ナイスNTRネイチャ   作:ルイ提督

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テイオーの相談

 

 

 

 

 

 

「んっ……」

 

 ぼやける視界が少しずつ鮮明になっていく。重たい頭を揺り起こし、ベッド近くの目覚まし時計を確認する。時刻は10時。休日とはいえ少し遅い起床であった。

 

「ありゃ、マーベラス時計は……んー不発かー」

 

 今は主のいないベッドを横目に私はあくびをしながら独り言ちる。同室であるマーベラスサンデーの姿はすでにない。そういえば、昨夜は外へ出かける予定だと言っていた。しばらく何もすることもなくぼーっとしていたが、せっかくの休日を無駄にしまいと私はのっそりと起き上がる。

 

「何しようかな……」

 

 ここ最近は怪我のせいでトレーニングを止められていたため、時間は割と有り余っていた。おかげで、遊ぶ時間も以前と比較すると増えてきている。だからと言って、日々練習に励んでいる友人を遊びに誘えるほど私は振り切れていなかった。もちろん、誘われれば付き合うが、私から”サボリ”のお誘いが出来るほどの勇気はなかった。

 

 

 

「トレーナー……暇かな……」

 

 

 私の休日はトレーナーも基本的には休日である。だからであろうか、私は自然と休日も彼と顔を合わせる事が多かった。別に、彼に会いたいという思いが限界突破してるとかではなく、純粋に彼の事が気がかりだったのだ。

 トレーナーとしての指導力と戦術眼はある程度信頼しているが、私に歯の浮くようなセリフを吐いたり、普段の言動がちゃらんぽらんな所は正直言ってあまり好きではない。

 でも、時折見せる優しさには少し動揺してしまうし、彼が本気で私を勝利を導こうと尽くしてくれていることはよく知っている。そんな彼はやっぱりというか私生活がダメダメだった。給与だって平均よりかは得ているはずなのにいつも金欠であるし、部屋の片付けも出来ず食事もカップラーメンやレトルト食品ばかり食べている。何と言うか、そんな彼の姿を見てると私は呆れる一方で……

 

 

「って、それじゃあアタシ、ダメ男にハマる典型的な女じゃないかい!」

 

 

 ビシっと一人ツッコミを入れてから私は大きくため息をつく。それから、スマホを取り出してトークアプリに『暇だから遊びに行っていい?』と打ち込んで彼に送信した。返事は待たず、私は身支度を整える事にする。面倒くさがりのトレーナーは既読スルーの常習犯であり、素早い返事は期待していなかった。

 

「い、いちおうお風呂入っとこうか……うん……別に深い意味はないけど」

 

 どうせなら、綺麗な状態で彼に会いたいというのはウマ娘だからというわけではなく、私が女である事のあかしとも思えた。

 

 

 ふと、そんな風に一人で舞い上がっていた時、私のウマ耳が扉からのノック音をとらえる。同室のマーベラスならノックはしない。つまりは来客の知らせであった。一体誰であろうか思いながらも、扉を気軽に開けた。そして、扉の前で待っていた少女を見て、私は思わずうげっとした表情をしてしまった。

 

 

「ねえねえ、ネイチャっていまヒマかな? ボク、ちょっと相談したいことがあるんだ」

 

 

 

 いつもの傲慢不遜な態度こそないが、彼女こそ私の苦手とする”主人公”トウカイテイオーであった。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「それで、あたしに相談ってなに? 言っておくけど、レースに関しての相談なら御門違いだからね?」

 

「…………」

 

「あのー黙ってたら相談もなにもないじゃん……まったく……」

 

 ウマ耳を少し伏せながら押し黙るテイオーに私は肩をすくめる。それから、安心させるように彼女の横へと腰かける。テイオーはそんな私を伏し目がちにちらっと見てきた。

 

「はあ……どしたのテイオー……なんだか知らないけど、このネイチャさんに言ってみ? 言葉として吐けばすっきりする事もあるからさ」

 

「うん、いきなり押しかけてごめんねネイチャ……」

 

「いいっていいって、若いもんのためにはネイチャさんも一肌脱ぐから」

 

「ふふっ、ボクと同い年のはずなのにネイチャったらおかしいんだ」

 

 くすくすと笑うテイオーにいつもの調子が戻る。それから、彼女は少し逡巡した後、ゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

「ボクね、最近少し身体がおかしいんだ」

 

 

 

 そう呟いたテイオーに私が真っ先に危惧したのは怪我の事だと思った。テイオーの足の調子があまりよくない事は大々的な報道もあって世間でも知られる事である。だが、彼女の表情を見てそれは違うと悟る。テイオーが浮かべた表情をどう表現すべきかは分からない。ただ、一言で言ってしまえば、彼女は”女の顔”をしていた。

 

「ボクってさ、無敗で三冠を取ったんだよね。ネイチャも知ってるでしょ?」

 

「いやいや、いきなり嫌味ですかいテイオーさん……」

 

