けたら行く」みたいな感じで帰っていった参加者も2割ほどでした。

 

 

「まずまず、といったところね」

 

 主催者のユーフェミア・ロウル先輩としては予想の範囲内のようで、『スリザリン生カップル名簿』なるノートに羽ペンでチェックを入れています。

 

「3割は多い方なんですか?」

「そもそも4年生以上のスリザリン生なら3人に1人ぐらい交際相手いるし、そういう積極的な層を除いた残りで3割ペア成立は多いでしょ」

 

 たしかにザビニやトレイシーなんかは2年生ぐらいの時から交際相手いましたし、パンジーも本人がもっと積極的ならとっくにドラコと付き合えてた可能性も無きにしも非ず。

 

(とはいえ、長きにわたったパンジーの片思いもようやく報われたことでしょうし、これで一安心……)

 

 

 などと思っていたところ、後日パンジーからかけられた言葉は想定外のものでした。

 

 

 

「――ねぇ、みんな」

 

 

 翌日、授業を終えて談話室に戻った私たちの前で、おもむろにパンジーが切り出しました。

 

 

「私、どうやったらドラコを誘えると思う?」

 

 

 

「……」

「……」

「……」

 

 予想もしなかった言葉に、思わず固まる私たち。

 

 

「えっ、パンジーまだドラコ誘ってなかったの!?」

 

 

 ダフネが驚愕の表情を浮かべ、てっきり予約済みだと思っていた私とミリセントも思わず詰め寄りました。

 

「この前に私がセドリックさんにパートナーをお願いした時、どう考えても追いかけて誘う流れだったじゃないですか」

「てか、逆にあの時パンジー何してたの?」

 

「あ、アタシは……その」

 

 俯きながらポツリと呟いたパンジーの頬は朱を帯びていて。

 

 

「ただ、ドラコに元気出して欲しいなって……」

 

 

 そこには純粋に想い人を案じる、優しい気持ちだけがありました。

 

「あ、うん……ごめんね、聞いた私たちが悪かったよ」

「いつまでも友達止まりな理由が分かった気がします……」

「パンジーそういうとこやぞ」

 

「えっ!?」

 

 脳内に名前通りのお花が咲き乱れているっぽいパンジーに、ミリセントが呆れた表情で言いました。

 

「つーかさ、もうさっさと誘っちゃえよ。イレイナにフラれた直後の今こそ、傷心に付け込むチャンスだろ」

「え、それは……なんか露骨っていうか、ズルいっていうか、嫌な女っていうか」

 

 普段は強気なパンジーですが、本命には周囲が呆れるほど奥手のようでした。

 

「パンジー、仮にあなたがドラコの傷心に付け込まなくても、他の誰かが絶対にやると思いますよ?」

 

 だってスリザリンだもの。

 

「うっ……」

 

 2年のバレンタインの時に意外とドラコがモテてたのを思い出したのか、顔に焦りの色を浮かべるパンジー。あと少し押せば行けそうな様子を見て、ダフネとミリセントも続きます。

 

「そうだよー、アストリアあたりも怪しいね。最近なんかドラコに対して態度甘いしー?」

「レイブンクローのフォーセットとエッジコムあたりも狙ってるって話、どっかで聞いたなー」

「これは本格的に時間の問題かもですねー」

 

「あー、もう! わかったわよ!」

 

 わざとらしく煽られ、ぱっつんボブの黒髪をぐしゃぐしゃにしながら「うーっ」と呻き声を漏らすパンジー。

 

「誘えばいいんでしょ! つーかアタシだって、その気になればドラコの一人や二人ぐらい誘えるし」

 

 ぶーっ、と頬を膨らませてむくれるパンジーに、私たちは最後のダメ押しとばかりに煽っていきます。

 

「えー、本当にぃ? ぴゅあぴゅあハートのパンジーには無理なんじゃなぁい?」

「もう何度も、やるやる詐欺を見せられてますからねぇ……」

「嬢ちゃん、こっちでそれとなく予定を聞いてもいいんだぜ?」

 

