ナイスNTRネイチャ   作:ルイ提督

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勧誘

 

 

 

 

「おう、お前ら跪け。ここにおわすナイスネイチャ様は前年クラシックでは不知火特別、はづき賞、小倉記念、京都新聞杯を4連勝! 菊花賞は惜しくも4着だったがその後の鳴尾記念で優勝。あの年末の大舞台でも並みいる強豪相手に3着へ入着! トーカイテイオーに並ぶとも言われる凄いウマ娘なんだぞ!」

 

「お~」

 

「ですです」

 

「っす……」

 

「あははー……どーもナイスネイチャでーす」

 

 

 目をキラキラと輝かして私を見るウマ娘、ステイゴールドを前にして私は顔から火が噴き出るほど恥ずかしかった。小さい頃から勝負ごとには勝てず、徒競走だろうが学業だろうが3位ばっか取って来た私は自虐癖がつくようになってしまった。

 そんな私を、あの手この手で鼓舞してくれたトレーナーのおかげで、私は”夏の上りウマ娘”として、今ではそこそこの期待を寄せられるようになっていた。

 だが、ここまで面と向かってファンを名乗られるとやはり恥ずかしいものは恥ずかしい。これに関しては、商店街のみんなと接する時にも感じていた事だ。

 

「ネイチャ様、こいつらは……もう登場予定のないモブだから紹介は省くぜ!」

 

「いきなり意味不明の事は言わないでください姉御! という事で改めましてコスモバルクです! 特技は斜行ですぜ!」

 

「私はエイシンヒカリですネイチャ様。特技は斜行です」

 

「あーしはメイケイエールって言うんだ。よろ~! あっ、特技は斜行だよ!」

 

「ええっ……」

 

 どうしようもない特技を言い放った三人に引きつつ、私は彼女達の圧に飲まれかける。彼女達からはキラキラとした何かが感じ取れる。小さい頃から私は所謂”主人公”を見抜く目を持っていた。

 この三人が持っているキラキラとした輝きには目を見張るものがあった。だが、このチームのヘッドであるステイゴールドからはそういうキラキラはあまり感じられない。むしろ、彼女からは不思議な親近感を覚えた。

 

「つーかさ、アンタとあたしってそれほど年に違いはないんだし、ネイチャさんって気軽に呼んでよ。流石に、様付けはその……恥ずかしいかな」

 

「おうおう、流石ネイチャさんは謙虚だな! それじゃあオレの事は気軽にステゴって呼んでくれや! まったく、こういう謙虚な姿勢はあのトウカイテイオーも見習えってんだ!」

 

「まーたテイオーの愚痴ですか姉御……」

 

「うっせえ! それより……すまなかったネイチャさん……いや姉貴! 彼氏さんとのデートを邪魔しちゃったみたいだな。オレも少しイライラしてたもんで……」

 

「だから彼氏じゃないし! というか……トレーナーさん!?」

 

 今の今まで忘れていたが、そういえばトレーナーはステイゴールドことウマ娘に蹴り飛ばされたのだ。最悪、命に関わる一大事だ。だが、先ほどまで倒れていた場所に彼の姿はない。その代わり、両手にソフトクリームを持って物凄い笑顔でドライブインからかけてきた。

 

「なあ君達、ソフトクリームはいるか? せっかくのネイチャのファンなんだ。お兄さんからの奢りだ」

 

「おう、わりいな! ライダーは降り立った地でアイスを食うっていう鉄の掟があるからな」

 

「何その掟!?」

 

 私のツッコミがむなしく響き渡る。そういえば、トレーナーさんも似たような事を言っていた。そして、一心不乱にソフトクリームを舐め始めた不良達を横目に、私は相変わらず笑顔なトレーナーの身を案じた。

 

「トレーナーさん、怪我はない?」

 

「まあな、トレーナーがこの程度でくじけるわきゃいかないから。それよりネイチャ。ちょっと大事な話があるんだ」

 

「大事な話……?」

 

「ああ、俺の愛するネイチャにとっても大事な話だ」

 

「んにゃっ!? だからそういう事は気軽に言わないの!」

 

 火照る顔面をよそに、彼はその真剣な表情で私に顔を近づけていく。そして、まさかアレをしちゃうんじゃないかと身構えていた私に、彼は小声で呟いた。

 

 

 

「ごめんなネイチャ。俺、浮気するわ」

 