「ふふーん! 嫌味に聞こえちゃった? ごめんねネイチャ! でもね大事なのはそこじゃないんだ。ボクがクラシックで三冠を取って、カイチョーもいっぱい褒めてくれたし、トレーナーもいっぱい撫でてくれたんだ。だからね、とっても嬉しかったんだけど……その時から少し身体がおかしいんだ……」

 

 そう呟くテイオーは足をブラブラと揺らしている。私はやはり足のケガかと思ったが、そうではないらしい。テーピングも怪我の処置もその両足にはされていなかった。

 

「ボクの足は日本ダービーが終わった後、あまり調子が良くなかったんだ。だけど、トレーナーがそんなボクのために色んな事を……本当に尽くしてくれたんだ。おかげで無事菊花賞に出走出来て無敵のテイオー様になれたんだけど……最近、トレーナーを見てるとなんだか身体がポカポカしてトレーニングに身が入らないんだよね」

 

「テイオー?」

 

「それだけなら、ボクにとっては軽いハンデみたいなものなんだけどさ。今はトレーニング以外の時もトレーナーの事が頭から離れないんだ。だからいつも胸が苦しくて、以前はカイチョーと会いたいって時もこんな事があったんだけど、それとは少し違うんだよね」

 

 ため息を吐きながらそんな事を言うテイオーに私は絶句する。正直言って彼女に悪戯でもされてるのかと思うほど、彼女の話は単なる惚気話であった。だが、彼女自身、その思いに気づいていないのは本当なようだ。前々から子供っぽいとは思っていたが、彼女の思考はやはりお子様であった。

 

「最近、ぼーっとする事が多いんだよね。そんな時はやっぱりトレーナーの事を考える時なんだ。だからボク、トレーナーに会いたくて会いたくて仕方なくていっぱい撫でて貰いたいから彼についつい抱き着いちゃうんだけど……」

 

「ちょい待ちテイオー! ストップ!」

 

「どうしたのネイチャ?」

 

「話が脱線してるからね……それで……結局相談ってなんなのさ? トレーナーさんが気になっちゃうってこと?」

 

 止まらないテイオーを静止した私は思わず自分のおさげを触りながら気を落ち着かせる。正直言ってしまえば、これはいわゆる”恋バナ”だ。何故そんな話をテイオーが私に……と思っていたら彼女は懐から一冊の雑誌を取り出した。

 月刊トゥインクルと銘打たれた雑誌をテイオーは中ほどまで開き、私に見せてくる。そこに小さく掲載されていたコラムを見て私は思わず色々なものを吹きそうになった。

 

 

「な、なによこれ!」

 

「え? どったのネイチャ? ボクをこれを見て羨ましいなって思って……だから相談はネイチャにって……」

 

「あーもう……うにゃーっ!」

 

「ネイチャ!?」

 

 私は思わず両手で自分の髪を掻きむしる。テイオーが驚いた表情を浮かべているが、今はそれどころではない。恥ずかしさで死にそうだった。それもそのはず、小さなコラムとは言え、恥ずかしさで憤死しそうな内容が雑誌に掲載されていたのだ。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

期待のウマ娘”ナイスネイチャ”とトレーナーの微笑ましい関係

好成績の背景には手作りのトロフィー……?

ナイスネイチャをよく知る友人Ⅿ氏を直撃!

商店街は見た! 彼女とトレーナーのお散歩デート!?

 

 

記者:それではⅯさん。この噂は真実なのでしょうか?

 

Ⅿ氏:マーベラス! 真実も何もウマ娘の間では有名な話だよねー! しかも毎晩クローゼットの……

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「うにゃーっ!!」

 

「ひゃああっ!? 急に何するのさ!? ボク、まだ全部読んでないのに!」

 

 

 思わず雑誌をバラバラに引き裂いてしまった。恥ずかしさで頭を抱えながら私は行き場のない思いを地団太を踏むことで解消する。そういえば、最近、私の事を遠巻きにひそひそと話す同期たちがいた。その好奇な視線は怪我によるものかと思っていたが、今更ながら理解する。彼女達は”これ”を見たのだろう。

 

 

「なんで、なんでこの話が表に……マーベラス……ユルサナイ……!」

 

「まあまあ、落ち着いてネイチャ。それよりさ、やっぱりこの話は本当だったんだ。それなら……クローゼットはここかなー?」」

 

「えっ、ちょい待ちテイオー! そこは……!」

 

 テイオーの手によってずばんと開け放たれるクローゼット。そこには、クッキー缶に並べて入れてある”へろへろトロフィー”の姿があった。私のトレーナーが私のためだけに稚拙ながらも頑張って作ってくれた稚拙なトロフィー……私の大切な宝物だった。

 

「へえ~これが……噂は本当だったんだね」

 

 恥ずかしさで死にそうになりながらも、私は無造作にトロフィーへと延びるテイオーの腕を見て反射的に体が動く。気が付けば、私は彼女の手を捻り上げていた。

 

「いたたたっ!? なにするのさネイチャ!」

 

「えっ……いやっ……あー……こんなんでもアタシの……」

 

