彼は目覚める──
──彼女は居ない
第1話
それは酷く残酷なもので。
目の前で両親が死んでいるというのに、涙は流れてこなかった。
決して私が殺した訳ではなく、恐らく両親は誰かに殺されたのだろう。私の両親は優しい人だったけれど、人一倍恨みを買う地位にいた人達だっただから、仕方ないと思った。
多分だけれど、両親を殺した人物はそれなりに両親に恨みがあったのかもしれない。両親は全然真っ赤で、まるで真っ赤なスーツとドレスを着ているようだった。そんな両親の赤を隠したくて、私は大量の彼岸花を両親に捧げた。
「…あーあ、手なんか繋いで死んじゃってさ」
最愛の娘を残して死んでいった筈なのに、両親の顔は笑っているように見えた。あの世でいい夢でも見ているのだろうか。
ずるいなあと思う。父は忙しい人だったから、私ももう13歳になるのに、旅行には1度も行けたことがないし、世間話をする余裕さえあまりになかったように思える。それでも、一生懸命、父は不器用なりに私を愛してくれていた。
たとえば、学校の授業参観。父は来てくれると約束してくれたけど、結局間に合わず、授業が終わったチャイムと同時に教室に入ってきたこともあった。約束したのに守れなくてごめんと私に謝り続ける父の背は、とても哀愁が漂っていて滅多に見れない姿だった。…それっきり、父は授業参観に来ることは1度もなかった。
たとえば、私の誕生日。父は家族3人だけで盛大に祝おうと言ってくれた。スケジュールを開けるために、父は今まで以上に必死に働いてくれて、何とかスケジュールを開けることに成功した。
しかし、私の誕生日当日、父は爆睡。どれだけ母と一緒になって起こそうが、父は起きてくれなくて、結局3人で盛大に祝うことは出来なかった。まあ、数時間後には仕事で呼び出されていたし、必死に顔を真っ青にして謝ってくれたから根に持ってはいない。ただ、父としての信頼を失っただけである。
仕事で追い詰められ、休みのなかった父。死ぬ間際に母といれたことは幸福だろう。ベッドの上で、優しく手を握っている2人は本当に、本当に幸せそうだ。
人によって死は救いだと、感じた。
だって死んでしまえば、自分を追い詰めるものはないのだから。
私も両親と同じ場所に行きたいけれど、それは現実的に無理で。
窓から空が見えた。
鉛色から綺麗な青へと変わっていく。
暫くはこんな清々しい青を見たくないと思った。
数秒の時が過ぎ、私は光に包まれ
──闇夜へと姿を晦ました。
*
ボロボロの小屋の中にポツンと一人、私はいた。以前の暮らしを考えれば、有り得ないし想像も出来なかったけれど、仕方がない。
だって、どれだけ喚こうが泣こうが叫ぼうが、父はいつもの優しい笑みを浮かべて救いの手を差し伸べてくれる訳では無いし、美味しいご飯を作って待っててくれる母だってどうやっても戻って来ないのだから。
ギシギシと古びた窓を開ければ、辺り一面彼岸花が咲き誇っていた。まるで、両親の死に様を忘れるなとでも言うかのようで、とてもとても不愉快だ。
齢13歳にして天涯孤独の身。孤児院に行くのは、色んな理由から
生きるためには金がいる。食べ物がいる。でも、独り身の私に金があるはずも無く、治安の悪い街でひったくりをして何とか生計を立てていた。
小柄で女の私は当然大人の男に勝てるわけが無い。それでも、生きていくためには必要だった。
だから、殺した。
1度殺してしまえば、後は簡単なもので、意外と人を殺すことに抵抗が無かった自分に呆れながらも、そうして生計を立てていた。
抵抗されたら殺し、抵抗されたら殺し。
こんな両手が血まみれの自分を両親が見たらきっと涙するに違いない。それでも、悲しむとわかっていても、殺した。
金のためなら、時にはひ弱な子供も演じた。情のある人間には効果覿面で、些細ながらも収入を得ることができた。
武器は石だけなのに、よくここまで生きてこられたと思う。相手は勿論、体格差がある男たちばかり。運が良かったとしか言いようがない。
私はまだ、死ねない。
ここまで頑張ってきた意味が、まだ報われてないから。
彼に会うまで、どうか──
──私を殺さないで神様
明るい夢主がかきたかった…。
(私はまだ諦めない)