死神の黙示録   作:瑠威

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  そこは空席──
  ──結末は知っている
  


第11話

  

  ボスが帰ってきた。

  この約8年間、ヴァリアーの皆はボスの帰りを待ち望みにしていて、一時期は自分の不甲斐なさに嘆いたスクアーロが病みかけた時もあったけれど、それでもずっと待っていた。

 

  急に開かれた談話室の扉。

  若干、私とベルとオッタビオのせいでギスギスとした雰囲気が流れていたけれど、それも8年にもなれば、神経の図太い幹部達はなれ、談話室でいつものようにバカ騒ぎをやっていた時に、なんの前ぶりもなくボスは帰ってきた。

 

  最初にボスに飛びついたのはスクアーロだった。ボスはスクアーロを認識すると同時に、近くにあった花瓶をスクアーロに投げつけ、気絶させる。

 

  そんな光景を見ていた筈なのに、学習をしないルッスーリアとレヴィがボスに飛びかかり、憤怒の炎で蹴散らされていた。

 

  前の3人と比べるとやや控えめにボスに近づいたベルを見て、ボスはベルよりも一回り程大きい手をベルの頭の上に乗せた。嬉しそうに笑っているベルを横目に、ボスと私の視線がかち合う。

 

  パタパタと私もボスに近づいた。私はあまりボスと関わりはなかったけれど、それでも私はボスのことが好きだから、帰ってきてくれて嬉しかった。ホッとしていれば、ボスは私の頭も撫でてくれた。

 

  暫くベルと共に頭を撫でられていれば、気絶から復活したスクアーロの咆哮が部屋を包む。うるせぇと嫌そうな顔をボスはした後、マーモンとスクアーロを呼び、談話室から姿を消した。

 

 

 

  *

 

  ボスが帰ってきて、少しの時が過ぎた頃。私たちヴァリアーは何故かボートの上にいた。…いや、()()()は間違いで、多分一通りスクアーロがここに来るまでに作戦の説明をしてくれていたと思う。けれど、一々作戦なんて気にしないベルに巻き込まれ、殆ど話を聞けなかったのだ。

 

  今更聞こうものなら、スクアーロに怒鳴られ、殴られ、怒られることは間違いないので、暫く空気を読みながら作戦内容を聞き取ろうと思う。

 

 

「本当にオレたちだけでいいのか?」

 

 

  ふとした時、レヴィが言った。レヴィがその言葉を発した次の時、ボートの中は笑いに包み込まれる。

 

  苦笑、失笑、冷笑──多少の違いはあるものの、どれもレヴィを見下す悪意を滲ませた笑いである。ちなみに私は完全無視だ。

 

 

「何がおかしいというのだ、貴様ら!」

 

 

  レヴィの怒りの声と共に、いきなり立ち上がるものだから、大人と子供でぎゅうぎゅうなボートは大きく揺れた。

 

 

「ゔぉおい! でけぇ声出してんじゃねぇぞぉ!」

 

 

  レヴィを叱咤するスクアーロの声はレヴィよりも大きい。そして、スクアーロまで勢いをつけて立ち上がるものだから、またボートが揺れる。

 

  …私、船酔いしてるかもしれない。

  静かに口元を抑える私を横目で見たベルはしししっと笑う。もちろん、心配なんてしていない。

 

 

「オレらが何のために真っ暗闇ン中でジッとしてんのか忘れたかぁ? こんなところでバレたらザンザスの作戦も全部パァだろうがぁ!」

「貴様ごときがボスの名を口にするな、スクアーロ!」

 

 

  正直、どっちもどっちだと思う。2人とも声は大きいし、殺気もすごいし、普通にバレてもおかしくない。

 

 

「はい、そこまで」

 

 

  ヴァリアーのママンことルッスーリアが代表して鉄拳制裁を下す。膝から崩れ落ちるスクアーロとレヴィのせいでまた、ボートが揺れた。

 

 

「ぐ……」

「うぉ……」

「あーら、2人とも痛かった? ま、痛くするつもりでやったんだけど」

「しししっ、でも1番ダメージ受けてんのリリーだぜ?」

 

 

