死神の黙示録   作:瑠威

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  彼は知る、彼等との接点に──
  ──でも、手掛かりは見えていない
 


第4話

 

  あまりにもリリーが嫌だと言うので、とりあえず連れて帰るのは保留にして、話題を変えてみようと思う。

 

 

「お前は特別に王子のことをベルって呼ばせてやるよ」

「本当に? 嬉しい」

 

 

  リリーの嬉しいという言葉は多分嘘じゃないのだろう。本当に嬉しそうな顔をして笑っている。……何がそんなに嬉しいんだか。オレには全く理解できなかった。

 

  少し重心を動かすだけで、ギシギシとなる古びたベッドに若干の苛立ちが募る。ホコリも少し舞って、鼻がムズムズする。

 

  開かれた窓とはまた別に、すきま風がヒューヒューとオレの肌を刺激する。寒くはないが、すきま風だらけというのも如何なものか。

 

 

「つーかまさかとは思うけど、こんな汚ぇところに住んでるとか言わねぇよな?」

「残念ながら、私はベルの言う汚いところに住んでいるの」

「はあ、マジかよ! 王子は無理だわー」

 

 

  ゴキブリとか普通に出てきそうだし、ホコリも凄いし蕁麻疹出てきそ、と言えば雨風さえ凌げれば私は大丈夫なのと返答が返ってきた。けれど、リリーの眉間には皺がよっているため、好き好んで住んでいるわけでは無さそうだ。

 

 

「お前、親は?」

「さあ」

「さあって、自分のニクシンだろ? キョーミねぇの?」

 

 

  王子はキョーミ無いけどね、そう言って手元のナイフをクルクルと回した。王子は自分で家族を殺したから、ぶっちゃけ肉親とかどーでもいい。居たらウザくて殺したくなるし、居なければ関心のひとつさえ浮かばない。

 

 

「母は好きよ。でも、父はあまり好きじゃないの」

 

 

  家族のことを語るリリーの瞳は何処かを映していた。オレの知らない何処か、まるでここを見ていないような。このまま、放っておけば、リリーがどこかへといなくなってしまうような気がした。思わず、リリーの手首を掴む。

 

 

「…どうかした?」

「……別に」

 

 

  ヴァリアーには近い年齢の人間はいなかった。赤ん坊はいるが、赤ん坊と8歳はかなり違うし、なんならその赤ん坊は大人びていて、自分よりはるか歳上なんじゃないかと錯覚してしまう時がある。

 

  だからだろうか。珍しく他人にオレは興味を示していた。

 

 

「それよりも、怪我が完治してないベルに言うのもなんだけど…帰らなくて大丈夫なの?」

 

 

  1日眠ってたけど、心配とかされてるんじゃない? リリーはそう言った。

 

  心配、心配は多分されてないだろう。基本的に口よりも先に手が出るボスが王子を心配するわけないし、ことがある事に3枚に卸されてぇのかぁ!と脅してくるスクアーロ、ボスで世界が回っていると信じて疑わないレヴィに、金さえあれば後はどうでもいい守銭奴マーモン、おほほと気色悪いおかまのルッスーリア……スクアーロにどやされることはあれど、心配されることはきっとないだろう。

 

  うるさいのは勘弁なので、連絡ぐらい取ってやろうと無線を取り出したが…。

 

 

「あり、動かねぇ…」

「まあ、あれだけ派手に暴れてたら精密機械は壊れるわよね」

「マジかよ……」

 

 

  どやされることが決定してしまった。いや、既に決定されてはいたのだけれど。

 

 

「そー言えばさ、暴走したオレってお前に止めらたワケ?」

「ええ。たまたま出くわしてね。おかげで怪我したわ」

「ふーん」

 

 