「――っ」

 

 狙い通り散々に煽られ、パンジーの顔が真っ赤になりました。そのまま売り言葉に買い言葉といった感じで、ついに恋する乙女が立ち上がります。

 

「み、見てなさいよ―――!」

 

 

 

 ***

 

 

 

「………」

 

 かくして10分後、男子の寝室の前には決意の表情を浮かべたパンジー・パーキンソンが立ち尽くしておりました。

 

「………」

 

「イレイナ、念のため残念会の準備できてる?」

「さっきお店に予約を入れておきました」

「それじゃ、惨杯の音頭は私がとるね」

 

 後ろの曲がり角から覗き込む格好でミリセントやダフネと一緒にコソコソ会話していると、不意に扉が開いてクラッブとゴイルを引き連れたドラコが現れました。

 

「きゃっ」

「わっ」

 

 勢いよく開かれた扉にパンジーが小さな悲鳴を上げ、人がいると思っていなかったドラコも驚いた顔になりました。

 

「パンジー? どうして君がここに?」

「え、えっと……その」

 

 きょとんとした顔のドラコから目を逸らし、脇にいるクラッブとゴイルをチラチラと見るパンジー。

 

「しかし見事なまでに、お邪魔虫が二匹も現れましたね……」

「パンジー、そこは早く‟ちょっと2人にしてくれる?”って言うとこだよ!」

「つーか、今更だけどアイツらがいつもドラコの傍にいるから今までダメだったんじゃ」

 

 気まずそうなパンジーに、ドラコが気を利かせて「そうだ、よければ君もお菓子でも――」と話題を変えようとした矢先。ついにパンジーの口が動きました。

 

 

 

「ねぇ、ドラコって今年のクリスマスどうすんの?」

 

 

 

(((言った!!!)))

 

 

 

 不意打ちでド直球ストレートを食らったドラコはしばらくポカンとしておりましたが、やがてパンジーの言葉の意味を理解したらしく、青白い顔に朱が指します。

 

「……少し、場所を変えようか」

 

 さすがにクラッブとゴイルのいる前では恥ずかしかったのか、パンジーの手を引いて移動するドラコ。

 

「やっべ、こっち来た」

「隠れなきゃ――」

「ちょっと静かにしてください―――クリプト-目くらまし!」

 

 私が小声でかけた「目くらまし術」により3人の姿が背景と同化し、ちょうど私たちの前でドラコの足が止まりました。

 

「えっと、その……さっきの返事なんだが」

 

 ドラコの言葉に、パンジーの背中が緊張するのが伝わってきました。

 

 

「い、一週間ほど考えさせてくれ!」

 

 

 

 ◇◆◇ 

 

 

 

 パンジーの返事を先延ばしにした後、僕――ドラコ・マルフォイは談話室のソファに座って、ボーッと窓の外に映る魚や大イカを眺めていた。

 

「――おい、ドラコ」

 

 なんとなく、今は寝室に戻る気にはなれない。クラッブとゴイルは何も言ってこないだろうけど、それはそれで居心地悪いというか。

 

「おーい」

 

 ブレーズ・ザビニは逆に、色恋沙汰が大好物だ。こんな面白いネタはないとばかりに、嬉々として根掘り葉掘り聞いてくるだろう。

 

「ダメだ、返事が無い」

「屍のようだ?」

 

 セオドール・ノットは多分、ハイテンションなブレーズとは逆にいつものペースで淡々と接してくるだろう。そう、目の前で繰り広げられている光景のように……。

 

 

「――ん?」

 

 

「あ、目に焦点が戻った」

「生きてるか?」

 

 ふと我に返ると、2人がこちらを覗き込んでいた。

 

「……生きてるよ」

 

「その割には目が死んでたぞ」

「なんかあったのか?」

 

 