  ベルの言葉に、ルッスーリアは蹲って死にかけている私に、あら? 船酔いかしら?と心配してくれる。しかし、全く優しさの欠けらも無いスクアーロとレヴィの視線の矛先はルッスーリアに向けられていて、今にも殺さんと睨みつけている。

 

 

「はあ、本当にいい加減にしなよ、2人とも」

 

 

  ため息まじりに言ったマーモンは目こそは見えないけれど、呆れた顔をしている。

 

 

「リリーが酔ってる原因は主に君らのせいだろ? それに金にならないようなけんかして、何が楽しいのさ?」

「うるせぇぞぉ、クソチビぃぃぃっ!」

 

 

  マーモンの言葉が癇に障ったのか、スクアーロは一切の手加減なく、足元に立っていたマーモンの影を蹴りあげる。

  また、ボートが揺れる。

 

  しかし、マーモンはスクアーロに蹴りあげられることなく、蹴りあげたスクアーロの長い足の先に、ちょこんと立っていた。確実にスクアーロを煽っている。

 

 

「いいかい?  8年ぶりのミッションなんだよ」

 

 

  マーモンは静かな声で、それでいて諭すように言う。スクアーロとレヴィの怒りで熱くなったその場の雰囲気を確実に、マーモンが冷やしている。

 

 

「ボンゴレ最強の暗殺部隊ヴァリアーが、久しぶりに表舞台に出るんだ。ボスに恥をかかせたくはないよね?」

「当然だ!」

 

 

  誰よりも早くそう答えたのはボス大好きボス命のレヴィだった。レヴィの返事を聞いたマーモンは音もなく床におり、レヴィを宥めるような口調で語りかける。

 

 

「それでレヴィ。キミは一体何を不安に思っているんだい?」

「不安など感じていない。オレは今回のミッションに、本当に6人だけで大丈夫なのかと、そう言っているのだ」

「しし、オレは心配だね。コイツ、死んでるけど大丈夫?」

 

 

  ベルは寝転がって死んでいる私をつんつんと突く。あらあら、大丈夫かしらとルッスーリアが懇親的な介護をしてくれる。…さすがヴァリアーのママン。

 

 

「足りないってこと?」

「無視かよ」

「島には多くの人質がいるのだろう。逃がすためには、オレが育てあげたレヴィ雷撃隊も動員して……」

「バーカ。逃がす必要とかねーっての」

「…ベル、ナイフでつつくのはやめて……」

 

 

  私の願いを聞き入れることはなく、やはりベルはつついてくる。…ナイフで。

 

 

「ぜーんぶ殺しちゃえばいいじゃん。そーすれば皆解決っしょ」

 

 

  しししっと笑い声が漏れる。レヴィはベルの言葉を聞いて「ぬ……」と声を漏らしたものの、それ以上の反論をすることは無かった。

  そして、話を締めくくるように、マーモンが言う。

 

 

「これは試験でもあるんだ。ボスの目指す未来──そこにキミ達がついてこられるかどうかのね」

 

 

  無言のまま、わかっているとでも言うかのように私を含めた5人は頷いた。と、その時、装着していた小型無線機を通して、ボスから作戦開始の命令が伝えられた。

 

 

「行くぞぉ、おまえらぁ!!」

 

 

  スクアーロの声と共に、エンジンの音が夜気を震わせた。

 

 

「…ふふ、やっと死ぬんだ」

 

 

  エンジンの音にかき消された私の声は誰も拾わなかった──。

 

 

 

 

  *

 

  闇に包まれた海を疾走する1隻のボート。一切の明かりをつけずに進むその行為は、地上とは違って障害物のほとんどない海上とはいえ、かなり危険を伴っていた。

 

  しかし、頭のネジが緩んでるのか外れてるのかは分からないが、そのボートに乗っている6人に、恐れる様子は微塵もみられない。…1人、死にかけのような女性がいるけれど。

 

 

「ゔぉおい、このままでいいのかマーモン?」

「うん。そのまま真っ直ぐで。何かあったら、すぐに教えるよ」

「…スピード出すぎじゃない?」

「あともうちょっとの辛抱だからねぇ。こればっかしは我慢してもらわないとだわあ」

 

 

  ボートを運転していたスクアーロの問いかけにマーモンは小さく頷いた。寝たままだと振動が伝わりやくすくなるから、座りましょうと運転するスクアーロの近くに座らせられていたリリーの問いかけにスクアーロは答えることはない。完全無視である。