  リリーは雰囲気的に強そうには思えない。ボスみたいに覇気があるわけじゃないし、スクアーロみたいに研ぎ澄まされたオーラがあるわけでもない。オレよりも細っこい腕や華奢な身体を見ると、マーモンと同じ術士かと錯覚してしまうが、無造作に置かれた鎖鎌が違うと言っていた。

 

  キレちゃったオレを止められるほどの力量があるわけか。

  …ふーん。

 

 

「…んじゃ、行くか」

「帰るの?」

「そ。帰れねーほど傷が痛むワケでもないし、あんま遅くなるとうるせーヤツがいんだよ」

「そう、よね」

 

 

  悲しそうに目を伏せるリリーを横目に、綺麗に血抜きされた服を着て、コートを羽織った。

 

 

「お元気で」

「…は? 何言ってんの?」

 

 

  ふりふりと手を横に振ってお別れの挨拶をしてくるリリーにオレがそう問えば、リリーは何か間違ったことを言っただろうかとアタフタし始める。それが少し、面白くて笑ってしまった。

 

 

「お前もついて来んだよ」

「…いやいやいや、ベルが何言って──」

 

 

  首をブンブンと横に振るリリーはきっと、オレがどこに属している者なのか理解しているんだろう。

 

 

「お前はキレた王子を止められるほどの力量がある。そんなヤツをヴァリアーに引き込めるチャンスなんてねーだろ?」

「それ」

「どーせ知ってんだから、知らないフリすんな。王子には全部ばればれ」

 

 

  ぜんぶ、ばればれ…そう言って目を伏せるリリーは一体何を考えているんだろう。憂いを帯びた雰囲気を纏っているのに、どことなく嬉しそうにも見えた。

 

 

「それに、王子はお前に興味があんだよね。お前、何か大切なこと隠してね?」

 

 

  ビクリとリリーは肩を動かした。

  目は真ん丸としていて、随分と大袈裟な驚き方だ。

 

 

「それも知りてーし? だから連れてく。あ、拒否権なんてねーよ? 王子、ここまで喋っちまったからなあ…ここでついて来ねぇとか言い出して、もしそれがスクアーロ何かにバレたら、王子もお前も卸されることになっちまうかも?」

「……わかった、行くから…」

「しししっ、そー来なくちゃ」

 

 

  んじゃ、早く用意しろよ、王子はリリーにそう言って笑った。

  王子、おもちゃゲット〜!

 

 

 

 

  *

 

「どれも見慣れねー顔だけど、王子に不意打ちしてきたヤツ多分コイツ。ホント、生意気」

 

 

  ドサッと土色になった死体を8歳にしては長い足で蹴りあげるベル。どうやら、先程ベルが蹴りあげた死体が、ベルに血を見せた敵だったらしい。

 

  余程、イラついているのか、死んでいるにも関わらず、何度も何度も死体を蹴る。まるでサッカーをしているようだった。

 

  でも、暫くしたら興味が失せたのか、ベルは歩き出す。慌てて追いかければ、はあ、帰りたくねーとベルは声を漏らしていた。

 

 

「そんなにスクアーロさんは怖いの?」

「別にさん付けしなくていーっつの。怖いって言うよりもアイツうぜーしうるせーんだよなあ」

 

 

  部下も壊滅だし、また暫くマーモンがつくぜとベルは嫌そうな顔をした。

 

  話を聞いてみると、どうやら今回の任務がベルの初めての独り立ち任務だったらしい。くれぐれも部下は殺すなとスクアーロとマーモンに念を押されていたらしいが、それも全く意味をなしておらず、部隊はベルを除き壊滅。そりゃあ怒られるだろうな、と私は思った。

 

 

「マーモンもぜってーグチグチうるせーんだよ。死体処理にも金が掛かるとか言ってさー、そんなの知んねーし」

 

 

  口元を歪めるベルは、どうやらこの先の未来を想像して拗ねているようだった。まあ、やってしまったものは仕方ないし、大人しく怒られるしかないだろう。

 

 

