死神の黙示録   作:瑠威

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  彼は大人だった──
  ──だから少し嬉しかった
  


第8話

  

「ベルなんて大っ嫌い」

 

 

  冷たく、それでいてはっきりとリリーの口から拒絶の言葉を紡がれた時、オレは柄にもなく「やってしまった…」と思った。

 

  リリーが怒ってる姿を初めて見た。約、1年足らずの付き合いだが、オレがちょっとイラッとしてナイフを投げても怒らないし、スクアーロやレヴィの巻き添えになっても怒らない。リリーのお菓子だと分かっていて、それを食べても許してくれるリリーだったが、今回ばかしはその寛容さも限界を迎えた、ということか。

 

  怒っている、というよりかは悲しそうな顔をしたリリーは、オレを睨んだ後、静かに談話室を後にする。

 

  リリーが居なくなった瞬間、重苦しい空気は霧散し、談話室にいた幹部──オッタビオはいなかった──は揃いも揃って息を吐き出した。

 

 

「やっちまったなぁ、ベルぅ」

 

 

  哀れみを含んだ視線と、まるでドンマイとでも言うかのような肩ポンは凄く腹がたったので、蹴りを1発スクアーロにかます。

 

 

「ゔぉおい!!  何すんだベルぅ!!」

 

 

  ギャーギャーとうるさいスクアーロを無視して、オカマは、リリーちゃん、謝って許してくれるといいんだけどねぇ、と話を本筋に戻した。

 

 

「…」

 

 

  一気に談話室が静寂に包まれる。スクアーロとレヴィからの咎められる視線が、凄く嫌でウザくて死ねばいいと思った。

 

 

「これを機に、少しでも思い通りにならなかったぐらいで、ナイフを投げることをやめるんだね」

 

 

  壁に刺さった王子特製ナイフを抜きながら、マーモンは言った。マーモンが壁からナイフを抜くと同時に、王子のナイフが巻き込んだ…今回、リリーが怒った原因である茶金の髪束がボロボロと床に落ちる。

 

  それを見ていたルッスーリアが大きくため息をついた。

 

 

「…本当にざっくりいっちゃったわねぇ。リリーちゃん腰ぐらいまで伸ばしてたのに」

 

 

  手入れも一生懸命頑張ってたみたいだし、勿体ないわあとルッスーリアが言う。

 

  事の発端は些細なこと。いつもみたいに、オレの言った言葉にスクアーロがキレて、それにレヴィが飛び火した。

 

  ギャーギャーと3人で騒いでいたら、タイミング悪くリリーが談話室に入ってきた。本当にタイミングと運が悪く、スクアーロの後ろをそろりと歩いていたリリーに、スクアーロに向かって投げたオレのナイフが飛んでいった。

 

  リリーはそれを避けたけど、避けきれなくて、肩上までの髪をざっくりと巻き込み、オレのナイフはリリーの真後ろの壁に刺さった、という訳だ。

 

  リリーは髪を伸ばす理由として、好きな人間がロングが好みだと言っていたから、と言っていた。どれぐらい伸ばせばいいのか分からないと言っていたけど、いつか見せるんだ、そして可愛いって言ってくれたらいいな、と言っていた。完全に恋する乙女である。

 

 

「謝ったぐらいで許すかな。珍しく怒ってたけど」

「マーモンだったら金を積めば解決すんだけどなぁ」

「リリーちゃんは、マーモンちゃんほど単純じゃないわよ」

「そもそもマーモンは髪がないだろう」

「…君ら僕を貶すのもいい加減にしなよ。君らの貯金全部、僕の口座に移すからね」

 

 

  慌ててマーモンに謝る3人を後目に、オレはどうやって許してもらおうかと頭を悩ませる。マーモンみたく金で解決できるのであれば、余るほどある金で解決するが…リリーはどちらかと言うと金に執着も興味もない人間の部類なので、無理だろう。

 

 

「そうだ!  これはどうだ?」

 

 

  まるで名案でも思いついた!みたいな顔をするレヴィに皆の視線が集まる。

 

 

「リリーが恋しているというの噂の男を連れてきて、短い髪のリリーもいいぜ、的なことを言わせるというのは」

 

 

  どうだ?名案だろう、とふはははと笑うレヴィに、何処が名案なんだい、とマーモンの素っ気ない疑問がつき刺さる。

 

 

「おい、レヴィ。てめぇはそのリリーの好きな人がどこに住んでいて、誰なのか分かっているのかぁ?」

 

 

  リリーは秘密主義である。アジア系の顔立ちをしているので、1度アジア生まれかと聞いたらYESと返事が返ってきたけれど、アジアにも国は沢山ある。

 

  それに、今リリーはアジアじゃなくてイタリアに住んでいるのだ。リリーの好きな人がアジア人と断定はできない。

 

 

「そんなの知るわけないだろう」

 

 

  当たり前だと胸を張って言うレヴィにイラついたスクアーロが額に血管を浮かばせる。

 

 

「…でも、マーモンちゃんのチカラなら分かるんじゃないん?」

 

 

  ルッスーリアの言葉でレヴィに集まっていた視線がマーモンへと移る。

  期待を込めた視線を集めてしまったマーモンは、大きくため息をついた。

 

 

「……高くつくよ」

「スクアーロ払いで!!」

「ゔぉおいベルぅ!!  てめぇがやらかしたんだからてめぇで払いやがれぇ!!」

 

 

  マーモンはまたため息をつくと、誰でもいいから絶対に払ってもらうからねと念を押したあと、腰についていたトイレットペーパーを取り出し、鼻をかんだ。

 

  ぬちゃっと汚らしい鼻水の上に文字が浮かび上がる。

 

  ──B

 

  どこにいるのかは分からない。ただBという字が浮かび上がるだけ。このBが一体何を示しているのか、この場にいる全員は分からなかった。

 

 

「Bが頭文字の国にいるのかしらぁ?」

「それともBで始まる人名をしているのかもね」

 

 

  結局、どこにいるのか分からず終いである。無駄な出費をしただけじゃねぇかぁ…とスクアーロはガクリと肩を落とした。

 

 

「ふん、使えんな」

「レヴィよりかは使えると思うけどね」

「…レヴィよりかはマシだろぉ…」

「なぬっ!?」

 

 

  わー、ギャーと珍しくマーモンも参加している喧嘩の光景を、オレはため息をついて見ていた。

 

  つか、どーしろってんだよ。髪なんて知らねーし。女は髪が命とか頭可笑しいんじゃね?  命さえ残ってれば、後はどーにでもなるってのに、なんで命よりも髪を大切にしてんだよ。

 

 

「とりあえずベル、リリーを探してこい。アイツ、外に出ちまったぞぉ」

 

 

  チラリと窓から外を見たスクアーロが苦笑いをしながら言った。オレもつられて外を見てみれば、オレたちの監視役についていた人間が外でゴロゴロと転がっている。

 

  大方、頭を冷やすため城を出たのはいいが、ボンゴレの監視役が勝手に城を出られるのは困るとか言って、寄って集ったのだろう。見る限り、全員返り討ちにあってるっぽいけど。

 

 

「殺してはねぇだろぉが…ったく、俺達を巻き込むんじゃねぇ」

 

 

  頭をガシガシと強めに掻いたスクアーロは談話室から出ていく。多分、外に転がってるヤツらを掃除するのだろう。

 

  …仕方ない。オレも腹をくくろう。今回は完全に王子が悪いし、少しぐらいだったらどんな罵詈雑言でも我慢してやる。

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