 悩んだ結果、周囲に誰もいないのを確認してから、2人にパンジーから誘われたことを話した。

 

 

「今さらだけど……パンジーってさ、たぶん僕のこと好きだよね?」

 

 思い切って相談してみると、ザビニは聞いている傍から呆れたような顔になり、ノットは話の途中から杖に伸ばしかけてた手を引っ込めた。

 

「お前、一応ちゃんと好かれてる自覚あったんだな……」

「ここで鈍感ムーブかましてたら、ボンバーダするとこだった」

 

 続けてザビニが確かめるように言う。

 

「別にパンジーのこと嫌いじゃないんだろ?」

「……まぁ、誘われて悪い気はしなかった」

 

 正直に答えると、ザビニはキョトンとした顔になる。

 

「じゃあ答え出てんじゃん」

「でも、なんていうか……」

 

 言い淀むと、それだけでザビニはすぐに「へぇ」と察したようだった。

 

「アタック失敗した直後にすぐ他の女に乗り換えるのは体面が悪いし、気持ち的にもまだ割り切れてないって感じか」

「うっ……」

 

 見事に図星を当てられ、ぐうの音も出なくなる。そんな僕を見て、ザビニはジト目になった。

 

「あのなドラコ、お前マジメか。一途か。ハッフルパフか。それとも潔癖か。グリフィンドールか」

 

 スリザリンらしさを思い出せよ、とザビニに言われてたじろぐ。

 

 今まで周りから“典型的なスリザリン生”だと言われ続け、自分自身それを誇っていただけに少なくない衝撃を受ける。狡猾さや現実主義といった所謂“スリザリンらしさ”を基準に考えれば、今の僕はまったくもって()()()()()

 

 

 けれど――。

 

 

「なぁ……スリザリンらしさって、何なんだろうな……」

「どうした急に」

 

 スリザリン生ならスリザリン生らしく――初めて、そう振舞うことが難しいと感じる。

 

 思い悩む僕に、ザビニは肩をすくめて。

 

「あのな、パンジーもお前も意識し過ぎだから言っておくけど、一応ただのダンスのパートナーだからな?別にイレイナとディゴリーが付き合ったわけでもないし、お前とパンジーがダンス踊ったからって絶対に付き合わなきゃいけないって事もない」

 

 気楽にいけよ、と肩を叩かれる。

 

「……けど、先のことなんて何がどうなるか分からないだろ」

 

 つい弱音を零すと、ザビニは肩をすくめた。

 

「だとしても、だ。もし付き合う流れになったとして、学生カップルなんて半年もすれば半分は別れるぞ? それ以上続くケースもあるけど、どっちみち大部分は結婚とかまでいかねーよ」

「でも、もし別れて気まずくなったら……とか」

「浮気とかならともかく、性格の不一致とかマンネリで自然消滅とかなら、しばらくすりゃ元に戻るって」

 

 そればかりは僕も経験が無いので何とも言えず、黙り込んでジッとザビニを見つめる。

 

「なんだよ、その‟ホンマかいな?”みたいな疑いの目は?」

「いやだって君が言うと胡散臭いし……」

「イケメン、嘘つかない」

「自分でイケメンって言うな」

 

 いつもの掛け合いをしつつも、このモテるルームメイトが急に遠い存在に見えてきた。きっとザビニにとっては、付き合うのも別れるのも日常の一部でしかないのだろう。

 

 けれど、僕にとっては初めてのことで、どうにも落ち着かない。

 

 

「それにさ」

 

 ザビニが「こいつホント面倒くせぇ……」みたいな顔で身を乗り出してくる。

 

「マイナス面を心配するなとは言わないが、プラス面も考えたら?」

「というと?」

「今は意識してなくても、相手の事をこれから好きになるかもしれないって可能性」

 

 頭の中に、イレイナとパンジーの顔が交互に浮かぶ。

 

 自分が片思いしている女の子と、自分に片思いしている女の子。

 イレイナがこれから自分に惚れる可能性と、これから自分がパンジーに惚れてしまう可能性。

 