「あー、だりーなー。…なんか生贄でも持って帰る? そしたらそっちにスクアーロも気が向くだろ」

 

 

  その辺に殺し屋転がってねーかなーと殺し屋を探すベルだが、偶然同じ道に殺し屋がいる、なんてはずもなく。

 

  隣を歩くベルの足取りが段々と遅くなっていく。それほど憂鬱なんだろう。

 

 

「スクアーロもマーモンもうるせーけど、1番イラつくのは怒られてるオレを見てニヤニヤと気持ち悪い顔で笑うレヴィな。…あー、想像しただけで腹立つ。殺そうかな」

「いやいや、やめなよ」

「スクアーロとマーモンなら返り討ちされるかもだけど、レヴィぐらいなら楽勝だし。ボスもうるせーおじさん減って喜ぶだろ」

 

 

  しししっ、名案♪と笑うベルは先程の纏っていた雰囲気が一変し、早く殺してーと楽しそうな雰囲気へと変わる。ベルの足取りも軽やかになり、ヴァリアー城が近づく。

 

 

「ゔぉおい!! 随分と遅かったじゃねぇかぁ、ベルぅ!!」

 

 

  無事、ヴァリアー城につき、ベルの案内の元、幹部がよく集まっているらしい談話室へと向かった。

 

  ベルが談話室へ続くの扉を開けると、中にいた幹部達は一斉にこちらを見、ベルを認識すると同時に銀髪の男が顔に血管を浮き上がらせながら、先程の言葉を叫ぶ。

 

  想像以上にうるさかったことや、びっくりしたことにより、思わずベルの後ろに隠れてしまった。そんな私を横目で見たベルは、しししっとバカにするように笑った。

 

 

「ったく、少し帰ってくるのが遅かったぐれーでうるせーんだよ、スクアーロ」

「少し帰ってくるのが遅かった、だあ!? 新米ペーペーのてめぇ1人でもクリアできるような簡単な任務を分け与えたにも関わらず、スグに帰ってこねぇてめぇが悪ぃんだろぉがぁ!!」

「まあまあ、スクちゃん落ち着いて。血管切れて死んじゃうわよ?」

「ふははは!! 血管が切れて死ぬとは無様だなスクアーロ!! そのまま死ね!!」

「ゔぉおい!! 誰に口を聞いてやがるぅ、レヴィ!!」

 

 

  腰をクネクネとさせたオカマことルッスーリアがこう見えてもスクちゃん、ベルちゃんのこと心配してたのよ? だから拗ねないであげて、とスクアーロがあまりにもうるさいのでイラついたのか、ナイフを用意しているベルに言った。

 

 

「「ちゃん付けすんじゃねぇ、オカマ!!」」

 

 

  せっかく、スクアーロの気持ちを代弁してくれたルッスーリアは、スクアーロとベルをちゃん付けしたことにより、ベルからナイフを投げられ、スクアーロから長い足で思いっきり回し蹴りを腹に決められていた。

 

 

「きゃん!!」

「次はてめぇらだ、ベル!! レヴィ!!」

「この俺様がスクアーロ如きにやられるわけがなかろう!!」

「返り討ちにしてやんよ。かかってこい」

 

 

  すっかり臨戦態勢に入ってしまった3人を見て、この暗殺部隊大丈夫か…?と思ってしまった。実力は折り紙付きであるが、この暗殺部隊は中々に個性なキャラクター達で作られているらしい。

 

 

「あいたたた…。2人とも思いっきりやっちゃってくれるんだから……」

 

 

  床で暫く寝ていたルッスーリアが起き上がる。そして、私と目が合った…ような気がする。サングラスつけてるから分からないけど。

 

 

「あらあ?  ベルちゃん、可愛い女のコ連れて来てるじゃなあい!」

 

 

  ベルの後ろに隠れていた私は、見事にルッスーリアに見つかり、ベルから引き離されてしまった。

 