 

  ふいに、マーモンの口から白いものがこぼれた。寒い日の吐息のようなそれは、あっという間にまわりに広がっていき、ー面の霧となってボートを包み込む。

 

 

「さっすがねぇ、マモちゃんの術は」

 

 

  ルッスーリアが感動したと言うように手を重ね合わせる。それとは対照的に、リリーの顔色は曇った。

 

 

「このまま白いベールに包まれて、島まで一直線ってことかしら」

「いーや。そうカンタンにいかねんじゃね?」

 

 

  つい先程までリリーをつついて遊んでいたベルだったが、途端に興味を無くしたのか、自分の武器であるナイフを手元でクルクルと回しながら呟く。

 

 

「なーんかイヤな予感すんだよね。王子的に」

 

 

  ベルの言葉を最後に、その場の空気は静寂に包まれた。

 

 

「ベルがさっき言ったことは正しいよ」

 

 

  どれぐらいの時が経ったのかは分からない。けれど、先程よりもそう時間が経たないうちにマーモンはすました顔で言った。

 

 

「今更何を言っているのだ、貴様!」

 

 

  マーモンよりも、ベルよりも、リリーよりも年上の筈なのに、その3人の表情とは対照的なレヴィの顔は怒りで染まっていた。

 

 

「まさか臆病風にでも吹かれたというのか! 貴様などいなくても、オレたちだけでミッションは…」

「こっちは、キミがいないと困るんだけどね。レヴィ」

 

 

  基本的に、レヴィの立ち位置はヴァリアー幹部の中でも、見掛け倒しの位置に立っている。顔は厳ついが、戦ってみればそう強い訳ではなく、幹部の中で順列をつけるとしたら、底辺の方にいるレヴィがそんな言葉をかけられることは本当に少ない。

  思いがけないマーモンの言葉にレヴィは戸惑う。

 

 

「ぬ、な、何を…そのような、当たり前を……」

「島にいるヤツらは、高性能の暗視装置を持っている可能性が高い」

 

 

  マーモンの言葉に、皆静かに耳を傾けている。

 

 

「僕の幻術なら、それでもバレないって自信があるんだけど、万が一ってことも考えないとね。最初が肝心だからさ」

 

 

  どこか気楽そうだったマーモンの声が、一気に真剣味を帯びた。それほどマーモンにとっても失敗をしたくない、ということなのだろう。

 

 

「こっちも大金を貰ってるんだ。仕事は完璧にこなしたい」

「く…金の亡者め。オレは貴様と違って、ボスのために働くのに何の見返りも求めては…」

「で、どうするの?」

 

 

  これ以上の話を聞くつもりはないと言わんばかりにマーモンがレヴィの言葉を遮る。

 

 

「やるの? やらないの?」

「ぬ……」

 

 

  フードの奥から鋭い眼光で射抜かれ、思わず声を失うレヴィだったが、すぐさま頷いた。

 

 

「オレは作戦のために全力を尽くすだけだ!!」

「…任務中に死なねーかな、このおっさん」

 

 

  暑苦しい咆哮をあげ、背中に刺していたサーベルのような武器を勢いよく抜ききったレヴィを見て、ベルは嫌そうに眉を顰め呟いたのだった。

 

 

 

  *

 

  どさりと音をたて、ルッスーリアの足元に全身から力を失った男の身体が倒れた。ルッスーリアは得意とするムエタイの技で音もなく敵を仕留める。

 

 

「残念だわー。もっと時間があったら、たーっぷり楽しめたのに」

 

 

  倒し足りないと存外に言っているルッスーリアは心做しか楽しそうに見えた。そんなルッスーリアの隣では、ベルが特注のナイフを使って、敵に悲鳴ひとつあげさせず、敵を葬っている。

 

 

「しししっ」

 

 

  さすがヴァリアー1の天才と言われるだけのことはある。ベルもルッスーリアと同じで楽しそうに笑っていた。

 

 

「…地上、バンザイ!!」

 

 

  黒光りした大きな黒鎌で、容赦なく敵の首を撥ねた女性、リリーは地上の有り難さに涙していた。よく見ると目元に涙が少しだけだが浮かび上がっている。

 