「……それは、考えてなかったかも」

 

 正直、前者に気を取られ過ぎていた。そのくせ、いざ意識すると迷ってしまう自分もいることに驚く。

 

 

「――というか、逆に聞きたいんだが」  

 

 ずっと黙って横で聞いていたノットが、横から口を挟んだ。

 

「一週間も余裕ぶっこいてていいのか? パンジーを狙ってる男も割と多いし、呑気に悩んでたら愛想を尽かされて他の男に取られかねないと思うが」

「うっ」

「結論の先送りと様子見は、混同しない方がいいぞ」

「……わかってるよ」

 

 そもそもイレイナとディゴリーはとっくにパートナーを組んでいて、少なくともクリスマスまでは僕が割って入れる余地はない。

 

 結局のところ、最初から答えは出ているのだ。

 

 ただ、気持ちを切り替えるのにも時間と気力がいる。けれども、ノットの言う通り、周りが僕の都合に合わせて待ってくれるとは限らない。

 

「まっ、俺らに言える事はここまでだ。とりあえずアドバイスはしたから、後はそれを使うも使わないもお前次第だ」

「色々と言ってくれた割には、最後ぜんぶ丸投げられたような……?」

「そりゃあ、お前の人生を決めるのはお前自身しかいないからな。責任とか取れねーし」

 

 ニヤッと笑って小突いてくるザビニは、時として聞いてるこっちが恥ずかしくなるような台詞も平気で吐いてくる。

 

「頑張れよ、ドラコ。話ぐらいなら、いつでも聞いてやるからさ」

 

 そのくせ妙にキマってしまうのは、きっと自分に自信があって堂々としているからなのだろう。

 

「……わかった。ありがとう」

 

 

 

 ***

 

 

 

 気づけば、既に時計は夜遅くの時間帯を指していた。

 

 結局パンジーの件は自分で結論を出すしかないとはいえ、2人に話したことで少しだけ気が楽になる。と同時に、僕だけ恋愛事情がバレてしまったことが気恥ずかしくもなって。

 

「そういうザビニは、誰か誘ったのか?」

「フラー・デラクール」

 

 あっさりと返ってきた答えに、ノットが反応する。

 

「結果は?」

「軽い男は無理だってさ」

 

 あっけらかんと答えるザビニ。

 

「珍しいな、お前モテそうなのに」

「モテるからって、気になった女の子ぜんぶ落とせてるわけじゃねぇよ」

 

 どうやらデラクールに断られたことは、ザビニの苦い思い出を増やすことになったようだ。基本的に飄々としているザビニが、こういう反応をするのは珍しい。

 

「君にも、本気になった相手がいたのか?」

 

 不意に気になって聞いてみると、ザビニは少し気まずそうな顔になった。

 

「……そりゃあ、昔はな」

 

 微妙に間が空いた後、ぼそっと呟かれる。

 

「今は女泣かせのチャラ男でも、背伸びしてただけのクソガキだった時代はあるもんだ」

 

 バツが悪そうに薄く笑うザビニの目は、どこか遠くを見ているようで。

 

「……まっ、もう過ぎた話だけど」

 

 不自然に会話を終わらせようとするザビニ。切って捨てるような声には、色々な感情が渦巻いているように見えたけど、そこに踏み込むのは躊躇われた。

 

 

「つっても他にアテはあるし。オレの事より、ノットはどうなん?」

 

 話題を変えるようにザビニが話を振ると、セオドール・ノットは「まだだ」と短く返した。

 

「気になる相手とかいねーの?」

「4人ぐらいいるけど、既に1人は撃沈した」

「お前、根暗なくせに割と節操無いのな……」

 

 ムッツリしてるだけで、ノットも中々に欲望には忠実のようだった。

 

「ちなみに誰?」

「アリシア・スピネット」

「いきなりグリフィンドールの年上とか攻めてんな。ノットのタイプっぽいけどさ」

 

