ナイスNTRネイチャ   作:ルイ提督

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ステイゴールドの過去?

 

 

 

 

『逃げ切り! ダイタクヘリオスは堂々の逃げ切りです! 1分45秒6はサクラユタカオーのタイムを更新する日本レコードです!』

 

 

 

 東京レース場、芝1800mで行われるGⅡ毎日王冠。長い休養明けに出走したレースで私は1番人気に推されていた。

 

 

 

「うぇ~い! 勝利勝利~! やっぱウチの逃げが最強じゃん!」

 

 

 しかし、1位となって多くのカメラのフラッシュを浴びるのはちゃかちゃかとピースを決めるダイタクヘリオスだった。正直言って日本レコードを出す相手に追いすがるのは私では荷が重かった。なんでこんなキラキラした奴が相手なのかとため息を吐きたい気分だ。そんな私の肩にそっと手を乗せたのは栗毛をボブカットにしたウマ娘、イクノディクタスであった。

 

「ネイチャさん、ウイニングライブの練習をしましょう。今回は残念ながらセンターではありませんがね」

 

「あはは……そうだね。センターの引き立て役ぐらいはこなさいとね」

 

「無論、次は私が勝ちます。今回はヘリオスの取り巻きに徹するとしましょう」

 

「ういー……ヘリオスのテンションは結構疲れるんだよね。まあ勝負に負けたから仕方ないよね」

 

 

 ウマ娘にとって、レースだけでなくウイニングライブも大切だ。夜に開催されるウイニングライブに向けて、イクノや他のウマ娘と共に私は控室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「残念、またまた3着。まっ、こんなもんだよね」

 

「頑張った! お前は頑張ったぞネイチャ! という事で秋の天皇賞は1位になろうな!」

 

「気がはやいねトレーナーさん。でも、怪我は治ったし、今回でちゃんと走れることは分かったから。まあ、今後ともよろしくね」

 

「ああ、よろしくな。それと、今回の頑張ったで賞だ」

 

 翌日、私はトレーナー室で開かれたお疲れ様会に参加していた。トレーナーはいつものように笑顔で私を慰める。そして、いつものように彼が自作したトロフィーを渡してくる。今回のものは金色の折り紙で作られた王冠だった。その安っぽい作りに私は笑いをこらえるのが大変だった。そんな私達のやり取りをステイゴールドはどこか冷めた目で見ていた。

 

「姉貴、入着すること自体、レースにおいては凄い事なんだぞ。そんなもので誤魔化されてないでもっと金目の物を要求したらどうだ?」

 

「あはは……あたしはこれでいいの。むしろ、これがいい。これくらいの方があたしには似合ってるじゃん?」

 

「姉貴が良いっていうなら文句は言わないけどよ。そこのクソ雑魚トレーナーの魂胆は姉貴を鼓舞するのに一番やすあが……むぐっ!?」

 

 何かを言おうとしたステイゴールドの口をトレーナーが手で塞ぐ。彼女はギロリと彼を睨んだ後、私の方を見て目を細めた。そして、トレーナーの手を無理やり払った後、それっきり閉口してしまった。トレーナーはどこかほっとしたような表情を浮かべた後、ジュースが入ったグラスを高く上げた。

 

「ナイスネイチャ、ステイゴールド! とにかく俺はお前達に期待してる。だから今後の前祝いを含めて……かんぱーい!」

 

「はいはい、かんぱい!」

 

「チっ! 乾杯」

 

 飲み物とスーパーで売っていた惣菜を持ち込んだ小さなパーティの居心地は私にとっては非常に良いものであった。そして、寮の門限が近づき始めた頃、ステイゴールドは急に現れたサッカボーイ先輩に連れ去られた。先輩に対しては非常に大人しい態度を取るステイゴールドに私とトレーナーさんはくすくす笑ってしまった。

 

 

 

 

 そうして部屋に残ったのは彼と私だけだ。だからこそ、私は勇気を振り絞ってトレーナーに”あの事”を聞こうとした。

 

「ねえトレーナーさん、一つ聞いていい?」

 