 

「1匹だけじゃ物足りないっつーか。3匹ともオレに殺らせてくれりゃー良かったのにさ」

「あら、そんなこと言わないでよ、ベルちゃん。独り占めは、な・し・よ♪」

「…船のせいでダウンしてたからね。身体を慣らさないとでしょう?」

「ゔぉおい!!  ムダ口たたいてんじゃねぇぞぉ!」

 

 

  ズカズカと足音をたてて近づいてきたスクアーロが3人を叱り飛ばす。

  マーモンの霧、そしてレヴィの電気傘(パラボラ)と呼ばれる武器で発生させた雷によって、一同は見張りの目をすり抜けることに成功した。

 

  島に上陸した彼らは、早速近くを歩いていた見張りの男3人を始末していた。

 

 

「それにしても、このコたち、ホントに色々つけちゃってるのねぇ。せっかくいいカラダが隠れちゃうじゃない」

「でた、ルッスーリアのきもちわるい趣味。キメー」

「こればっかしは同感」

 

 

  あら、2人して酷いんだからと言うルッスーリアの視線の先にはやはり、先程始末された男にあった。

 

  彼らは、防弾ベストと暗視装置つきゴーグル、それに自動小銃で武装していた。ヘタなマフィアなど勝負にもならないプロの装備だ。実際、まともに正面から戦えば、ヴァリアー幹部の実力を持ってしても苦戦は免れなかったかもしれない。

 

  しかし、あまりの存在感故に忘れかけることもしばしばであるが、本業は暗殺者である。

  相手に気づかれず、周りにも気づかれないように速やかにターゲットを消す方法は、いくらでも心得ていた。

 

 

「おい、マーモン。残りの数と配置を教えやがれ」

「現場でのナマ情報は別料金だよ」

「ちっ…後でザンザスにいくらでも貰いやがれぇ」

 

 

  スクアーロの言葉に満足そうに頷いたマーモンはローブの中から紙片を取りだし、勢いよく鼻をかんだ。

 

  粘写(ねんしゃ)──遠く離れたターゲットの情報を写し出すというマーモンの能力である。

 

 

「ム…聞いてたよりも人数がいるね」

「何人だぁ?」

「建物の外にいるのが8人。中には10人だね」

「…18人か」

「1人でも逃したりすると厄介だよ」

「ああ、例のアレを持ち逃げでもされたら台無しだからなぁ」

 

 

  マーモンから粘写された紙を受け取ると、スクアーロはすぐに指示を出す。

 

 

「ベルとリリーはオレに着いてこい。ルッスーリアとレヴィは、外にいる見張りのやつらを全部片付けろ。逃げようとするやつも残さず殺っとけぇ」

「りょーかい」

「わかったわ」

「私にお・ま・か・せ♪」

 

 

  スクアーロの指示にすぐ頷くベルとリリーとルッスーリア。しかし、やはりというか…。

 

 

「待て。何故オレが外で見張りの片付けなどしなければならん」

 

 

  一々スクアーロに突っかからないと気が済まないのか、レヴィは抗議の声をあげた。いつものことではあるが、スムーズに作戦に取り掛かれないのはかなりの問題である。呆れたようにリリーはため息をつき、暇を持て余しているベルの手元でナイフが光る。

 

 

「スクアーロ…貴様、手柄をオレにとられまいとして……」

「くだらねぇこと言ってんじゃねぇぞぉ」

 

 

  どうやら冷静なスクアーロはレヴィを相手するつもりはないらしい。レヴィに背を向けた。しかし、その行為がかえってレヴィに怒りの火をそそぐ。

 

 

「貴様、オレの目を見て話を…」

「いい加減にしなよ、レヴィ」

 

 

  レヴィを止めたのは、またもマーモンだった。あと少しマーモンがレヴィを止めるのが遅ければ、レヴィはベルのナイフの的となっていたであろう。つまらなそうにそっぽを向くベルを横目で見ていたマーモンはため息をつく。

 

 

「こんなところで時間を止められて作戦失敗だなんて、僕はイヤだよ。約束の報酬もパーになるじゃないか。それに…最初から現場の指揮はスクアーロがとることになっていただろ」