 たしかに美人ではある。金髪ミディアムショートの爽やかなモデル系で、いかにもスポーツ系クラブの副キャプテンとかやってそうなタイプ。

 

「なんでダメだったんだ?」

「新しく彼氏できたらしい」

「あーはいはい、またそのパターンね」

 

 ちなみにノットは去年まで卒業したジェマ・ファーレイ先輩に熱を上げていたので、顛末まで含めて何というか分かりやすい男である。

 

「しっかし、ノットも懲りないよなー。もう何度目だよ」

「いや流石に動揺はしている」

 

 呆れ顔のザビニに対し、相変わらず内心の読めない表情で応えるノット。

 

「なんか新しい性癖に目覚めそうだ」

「お前マジでホント……」

 

 人生を楽しむ達人というのは、こういう奴のためにある言葉だと思う。ノットがたまに見せる謎のポジティブさは、実のところ割と本気で尊敬している。全く憧れはしないけど。

 

 

 

「……もういいや。じゃあ次は?」

「ハッフルパフのミーガン・ジョーンズ」

 

 たしか、穢れた血と半純血のクォーターだったような。一応は半純血に分類されるけど、かなり際どい。

 

「いいのか? 君も純血名家だろ」

「もちろん悩みはしたが、最後には理性に打ち勝った」

 

 それは本能に負けたと言う。

 

 

 

「それからレイブンクローのスー・リー」

「アイツだけはマジで止めとけ」

 

 これまでと打って変わって、ガチトーンで止めにかかるザビニ。

 

「君、たしか去年に付き合ってたんだっけ?」

「3ヵ月ぐらいな」

「何かあったのか?」

「それがさ……誕生日プレゼントに何が欲しいか、聞いてみたんだよ。そしたら、照れくさそうに顔を赤らめて」

「うん」

「“子供……♡”って」

 

 なにそれ怖い。

 

 

 

「最後は同じくレイブンクローのシャーリー・フォーセット先輩。こっちは最近フリーになったと聞いた」

 

 記憶にある限りはおっとりしたお嬢様風の先輩だが、ウィーズリー双子と同じように「老け薬」で年齢線を突破しようとして失敗していて、意外とアクティブな面もあるらしい。

 

「なんか接点あったっけ?」

「たまたま先輩がバイトしてるカフェに寄ったら、たくさん話しかけられた」

「ローザ・リー・ティーバッグって店だっけ?」

「ああ。コーヒーの種類とか珍しい茶葉の特徴だとか、すごい丁寧に教えてくれた。きっと俺に気がある」

 

「「………」」

 

 ただの親切な店員さんなんだよなぁ……。

 

 勘違いを伝えるべきかザビニとアイコンタクトをとると、向こうは目を閉じて首を左右に振った。これも経験だと思って玉砕させろという事らしい。

 

 

「けど、寮が違うと接点も少ないだろ。どうやって距離を詰めるつもりだ?」

 

 これがグリフィンドールの連中なら、いきなり相手の事情もお構いなしに「僕とダンスパーティーどう?」とか言いかねないが、さすがのノットもそこまで無謀じゃないだろう。

 

 

「まずは手紙を送る」

 

 あ、意外と古風。

 

「マジか、ノットがラブレター……」

 

 ザビニの口元が笑いを堪えるように震える。

 

「あれか? お洒落な可愛い封筒に色ペンで、イラストとか書いちゃう系?」

「小包に入れてフクロウ便だが」

 

「「バカかっ!?」」

 

 やはり心配になって配送予定の手紙を確認すると、案の定そこに書かれていた文面もまた酷いものだった。

 

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件名 【12月24日ダンスパーティーにおけるパートナーのご依頼】

-------------------------------------------------------------

ハッフルパフ寮 

ミーガン・ジョーンズ様

 

 はじめまして。突然のご連絡で大変失礼いたします。

 スリザリン寮4年のセオドール・ノットと申します。

 