  いやあーん、かわいいわあとルッスーリアにまじまじ見つめられるこの光景は、私に恐怖しか植え付けない。

 

  私を見つけて、更にテンションを高くしたルッスーリアの後ろで、レヴィが言った。

 

 

「…可憐だ」

 

 

  一気に背筋がぞわあってした。レヴィの呟きは当たり前だが、私に聞こえていたし、スクアーロと戦っていたベルにも聞こえていたようで、ベルが私の前に立ってくれて、レヴィから見えないようにしてくれた。

 

 

 

「キモイこと言ってんじゃねぇ!!」

「ぬっ! 何をするか、ベル!!」

 

 

  ベルがレヴィに向かって沢山のナイフを投げる。やれ、もっとやれ!! …怖いから声には出さないけど。

 

 

「それでベルフェゴール。彼女は一体、誰だい? 何処の馬の骨とも分からない奴を連れて来ちゃダメじゃないか」

 

 

  ベル、スクアーロ、レヴィ、ルッスーリアの騒ぎに便乗していなかったひとつの影、メガネをかけた青年、オッタビオが言う。

 

  先程まではうるさいと思うほどわちゃわちゃしていたのに、オッタビオが喋った瞬間、この空間は静寂に包まれる。

 

  周りを観察してみれば、レヴィから庇ってくれているベルは顔が歪んでいた。決して、ベルがオッタビオに恐怖しているという訳ではなく、単純に嫌いなようだった。

 

  ルッスーリアは私をジロジロと観察している。私に興味を示していたようだし、是非ともベルからの説明を聞きたいのだろう。

 

  スクアーロは相変わらず血管が浮き上がっているものの、口出しはする気がないようだった。

 

  レヴィは私の位置からじゃ見えないし、見たいとも思わない。

 

 

「しししっ、王子が拾った。以上」

「…以上、じゃねぇええ!!」

 

 

  怒られることを恐れてか、ベルはバーサーカーモードに入った自分を止め、怪我の治療をした私のことを詳しく説明するつもりはないようだった。

 

  スクアーロが説明を求めるが、打ち合うつもりのないベルは口笛を吹き始める。

 

 

「ったくよぉ、後できっちり聞くからなぁ、ベル!!」

 

 

  部屋にかけてあった時計を見たスクアーロはそう言ってとりあえず話を切り上げる。

 

 

「あら、スクちゃん任務の時間?」

「ちゃん付けすんなぁ!! …ああ、そうだあ」

「そーなの! 気をつけて帰ってくるのよぉ〜!」

「帰ってくんな!!」

「死ねスクアーロ!!」

「ゔぉおい!! 聞こえてるぞぉ、ベル!! レヴィ!!」

 

 

  時間がないのかスクアーロは2人に構うことなく、大きな音をたて、部屋を出ていく。

 

 

「…何見てんだよ、オッタビオ」

「別に何も無いさ」

「あんま、王子怒らせない方がいいぜ? オレ、お前のこと嫌いだから簡単に殺せるし」

「まあまあ」

 

 

  んもう、何かっかしてるのベルちゃん、とルッスーリアがオッタビオとベルの間に入る。

 

  オッタビオはため息をつくと、部屋を出ていく。そんな姿を見て、ルッスーリアもため息をついた。

 

 

「ベル。君について行った部下が帰ってきてないようだけど…まさか死んだ若しくは殺したとかじゃないよね?」

「うわあ、びっくりしたじゃないマーモンちゃん」

 

 

  おかえりなさい、というルッスーリアに突然ベルの肩の上に現れたマーモンはただいまと言った。

 

 

「で、どうなのさベル。何とか言ったらどうだい?」

「しししっ、どーだろ?」

「……スクアーロに言いつけるよ」

 

 

  ベルが固まったのがわかった。そんなベルの反応を見て殺したんだねとマーモンは呆れたように言った。

 