「正直、オレはそれにも納得がいかなかった。なぜ俺ではなく、スクアーロが…」

「じゃあキミはボスの判断が間違ってたって言うんだね?」

 

 

  その言葉が決め手だった。レヴィの文句がピタリと止まる。

  レヴィがザンザスに捧げる忠誠心はこのヴァリアーの中で誰よりも大きい。8年という月日が経っても、それは小さくなるどころか、むしろ神へ捧げる信仰というレベルまで達していた。

 

(だから、任せられないこともあるんだよね。マジメすぎるやつって、けっこー暴走とかするしさ)

 

  心の中で呟くマーモン。

  今回の作戦には『真の目的』がある。その真の目的を知らされていたのは、スクアーロとマーモンだけだった。

 

 

「ねーねー、よく考えてみてよ、レヴィぃん」

 

 

  そこへルッスーリアが割り込んでくる。

 

 

「あなたの雷の技って、ちょっと目立ちすぎちゃうでしょ。外ならともかく、屋敷の中でピカピカーッなんておかしく思われちゃうわ」

「それは……」

「ボスは、ちゃーんとあなたが活躍出来る場所をわかってるのよん♪」

 

 

  ルッスーリアのその一言で、レヴィの目に一気に活力が戻る。なんとも単純な男である。

 

  ベルがつまんねーと声を漏らした。どうやら、このままぐずるようだったらベルの手で始末しようとしていたらしい。ベルは暇を好まない。このまま、楽しみにしていた作戦をお預けされるなら、やむなしと考えていたのだろう。

 

  何とかレヴィを丸め込んだルッスーリアは満足そうに笑う。

  そこでスクアーロの号令がかかる。

 

 

「行くぞぉ、おめぇら!」

 

 

  改めて作戦の第2段階が始まった。

 

 

 

  *

 

  マレ・ディアボラ島迎賓館(げいひんかん)・大ホール──。

 

  普段なら、ゲストを集めた大掛かりなパーティーなどが開かれるこの場所に、100人を超える人質のマフィア達が全て集められていた。

 

  見張りとして立っている男の姿は6人。その全てが自動小銃を手にし、防弾装備で身体を覆っていた。隙のないプロを思わせる動きもあわせて考えれば、たった6人とはいえ、下手に戦いを挑むのは危険すぎる相手だった。

 

  危険な裏社会を乗り越えてきたマフィアの者たちにもそれはわかるのか、武装解除された彼らに、積極的に抵抗しようという気配は感じられない。

 

  しかし、そんな彼らを、武器した男たちはなおも油断なく監視していた。

 

  その完璧さが──逆に隙を生んでいた。

 

 

(うしし…あいつら、ぜーんぜんこっちに気づいてなくね?)

(今のうちに殺す?)

(だまれぇ。よけーなこと言ってんじゃねーぞ)

(はいはい)

(ベル、お口チャックだって)

(おめーもだ、リリー!!)

(…スクアーロが1番うっせーよ)

 

 

  この状況を楽しんでいるのか、珍しくリリーはスクアーロの反応で遊んでいた。ベルも緊張感のない笑みを浮かべている。

 

  一方、スクアーロは、リリーに遊ばれながらもじっと見張りの男たちの様子を伺う。

 

  その時だ。

  豪華なシャンデリアを始めとしたホールの明かりが、突然消えた。見張りの男たちの間にも、さすがに動揺が走る。

 

  と、次の瞬間、ホールで最も大きな正面の扉が、勢いよく開け放たれた。見張りの男たちは、すぐさま反応する。手にした銃を素早く扉の方へ向け──。

 

  ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ!!!!!!

 

  逃れようのない銃弾の雨が、嵐となって荒れ狂った。

  激しい銃声が、ホールを埋め尽くすように響き渡る。やがて、銃声は1つ、また1つとやみ、暗闇の中に静寂が戻る。

 

  替わってホールに轟いたのは男たちの大声だ。

 

 

「早く明かりをつけろ」

「死体を確認するんだ」

 

 

  だが、その声は銃声と同じように1つ、また1つと消えていった。

  そして、ホールに再び明かりが戻る。

 

 

「!!!」

 

 

  人質のマフィアたちから、驚きの声があがった。なんと、6人の見張りの男たちが、1人残らず床の上に転がっていたのだ。明かりが消えていたのは1分あるかないかの僅かな時間だったというのに。