 この度は、クリスマス・ダンスパーティーの件で、ご連絡を差し上げました。

 現在、私はパートナーとなる相手を探しており、貴女に大変興味をもっています。

 そこで、ぜひ一度お会いしてお話を伺えませんでしょうか。

 

 お忙しいところ誠に勝手な申し出で恐縮ですが、フクロウ便にてお返事をいただければ幸いです。

 ご検討の程、何卒よろしくお願い申し上げます。

 

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 ロマンティックの欠片もない懇切丁寧な文面に、ザビニと一緒に頭を抱えた。

 

「嘘ぉ……こんなんスリザリン男子の恥さらしやん」

 

 ザビニに入ってもいないアイルランド人の血がツッコミを入れる。

 

「丁寧かつ簡潔に伝えたはずだが」

「お前これ受け取って、ときめく女子がいると思ってんの?」

 

 ノットは虚無顔のまま「そうか」と答えたが、本当の意味でダメ出しされた理由を理解しているのかは怪しいところだ。

 

「どうして……どうして君は恋愛沙汰になると、知能指数が一気に100ぐらい低下するんだ」

「むしろ今までよくイレイナの次の成績キープできてたな」

 

 ノットは不満そうに眉をひそめた。

 

「ホグワーツの授業は……女子ウケのいいプレゼントとか教えてくれない」

 

 教育制度の深刻な欠陥に気づいてしまったらしい。

 

 

「……というか今さらなんだが、どうして4人とも他の寮なんだ? 誰でもいいならスリザリンの女子に頼んだ方が楽だと思うんだが」

 

 本気で好きならともかく、どう聞いても顔とスタイルと勘違いで選んでるんだろうし。だったら純血名家の威光が通用する、スリザリン寮内部で探した方がずっと楽なはず……。

 

 

「それは嫌だ」

 

 

 予想外に強い拒絶の言葉。ザビニも驚いて目を見開いた。

 

「なんで? せっかくノット家の看板があるんなら、持てる武器は使っとけよ」

「嫌だ」

 

 珍しく頑なに拒絶するノット。

 

「実家には頼らないことにした」

「だからなんで?」

 

 ノットは少し黙ってから、口を開いた。

 

 

「なぜなら俺は今、反抗期だからだ」

 

 

 反抗期。

 

 ノットが反抗期……。

 

 

「えぇ……」

 

 そんな理由で?とジト目になるが、真顔を保ち続けるノットはどうも本気らしい。

 

「たしかに君の父上が厳格なことは知っているが……」

 

 純血名家は生まれながらの貴族でもあるため、そこら辺の魔法族と違って幼い頃から英才教育を受けるのが当たり前だ。

 

 名家の中でもノット家はかなり教育熱心な方で、授業に加えて土日は通信教育、夏休みとクリスマス休暇も個別指導塾の夏期・冬期講習に追われているらしい。

 

 

「喧嘩でもしたのか?」

 

 そう聞くと、ノットは頷いて。

 

「ダンスパーティーで女子と踊りたいから、今年のクリスマスはホグワーツに残りたいと親父に言った」

 

 だが、ノットの父はそれを一蹴したらしい。

 

 

 ――そんな馬鹿げた行事にうつつを抜かす暇があったら、将来のためにもっと勉強をしろ。

 

 ――私は常に学年1位の成績だったというのに、穢れた血に負けてお前は恥ずかしくないのか。

 

 ――お前は名門ノット家の嫡男なのだ。くだらんパーティーで浮かれるような、おめでたい連中とは違う。

 

 ――浮ついたダンスに夢中で参加するような軽薄な女なんぞ、お前に悪影響を与えるだけだ。

 

 

 ザビニと見合わせて「うへぇ」という顔になる。

 