 

「殺したんじゃねーよ。気づいたら死んでたの」

「ああ。血を見てキレた君が殺したわけか」

 

 

  ベルの傷口に巻いてあった包帯が見えたのか、マーモンはそう言った。お見事、マーモン。正解である。

 

 

「スクちゃんとオッタビオはいないけれど、ご飯にしましょう。もうお腹ペコペコだわあ!!」

「そうだね。僕もお腹減ったよ」

「王子も〜」

 

 

  お腹、お腹は私も減った。

  けれど、それよりも──。

 

 

「お腹、痛い」

 

 

  ベルを手当するため、包帯を使い切ってしまった私は、まだ腹の手当てが済んでいなかった。なんか、ドクドクと血が出てるような気がする。

 

 

「ちょっと失礼してもいいかしら?」

 

 

  ぺらり、洋服がめくられ横腹の傷口が顕になる。

 

 

「…結構ぐさりイッちゃってるじゃなあい!! なんで手当てしてないのぉ!」

「この傷口は恐らくベルがやったんだろう? 手当てされるだけされといて放置とは頂けないなベル」

「…うるせーな」

 

 

  医務室へ行きましょう?と言って優しく手を引いてくれるルッスーリアは神々しく見えた。

 

  ルッスーリアに優しく手当てをしてもらった後、ご飯を頂いた。

 

 

「あ、コイツヴァリアーに入れるから」

「…これはまた唐突だね」

「いいんじゃなあい? キレたベルちゃんと戦って、小さな傷は沢山あったけれど、大きな傷はお腹しか無かったみたいだし、それなりに強いわよこの子」

 

 

  流石ボンゴレ。金は腐るように持っているようで、出てくる食材どれもが高級食材ばかりだった。

 

 

「そうなるとボスに会わせなきゃねぇ。ボスに会わない事には入れないし」

「スクアーロ辺りがうるさいんじゃないかい?」

「スクアーロとオッタビオ、あとキモイからオッサンは殺したらいいんじゃね? そーしたら静かになるっしょ」

「なぬっ!?」

「無駄な殺生はやめなよベル。死体を処理するにもね、」

「ハイハイ。金が掛かる、だろ? いーかげん聞き飽きたってそれ」

「分かってるなら何度も言わせないでくれよ」

 

 

  ガタガタドスン

  ベルとレヴィの激しいナイフやフォークの攻防がありながらも、話は私を置いてツラツラと進んでいく。

 

  途中途中、私の元にもナイフやらフォークが飛んできたが、全て避けた。…集中してご飯も食べれない。

 

 

「リリーちゃんって言ったかしら? 残念だけど今日、ボスは任務で留守してるのよ。空いてる部屋教えるから、今日はそこ使ってくれるかしら?」

「ありがとうございます」

 

 

  ぺこりとお辞儀をすれば、ルッスーリアは私の頭を撫でてくれた。

 

 

「うふふ、いいのよん♪ アタシとしても可愛い女のコが増えるのは大歓迎ですもの。ね? マーモンちゃん」

「…スクアーロのやつベルを僕に押し付けてきたけど、リリーまで押し付けてきたりしないよね」

「…相変わらずマーモン、ナマイキ」

「可能性としては無くもないわよねぇ。ベルちゃん、リリーちゃんのこと気に入ってるみたいだし」

 

 

  ルッスーリアの言葉を聞いてマーモンは後ろでベルのナイフの的にされてるにも関わらず、器用に避けながら大きなため息をついた。

 

 

「まあ、いいよ。金さえ積んでくれれば僕はどうだっていい」

「本当ナマイキ!!」

 

 

  結局、ベルのナイフはマーモンに当たることは無かった。

 

  この後、私はお風呂まで貸してもらった。ベルに手を引かれ、一緒に大浴場でお風呂に入ったのは楽しい思い出である。

 

 