 

  そして、替りに立っていたのは黒い服装をした3人──スクアーロ、ベル、リリーだった。

 

 

「これで終わりかぁ?」

「そーみたい。なんか思ってたよりもあっけないってカンジ?」

「これならまだベルと的当てやってた方がやりがいあったわね」

「外のヤツらみたいに、暗視装置つけてなかったからなぁ」

 

 

  作戦自体は、極めて単純なものだった。

  電源室に向かったマーモンが、人質の集められたホールの照明を落とす。その間に、暗殺者として暗闇に慣れているスクアーロ、ベル、リリーが敵を始末する。

 

  しかし、むやみに襲いかかったのでは、反撃によって傷を負わされる可能性がある。人質が殺されるという可能性も考えられた。

 

  だから、明かりの消えた直後に派手に扉を開け、敵の注意をそちらに引き付けた。ちなみに扉は、ベルがナイフのついたワイヤーを使って離れた場所から器用に動かしていた。それを見ていたリリーが自分もやりたいと言い張り、スクアーロに怒られていたのは余談である。

 

  既に空調ダクトからホールに侵入していた3人は、銃撃がやみ、敵の気が緩んだ隙をついて一気に襲いかかったのだ。

 

 

「お……おい…」

 

 

  呆然としていたマフィアの1人が、口を開いた。

 

 

「お前たちは…一体……」

「あぁン!?」

 

 

  リリーのせいで若干機嫌の悪いスクアーロは、口を開いた男を射殺さんと睨みつける。

 

 

「なんで、てめぇらなんかにそんなこと…」

「まーまー、いーじゃん。復活アピールするためにも言っとけば」

「そうよ、スクアーロ。もっとカルシウム取っていきましょう?」

「今、この作戦に、カルシウムは、関係ねぇぇえええ!!」

 

 

  スクアーロの咆哮に、捕らえられていたマフィアたちの肩が上下した。そんな光景を見て、スクアーロは舌打ちを1つする。

 

 

「ゔぉぉおおい、聞きやがれぇ! マヌケなテメーらを助けてやったのは、ボンゴレ独立部隊ヴァリアー! そのリーダーをザンザスだぁ!!」

 

 

  スクアーロの言葉を聞いた瞬間、さざなみのように一同に驚きが広がって行った。

 

 

「まさか、あのザンザスが…」

「ヴァリアーは殺し屋だけの部隊じゃなかったのか…」

 

 

  コソコソと交わされる言葉を聞いて、スクアーロは満足そうな笑みを浮かべた。

 

 

「おい、ベル。てめーはここに残ってこいつらを守れぇ。ぜってー、殺られんじゃねぇぞぉ。…リリー、てめーはベルが暴走した時止めやがれ。後、そろそろ落ち着け」

「りょ」

 

 

  リリーの返事を聞いて、ビキビキビキとスクアーロの額に血管が浮き上がる。そんなスクアーロの光景を見て、捕らわれていたマフィア達はあまり刺激しないでくれ、と心の中で思っていた。

 

 

「スクアーロはどうすんの?」

「オレはここにいつまでもいられねーんだよ。まだ、大事なことが終わってねーからなぁ」

「マーモンと話してた『例のアレ』ってやつ?」

「けっこー、壮大な計画らしいわね」

 

 

  ベルとリリーの言葉を聞いて、スクアーロの口元から笑みが消えた。替わってベルのしししっと笑い声が漏れた。

 

 

「ホント、スクアーロって鈍くね?」

「これが作戦隊長とか、聞いて呆れるわ」

「おい、てめぇら…」

「怒んなって。オレは邪魔するつもりねーし、めんどいことってキライだし」

「別に私が何もしなくても進んでいくから、下手にほじくらないわよ」

 

 

  スクアーロは忌々しそうにベルとリリーを睨んでいたが、サッと背を向けると早足にホールから去っていった。

 

 

「うしし、おっもろいなー。バカ揶揄うのって」

「やりすぎると殺さねかねないから程々にしなよ?」

「そんときはてめーも巻き添いな」

「こわ」

 

 

  ニヤニヤと楽しそうに会話をする2人の邪魔をするかのように、男がベルたちに話しかけた。

 

 