「はい?」

 

 

 

 私の理解不能という返事をよそに彼は必死にアイスをぺろぺろしているステゴに近づいていった。

 

 

「なあ、君。俺のチームに入らないか?」

 

「ああっ? ヘッドのオレ様に別の暴走族の勧誘とはなかなかズブイ奴じゃねえか」

 

「そっちじゃない。俺はトレセン学園のトレーナーだ。見た所、おそらく君達もトレセン学園の生徒だろう? 競走バとして鍛えられたウマ娘だってのは見れば分かるさ」

 

 トレーナーの言葉を前にステイゴールドはソフトクリームをぱくりと一飲みにする。それから、薄い胸を踏ん反りかえしつつ、その特徴的とも言える三白眼を見開いて威嚇してきた。

 

 

「オレ様は世界最強のステイゴールド様だぞ! 誰かの下になんかつくわけねえだろ!」

 

 自信満々にそんな事を言うステイゴールドの姿はその小さな体躯も合わさって、私にとっても因縁の相手であるトーカイテイオーと姿が少し重なる。だが、悲しい事にステゴからはテイオーほどの輝きが感じられなかった。

 

「さっきの蹴りを喰らった俺なら分かる。君の小柄ながらも優れた体幹と、蹴りに込められたパワーは目を見張るものだ。おそらく、素晴らしい末脚の持ち主だ」

 

「うっ、うっせーな! 何を言われてもオレ様は揺らがねえ!」

 

「まあまあ、釣れない事言うなって。俺はまだ経験の浅い新人トレーナーだが、いずれはネイチャを世界最強にする男だ。君も、ネイチャと一緒に励まないか!」

 

「っ……!」

 

 押しの強いトレーナーにステイゴールドは怯んでしまった。そして、彼女の三白眼が揺らいだ所を見て、私は直感が正しかった事が分かった。彼女は私と同じ、”脇役”だ。どれだけ虚勢を張ってイキっても、彼女は主人公になれる逸材ではなかった。

 

「悪いなクソ雑魚トレーナー。オレは新バ戦で二連敗、未勝利戦も三連敗だ。アンタはネイチャさんに専念してくれや。オレ様も応援してるからよ」

 

「トレーナーはついていないのか? お前、社台家のお嬢様だろう?」

 

「チッ! 知ってやがったか……そうだよ、オレは一応は社台家の端くれだ。だけど、オレは実家には絶対頼らねえ! お前みたいなクソ雑魚にも頼ってなんかやるものか」

 

 三白眼を見開いてそう言い切ったステイゴールドに、今度はトレーナーが怯んだ。だが、彼も負けてはいなかった。私を勧誘した時のような、ナンパモードに入ったみたいだった。

 

「なるほど、実家に頼らないか。だから、バンディッド400に乗ってるのか。少し古いけど、良いバイクだ」

 

「うっ……なんだよ急に……」

 

「中古で買ったんだろう? 実家に頼んだら、もっと新しいのバイクを買ってもらえるはずなのに」

 

「はっ! オレはあいつが気に入ったから買っただけだ! 新しいも古いも関係ねえ!」

 

「必死にバイトしてお金を貯めたんだろう? バイク乗りが初めてのバイクを買う時、親の金を借りるなんてダサイ事出来ないからな」

 

 トレーナーの事を威嚇していたステゴは、少しだけ視線を落とす。そして、ほんのりと紅くなった頬を隠すようにそっぽを向いた。

 

「うっせよ……さっきから何なんだよお前は……」

 

「だから、トレーナーだ。もし、世界最強を目指すなら、後日俺の所に来てくれ。ほら、名刺だ」

 

「チッ……」

 

 トレーナーさんが渡した名刺を、彼女は意外にも素直に受け取っていた。そして、自信の黒髪をを苛立ったようにガシガシと掻いた後、彼女は私に一礼してから歩き出した。

 

「帰るぞお前ら。今日は少し峠を飛ばす気分じゃねえ」

 

「うーっす姉御~」

 

「まあアイスを食べるっていうノルマは達成しましたしね」

 

「あーしはまだ物足らないっすけど……しょうがないっすよね~」

 

 ぞろぞろと歩き出したステイゴールド達は、それぞれにいかついバイクへと跨り、下品なエンジン音を響かせ始める。だが、ステゴだけ何やら焦った表情を浮かべていた。そして、それを見たトレーナーがニヤリとした笑みを浮かべながら彼女へと近づいて行った。