「ここがとりあえずリリーちゃんのお部屋ね。好きに使ってくれて構わないわ」

 

 

何かあったら気軽に声掛けてちょうだいと甲斐甲斐しく私の世話をしてくれるルッスーリアは最早お母さんである。

 

 

「おや、君は」

 

 

  永遠と長い廊下にて。まさかのオッタビオに遭遇。薄暗い廊下でオッタビオに会うとは恐怖ものだ。

 

 

「オッタビオ」

 

 

  私もベルと同じ口で、彼のことを好いていない。たった数分の付き合いではあるけれど、嫌いなものは嫌いなのだ。

 

  私に名を呼ばれ、嫌そうな顔をするオッタビオ。私もオッタビオに会ってしまったから、きっと同じような顔をしているだろう。

 

 

「貴方は一体何者ですか? ザンザス様がお留守の今、この城を護るのは私の役目」

 

 

  オッタビオのメガネが光に反射する。彼が一体、どんな目をして私を見ているのか分からない。

 

  そんなオッタビオを見て私はくすくすと笑う。そんなの、嫌いなオッタビオに言うわけがない。

 

 

「オッタビオ。私の事調べても無駄よ。どうせ出てこないから」

 

 

  オッタビオは私を見つめている。

  私は不敵な笑みを浮かべて更に言った。

 

 

「でも、私は知っている。貴方が『      』だって」

 

 

  オッタビオの重心がズレたため、光の反射がとけ、目が見えた。オッタビオの瞳孔は開ききっており、今にでも私を殺さんと殺気を放っている。

 

 

「ここで私を殺したら…ベルに殺されてしまうわね」

 

 

  くすくす笑って私はオッタビオの横を通り、ベルの部屋へと向かった。

 

 

 

 

  *

 

「お゙いクソボスぅ!! オッタビオの言う通り、ベルが連れてきたリリーとやら、本当に調べても何も出てこなかったぞぉ…。どうする、ベルが随分と気に入ってるようだが…殺すかぁ?」

 

 

  ヴァリアー城、ザンザスの執務室にて。スクアーロは手元の資料をザンザスの机に投げ捨てながら言った。

 

  資料に記載されていたことは、スクアーロ達が知りたいと思う情報は一切記載されておらず、とある下町でリリーが殺しを行っていたことや、鎖鎌で殺しをすることから死神と異名をつけられたことなどしか記載されていなかった。

 

  出身国、生年月日、それさえもボンゴレの力を使っても知り得ることは出来ず、リリーに対するスクアーロの警戒心が上がっただけである。

 

  一瞬、資料に視線を落としたザンザスだったが、大して興味も無かったのか、直ぐに視線を変えた。

 

 

「……ほっとけ」

 

 

  真っ赤な瞳。

  それは憎悪と怒りを映した赤。

 

  ザンザスと目があったスクアーロは一瞬、身体が強ばるが、直ぐにいつもの調子へと戻る。

 

 

「あ゙ぁ!? ほっとけだぁ!?」

「…使える物は使う」

 

 

  何に使うかまでザンザスは言わなかった。しかし、それで理解出来たスクアーロは、何も言わなくなった。

 

 

「…なるようになる。俺たちに楯突くのなら──殺すまでだ」

 

 

  真っ赤な瞳。

  それは憎悪と怒りを映した赤。

 

  ザンザスにリリーなんて興味の一欠片もない。邪魔をするなら殺す、それだけだった。

 

  

「…ちぃ!! てめぇがそう言うなら従うがよぉ!!」

 

 

  ヴァリアーのボスはザンザス。スクアーロのボスもザンザスである。スクアーロはザンザスに忠誠を誓っている。ザンザスの言葉はヴァリアーの総意であり、スクアーロに捻じ曲げることは不可能だった。

 

 

 

 

  この数ヶ月後、ボンゴレの歴史に刻まれることとなる『ゆりかご』が起きた。

 

 


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