「おい、キミ! これでワシらは助かるのだな!」

「んー、そうなんじゃね?」

「…敵と間違えられて殺されたくないならここにいることをオススメするけれど」

「しかし、ワシらは一刻も早く安全なところに…」

「だーいじょぶだって。アンタらのことは、オレとリリーで守るからさ」

「おー、珍しくいいこと言うわね、ベル」

 

 

  再び、男の顔にホッとした笑みが広がる。

 

 

「つーわけで、全部片付くまでの暇つぶしに…」

 

 

  ニヤニヤとあくどい笑みを浮かべ、ベルが男の肩に手を置く。

 

 

「王子と目ン玉くり抜きゲームして遊ばない?」

 

 

  男は助けを求めるように、リリーに視線を向けた。つい先程、リリーはベルの監視を頼まれていた。だから、助けてもらえると、男は思っていた。

  しかし──

 

 

「やりすぎるとスクアーロにバレるから、バレない程度にしなさいよ?」

 

 

  約8年。リリーはヴァリアーに確実に悪影響を与えられていた。8年前のリリーだったら止めていただろうが──もう、彼女は13歳の少女ではない。

 

  この8年間、色々と経験を積んできた。いいこと、悪いこと。全てを見てきて、実践してきた。

 

 

  きっと、こんな彼女を見たらリリーの両親は泣くに違いない。

 

 

 

 

  *

 

「オレたちの勝利だ!」

 

 

  大ホールに、レヴィの雄叫びが高らかにこだました。

  外にいた見張りを全て倒したレヴィとルッスーリアは、迎賓館へ突入したスクアーロたちに加勢しようとやってきたのだが、こちらも既に大方片付いており、暇を持て余していた。

 

 

「これがオレたちの実力なのだ! 長い間、冷遇されてきたオレたちの! ザンザス様を頂点とするヴァリアーの真の力なのだ!」

「もうっ、レヴィったらはしゃいじゃって」

 

 

  大の大人がはしゃぐ姿ほど見苦しいものは無い。やれやれとルッスーリアは苦笑していた。その隣では、ベルがうるさそうに耳を塞いでおり、リリーに至ってはレヴィの存在を認識しないようにしていた。

 

 

「いい加減にしろよ、あのムッツリ。ちょっと殺しちゃっていい?」

「首チョンパとか良くない? やっぱり最期ぐらいは派手に殺してあげた方がいいと思うのよ」

「大目に見てあげて、ベルちゃん、リリーちゃん。いつも無愛想なレヴィがあんなふうに喜ぶなんて珍しいんだから」

「知らねーっつの」

「まじうぜー、存在がうぜー」

 

 

  2人とも反抗期ねぇと、再びルッスーリアが苦笑した。

 

 

「つーか、今気づいたんだけどさー。これって結局、オッタビオのやつの手柄になるんじゃね?」

 

 

  オッタビオ、その名前を聞いた途端、リリーからヒリヒリと肌を刺激するほどの殺気が発せられる。

  ベルがいちいち名前出すだけでキレんなよなーと唇を尖らせた。

 

 

「そうねぇ…彼だったら、有り得るかもね」

「有り得ないよ」

 

 

  ルッスーリアの言葉をリリーはすぐに否定する。ルッスーリアは首を傾げて、どうして言いきれるの?とリリーに聞いた。

 

 

「アイツ、もう戻ってこないから」

「はあ?」

「…雲が欠番ねー。ボス、私を選んでくれないかしら。……無理よねぇ」

 

 

  ルッスーリアとベルの頭の上にはたくさんのクエスチョンマークが浮かんでいる。詳しく説明しろという2人の視線を無視してリリーは地面に座り込む。

 

  約8年。ヴァリアーは彼女と一緒にいた。しかし、未だに彼女は謎が多く、分かりきれていないことの方が多い。

 

  無理やりにでも、とベルはナイフを準備するが、諦めた。意外とリリーは頑固なので、話さないと決めたら話さない。無駄な労力を使うだけだ。

 

  ちぇ、と諦めたベルはリリーの横に座り込んだ。座り込んだベルを見て、リリーは楽しそうに笑った。

 

  この後、作戦成功を伝えに来たスクアーロとまたひと悶着あったりしたが──全ての準備は整った。

 