「おう、どうした?」

 

「んーと、トレーナーさんが北海道に遠征に行ってる時なんだけど……え〜……ん〜……あ〜……」

 

「ネイチャ?」

 

 口に出してしまってから、これはマズいと悟る。聞きたいのは彼と多数のウマ娘とのツーショット写真の事についてだ。ただ彼の留守中にテイオーと家探しをした事は言いたくなかった。

 何より、私は写真について聞いてどうしたいのか自分自身でも分かっていなかった。彼の過去について、私が文句を言う資格はないし、あのウマ娘達と彼がどういう関係であろうと、今の彼が私のトレーナーとして頑張っている事には変わりない。ただ、言い知れぬ不安感が私の中で渦巻いているのは確かであった。

 

「どうしたネイチャ? 悩みがあるなら早めに言った方がいいぞ」

 

「あ~……うん。やっぱなんでもないから」

 

「なんでもないなんて事はないだろ。ほら、話してみ? 俺、ネイチャのトレーナー! オーケー?」

 

「うざっ」

 

「ひでえなおい! 俺はネイチャのためを思って……」

 

 思わず暴言が出た口を手で抑えつつ、彼の不安気な様子を見て自分自身に腹が立つ。勝手に彼の事を詮索し、自分勝手に落ち込んでいる私は傲慢という他ない。だから、私はあの写真については忘れる事にした。私は彼を信じる。それだけだ。

 

 

「ううっ……俺のネイチャが反抗期に……」

 

 

 ただ泣き真似をしながらこちらをチラチラ見るトレーナーには何か相談しないといけない雰囲気を出していた。そんな彼に苦笑を返しつつ、せっかくなのでもう一つの疑問をぶつける事にした。

 

「それじゃあトレーナーさん、一つ質問なんだけど……」

 

「おう、なんだ!?」

 

「どうしてステイゴールドをチームに入れたの?」

 

「えっ……」

 

「あっ、別に意地の悪い質問じゃないよ。前にさ、あの子が私の成長に繋がるとかなんとか言ってたじゃん。それがどういう意味か気になるんだよねー」

 

 少し肩をすくめ、軽く質問した私をトレーナーさんは神妙な表情で見つめてくる。それから、観念したようにため息をついてからトレーナー室に置かれているノートパソコンを開く。そして、一つの動画を流し始めた。動画はレース前のパドックインタビューのようだ。それも新バ戦らしく、どのウマ娘も緊張した初々しい様子であった。

 

「ねえトレーナーさん、これって……」

 

「おっ、次だ。まあ、見てみな」

 

 そう言って笑顔を浮かべる彼に合わせ私は動画を見る。映し出されたのはあのステイゴールドだった。勝ち気な表情は相変わらずだが特徴的な黒髪は今とは違い、サラリと長く伸ばし、いわゆる姫カットにしていた。また、周囲が体操服で新馬戦に挑む中、彼女だけ黄色と黒を基調とした勝負服に身を包んでいたりと、正直言って浮いていた。

 

『それではステイゴールドさん。レースに向けての意気込みをお願いします』

 

『愚問ですわね。もちろんわたくしが勝ちますわ。社台家のウマ娘がデビュー失敗なんてお話にもなりませんわ』

 

『凄い自信ですね……』

 

『おーほっほっほ! 当然ですわ! なぜなら、わたくしは世界最強だからですわ!』

 

『な、なるほど……』

 

 

 

 そう言って高笑いするステイゴールドは次のレース映像で3着に沈んでいた。勝利のインタビューを受けるウマ娘の後ろで、彼女は涙目で地団太を踏んでいた。

 

 

「どうだネイチャ?」

 

「いや、どうだって言われても……というか何あのお嬢様口調……」

 

「アイツは腐っても名門社台家出身、そこは目を瞑ってやってくれ。ほい、それじゃあ二戦目の新バ戦の映像だな」

 

 映し出されたのはまたもやレース前のパドックインタビュー。ステイゴールドの様子は前回と全く同じ、勝気な表情を浮かべていた。

 

『前回は3着という結果でしたが……』

 