 魔道具の製造というモノづくりを手掛けるノット家は、純血名家の中では質実剛健な家風で知られる。出自やコネよりも自らの実力で評判と尊敬を勝ち取ることを良しとし、生まれた時から名実兼ね備えたエリートになるべく厳しい英才教育を施されるのだ。

 

 その甲斐あってノットも学年3位の座を維持するぐらいには優秀なのだが、いかんせんグレンジャーとイレイナが優秀過ぎた。

 

「俺も手を抜いたつもりはないし、努力しているとは伝えた」

 

 しかし、ノットの父親は聞く耳を持たなかったという。

 

 

 ――お前は私の息子なのだから、本気で努力すれば学年1位を取れるはずだ。

 

 ――取れていないなら、それは手を抜いている証拠だ。言い訳は聞きたくない。

 

 ――結果を出せ。出せなければ親の言うことを聞け。私はお前の為に言っている。

 

 

「うわぁ……」

 

 さすがに引いた。僕の父上も厳しいところはあるが、その比ではない。

 

 

 

「マジくっっっそ頭に来た」

 

 

 

 口調がブレるぐらい、ノットも本気で頭に来たらしい。

 

「それで俺は言ってやったんだ―――親父こそ、遊びもしないで勉強だけしてたから友達も彼女も出来ないまま、ワーカホリックの死喰い人になって婚期逃したんだろって」

 

 積もりに積もった深い恨みを込めて、さらにノットはこう続けたという。

 

「なのに“俺は冷静で合理的で周りに流されない一匹狼……”みたいなハードボイルド気取って、闇の魔術だとか純血思想だとかにのめり込むから、余計に人が離れていったんじゃないのか」

 

 一言一言の殺意が高くて、もう親子喧嘩の現場を想像するだけで恐ろしい。

 

「最終的に母方の祖父母が金欠の縁戚に泣いて頭下げてお金積んで、妥協に妥協を重ねたお見合い婚する羽目になった親父のようになるとか、俺は嫌だ――そう言った」

 

 ひゅう、と隙間風が吹き抜けていったような気がした。

 

「最後に見たのは、両面鏡越しにボンバーダを唱える親父のキレ顔だった。以後、連絡はとっていない」

 

「………」

「………」

 

 

「というわけで実家の威光には頼らず、俺は自分で女子を誘ってダンスパーティーをめちゃくちゃ楽しみたい」

 

 

 一瞬の沈黙の後。

 

 

「お前、やる時はやる男なのな! なんか見直したわ!」

 

 ザビニが嬉しそうにノットの背中をバシバシと叩く。

 

「まー、いいんじゃねーの? 反抗期と言えばファーレイ先輩は夏休み中ずっと家出してたっぽいし、フリント先輩も喧嘩して家半壊させたことあるっぽいし」

 

 僕も元気づけるように言う。

 

「君の家ほどじゃないけど、同じ純血名家だから気持ちは分かるよ」

 

 実際、純血も家柄も誇りに思ってるけど、やっぱり重く感じる時はあるし、たまには投げ捨てたくなることだってある。グレンジャーに勝てないことで親に嫌味を言われて、イラっと来る気持ちには共感しかない。

 

「応援するし、僕も出来る限り協力する」

 

 気づけば、そんな言葉が口を突いて出てきた。

 

「助かる」 

 

 素直に感謝するノットは相変わらず素っ気なく、感情表現も下手だ。けれど不器用なりにやりたい事を見つけて、もがき始めた幼馴染にはいつか報われて欲しい。

 

 思えば、僕が自分の悩みをザビニたちに話したのも、逆にザビニやノットがあまり大っぴらにはしないプライベートな部分に踏み込んだのも、初めてだ。それは不思議と、不快な気分ではなかった。

 





 スリザリン男子トーク会。

 原作にはあんまり描写ないけど、純血名家ってたぶん教育厳しい。イギリス貴族ってそんなイメージがあります。

 イレイナにフラれたドラコですが、それをキッカケに男友達とは仲良くなれたという……人生、何がどう転ぶか分からない。
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