 

「どうしたステイゴールド? 何かあったか?」

 

「いや、エンジンがかからなくてな……つーか気安く呼ぶんじゃえクソ雑魚トレーナー!」

 

「まあまあ、キルスイッチは確認したか?」

 

「キルスイッチ……? ああ……本当だ……オレとした事がこんな初歩的なミスを……」

 

 今度こそエンジンを点火してバイクをふかし始めたステゴを、トレーナーは優しく見守っていた。だが、彼は何かに気づいたように彼女のバイクの下を確認し始めた。

 

「クソ雑魚トレーナー、あんま近いとこにいるとひき殺すぞ」

 

「まてまて、お前のバイク関する大事な話だ。どうやらエンジンオイルが垂れてるみたいだな。下に染みが出来てるぞ」

 

「えっ……それは……それはなんかマズイ事なのか……?」

 

「俺も断定は出来ないが、こいつはオイルパンの交換が必要かもな。低く見積もっても修理には5万はかかるかもな……」

 

「五万……!? そんな金がかかるものなのか!?」

 

「多分だがな。後、少量のオイル漏れだからしばらくは乗れるだろうが、放置するとエンジンがオーバーヒートして最悪の場合バイク自体がダメになるぞ」

 

 トレーナーさんの脅迫するような声にステゴは怯みつつ、バイクを降りて駐車場に出来たオイル染みを確認する。そして、少しだけ涙目になりながら、彼女はバイクをいたわるように撫でていた。そんな彼女に、トレーナーはそっと囁いていた。

 

 

 

「レースに勝てば儲かるぞ。少なくとも、そいつを直すくらいは簡単に稼げるぞ~?」

 

 

 

 悪魔の囁きを行ったトレーナーから、ステゴは顔を逸らす。そして、逃げるようにバイクに跨ってエンジンをふかし始めた。

 

「うっせえバカ! 誰がお前みたいなクソ雑魚の下につくか!」

 

 そうして、爆音を奏でながら去っていった四人を私は仏頂面で見送る。トレーナーはと言うと、懐から取り出したレンチをくるくるくと手で弄びながら、ニヤニヤとした気持ち悪い笑顔を浮かべていた。

 

 

「トレーナー、あの子のバイクに何かしたの?」

 

「いやいや、してないしてない。それより、放置して悪かったなネイチャ。デートの続きしようぜ!」

 

「だからデートじゃないですし!? そういういい加減な態度はネイチャさん的には減点だから!」

 

「へいへい、可愛い可愛い!」

 

「トレーナーさんってば本当に……!」

 

 相変わらず軽い調子のトレーナーにイライラしながらも、不思議と私の胸の中は何とも言えない暖かさに包まれた。一方で、少しだけ背に薄ら寒い物を感じた。それは、彼がステイゴールドを口説いていた時にも感じた不思議な感覚だった。だからであろうか、気が付けば私は彼の腕をぎゅっと抱き寄せていた。

 

「夕御飯、トレーナーさんの奢りだから」

 

「当然だろ。そうだな、箱根の温泉街にでも出向くか!」

 

「んにゃっ!? チケットも当ててないのに温泉……!?」

 

「急にどうした!? チケットって何の話だよ!?」

 

「な、なんでもないからっ!」

 

彼に腕を強引に取りつつ、私はチクリと痛む胸にわけもわからず顔を少しだけしかめた。そうしてお互いにヘルメットをつけて同じバイクへ乗り込む。そうして、ゆっくりと走り出す。レースの時と同じような肌を風で撫でる感覚はやはり心地良かった。

 

『社台家のウマ娘がここらで燻ってるって情報は確かだったみたいだな。後は網にかかるかだが……』

 

おそらく独り言だったのであろう。インカム越しに彼の下卑た声が小さく聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ステゴの姿は一期のキンイロリョテイさんを
四分の三くらいに縮めた姿を想像してください

ちょこっと元ネタ解説

コスモバルク
シンガポールに遠征してG1勝利した名馬。
それはそれとして斜行はする。

エイシンヒカリ
フランスと香港に遠征してG1勝利した名馬。
それはそれとして斜行する。

メイケイエール
期待の新人。すでに重賞を三勝したが直近の桜花賞で……
ソダシと一緒に歴史に名を残しそうな名馬。
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