彼は嗤う──
──彼女は口元に手をあてた
第2話
私の目の前には幻がいた。
見慣れていて、不気味で、それでも安心してしまうのだから、私はどこか壊れているのかもしれない。
幻はクツクツと愉しそうに嗤った。まるで、
私は、幻のことをそんなに深く知っているわけではないけれど、それでも私の知っている幻は、面倒事に巻き込まれるのを酷く嫌うのに、この時だけは、どうやらそれが嬉しいと感じているようだった。
幻は私に武器を渡してきた。たとえ武器を持っていたとしても、幻に私が怯える理由もありはしないので、有難く武器を受け取る。
「貴女に死ぬな、なんて愚問でしょうか」
「ええ。愚問でしかないわ」
また、幻はクツクツと嗤った。腹を抱えるまでとはいかないが、やはり幻は愉しそうに嗤う。どうやら今日はよほど機嫌がいいらしい。私も壊れているとは思うけれど、幻はもっと壊れているようだった。
「使い方、教えた方がよろしいですか?」
「結構。自分で模索するわ」
幻は私の手元に視線を落とした。どうやら、武器の使い方まで教えてくれようとしていたらしい。……こんなに優しいなんてらしくないし、珍しい。
幻は1から10、全てを教えるなんてことは滅多にない。秘密主義というのもあるだろうが、困っている相手を見て愉しんでいる素振りがよく見受けられる。簡単に言うと、性格がかなり歪んでいる、といえばいいのか。
「…貴女は本当に愉快だ。先が楽しみで楽しみで仕方がない」
「……」
「どうせ分かっているのでしょう? 彼らは──」
「──お黙り」
黒く冷たい武器から、幻に視線をやれば、幻はピタリと口を閉じた。
私に幻を殺すことなんて不可能極まりない。私がどれだけ幸運の持ち主でも、ステータス全てに於いて、私は負けている。だから私は、幻を殺すことは出来ない。けれど、
「約束してくれるかしら。その減らず口を閉じてくれるって」
「さあ、どうでしょう」
「ふふふ、どうせ言わないのでしょう? だってその方があなたは愉しめるんですもの」
そんな脅し文句がなくたって、幻は力を貸してくれる。
幻は私の発言に少し面食らったような表情をしていた。けれど、すぐに無表情へと変わる。
「知らない間に随分と成長したようで」
悲しいですねぇ、なんて大して悲しくもないくせに、幻はそう言った。
「もう、ここで姿を現すことはないでしょう。質問ぐらいなら受け付けますが?」
「ありもしないわ。そんなもの」
「そうですか」
また、幻は嗤った。
幻の口元が動く。なんて言いたいのか、そこまで仲の良くない私でも分かった。数秒もしないうちに、幻は姿を消す。
これは夢であって夢じゃない。
それは酷く冷たい武器がそう言っていた。
*
幻がくれたのは組み立て式の鎖鎌だった。幻のおかげでようやく石とおさらばできる。実に有難い。
石というのは酷く不便で、大きい方が打撃としては有効に活用できるのだけれど、大きくなればなるほど、重みが増してくる。かと言って、あまりにも小さすぎると決定打にかけてしまうので、本当にこの鎖鎌は有難い。
使い方、なんて幻は言っていたけれど、こんな使い道なんてひとつしかないじゃないか。
私の力量とセンスにもよるだろうが、これで人の命を刈り取りやすくなってしまった。一攫千金も夢じゃないかもしれない。
この鎖鎌の感覚を憶えなくては。私が御用達にしている、近くの街は最近、私を見るだけで人が姿を消してしまうようになってしまった。もう、あそこで稼ぐのは無理だと思われるので、そろそろ移動した方がいいのかもしれない。
あそこの街はクソな人間しか住んでいなかった。だから、私は殺せていた。さて、どうしようか。どうせなら移動なんかせずに、黒いマフィアなんかを狙ってしまってみてもいいかもしれない。罪のない人間を沢山殺してしまえば、
ああ、また両親が泣いてしまう。
酷く優しい人達だったのに、ごめんなさい。
けれど、私は父に縛られていた時よりも、幸せよ。
だからどうか、口を出さないで。