『その程度の事で社台家のウマ娘が屈するとでも? まあ見てなさい。本日はわたくしの華麗なるウイニングライブを見せて差し上げますわ!』

 

『あ、はい……頑張ってください……』

 

『おーほっほっほ! こんなしょぼいレース、世界最強のわたくしにとっては通過点に過ぎませんわ!』

 

 そう言って高笑いするステイゴールドは次のレース映像で16着の大惨敗。勝利のインタビューを受けるウマ娘の後ろで、ラチをガシガシと蹴りつけていた。そして、インタビューはトレーナー陣営の様子を映し出す。そこには、肩をすくめて苦笑する外国人トレーナーの姿があった。

 

『担当するステイゴールドさんは最下位に終わりましたが……』

 

『ふむ、あの子は素質はあるネ。でも、本当に指示を聞かないノーネ!』

 

 ステイゴールドにトレーナーがついていた事にも驚きだが、その外国人トレーナーの姿を見て私は驚く。何故なら、かのトレーナーを知らないウマ娘はいないと言われるほどのトップトレーナーだったからだ。

 

「わざわざ社台家が用意したフランスのトップトレーナーの教えを受けていたのに、ステイゴールドはこの後に癇癪を起して勝手にあのトレーナーのチームから出て行ったらしい。本当にもったない事だよな」

 

「あーうん……やっぱあの子ってあたしとは住む世界が違うお嬢様なんだね……」

 

「確かに環境は違うかもしれない。でも、アイツもお前と同じ女の子で、レースに夢見るウマ娘だ……おっと次の映像だ」

 

 次の映像は新バ戦ではなく未勝利戦。中央で活躍するためには絶対に越えなければならない壁だった。舞台は芝ではなくダート。言い方は悪いかも知れないが、ダートは芝より”華”がないというのはウマ娘にとっては常識だ。プライドが高いステイゴールドもそれが分かっているのだろう。パドックインタビューを受ける彼女の様子はいつもより覇気がなかった。

 

『えっと……』

 

『わたくしは最強ですわ!』

 

『ひっ!?』

 

 レポーターが怯えて逃げ出すという実に短いインタビュー。その後、レースに挑んだステイゴールドはと言うと。最終コーナーを曲がり切れず、左に大きくよれて逸走していた。もちろん競走中止。最下位以下の着順だった。そんな彼女は鬱憤を晴らすようにラチを蹴りつけていた。

 

『わたくしは最強ですわ……よしんば競争中止だったとしても世界最強……ふふっ……』

 

『あらあら、物に当たるのは良くないわね』

 

『ひいっ!? お姉さま!? これは違います!』

 

『何が違うのかしら? それより、貴方は”出資者の方達”の厚意を踏みにじり続けているわ。せめてあの方達の元が取れるくらいには私が鍛えて上げる』

 

『いりませんわ! わたくしは貴方達に頼らなくとも世界最強のウマ娘に……おぶっ!?』

 

 レース場内に侵入し、ステイゴールドに頭突きを浴びせたのはあのサッカーボーイ先輩であった。そんな彼女自身も額からダラダラと流血しながら気を失ったステイゴールドを片手で引きずりながら画面外へと消えていった。そんな様子を映した映像をトレーナーはどこか愛おしそうに見ていた。それが少し、何故かムカついた。

 

 

「それでトレーナーさん、結局どういう事なの? 映像見せられてもあたしはわかんないんですけど」

 

「おいおい、流石に分かれよネイチャ。つまり、あいつは社台家が全力でバックアップしたり、あのトップトレーナーも認めるほどの”素質”を持ってるんだ。気性難でトレーナーの間では敬遠されていたが、俺はあいつが狙い目だとメイクデビュー戦を見てから思ったんだ。いやあ、俺の穴党の血が騒いでな……」

 

「穴党……?」

 

「おっと、今の言葉はなしだ。とにかく、アイツの実力は確かなんだ。だけど、俺がアイツをスカウトした主要因はそれだけじゃない。単純に、ネイチャの刺激になるかと思ったんだよ」

 