「うんうん、宝物だもんね。ごめんねネイチャ」

 

「うっ……うーっ!」

 

 最早、言葉にならない何かを私は唸るしかない。テイオーは、そんな私をけらけらと笑いながら見た後、まっすぐとこちらを見つめてくる。私はそんな彼女の視線から逃れたかったが、目を離す事が出来なかった。

 

「やっぱり、ネイチャに相談して正解だったよ。ボク達の間で一番トレーナーと仲が良いのはネイチャだもんね」

 

「ううっ……」

 

「だからこそ、聞きたいんだ。ボクがトレーナーと一緒にいる時、胸がどきどきして、お腹の中が熱くなるのは何が原因なのかな?」

 

「…………」

 

 こいつはわざとやっているのかと疑いたくなるが、彼女のキラキラとした何かを灯した瞳はそれが冗談ではない事を伝えてくる。だからこそ、私も真正面から答える。そうしなければ、テイオーが引くとは思えなかったからだ。

 

 

「テイオー……アンタは多分……」

 

「うん」

 

「トレーナーに恋してるんじゃない?」

 

 

 言った。言ってやった。言った方としても恥ずかしすぎるセリフだ。そして、当のテイオーはと言うとキラキラとした眩しいまでの笑顔を浮かべていた。

 

 

 

「そっか、そうなんだ……ボク、トレーナーに恋してるんだ!」

 

 

 

 満面の笑みで輝くテイオーに私は思わずパチパチと小さな拍手を送ってしまった。一方で、私の脳内も重大な混乱状態へと移行していた。トレーナーとの恋愛。それはウマ娘としての王道でもある。もしかしたら私も……

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえねえ、ネイチャはウマ娘の間で伝わる怪談話”行方不明のウマ娘”って知ってる?」

 

「おおう、急に何さテイオー。なんで話が恋バナから怪談話に転換するわけ……というかそれって……」

 

 

 

 『行方不明のウマ娘』

 

 

 それはウマ娘達の間で伝わる怪談話の一つであり、一種のタブーとされる話であった。内容は単純な物だ。毎年何千人とトレセン学園へと集まるウマ娘だが、夢破れて消息を絶ってしまうもの多くいるという。急に行方を眩ますウマ娘の話は私達にとって”ありふれた話”であった。

 

 

「ボクね、そんな行方不明のウマ娘達の想いに気付いちゃったんだ!」

 

「いやいや、急に怖いんですけど……どういうこと?」

 

「ウマ娘なら知ってるでしょ? 行方不明のウマ娘って担当してたトレーナーも一緒に行方不明になる事も多いって」

 

 

 テイオーの言葉に私は口を閉ざす。夢破れたウマ娘の傍には同じく、夢破れたトレーナーがいる。彼らが揃って表舞台から姿を消すのはよくある話だ。そういう意味では、私もトレーナーも成功者であった。

 

「ボクも、”行方不明のウマ娘”にならないためにも、頑張らなくちゃ! 無敵のテイオー様は最強なんだ! それじゃあボク、トレーナーの所に行ってくるね!」

 

 そう言って、走り去ろうとするテイオーの腕を私は掴んでいた。何故かと言われたら、気になるからとしか言えない。話を投げっぱなしにされるのは嫌であった。

 

「なにさネイチャ」

 

「いやいや、変な所で切り上げないで教えてくれてもいいじゃん。結局、行方不明のウマ娘の想いってなんなの?」

 

「ええーわからないのー? ネイチャってばニブイなー! 話の流れが分かってたら理解出来るはずなのにー! まーしょうがない……ボクが真実を教えてあげる。えっとね、”行方不明のウマ娘”はね……きっと……」

 

 

 

 

そう言って、満面の笑みをを浮かべるテイオーの表情は笑っていなかった。

その矛盾する彼女の表情に私は何故か背筋がゾクリと冷たくなった。

 

 

 

「トレーナーを自分以外の誰にも渡したくなかったんだよね」

 

 

 

 そう言い放ったテイオーは気分よさげにはちみーの歌を口ずさみながら部屋を出て行った。私はしばらく放心する事しか出来なかった。そんな時、ベッド上に置かれたスマホが小さく振動する。画面にはメッセージアプリの通知が表示されていた。

 

 

 

「いつでも来い……か……」

 

 

 私は予定通り浴室へと向かう。きちんと入浴して身体を綺麗にしてからトレーナーさんに会いに行こう。

 

 

 

 

 

「はちみーはちみーはっちみー」

 

 

 

 

気が付けば、私はテイオーがたまに歌っている歌を口ずさんでいた。

 

 

 

 

 

 

 





ちょこっと元ネタ解説


トウカイテイオー

この世界ではクラシック三冠を取ったらしい。



テイオーのトレーナー
最近、担当しているトウカイテイオーとマヤノトップガンのスキンシップが激しい。
初めての担当ウマ娘であるサンエイサンキューにこの事を相談しているが……



行方不明の馬 
未勝利戦を脱出出来る馬は全体の3割程







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