  ヴァリアーのボス、ザンザスが見ているのはただ1つ。

 

 

  ──ボンゴレボスの椅子だけだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【プロフィール】
名前→リリー
誕生日→12月16日
年齢→21歳
身長→160cm
体重→54kg
好きな人→彼、母親
嫌いな人→レヴィ、オッタビオ、父親
属性→不明

容姿
  茶金の髪色に毛先にいくにつれて少しくせっ毛。8年前までは髪の毛を腰あたりまで伸ばしていたが、ベルに切られてからは肩上の長さを維持している。
  琥珀色の瞳に綺麗な二重瞼。色白で、大人になるにつれて、色気が増してきているとはルッスーリア談である。
  出るところは出ていて、サイズはD。基本的に邪魔なものだと認識しているので、サラシを巻いている。
  服装は、基本的にルッスーリアが用意した服を着ている。時々、ベル野服を着ている時もある。本人はパーカーなどを好んでいるみたいだが、ルッスーリアに無視されている。

備考
  はっちゃけるとこははっちゃけちゃった女の子。基本的にベル&マーモンと行動を共にしている。
  ベルが12歳までは一緒にお風呂に入っていたりもした。
  羞恥心というものがかけているのか、時々全裸で談話室に現れることがあり、スクアーロが頭を悩ませている。
  髪の毛はベルに整えてもらっている。
  化粧っ気はないが、料理は得意なので、気が向いた時に幹部たちに振舞ったりもしている。お酒は弱い。
  勘が異常に鋭く、傷の治りが人と比べると数段早い。そのため、自分の身体を大切に扱わない節があり、そこにもスクアーロは頭を悩ませている。



  *

「はぁ〜い、今日もやってきた! ルッスーリア三丁目が始まるわよぉ〜! 今日のゲストは、謎多き女のコ、リリーちゃん!!」
「ヨロシク」
「はい、よろしくねぇ〜。それじゃあ早速質問いってみるかしら? リリーちゃんってドコの国出身かしら?」
「…ひみつ」
「あら、早速ノーコメント? ヒントとか教えてくれないの?」
「…メジャーな国かしら。これ以上は本当にトップシークレットよ。ここで私がどこの国出身で、両親とかがバレちゃったら攫われたりするかもだし」
「あら、なんか…ベルちゃんぐらいお国に関しては秘密みたいなカンジかしら?」
「そうそう。流石に国連とかは動かないけどね」
「でも攫われるって結構ヤバいんじゃないん? そんなにご両親って有名な人?」
「母はあまりだと思うけど、父はいい意味でも悪い意味でも有名よ。それに父だけじゃないの、攫われる理由」
「あら、何かしら。それアタシとっても気になるんだけど──」
「秘密」
「──よねぇ、何となく空気は読めてたわ。本当に秘密が多いんだから」
「そうかしら? 私の秘密っていえば、家族に攫われる理由に、あー、でも好きな人の名前は流石に言えないなあ」
「恥ずかしくて?」
「んーん。もっと他に理由があるの」
「そういえば、1度リリーちゃんの好きな人についてマモちゃんに調べて貰ったんだけど『B』って文字だけ出てきてなぁんにも分かんなかったのよねぇ」
「え。そんなことしてたの!?」
「やっぱり『B』に関わる人なのかしら?」
「…もろね」
「えー、もっと謎が深まっただけじゃない!!  なんか背中ら辺がモゾモゾするわ!!」
「病院行った方がいいんじゃない?」
「違うわよ!  リリーちゃんの秘密が気になってモゾモゾするの!!」
「あ、いい方法があるんだけどルッスーリア試してみる?」
「なになに、とーっても気になるわ」
「こうしてね?  大きな岩を頭に当てて──私ごとの記憶を抹消して」
「へ、ちょ、り、リリーちゃん、それをアタシの頭に打ち付ける気?  それ、記憶どころかアタシ死んじゃ──」

  ゴン!!  ゴンゴンッ!!!

「あれ、ルッスーリア血だらけになっちゃった。ま、生命力強いし、ヴァリアークオリティでどうにかなるでしょう」

「ここまで飽きずに見てくれてありがとう。どうぞこれからもよろしくね。以上、ルッスーリア三丁目でしたー」
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