「いや、確かにあの子が来てからは毎日は刺激的になってますけど。主に暴力的な意味で」

 

「そういう意味じゃないさ。ただ、理由はネイチャも薄々は分かってるんだろ」

 

 ニヤリとして笑みを浮かべる彼に対し私は閉口する。そんな彼の視線を避けながら、居心地が悪くなって行く感じがした。それもそのはず、彼の意図は全ては分からないが、理解出来る点は以前からあったからだ。

 

「ネイチャの強さはどんなレースでも自然体で挑める事だ。過度な緊張をせずに当たり前のように入着する。中央選りすぐりのウマ娘がひしめく重賞で3着になって当然……みたいな態度のネイチャが傍から見たらどれだけ凄い奴なのかってお前は理解してるのか?」

 

「ちょいまち! そ、それはあたしのアイデンティティというか……」

 

「ネイチャは本当に凄い奴なんだ。確かに、トウカイテイオーみたいに色んな意味でやべえウマ娘は数多くいる。でも、レースではお前はそんな相手に決して引かない。一生懸命なネイチャの姿は本当に見ていて胸を熱くさせる。それは、ファンも同じだ。グランプリに出走できた事がその証明だろ?」

 

「あうっ……」

 

「でも、一方でネイチャの”悪い癖”は俺も自覚してる。精神論はあんまり言いたくないが、気持ちの問題はレースに大きく絡む。特に怪物が集うGI競争ではな」

 

彼は笑いながら私の頭を撫でる。それから、視線を宙に向けて何度か頷いていた。

 

 

 

「別に真似しろってわけじゃない。ただ、俺は君にもっと”自信”を持って欲しいだけなんだ」

 

「いやでも、あたしは……」

 

「俺の中での世界最強は今も昔も君だ。今後ともよろしくな!」

 

「っ……!」

 

 

 体中の血液が、上へと昇ってゆくのを感じた。私は赤くなった顔を彼に見られたくなくて、顔を伏せる。トレーナーさんはそんな私を撫で続けていた。

 正直言って、彼の想いは私には荷が重い。それでも、私のやる気はどんどんと溢れてくる。どこまでやれるかは分からない。でも、もう少し頑張ろう。そんな気分が心の底から湧き上がって来た。

 

「おっと、そろそろ門限だネイチャ。また明日な」

 

「あっ……うん……」

 

 彼の大きく暖かな手が私から離れる。それが少しだけ名残惜しかった。そして、流れるようにポケットから取り出した煙草をくわえ始めた彼に私は早速幻滅した。

 

「さてと、俺は残業だ。こんな俺でもやる事は色々あってな……」

 

「トレーナーさん、学園内は禁煙でしょ? というかあたしもアスリートの端くれだし、副流煙とか……」

 

「申し訳ございませんでした!」

 

「ふふっ、素直でよろしい。それじゃあまた明日ね、トレーナーさん」

 

「ああ、また明日な」

 

 

 ひらひらと手を振る彼に別れを告げ、私は寮へとひた走る。その足取りは今までにないほど軽いものであった。

 

 

 自室へと帰った私は、早速”コレクション”に今日受け取った王冠を模したトロフィーを入れた。そうして、ベッドへと身を投げた私はまもなく眠りに落ちる。

 

 

 

彼の作ったちゃちな王冠を受け取り、彼に本物の”王冠”を渡す。

 

 

 

そんな夢を見た気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ちょこと元ネタ解説

ステイゴールドの元トレーナー

元ネタはフランスの騎手、オリビエ・ペリエ。
世界最強の騎手は誰かと聞かれたらデッドーリに並んで彼の名前を出す人も多い
決してナノーネとは言わない(ペリエ語は話す)
ウマ娘に実装されているゼンノロブロイが秋古馬三冠を達成した時の鞍上も彼だった。
一応、ステイゴールドの新馬戦の鞍上も務めた。

彼がG1で乗った馬はだいたい馬券内に来るのでとりあえず抑える
今でいうルメール枠


第43回毎日王冠
実はダイワスカーレットの母、スカーレットブーケも出走している。

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